第387話 補助魔法使い、予知夢を聞く

 「戦争ですか?」

 「そうそう。ユアンちゃん達が軍を率いて戦う姿を見ちゃったんだよね~」


 リコさんが予知夢を見たと聞き、その話を聞くためにリビングへとやってきましたが、予想外の内容に思わず聞き返してしまいました。


 「それは避けられないのですか?」

 「んー……どうだろうね。私の予知夢も完璧じゃないから。これからこういう事が起きるから準備してね~って感じかな?」


 頑張れば避けられるって事ですかね?

 ですが、前回の予知夢では気づいたらその時を迎えていました。

 龍人族のダンジョンの時ですね。

 あの時は様子見で行ってみようとダンジョンに向かった訳です。

 ですが、リコさんの予知夢通り、龍人族の街は雪が降っていました。

 雪が降っている中、僕達はダンジョンに向かう。そういう予知夢だったので、敢えて雪が降っていない時に向かったのに、結果的には予知夢通りになってしまったのです。


 「警戒はしておいた方がよさそうですね」

 「うん。警戒というよりは準備しておく」


 それにしても戦争ですか。


 「相手は魔族ですか?」

 「んー……相手は鼠だったかな~?」

 「鼠ですか?」

 「うんうん。鼠の獣人が主だったねぇ」


 鼠という事は、鼬族という事ですかね?

 まさか、ラディくん達と戦う訳ではないでしょうし。そうだったら嫌ですけどね。


 「戦っていた場所とかはわかりますか?」

 「ユアンちゃん達が街を攻めようとしている所で起きちゃったから、その先まではわからないかな~」


 となると、僕達が鼬族の街を攻めているという事になりますね。

 けど、それだと僕達が戦争を起こし、鼬族を攻めているという事になるって事ですかね?


 「そうとは限らない。鼬族が攻めてきて、私達が逆に攻め込んだ可能性がある」

 「そうですね。ですけど、戦争という事は無駄な血が流れますよね」

 

 魔物を討伐するのとは訳が違います。

 魔物とは戦う理由がありますけど、鼬族は悪い噂があるとはいえ、全ての鼬族が悪いという訳ではありません。

 ですが、戦争となってしまうと自分たちの街や暮らしを守るために必死に抵抗をしてくると思います。

 場合によって市民が武装をし、僕達を攻撃してくる事だってありえるのです。

 

 「その時はどうしたらいいのでしょうか?」

 「戦うしかない。それが戦争」

 「そうかもしれませんけど、もしかしたら相手は素人ですよ? そんな人達と戦う事はしたくありません」


 戦争だからといって、割り切れる事ではありません。

 ですが、やらないと僕達の方に被害が出る。

 それもまた戦争です。


 「どうにか避ける道を探さないといけませんね」

 「そうだね~。そもそも、私の気のせいかもしれないからね。もしかしたら、あれは予知夢ではなくて、ただの夢だったかもしれないしさ」

 「でも、予知夢って思ったのですよね?」

 「私はそう思ったかな」


 その辺りはリコさんの感覚を信じるしかありませんね。

 

 「ま、もう少し先の話になるだろうし、準備だけはしておくいいかもね」

 「はい。避ける道を探しつつ、準備だけは進めておこうと思います」


 といっても、戦争の準備って何が必要なのかわかりませんけどね。

 その辺りはアリア様に相談してみるのがいいのでしょうか?

