第384話 補助魔法使い、勇者と今後についてを語る

 「「「お帰りなさいませ、ユアン様、リンシア様!」」」


 ラインハルトさんから話を聞くために、僕とシアさんは自分たちのお家に向かったのですが、家の中に入った途端、盛大なお出迎えをされることになりました。


 「あの、何をやっているのですか?」

 「何って、見ての通りお出迎えだ」

 「えっと……それはわかりますよ? ですが、どうしてラインハルトさんまでその格好をして僕たちをお出迎えしているのですか?」


 別にお出迎えされた事に関しては特に驚くことはありません。

 ゴーレムさん達が僕達のお家で働く事を提案したのは僕でしたからね。

 なので、こうやってお出迎えされるのはわかっていた事です。現に昨日も同じようにお出迎えをされましたからね。

 ですが、今日はそこにラインハルトさんまで混ざって僕達をお出迎えしているのです。

 正直、意味がわかりませんよね?


 「この際だし、私もユアン様に雇って頂こうと思ってな」

 「ラインハルトさんをですか?」

 「そうだ。恥ずかしながら、私は無職になってしまったからね」

 「だからといって、メイドをする必要はないと思いますよ?」


 似合っているか似合っていないかと聞かれれば、似合っているとは思います。

 王族の末裔というだけあって、ラインハルトさんは凛々しく顔立ちも整っていて、背も高いので、メイド服も似合っていると思います。

 胸はありませんけどね。


 「ユアン様、何やら失礼な事を考えていないか?」

 「気のせいですよ。それよりも、ユアン様って言うのはやめて頂けませんか? 何か変な感じがしますので」

 「申し訳ないがそれはできない。何せ私はユアン様達に仕えるメイドですから」

 「いえ、許可した覚えはありませんからね?」

 

 これはラインハルトさんが勝手にやっているだけで、僕達は許可した覚えはありません。


 「どうしてもだめなのか?」

 「ダメではないですけど……ラインハルトさんって掃除とか料理は出来るのですか?」

 「人並みには出来ると思うよ」

 「一応は出来るのですね」


 それはそれで意外でした。

 っと、ラインハルトさんがそんな格好をしているせいで本来の目的を忘れてしまいそうでしたね。


 「まぁ、その辺も踏まえて話がありますのでちょっと時間を頂けますか?」

 「はい、喜んで!」

 「では、本館の方へと移動しましょう。みなさんは適度に休憩を挟みつつ、無理をしないように仕事をしてくださいね? まだ体に慣れていないと思いますから」

 「「「ありがとうございます」」」


 ゴーレムさんだった人達はまだ動きにぎこちなさが残っているものの、頑張ろうとしてくれているのがわかりますね。

 まだここに務める事になって僅か数日なのですが、リコさんとジーアさんと一緒に頑張ってくれているのを知っています。

 

 「それで、どうしてメイドをやろうと思ったのですか? ラインハルトさんなら他にやれる仕事はありますよね?」

 「ユアン殿の下僕が駄目と言われたからな、ならせめてメイドとしてお傍に居ようと思ったのだ」

 「まだ諦めていなかったのですね」

 

 どうしても僕の傍に居たいみたいですね。

 

 「でも、そのうち僕達は旅に出てしまうので僕達のお家に居てもずっと一緒にいられるわけではありませんよ?」

 「え、そうなのか?」

 「はい。僕達は僕達でやる事がありますからね」


 ナナシキの状況が落ち着いたら、僕達はサンドラちゃんの力を取り戻すために龍神様を探す旅に出る予定でいます。

 まぁ、流石に理由まではラインハルトさんに教える事はしませんけどね。


 「お話し中に失礼致します。お茶をお持ち致しました」

 「ありがとうございます……って、何でセーラまでそんな格好をしているのですか?」


 本館のリビングでラインハルトさんと話していると、何故かメイド服を着たセーラが僕達の為にお茶は運んできました。


 「恥ずかしながら、私もハルトと同じで職を失ってしまいましたので……何よりもユアンお姉さまのお役にたちたいのです。ダメでしょうか?」

 「ゆ、ゆあんお姉さま……?」


 セーラがセーラらしくない事を言っています!

