第393話 弓月の刻、戦争の相談をする
「へぇ……僕達がトーマ様のお嫁さんを考えている間にそんな話になっていたのですね」
「そうだね。というか、あの後もトーマ様のお嫁さんを考えていたんだ」
「ユアンさん……」
「し、仕方ないじゃないですか! トーマ様は同盟を組んでいる訳ですし、無下には出来ませんよね?」
「まぁ、そうだけどね」
それぞれの会議が終わり、改めてまたみんなで集まる事を約束したので、僕達は一度お家へと帰ってきました。
そして、改めてスノーさん達からアリア様の報告を聞き、僕達はトーマ様の事について報告をしています。
まぁ、トーマ様のお嫁さんの話は候補はあがりましたけど、今はそれどころではないので後に回しますけどね。
トーマ様もビャクレンに戻り、戦争の準備をしなければいけませんし。
「それで、僕達の相手は鼬族になるのですが、トーマ様の所は鳥族と狼族の二国を相手にする事になるみたいなのですが、大丈夫なのですかね?」
「アリア様が言うには守りに徹すれば大丈夫とは言っていたよ」
お城を攻めるのと守るのでは攻める方が大変ですからね。
「んー……でも、トーマ様が守りの戦いをすると思いますか?」
「しないだろうね」
「ですよね」
トーマ様の性格は多少は知っています。
恐らくですが、敵が迫って来たら城を離れ、自分たちが戦いやすい場所で小細工なしで力任せに戦うような気がします。
「そっちに援軍を送る余裕がありますかね?」
「どうだろうね。鼬族の兵士は数が多いみたいだし、その余裕があるとは思えないけど」
「うん。援軍を送った結果、フォクシアの兵士が足りなくなったら元も子もない」
「そうですよね。ちなみにですが、鼬族の兵士はどれくらいいるのですか?」
「十万はくだらないと言っていたかな」
「じゅ、十万ですか!?」
驚きました。
まさかそんなに沢山の兵士を鼬族が用意しているとは思いもしませんでした。
「逆にフォクシアの戦力は?」
「一万に届かないくらいかな」
「かなりの戦力差がありますね」
「けど、心配する必要はないって言ってたよ」
「どうしてですか?」
「数は多いかもしれないけど、実際に動かせる兵はその半分くらいだろうって言ってましたね」
それでもフォクシアの五倍の兵士が向かってくるのですね。
しかもそれだけじゃない可能性もあります。
「最近の魔族の動きとかって何か聞いていますか?」
「その辺は全然かな」
「けど、魔力至上主義が横やりは入れてくるだろうとは予想していますね」
そうなりますよね。
鼬族と魔力至上主義が繋がっている事はほぼ確実だと僕達は思っています。
となると、ゴブリンやオーガなどの魔物が攻め込んでくる可能性もありえますね。
「それはない」
「どうしてそう思うのですか?」
「鼬族がそんな事をしたら、鳥王と狼王が寝返るから」
「そうだろうね。アルティカ共和国の内争に魔力至上主義が関わっているとなれば、鼬族に正義がないだろうしね」
「それに、私達がルード帝国と繋がっている事は知っている筈なので、第三勢力を味方に引き込んだのなら、私達もルード帝国に頼る事が出来ますからね」
援軍を呼ばれたらこちらも援軍を呼ぶという事ですね。
「けど、そうなったら大変な事になりますね」
「そうだね。魔力至上主義の狙いがそこだったらマズいかな」
ルード帝国が援軍として参加するとなれば、アルティカ共和国だけの戦争ではなくなってしまいますからね。
でも、その時に鳥王と狼王がこちらに寝返ってくれるのであれば、鼬族が孤立するので、戦いが楽になるかもしれませんね。
「うん。だから鼬が魔力至上主義に頼る可能性は低い」
「よほどの馬鹿じゃなければね」
「でも、魔力至上主義が勝手に参加してくる可能性もありますよね?」
「ありえるね。まぁ、その時はその時だね。どちらにしてもやる事は変わらないだろうしさ」
まぁ、僕達はナナシキとフォクシアを守るだけですからね。
あれ、でも……。
「リコさんの夢では僕達が攻め込んでいた筈ですよね?」
「そういえばそうだったね」
「という事は、守りじゃなくて攻める戦いになるのですよね?」
むむむ?