 当然、スノーさんにも伝えておく必要もあると思います。


 「それじゃ、私は仕事に戻ろうかね」

 「あ、もう一つ聞きたい事があるのですが、いいですか?」

 「うんうん。何でも聞いておくれ」


 席を立とうとしたリコさんを留め、この機会に気になっていた事を聞くことにしました。


 「僕達の結婚式の事を覚えていますか?」

 「忘れないよ~。私の前で交わした口づけは情熱的で私までドキドキしちゃったからね~」

 「うー……そこは忘れてください」

 

 にまにまと僕達をからかうようにリコさんが笑っています。

 改めてそう言われると凄く恥ずかしい気分になりますが、聞きたい事はそれじゃありません。


 「あの時、リコさんの雰囲気が代わり、僕に話しかけてくる人がいたのですが、リコさんは何か知っていますか?」

 「ユアンちゃんにかい?」

 「はい、リコさんの声だったのですが、リコさんではない誰かが話しかけてきたのです」

 「リンシアちゃんにもかい?」

 「私には聞こえなかった」


 あの後にシアさんに確認したらそんな事はなかったと言われてしまいましたからね。


 「それで、僕に力を授けるとか言っていたのですよね」

 「具体的には?」

 「んー……今の所は実感はありませんが、あの時は身体能力向上ブーストの魔法を付与したような力を感じましたね」


 今はその力は感じる事ができません。

 ですが、僕の魔力があの日を境に上がったような気はしています。

 なんというか、僕の魔力に何かが溶け込み、僕のものになったという感覚ですかね。


 「なんだろうねぇ?」

 「リコさんにもわからないのですか?」

 「うんうん。何の事だかね?」

 「でも、リコさんはあの時に本気を出すと言っていませんでしたか?」

 「気のせいじゃないかな? 私にそんな力はないよ~」


 そうは言いますが、リコさんって掴みどころがないというか、表情から思っている事を読み取れないのですよね。

 何があっても話し方で誤魔化してしまうといった感じが前々からあるのです。

 

 「リコさんが知らないというのなら仕方ないですね」

 「ごめんね~。力になれなくて」

 「いえ、体に異変はないようなので大丈夫ですよ。ただ、少し気になっただけなので」


 これで、体に異変があったのならば早急に対策する必要があったかもしれませんが、今の所はその様子はなく、むしろ魔力も上がったように感じるので問題はなさそうですからね。


 「けど、我が子と言われたのは引っかかりますけどね」

 「我が子かい?」

 「はい、リコさんが元に戻る前にそう言われました」


 加えて、いつか直接会える事を楽しみにしているとも言われましたね。


 「という事は、この世界に存在している誰かが話しかけたって事かな?」

 「会える事をと言ったくらいなのでそうかもしれませんね」

 「それなら、龍神様かもしれないね~」

 「はい、僕もそう思いました」


 龍神様ならそのような不思議な力があってもおかしくはないような気がします。

 それに、リコさんは龍人族を祀っている巫女さんでもあります。

 龍人族は龍神様を崇拝していましたので、その繋がりがあってもおかしくはないと思ったのです。

 ただ、気になるのは僕の事を我が子と言った事です。

 僕はアンジュお母さんとユーリお父さんの子供だと本人の口から聞きました。

 なので、龍神様の子供ではないのです。


 「そこはサンドラちゃんと同じじゃないかな? ユアンちゃんからしたらサンドラちゃんは実の子供じゃなくても、子供ような存在だよね?」

 「はい。感覚的にはそう思う部分はあります」


 何せ、僕達の血がサンドラちゃんの中に混ざっているみたいですからね。

 子供じゃなくても血が混ざって生まれてきた訳ですので、何となく我が子のような存在と思う部分があるのです。


 「もしかしたら、ユアンちゃんの中に龍神様の血が混ざっているのかもね~」

 「僕の中にですか? そうだとしたらびっくりですよね」

 「そんな事ない。ユアンは凄い。例えそうだとしても驚かない」

 

 シアさんはそう言いますけど、本当に混ざっていたら驚くことだと思いますよ?