 しかも、お茶を運んできたトレイで顔を半分隠すようにして、可愛らしい仕草までしているのです!


 「だめ、ですか?」

 「いえ、セーラがそう呼びたいのなら構いませんけど……けど、いきなりどうしたのですか? 熱があるのなら休んだ方がいいと思いますよ」

 「熱はないので平気です。ただ、少しでもユアンお姉さまに恩を返したいのです」

 「恩ですか……別に気にする事はないですよ。むしろ、忘れた方がセーラ自身の為だと思います」


 セーラがアーレン教会の聖女の座を返上したのは知っていました。

 その理由も聞かされましたからね。

 

 「ユアン。それは無理。体の傷は癒えても、心の傷は簡単には消えない。忘れる事も出来ない。ふとした瞬間に思い出すもの」

 「それはわかります」


 セーラの心の傷。

 それはアーレン教会によってつけられた大きく深い傷でした。

 セーラは聖女の立場を与えられつつも、尊厳というものは奪われていました。

 ダンテや兵士から辱められ、気に入らなければ鞭でうたれ、心だけではなく、体も服を脱げば幾つもの傷がつけられていました。

 しかも、いつ頃につけられたのかわからないような古い傷も沢山あったのです。

 今はありませんけどね。

 その傷は僕が治してあげましたので。


 「ですが、セーラはこれから新たな人生を歩む事になるのです。どんな過去があろうとも今日まで命を絶たずに生き延びてきたのです。それはセーラの強さでもある筈です。だから、今は無理でもいずれは前を向く事は出来る筈です。幸せと思える日がきっと来ると思います」