それはそれで良くわかりませんね。
攻める方が大変だとわかっているのに、わざわざ守りを捨てて攻める理由がわかりません。
何せ、宣戦布告とは今から攻めますよという警告みたいなものです。
向かってくる相手にこちらが攻め返すとなれば、被害も自然と多くなりそうですからね。
「もしかしたら、そういう戦略なのかもね」
「フォクシアの兵士は素早いですし、平原で戦った方が自由に戦えますので、そっちの方が被害が少ないと考えたのかも」
「それはそうですけどね」
フォクシアの全員の兵士が獣化できる訳ではないみたいですが、獣化した人達は強かったみたいです。
みたいというのは、話しか聞いていないからわからないからですね。
国境での戦いでは別に戦っていたので、実際にこの目で見ていませんでしたし。
「となると、獣化できる人達だけを引き連れて進軍するって事ですかね?」
「そうなるかもね。獣化できない兵士は都の守りに残すのかもね」
全員連れて進軍するのは危険ですからそうなりますよね。
鼬族と戦っている間に、トーマ様と戦う予定の鳥王や狼王の軍が流れてくる可能性もありますしね。
「まぁ、フォクシアの兵士はアンリ様に任せる事になっているから、問題は私達だね」
「そうですね。ナナシキの事が問題になっているのに見ているだけって訳にはいきませんからね」
「となると、誰に一緒に来てもらって、誰を守りに残すかを決めないとですね」
当然ながら僕達が原因でもあるので、向かう事は決まっています。
となると、街の人達も絶対に断ってもついてきますよね。
「影狼族は希望者以外は守りに残す」
「その方が助かるかな」
「なら、ナナシキの指揮官はシノさんに任せればいいですかね?」
「そうだね。前にナナシキに恩を返すために護ってくれると言っていたし」
本当なら僕とシノさんが逆の方がいいと思いますけど、仕方ないですね。
「ユージンさん達にも手伝って貰いますか?」
「そうですね。ですが、影狼族の子供達の事もあるので、ナナシキに残って貰った方がいいと思うの」
「そうですね。ユージンさん達と契約した子達を戦場に連れていく訳にはいきませんからね」
聞いた話によると、まだまだ戦闘能力は未熟といえる段階みたいですしね。
普通の冒険者くらいの腕はあるとは言っていましたが、本気をだしたユージンさん達と肩を並べて戦うのはまだ早いみたいです。
「ですが、こう考えてみるとナナシキって一人一人の戦力は大きくても、数という点では不安ですね」
それは前からわかっていた事ですけどね。
「これでも増えたんだけどね」
「トーリさんやサニャさん達も冒険者を辞めて兵士として雇う事もできましたし、兵士の数も少しずつですが増えていますよ」
それを聞いた時は複雑な気持ちになりましたけどね。
冒険者を夢見て冒険者となったのにも関わらず、二度も捕まった事が一種のトラウマとなり冒険が怖くなってしまったみたいなのです。
まぁ、僕達としては有難い話ではあるのですけどね。
本人たちも安定した収入があるから後悔はしないと言っていますけど、それでも複雑な気持ちにはなります。
「気にする事ないよ。冒険者として活躍して、腕を認められて騎士になる人だっているからね」
「それに、トーリさん達は人の役に立てる仕事ばかりしていたみたいですし、冒険者よりも兵士の方が合っていると思うの」
「それならいいのですけどね。ちなみにですが、スノーさん達の兵士はどうするのですか?」
「んー……連れていきたい所だけど、多分ついてこれないんじゃないかな?」
「どうしてですか?」
「人もいないけど、それ以上に馬や馬車とかがないからね」
それは問題ですね。
馬がなければ僕達の進軍にはついてこれないでしょうし、撤退の時も遅れて取り残されてしまうことになります。
まぁ、アンリ様にお願いすればどうにかなるかもしれませんが、そこまで頼る訳にはいきませんよね。
「となると、兵士の皆さんもお留守番ですね」
「うん。後は?」
「残りは……」
「その戦いには私も参加しよう!」
誰が残っているのかを消去法で考えていると、リビングの扉が開き、メイドさんが入ってきました。
「あー……ラインハルトさんがいましたね」
「忘れてたみたいな言い方は酷くないか?」
「いえ、忘れてはいませんよ?」
ちょうど思いだそうとしていた所でしたからね。
決して、最近はリコさん達と一緒に楽しそうにお仕事していたので忘れていた訳ではないです。
「けど、ラインハルトさんですか……」
「私じゃダメなのか?」
「いえ、そういう訳ではないですよ」
むしろ、願い出てくれて助かったと思っています。
ただ、器用貧乏なのでどうやって戦って貰おうかが困るのですよね。
もちろん、水準は凄く高いですよ?
