第392話 補助魔法使い、今後について話し合う
「ユアン。アリアとアンリが帰ってきた」
「無事に帰ってこれたみたいで良かったです」
「うん。心配事は一つ減った」
アリア様が獣王会議に向かうと聞き、一番心配だったのはアリア様とアンリ様の身の心配です。
何せ、今から戦争を仕掛けてくるであろう相手と話す訳ですからね。
そこでどんな手を使ってくるのかはわかりません。
国を潰すのに一番手っ取り早いのはその国の王を潰す事みたいですからね。
まぁ、アリア様ならその辺りの対策もしているでしょうし、仮にアリア様の身に何かあったらみんなが黙っていないでしょうけどね。
ともあれ無事に帰ってきた事を確かめるためにも僕達は仕事を切り上げて、アリア様達の元へと向かいました。
「おぉ! ユアンよ久しぶりじゃな!」
領主の館へと向かい、アリア様が待つ部屋へと入ると、待っていたと言わんばかりにアリア様は僕に抱き着いてきました。
見た所何ともなさそうですね。
もしかしたら、表面上は何ともなくとも、変な魔法をかけられていたりするかと思いましたが、それもなさそうですね。
「むぅー……」
「ん? なんじゃ、シアもしてほしいのか?」
「別にいい。それよりも、アリアの話を聞かせる」
「拗ねるな拗ねるな。ほれ、嫁さんを返してやるぞ」
「お帰り」
アリア様に解放され、ようやく落ち着いて話を聞かせて貰えるかと思いましたが、今度はシアさんに抱きしめられました。
「もぉ、シアさんそういうのは後ですよ」
「うん。だけど、話を聞くだけなら問題ない」
「そうですけどね」
それでもこの場には色んな人が集まっていますので少し恥ずかしいです。
何せ、僕達弓月の刻だけではなく、アラン様にアンリ様、チヨリさんにオルフェさん、シノさんにアカネさんと、この街の中心人物とも呼べる人達が揃っているのです。
それだけアリア様の話が重要だという事ですね。
「それだけではないぞ?」
「え、まだ居るのですか?」
「うむ! いいぞ入って来い!」
「おぅ! ユアン、久しぶりだな!」
驚きました。
アリア様が合図をすると、何故か虎王であるトーマ様まで部屋に入ってきました。
しかも、何故か葉っぱなどを体につけて。
「えっと、お久しぶりです。どうしたのですか、その姿は?」
トーマ様がナナシキに来るのは本当に久しぶりですね。
前は暇さえあればナナシキへと訪れていたのですが、ビャクレンとナナシキを結ぶ道を開拓するという話が出てからはずっと来ていなかったのです。
何やらその道の開拓が終わるまではナナシキへと行く事を禁止されたみたいですね。
「これか? ビャクレンから急いできたらこうなっちまっただけだ!」
「急いで来ただけなのにどうしてそうなるのですか?」
「途中から道がなくなってよ。仕方ねぇから森を突っ切ってきたぜ!」
相変わらず豪快な人ですね。
どうやら途中までは新たに開拓されつつある道を進んできたみたいですが、開拓途中なので途中で道は途切れ、そこを無理やり通ってきたみたいですね。
けど、トーマ様も少し変わりましたね。
前だったらもっと威張り散らしている感じがありましたが、前よりも丸くなった気がします。
最初に会った頃は乱暴で横暴な人だと思っていましたが、今ではそれを感じなくなった気がします。
「相変わらず阿呆じゃな」
「あぁん? 手助けしてやるのに、その言い草はなんだ?」
「阿呆に阿呆と言って何が悪い。どうみても阿呆じゃろ」
「うるせぇ! ぶっ飛ばすぞ!」
あ、前言撤回です。
やっぱりトーマ様はトーマ様でした。
っと、それよりも気になる言葉がありましたね。
「トーマ様、手助けってどういう事ですか?」
「それはだな……」
「虎は黙っておれ。お前じゃ説明が雑になる。私が話そう」