 まぁ、それはあり得ないと思いますけどね。


 「ま、龍神様が色んな種族を生み出したという話が本当ならば、ユアンちゃんもリンシアちゃんも、私も子供みたいなものって事だし、深く考えなくていいんじゃないかな?」

 「そうですね。気にしてもわからない事はわからないので、気にするだけ無駄でしたね」


 そもそもその話すら真実かどうかもわかりませんからね。

 クジャ様がいうには気づいたら、龍人族として暮らしていたと言っていましたし。

 けど、そこも謎ですよね。

 龍人族とは古龍エンシェントドラゴンでもあるのです。

 どっちの姿が本当の姿なのかというのも気になるところです。

 僕達の獣化と違い、好きな時に好きな姿を選択できるようですからね。

 獣化すると、体力や魔力を使うのに、龍人族にはその制限がないみたいなので。

 っと、話が逸れてしまいましたね。


 「リコさん、また予知夢をみたら教えてもえらますか?」

 「うんうん。私もここでの暮らしが気に入っているからね。戦闘という面ではあまり役に立てないけど、そういった所では協力させて貰おうよ~」

 「はい。事前にわかっているだけでもすごく助かるのでよろしくお願いします」

 「了解~。それじゃ、残りの仕事を頑張っちゃうよ~!」

 

 リコさんはぐい~っと両手を天井に伸ばし、ソファーから立ち上がりました。

 でも、それじゃ気合は入りませんよね。


 「リコさん違いますよ」

 「ん~? 何がだい?」

 「体操するなら、耳と尻尾もちゃんと動かさないと気合は入らないと思います」

 

 伸びー! は大事ですけどね。

 けど、体操はそれだけじゃダメだと僕は知っています。

 それに、新しい耳と尻尾の体操を教えてくれたのはリコさんでもあります。

 

 「え、あれを私もやるのかい?」

 「そうですよ? 体操をするのならしっかりやらないとダメですよ!」


 体操というのは意味がありますからね。

 中途半端にやっても効果は薄いです。

 

 「はい、耳を交互にピコピコです!」

 「こ、こうかい?」

 「違いますよ、ちゃんと耳は交互にです!」

 「こ、こんな感じかい?」

 「はい! そしたら、次は尻尾をフリフリです!」

 「ふりふりー……」

 「ダメですよ! もっとお尻を突き出すようにして尻尾を振った方がちゃんと振れますので!」

 

 これを教えてくれたのがリコさんですからね。

 

 「うぅ……余分な事を教えるんじゃなかったよ」

 「リコ頑張る。ちゃんと可愛い」

 「笑わないでくれるかい?」

 「笑いませんよ。これは大事な体操ですからね!」


 それにしても、あまり慣れてない動きですね。

 もしかして、みんな朝の体操をサボっているのでしょうか?


 「そういえばシアさんは朝の体操をやっている事なかったですよね?」

 「私はいつでも動けるようにしてきた。体操は必要ない」

 「そうなのですね」


 でも、出来る時はやったほうがいいですよね?


 「これからは一緒にやりましょうね?」

 「わかった。気が向いたらやる」

 「ダメですよ。ちゃんと毎日です」

 「…………わかった」

 

 朝の体操は習慣ですからね。

 となると、リコさんも毎日ちゃんとやった方がよさそうですね。


 「明日から、みんな揃ってやりましょうか」

 「明日もかい?」

 「はい、僕達が起きたらリコさんもジーアさんも一緒にやりましょうね!」


 本当は起きて直ぐにやるのが効果的なのですが、やらないよりはいいと思います!

 

 「リコのせい」

 「私のかい? まぁ、ユアンちゃんがやりたいってなら仕方ないね~。いっその事、街の人に広めてみるかい?」

 「あ、それはいい案ですね!」


 みんなも農作業とかで体を動かすので、体操は大事になってくると思います。

 まぁ、みんなはやっていると思いますけどね。

 けど、間違ったやり方をしている人もいるでしょうし、みんなで正しい体操のやり方を覚えた方がいいですね。


 「では、明日はいつもより早く起きてみんなの所を回りましょうか」

 「わかった」

 

 そうと決まればスノーさんに相談して、ピコフリ体操を広める方法を考えなければいけませんね。

 あ、ピコフリ体操というのは今考えた名前です。

 その体操を広めるためにはどうするか、僕はスノーさん達が帰って来るのを待つのでした。

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