ですが、戦争になると強さはまた別なのだと思います。
一人が強くても出来る事は限られていると痛感しましたからね。
シノさんみたく強力な範囲魔法があれば話は変わってきますけどね。
「ラインハルトは何が出来る?」
「出来る事か……やれと言われれば何でもやるけど?」
「なんでもですか?」
「あぁ。ユアン殿達には大きな借りがあるからな」
アーレン教会の事やオメガさんの事を言っているのですかね?
「ならば、私もユアンお姉さま達に同行致しますよ」
「セーラもですか?」
「はい。ユアンお姉さまに比べたら些細な力ではありますが、少しでもお役に立ちたいので」
うー……やっぱりまだ慣れませんね。
ですが、気持ちは嬉しいですね。
「でも、危険ですよ?」
「だからこそです。少しでも味方の傷を癒し、命を助ける為に動きたいのです。それが、私に出来る償いですので」
目に強い意志が宿ると言いますが、今のセーラはそんな感じですね。
そうなると、無理に断る事は出来ませんね。
「セーラ。それは修道女の仕事。セーラは今はメイド。立場が違う。また前の事を引きずっているだけ」
「わかっています。ですが、私は聖女セーラではなく、戦うメイドセーラとして参加したいのです」
「何ですか? 戦うメイドって」
「ユアンお姉さまのお世話をする身です。護られるだけのメイドではダメって事です」
「いや、そこは護られていればいいと思いますよ?」
それに、メイドさんが護るのはお家の平和ですからね。
ですが、セーラの意志は変わらないようで、意地でも僕達について来るといいます。
「わかりました。けど、無理はしないでくださいね?」
「ありがとうございます!」
まぁ、これで街の人とラインハルトさんにセーラがナナシキの軍となりましたね。
けど、それでも少ないですよね。
「問題ない。まだナナシキには戦力がいる」
「そうですね。むしろ、数だけなら一番宛に出来る部隊がありますけど……」
問題は一緒に来てもらって大丈夫かという話になります。
何せ、戦争ですからね。
平原で戦う事になると隠れる場所も不意をつくことも難しくなります。
何せ、宛に出来そうな部隊は……。
「むしろ緒戦は僕達に任せて欲しい」
「私とラディ殿が必ずや主様達に戦果をもたらすと誓いましょう」
やっぱり話は聞いていたみたいですね。
「ラディ、キテイ……大丈夫なの?」
「うん。僕に考えがあるんだ」
「考え?」
いつの間にか現れたラディくんとキティさんがキアラちゃんの質問に力強く頷きました。
そして、二人の顔は自信に溢れています。
「僕とキティ、そしてユアンさん達のコボルト達の雄姿を見届けて欲しい」
ナナシキの街では、数だけならば最大を誇る戦力……それは魔物部隊。
何故か、一緒に来てもらうどころか緒戦を任せる事になってしまいました。
ですが、数は多いとはいえ相手はそれ以上に数が多い相手です。
その相手にどう戦うというのでしょうか?
僕には想像がつきませんでした。
ですが、ラディくん達はそれをやってのけたのです。
しかも、大半の魔物をナナシキに残して。
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