 セーラがアーレン教会から離れると聞いた時、色々と話をしました。

 命を断とうと何度も考えたとも聞きました。

 ですが、セーラが死んだら次の標的が別の修道女へと移るとセーラは知っていた為、それを避けるためにも今日まで耐えてきたのです。

 ですが、それも終わりました。

 セーラは十分に頑張ったと思います。幸せになる権利はあるのです。

 まさか、その選択の一つが僕達のメイドになるとは思いもしませんでしたけどね。

 けど、それがセーラにとって幸せへの道とするならば……。


 「他にやりたい事が出来たのならば遠慮なく言ってくださいね?」

 「という事は……」

 「はい。これからよろしくお願いします」

 「ありがとうございます!」

 「けど、無理だけはしてはダメですよ?」

 「わかりました! メイド長に他の仕事を教わって参りますので、失礼致します!」


 やりたい事はやらせてあげないとですね。

 今はそれしか僕には出来ませんから。

 ちなみにですが、セーラがメイド長といった人はジーアさんです。

 人が増えた事により、最初から僕達の身の回りをしてくれていたジーアさんをメイド長に格上げしたのです。

 まぁ、本人は少しだけ困っていましたけどね。

 ですが、そこはリコさんの強い推しもあったお陰でどうにか請け負って頂きました。

 そんなリコさんはキッチンメイドという料理を総括する立場になりましたけどね。

 料理の事ならお任せあれっていう立場の人です。


 「セーラばかりずるくないか?」


 セーラがジーアさんの元へと向かうと、それを羨ましそうにラインハルトさんはしつつ、拗ねるようにそう呟きました。


 「ずるくないですよ。セーラには新たな目標ができたのですから。でも、ラインハルトさんは違いますよね?」

 「いや、私も……」

 「違いますよね? ラインハルトさんにはお姉さんを探すという目的がある筈です。その為に今日までアーレン教会に協力しつつ、色々と耐えてきたのですから」


 ラインハルトさんに他の目的がないのなら、ラインハルトさんがメイドをやるといっても、許可したかもしれません。

 ですが、ラインハルトさんには別の目的があるのを僕は知っています。

 それを放り出してメイドをするのは違うと思うのですよね。

 ここでようやく本題に入れましたね。

 今日ラインハルトさんと会話する目的はこれにあったのですから。


 「まさか、諦めたとかいう訳ではありませんよね?」

 「そうは言っても手掛かりがな……」

 「全くないのですか?」

 「あぁ、結局の所、ダンテもダビド様も有力な情報は持っていなかった。一つわかった事は、姉は魔力至上主義という魔族の派閥に所属しているという事くらいだ」

 「魔力至上主義ですか……」

 「ユアン殿は知っているのか?」

 「知っていますよ。ラインハルトさんには言いにくいですけど、僕達にとって敵ですからね」


 まさか、ラインハルトさんのお姉さんがそこに所属しているとは思いもしませんでした。


 「そうだったか。ならば、私はこの街を去る方が良さそうだな。姉と出会った時、私はユアン殿達の敵となる可能性もある」

 「ラインハルトさんも魔力至上主義に所属するという事ですか?」

 「わからない。しかし、その可能性は否定できないだろう。それに、姉がその派閥に職属しているのならば、身内である私を信用する事はできないだろう」


 まぁ、ラインハルトさんを通じて、僕達やナナシキの情報を漏らされる事はあり得ますよね。

 そう考えると、ラインハルトさんを近くに置いておくのは危険なのは確かです。


 「ラインハルトさんはアーレン教会での地下で起きていた事に関してどう思いますか?」

 「悪逆非道、決して許されざる行為だ」

 「魔力至上主義はああいった事を平気でやり兼ねない組織です。それを知っても、姉が所属しているからといって、その組織に入るつもりですか?」

 「それはあり得ない。その時は単身で魔力至上主義とやらを潰す。例え、我が身に災いが降りかかろうともな」

 「それをハッキリと言えるのなら、僕はラインハルトさんを信用しますよ」

 

 良かったです。

 それを聞ければ問題はありません。

 ラインハルトさんの考えが変わらない限りは敵対する事はきっとないと思います。


 「しかし、ユアン殿のお陰で目が覚めたよ。やはり私は姉を探す道を選ぶ事にした」

 「その方がいいと思います。目的をいつまでも果たせないと、それが気になってしまいますからね」

 「そうだな。しかし、問題がある」

 「問題ですか?」

 「あぁ、ハッキリ言って私は貧乏だ。旅をするにしても、旅をするための資金が無い」

 「え、勇者なのにですか!?」

 「あぁ、何せ私は無給で働いていたからな」


 それは意外な問題でした。

 でも、考えればそうですね。

 ダンテが掌握していたアーレン教会が賃金を払うとは思えません。

 賃金を払わなくともラインハルトさんをアーレン教会に縛り付ける手段がありましたからね。


 「なので、暫くはこの街で旅の資金を蓄え、魔力至上主義について調べてみようと思う。なので、それまでは……」

 「そう言う事なら構いませんよ。暫くは僕達のお家に住み、冒険者なり兵士の仕事をしてお金を溜めてください」

 「いや、そこはメイドを……」

 「ラインハルトは戦える。そっちの方が稼ぎがある」

 「確かにそうだが……まぁ、ユアン殿の家で過ごせるのであれば、十分か。すまないが、暫くお世話になる」

 「はい。僕達もお世話になります」


 強い人が街に居るのは安心できますからね。

 もちろん信用できる人がという前提はつきますけど、ラインハルトさんは何となくですがそう思えます。


 「それじゃ、早速ですけど、魔力至上主義について調べにいきますか?」

 「調べに? そんな場所があるのか?」

 「はい。何を知っているのかはわかりませんけど、以前に魔力至上主義に所属していた人がこの街にいますので」

 「それは興味深いな。案内して頂けるか?」

 「わかりました。一緒に行きましょう」


 もしかしたら、その人がラインハルトさんのお姉さんの事を知っている可能性は低いながらもあるかもしれませんからね。

 魔力至上主義は個人主義とは言っていましたけど、風の噂くらいは聞いた事がある可能性はありえます。

 それに、意外な繋がりというのは何処にでもあるので、もしかしたらもしかしたりするかもしれません。

 だって、ラインハルトさんの姉の特徴を聞いた限り、何となくですが思い当たる節があったのですからね。

 僕達は家を離れ、とある場所へと向かうのでした。

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