第394話 魔物会議

 「ラディ殿、狼王が出発したみたいです」

 「わかった。引き続き動向は確認して」

 「畏まりました」


 ついに動き始めたようだ。

 緒戦をユアンさん達に任せて貰えるように頼んでからあれから二週間。

 狼王は自分の国へと戻り、すぐに準備を整えたように思える。

 いつでも戦えるように準備はしていたのだろう。

 今回の戦争とは別としてだとは思うけど。


 「ラディくーん、鳥さんも間もなく出発するみたいだよ」

 「うん。そっちの動きも確認しといて常に報告をして」

 「わかったよー!」


 今、僕達は秘密の会議を行っている。

 集まったのは僕とキティとユアンさんとリンシアが契約したコボルトのリーダー。名前はリオンと名付けられたらしい。

 その三匹が代表となり、各魔物を操り戦争への準備を整えている。

 

 「ラディ殿、鼬族の様子はどうなのですか?」

 「今の所は動きはないよ」


 僕がまず始めたのはそれぞれの国の情報を探るためにキティの配下と僕の配下を向かわせ、三カ国の動きを随時報告させるようにした。


 「けど、ラディくんも凄い事を考えるよね!」

 「情報は大事だからね」

 「ですが、まさか私の配下の背に転移魔法陣を持たせた魔鼠を乗せ、疲労が溜まったら他の配下と交代させる方法で休まずに向かわせるとは思いつきもしませんでした」

 「時間が惜しい。緒戦を任せて貰ったんだ。必ず成果を出さないといけない」


 ユアンさんに転移魔法陣を沢山貰っていたのは正解だった。

 この魔法陣のお陰で僕達は色んな所へと移動をする事ができる。


 「でも、どうしてそんなに頑張るのー?」

 「怖いのかい?」

 「怖くないよー! これは僕達がご主人様達に使える子と思って貰うための戦いだからね!」

 「そうだね」


 これは僕達が率いる魔物軍団の存在価値を証明する戦いになる。

 ナナシキの街に人が増え始め、僕達の存在意義は少しずつだが失われつつある。

 もちろん役割分担という点では幾らでも僕達の活躍の場はあるだろうが、最近は僕達の目立った功績はない。


 「ねぇねぇ、キティちゃん」

 「なんですか?」

 「キティちゃんはご褒美どうするの?」

 「まだ、考えていませんよ。そういうリオン殿は何を頂くのですか?」

 「僕達はねー、ご主人様たちと一緒に沢山お昼寝する権利を貰うんだよ!」

 「ふふっ、それはいいですね」

 「そうなの!」

 

 楽しそうで何よりだね。

 今回、僕達は主たちにひとつお願いをした。

 もしも、この緒戦で主たちが納得する戦果を挙げられた時には僕達のお願いを一つ聞いて欲しいと。

 そして、それは了承された。

 尤も、ナナシキに不利益が起きるような事はダメだと言われたけどね。

 当然ながらそんな要求はしない。


 「次はラディくんの番ね!」

 「何が?」

 「ラディくんは何をお願いするのー?」

 「秘密」

 「えー、ずるいよー!」

 「ずるくない。リオンが勝手に話しただけじゃないか」

 「きゅ~ん……」


 それにしても、随分とおしゃべりなコボルトになったものだね。

 だけど、その気持ちはわかる。

 主たちと同じ言葉を話し、会話が出来るのが楽しくて仕方ないのだろうね。


 「ラディ殿、よければ聞かせて頂けないでしょうか?」

 「キティも気になるの?」

 「はい。この要求をしたのはラディ殿です。何か考えがあっての事だと思いまして」

 「そうだね……別に深い意味はないけど……」


 別に隠す事でもないからいいけど。

 僕は二人に主たちへ何のお願いをするのかを伝える。


 「そこまで考えていたのですね」

 「きゅ~ん……ラディくんはやっぱり偉いねー」

 「そんな事ないよ。ただ、僕達がもっと認められたらいいなと思っただけだから」


 僕のお願いを聞いたキティが驚き、リオンは落ち込んでいる。

 

 「それなら、僕も他の事をお願いしてみようかな」

 「どのようなお願いをするのです?」

 「んー……僕達ももっと戦えるようにもっとしっかりとした武器を用意してもらうとか?」

 「却下だね。それじゃ、街の人以外が君らを見た時に驚くよ」

 

 下手すれば魔物の襲撃と勘違いした冒険者が攻撃を仕掛けるかもしれないし。

 まぁ、この街に冒険者が立ち寄るのはあまりないけどね。

 

 「大丈夫だよ! んーーーー、ほらっ!」

 「まぁ、その姿であれば問題はないかもしれないね」


 リオンの姿が人へと変わる。

 見た目は犬の獣人にみえる。


 「えへへ~。凄いでしょ? 僕の仲間もみーんな出来るんだよ!」

 「知ってるよ」


 知っているからこそ、今の作戦を遂行させているのだからね。

 まぁ、リオンが女の子だったのは知らなかったけどね。

 飼い主に似るって奴かな?