そっちの方が助かりますね。
もしかしたらトーマ様がまともな説明をしてくれるかもしれませんが、何故か無理だと思うのですよね。
なので、ちゃんと報告を聞くためにもアリア様にお願いする事にしました。
そして、意外な事にトーマ様はそれを怒る事はしないで、引き下がりましたね。
もしかしたら、それほど重要な話とトーマ様も思っているのかもしれません。
何にせよ、アリア様の話を聞かないとですね。
「まずは、皆に先に一つ伝えておく……すまぬ! 戦争は避けられなかった! まぁ、やるからには懲らしめてやらんとな……ん? ユアンよ、どうしたのじゃ?」
「いえ、僕が予想していた事とほぼ一緒の事を言われたので、やっぱりなーと思いまして」
アリア様が獣王会議に出かけたとみんなから聞かされた時に予想した言葉でしたからね。
まさか本当に言われると思わなくて逆に驚きました。
「ですが、どうしてトーマ様までナナシキに訪れたのでしょうか?」
「うん。スノーの言う通り。トーマが来る理由がわからない」
戦争は起きる事は予想はしていました。
ですが、鼬族と狐族の戦いになると思ったのにそこにトーマ様が加わっているのはよくわかりません。
手助けしてくれると言いましたけど、それはそれでまずいような気がしますからね。
「落ち着け。話は最後まで聞くのじゃ。トーマがここに居る訳じゃが……」
その理由をアリア様が教えてくれると、予想外の展開に僕達は驚くことになりました。
「えっと、それは本当ですか?」
「うむ。この戦いは虎族と狐族との連合軍で進める事になる」
「それで相手は鳥族、狼族、鼬族の三か国ですか……それだけ聞くとやばそうだね」
「うん。トーマ様が協力してくれなかったら大変な事になっていたと思うの」
下手すれば虎族まで敵になっていたと考えると結構まずかったかもしれませんね。
「けど、どうしてトーマ様はこちら側についてくれたのですか?」
「ババアの軍とやり合いたくなかったからだな。流石に勝てる気はしねぇよ」
「賢明じゃな。虎と戦っても被害はほぼなしに勝てる自信があるからのぉ」
まぁ、そこはやってみないとわからないと思いますけどね。
戦いには絶対というものが存在しません。
勝てる可能性が限りなく高い戦いでも、ちょっとしたことで敗戦に繋がる事は珍しくなくいようで歴史が物語っています。
「それに、ユアンは俺の嫁だ。嫁の窮地を救うのが男の役目だからな!」
「随分とナナシキに肩入れをするかと思ったらそれが狙いか。呆れるのぉ」
確かに呆れた理由ではありますね。
けど、気持ちはわかります。
僕もシアさんに何かあったら味方しますからね!
まぁ、流石にシアさんが悪い事をしていたのであれば、叱りますけどね。
それでもシアさんは絶対に見捨てません。
それと同じですからね。
ですが、トーマ様の気持ちには応えられませんけどね。
何せ……。
「トーマ様、申し訳ないですけど僕はトーマ様のお嫁さんにはなれませんからね?」
「どうしてだ!」
「えっと、報告が遅れましたが、シアさんと結婚しました」
「ユアンは私の嫁。トーマは諦める」
「なにぃぃぃ!? お、おい、どういう事だ!」
「どうもこうもない。ユアンは結婚した。トーマは振られた。それだけじゃよ」
「おいおいおい! なら、俺はこれからどうすればいいんだよ!」
んー……報告を遅らせた方が良かったかもしれませんね。
トーマ様がこっちの味方についてくれた理由がそれでしたら、もしかしたら撤回して敵になってしまう可能性があります。
「好きにせい、別にトーマが敵に回ろうと私は恨みは……」
「そんな事はどうでもいい! 問題は俺の嫁だ! 俺は誰を嫁に貰えばいいっていうんだよ!」
あ、大丈夫そうでした!
