第389話 問題児
「え、いつからですか?」
「一週間ほど前かな。知らなかったの?」
「はい。アリア様から聞いていなかったので」
ピコフリ体操を広めるために、朝早く起きて一緒にスノーさん達と朝食をとっていると、スノーさん達から驚きの事実を知らされました。
何と、アリア様がナナシキをいつの間にか離れ、出かけてしまっていたのです。
まぁ、そこまで驚くことでもないといえばないのですけどね。
「何しに出かけたのですか?」
「獣王会議があるみたいだね」
「何でも緊急の招集がかかったみたいだよ」
「何だか嫌な予感がしますね」
「うん。もしかしたらリコの夢と関係しているかもしれない」
獣王会議とは言葉通り、アルティカ共和国の王様が集まり、色んな事について話し合う集会です。
年に数回はあるみたいなので、特別珍しい事ではないので必ずしも重要な話し合いが行われるという訳ではないみたいですが、タイミング的にどうしても戦争に繋がるような気がしてしまいます。
「でも、どうして僕に黙って出かけたのでしょうか?」
アリア様が何処かに出かける事は珍しい事ではありませんが、直ぐに戻ってこれない時などは僕にお見送りをして欲しいみたいで、一言ナナシキを離れる事を伝えてから出かけて行く事が多いです。
ですが、今回は僕に何も伝えずに、こっそりと出かけてしまいました。
それも一週間も前にです。
出かけていた事に気付かなかった僕も悪いですが、その理由が気になりました。
「んー、やっぱり戦争が関わっているからじゃない?」
「ユアンさんを心配にさせたくなかったのかも」
「僕が話してしまったからですかね?」
戦争が起こるかもしれないという事はアリア様には一応伝えておきました。
もちろん、信憑性は薄いと前置きはしましたよ。何せ、リコさんの夢ですからね。
僕達は身をもって体験しているので信じていますが、アリア様は知らないですからね。
「でも、信じてくれたのですよね」
むしろ最初からわかっていたように、そうじゃろうなと言われました。
なので、戦争が起こる可能性がある事を説明する手間が省けたので助かりましたけどね。
「とりあえず今回の会議が戦争関連とは限らないし、ユアンが気にする必要はないと思うよ」
「ですが、僕が話したことによって、アリア様が気を遣ったのかもしれませんよね?」
「確かにユアンに気を遣ったのはあるかもしれないけど、それは別の意味でだと思うよ」
「別の意味ですか?」
「うん。アリア様が会議に赴いたと知ったら、ユアンさんが心配するからだと思うの」
「ユアンの事だし、僕達のせいでアリア様が呼び出されてしまったので心配です……とか思いそうだからね」
「現に今そう思っていますよね?」
「まぁ、そう思いますね」
戦争の原因が何かはわかりませんが、僕達が戦争に参加しているという事は、フォクシアかナナシキが間違いなく関連していると思います。
しかし、アルティカ共和国にある国同士での争いはずっとなかったみたいなのに、このタイミングで戦争が起きるとなればナナシキが関係していると思う方が自然に思えます。
これが別の国であれば話が変わってきますけど、相手は鼬族です。
アルティカ共和国内で起きた内戦ならばナナシキの可能性が高いのですよね。
「だから、ユアンが気苦労しないように出来るだけ遅く伝わるようにしたんじゃない?」
「そういう事だったのですね」
もし、アリア様が獣王会議に参加する為に暫く街を離れると僕に伝えていたのであれば、一週間前からずっと申し訳ない気持ちになって気にしていた可能性があります。
そうなるとわかっていたので、きっとアリア様はそれを避けるために僕に伝えないようにしたのですね。
まぁ、僕がスノーさん達にアリア様が何処に行ったのか聞いてしまったせいで知る事になってしまいましたけどね。
「ま、そういう思惑があるだろうし、ユアンが気にする事ではないかな」
「そうはいきませんよ。結局は僕が原因ですからね」
「僕、じゃなくて私達。戦争が起きるきっかけがあってもユアン一人が悪い訳ではない」
「そもそも戦争に関する話ではないかもしれませんし、例えそうであっても私達は領地を与えられてそれを護っているだけですので、責任を感じる必要はないと思うの」
「色々と問題が起きる可能性があるのはアリア様も重々承知していただろうしね」
かといってアリア様の責任でもありませんけどね。
結局は僕達がアリア様が領地をくれると言って、それに同意してしまった訳ですからね。
まぁ、無理やりに押しつけられたとも捉えられますけど。
「だから、アリア様が戻ってくるのを気長に待とうか」