 それにしても、不公平だよね。

 まぁ、本物の魔物か、魔力を持った動物かの違いもあるだろうけど、こんなに簡単にコボルト全員に人化されると、その気持ちはどうしても溢れ出てくる。

 僕もユアンさんと契約すればもっと凄くなれたのかなと思ってしまう程に。

 その選択肢はなかっただろうけどね。

 もし、あの時に選べたとしても、今の主を選んだだろうから。


 「ならば、私は魔物たちが住む為の家屋を譲ってもらいましょうか」

 「いいと思うけど、キティの方はどれくらい人化が進んでいるんだい?」

 「私の配下は総勢で千は越えますが、その中でもまだ人化が使えるのは一割にも届きませんね」

 「十分だね」


 それなら、僕の作戦を進める事はできる。


 「ラディくんの方はどうなの?」

 「僕の配下は短い間だったら出来る子は増えてきてるよ」


 戦闘で役に立つかと聞かれると全く役に立たないけどね。

 それに、人として暮らしたいと思う子も少ないみたいだから、僕達に住居は今の所は不必要だろうし。

 それでも人化が出来る子が増えるのはありがたい。

 それだけ、戦略も広がるからね。

 魔物にしか出来ない戦略がね。


 「っと、狼王が進軍を開始したみたいだね」

 「はい。どうなさいますか?」

 「まずは野営をどこかでするだろうし、それまでは待機かな」

 「わくわくするねー!」


 僕の作戦は二人にも伝えてある。

 現場判断になる事もあるのが不安だけど、狼王も鳥王もこうして僕達が見張っている事には気付いていないみたいだし、今の所は順調かな。


 「ですが、予想以上に数が多いですよ?」

 「問題ないよ。僕達は戦わないから」

 「でも、本当に戦わなくても勝てるのー?」

 「勝てるよ。最悪は勝てなくても、ユアンさん達が戦いやすくはなるだろうし」


 作戦の一つとして、野営をし油断している所に大量の魔鼠と魔鳥を投入し、被害を与える方法も考えた。

 しかし、それだとこちらにも被害がでるし、何よりもこの軍を利用する事が出来なくなってしまう。

 

 「では、暫くは様子見という事で、よろしいですね?」

 「そうだね」

 「では、私は家の事がありますので、一旦失礼致します。何かあればお呼びください」

 「わかった。けど、夜に動く事になるから、休んでおいて」

 「わかりました」


 キティが華麗な礼を決め、外へと出ていく。

 力強い羽ばたく音が聞こえたから、元の姿へと戻り、飛んでナナシキへと戻ったのだろう。

 

 「んー、僕達はどうする?」

 「情報は逐一報告するようにしてあるから、それまでゆっくりしてればいいよ」

 「わかったー! ラディくん、何して遊ぶ?」

 「遊ばないよ」

 「えー、遊ぼうよ? そうだ、森の中で追いかけっこしよ? みんなで!」

 

 リオンは元気が有り余っているみたいだね。

 いい事だけど、それに巻き込むのはやめてもらいたい。

 

 「ダメ。僕は仕事に戻るから、リオンは休んでて」

 「きゅ~ん。つまんない……なら、僕も仕事してこよっと! じゃあ、また後でね!」


 リオンも人化を解き、四足歩行で街へと戻っていった。

 どうやらあっちの方が移動は速いみたいだね。

 

 「さて……」


 二人が居なくなったので、僕も外へとでる。

 

 「もう少し頑張れば、ここを使わなくて住むかな」


 振り返ると、そこには小さな洞窟があった。

 ナナシキの北の森にある主たちも知らない魔物たちだけが知る秘密の洞窟。

 僕の寝床であり、こうして会議をしたりする場所。


 「早く布団で寝れる生活に戻りたいね。その為にも……」


 この緒戦は絶対に成功させる。

 そして、僕のお願いを聞いて貰う。

 

 「魔物にも人権か……魔物なのにね」


 自分でもおかしな話だと思う。

 おかしいけど、人への未練はどうしても捨てられない。


 「早く、夜がこないかな」


 今だけは太陽が憎たらしい。

 行動を起こすのにはまだ早い。

 僕達……魔物たちは草木が眠るときを待つのであった。

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