トーマ様の『これから』はどっちにつくかではなくて、嫁の問題だったみたいですね。
「なんじゃ? お主はそんなに嫁が欲しいのか?」
「当り前だ! 俺はこのままだと戦いしか能のない、遊びまわっている男だと思われちまうだろうが!」
「その通りの男じゃな。お主は」
確かに、今のトーマ様をみているとそんな感じはしますね。
普段どんな仕事をしているのかわからないので、余計にそう思えてしまうのです。
何せ、しょっちゅう僕の所に遊びに来ていましたからね。
「仕方ねぇ……おい、ユアン!」
「はい?」
「お前を嫁にとるのは諦める。流石に人の嫁を奪うのは悪いからな」
「ありがとうございます」
そういう所はしっかりしているのですね。
権力をいかし、人の嫁でも自分の物にしようとしない辺りは好感が持てます。
「しかし、一つ条件がある」
「え、条件ですか?」
ですが、何故か条件を出されてしまいました!
それはそれでおかしいですよね?
もし、僕がトーマ様の恋人みたいな関係だったらまだわかります。
ですが、トーマ様と僕はそういった関係ではありません。
トーマ様が勝手に僕を嫁に貰うと言っていただけですからね!
それなのに、条件って……。
むむむ……条件次第では折角上がったトーマ様の評価が下がる事になりそうですよ?
「それで、条件って何ですか?」
「おぅ! 俺の嫁を探してくれ!」
「トーマ様の嫁ですか?」
「そうだ!」
また面倒そうな条件ですね……。
「えっと、どんな人がタイプなのですか?」
「俺に対して遠慮がない奴がいいな!」
トーマ様に対して遠慮がない人ですね。
って、もしかして僕もそう思われていたという事になりますかね?
まぁ、それはいいです。
僕がトーマ様にどう思われていようと今は関係ないですからね。
「けど、虎族に知り合いはいませんよ? 猫族とかでもいいのですか?」
「種族はどうでもいい! 人族でも魔族でも構わないな!」
それは助かりますね。
もし、種族が限定されていたら絶対に無理でしたが、種族が関係ないとなればいい人が思い浮かぶかもしれません。
「なーなー? 女性限定なのかー?」
「あ? 当たり前だろ。相手が女性じゃなかったら子を残せないだろうが」
「方法があるとしてもだめかー?」
「方法があるなら……まぁ、最悪男でもいいな」
更に幅が広がりました!
それなら誰かしら見つかるかもしれません!
「わかりました。その条件で探してみますね!」
「おぅ! 頼りにしてるからなっ!」
良かったです。
ここでトーマ様の機嫌を損ねて、やっぱり向こう側に付くと言われたら大変でしたからね。
トーマ様にはそのつもりは全くないみたいですけど、もしかしたら気分が変わるという事もあるかもしれません!
「それじゃ、改めて……あれ? みんなは何処に行ったのですか?」
「トーマがうるさいから場所を移動した」
気づけばこの部屋に残っていたのは、僕とシアさんとサンドラちゃん、そしてトーマ様だけになっていました。
「えぇ、僕達は置いて行かれちゃったのですか!?」
「うん。大丈夫、後でスノーが教えてくれる」
そういう問題じゃないですよ!
「もぉ! トーマ様のせいではぶかれちゃったじゃないですか!」
「俺のせいなのか!?」
「そうですよ!」
うー……折角大事な話をしているのに、その話を聞くことが出来ないなんて困ります!
ですが、こうなってしまったものは仕方ありません。
今頃はみんなで話を進めているでしょうし、今更僕達が参加しても、また一から話を聞かなければならないので邪魔になりそうですからね。
「こうなったら僕達は僕達でトーマ様の嫁を探しましょう!」
「おぅ! 頼んだぜ!」
それがきっと僕の役目ですからね。
いい人を紹介できれば、虎族とも親交を深める事にもきっと繋がる筈です。
戦争だけではなく、その先も見据えて行動をするのが大事です。
「では、好みの容姿などがあれば教えてください」
「そうだな……」
みんなが戦争についている間、僕はトーマ様のお嫁さん探しをお手伝いする事になりました。
ですが、お嫁さんを紹介するのはこんなに難しいとは思いませんでした。
なにせ、トーマ様の好みは結局の所は自分よりも強ければいいという事がわかりましたからね。
該当しそうな人が多すぎて逆に絞れなかったのです。
何処かにいい人がいませんかね?
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