「でも……」
「平気。アリアはこの程度の事は気にしない。戦争になったらなったで、仕方ないと割り切るタイプ」
まぁ、シアさんの言う事はわかります。
アリア様なら……。
『すまぬ! 鼬族と戦争になった! まぁ、やるからには懲らしめてやるかのぉ』
とか言いそうですね。
しかも、戦争を避ける方法があったとしても、鼬王を煽りに煽ってそうなるような気がしますね。
「そう言う事だね。だから、今は気にせず私達がやれる事をやろう」
「そうですね……気にしても仕方ないですからね」
かといって、簡単に割り切れる事でもありません。
気にするなと言われると余計に気になってしまいますからね。
それも考えないようにすればするほどに、気になってしまう気がします…………。
「なーなー?」
「はい、どうしましたか?」
「大丈夫かー?」
「はい、大丈夫ですよ?」
「それならいいけどなー。もう、お昼だぞー?」
「あれ? もうそんな時間ですか?」
「うむー。みんな心配してたぞー?」
「それはみんなに悪い事をしましたね」
今朝の会話を思い出していると、気づけばお昼になっていました。
やっぱり割り切ろうとしても割り切れていなかったみたいですね。
かなりボーっとしていたみたいです。
シアさんと一緒に家を出た事は覚えていますけど、正直街の人と今日はどんな会話をしていたのかは全然覚えていませんからね。
「そういう時もあるからなー。若いんだから色々と悩むといいぞー」
「悩まなくて済むならそれに越したことはないですけどね」
「そうだけどなー。けど、人生はそう上手くはいかないぞー」
それはわかります。
楽しい事の裏には辛い事や悲しい事が沢山ありますからね。
「こんにちは。今日も、お花を見に来ました」
「あ、ティロさん。こんにちは」
っと、また少し考えてしまっていたみたいですね。
気づけば、僕達の元にまたティロさんが来てくれていました。
「うむー。好きなだけ見てってくれなー」
「ありがとう、ございます。邪魔だったら、言ってください」
「そっちはお店とはあまり関係がないので邪魔にならないから平気ですよ。時間が平気ならゆっくりしていってくださいね」
これがお店の前だったらちょっと困りますけどね。
最近そういう人が増えてきましたので、その迷惑さはよくわかります。
もちろん街の人ではありませんよ?
お客さんなのであまり強くは言えませんが、最近は旅人さんが訪れるようになり、扱っているポーションなどが珍しいのか、他の人が待っているのにも関わらず、お店の前でポーションを買う訳でもないのにずっと眺めている人がいるのです。
流石にそれは迷惑です。
ですが、ティロさんの目的である花壇はチヨリさんのお家の横……つまりはお店の横にありますので、誰の邪魔にもなりません。
これを邪魔だなんて言うのは嫌がらせみたいなものですので、邪魔と言う人はいないと思います。
「ありがとう、ございます」
僕達に頭を下げ、ティロさんが花壇の方へと移動をしていきます。
やっぱり嬉しそうですね。
今度はわかりましたよ。
顔をあげたティロさんが笑ってくれていたのです。
やっぱり人の嬉しそうな姿をみると、こっちまで幸せな気分になれますよね。
悩んでうじうじしていたような気分が晴れていくような気がします。
「よし、僕達は午後に備えてお片付けをしちゃいましょうか!」
「うむー。お腹もすいたしなー」
「なー。ユアンも元気が出てよかったなー」
「はい! 心配をお掛けしましたが、もう大丈夫です!」
もちろん、悩みが消えた訳ではありません。
ですが、ティロさんだって影狼族の人にしかわからない悩みや辛い事がきっとある筈です。
それでもああやって自分の好きな事を見つけて楽しんでいるのです。
それなのに僕ばっかりうじうじしていたらダメだと思うのです。
みんなを心配させてしまいますからね。
「それじゃ、サンドラちゃんはいつも通りにー……」
「やめて! お花さん、虐めないで!」
片づけをお願いし、机を家の中に戻している時でした。
外でティロさんの声が聞こえてきたのです。
「ぶ、無礼者! 僕が誰かわかっているのか!」
「えっと、何があったのですか?」
ティロさんの声の原因を確かめるために外へと出ると、花壇の横で尻もちをついている男性と花壇を守るように立っているティロさんの姿がありました。
そして、ティロさんの足元にはついさっきまで綺麗に咲いていた花が散らばっていたのです。
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