第381話 弓月の刻とその仲間たち、街の人達に包囲される2

 「あの人達はああやって人からお金をたかるのですね」

 「そうよ。あれが常套手段なの。まずは武力行使で脅し、それを納める為に金銭を要求する……今でも続けているとは思わなかったわね」


 ルカさんもユージンも呆れる理由がよくわかりました。

 けど、ちょっとだけダンテが不憫ですね。

 ダビド様だけではなく、ダンテも街の人に慕われていたかと思ったら、殺された事を理由に賠償金を要求する為に使われているのです。


 「交渉は決裂……という事ですな」

 「当然だ。交渉というのはお互いに利益があってこそだ。そもそもこれは交渉ですらない。ただの脅しだ」

 「違いますぞ! 儂らはただ、穏便に事を済ますために……」

 「武装した集団を引き連れ穏便にとは聞いて呆れるな」


 今まではそうやってうまくやってきたのかもしれませんが、それがいつまでも上手くいくわけありませんよね。


 「そうですか……なら、仕方ありませな。私どもはダンテ様の仇を討つ為にも、引く訳にはいかなくなりますな」

 「武力行使という事でよろしいかな?」

 「交渉が決裂した以上、そうなるじゃろうな」

 「ほぉ……では、あなた方で勇者ラインハルト殿とAランク冒険者パーティーと私達Bランク冒険者パーティーと戦う、という事でよろしいのですね?」

 「は? Aランクに、Bランク冒険者?」


 まさかそこに気付いていなかったのでしょうか?

 まぁ、見た目だけではわかりませんよね。

 ラインハルトさんの事は知っていても、僕たちは初対面です。

 それに、僕たち弓月の刻はみんな女性ですし舐められても仕方ありません。

 火龍の翼の皆さんも変装していて兵士の格好をしていますし、ロイさんなんかは、兵士の服を無理やり着ているので、とても変な恰好です。

 とてもAランク冒険者には見えません。。

 そもそも、ラインハルトさん一人でも鎮圧できるくらいの戦力差があるのに、どうしてそんな考えに至ったのかがわかりませんけどね。

 もしからしたら、ラインハルトさん一人くらいならどうにかなるとでも思ったのでしょうか?


 「さぁ、答えを聞きましょうか?」

 「そ、それは……」


 ようやくここに来て、武力での脅しは意味がないと理解したみたいですね。

 ですが、頭がおかしい人は本当におかしいみたいですね。


 「ダンテ様は時期の王だったのだ! その王を殺してただで済む訳がないだろう!」

 「そうだ、お前たちは俺達の王を殺したのだ! 賠償しろー!」

 

 代表者と名乗り出た老人が黙り込むと、今度は周りが騒ぎだしました。

 それにしてもダンテが王様ですか。

 どういった頭をしているのでしょうね。


 「あれ。ローゼが言っていた奴」

 「あ、トレンティアが公国と認められたから、今度はアーレン教会があるサンケも認められるように動いてるってやつですか」

 

 そんな話もありましたね。

 ですが、現段階でサンケは公国でもありませんし、ダンテは王様でもありません。

 そもそもこんな街が公国に認められるわけがないと思います。もし、エメリア様が公国と認めるようなら、エメリア様も疑わなければなりませんよね。


 「黙れ! 先に王族に手を出したのはどちらだ!」

 

 スノーさんが大きな声を出し、その一言で騒ぐ人たちを黙らせました。

 けど、これって嫌な予感しかしないのですよね。


 「王族に手を出した? どういう事ですかな?」

 「ユアン、自己紹介を」

 「あー……やっぱりそうなるのですね」


 スノーさんがああいった時点でわかりましたけどね。

 けど、何て自己紹介すればいいのでしょうか?

 アリア様の姪と名乗ればいいのですかね?

 そう悩んでいると、僕の代わりにシアさんが狂信者の前に進み出ました。

 

 「シアさん?」

 「大丈夫。私に任せる」


 シアさんが振り返るとにっこりと僕に微笑み、直ぐに顔を引き締め、口を開きました。


 「よく聞け。あちらはアルティカ共和国、フォクシア領を纏める女王アリア様の姪にして、ルード帝国より領地を授かり、正式に公国と認められる事となったココノエ公国の王、ユアン・ヤオヨロズ様。お前たちの数々の罵声は決して忘れない。覚悟は出来た? 王族に対する不敬罪で今すぐ処理させて貰う」


 シアさんが脅すように剣を抜くと、それだけで逃げる人が数人現われました。

 ですが、それでも逃げない馬鹿はいるのですね。


 「馬鹿な……そんな訳が、嘘をつくな!」

 「そうだ! そんなガキが王な訳がないだろう! この嘘つき野郎!」


 んー……。

 ある意味、いい度胸をしていますね。

 逃げる所かシアさんを嘘つき呼ばわりしましたよ。


 「野郎じゃない。私は女。それと、私はユアンの嫁……その意味わかる?」

 「知らねぇよ!」

 「私も公爵の爵位を授かった身……私を嘘つき呼ばわりした。不敬罪を適応させて貰う」

 「は? くわが勝手に……」


 やっぱり戦いは素人だったみたいで、シアさんの動きは全く見えていなかったみたいですね。


 「最後のチャンス。今すぐ消えろ。じゃないと、次はお前たちの首がそうなる」


 くわをバラバラにし、そのまま剣を男の首筋へと当てました。

 もちろん、残っていた全員の武器を無力化したうえで、脅しつけてます。

 戦闘力の差を示し、戦ったらどうなるのかを身をもって思知らせたみたいですね。


 「三秒やる。……三……逃げた」


 逃げ足だけは立派でしたね。

 シアさんが数え始めると同時に蜘蛛の子を散らすように四方に逃げていきました。

 

 「さて、残るは兵士とご老人だけになりましたが、まだ続けますか? 今ならば、何もなかった事にしてあげますけど?」

 「心遣い感謝致します……儂はこれで」


 流石にどうしようもないと悟ったようで、老人も杖を捨てて走り去っていきました。

 最初から杖要らなかったみたいですね。

 残りは……。


 「お前たちはどうする? せっかくだし戦ってやってもいい。戦わないのなら、武器や防具を捨て、兵士を今すぐやめろ。やめないのなら戦う意志があるみなし、全員で相手してやる」

 「や、やってられるか! 行くぞ!」

 

 シアさんの言葉に合わせるように、みんながそれぞれの武器を取り出して構えると、街の人達も逃げ出し、数でもとっくに僕たちが有利になってしまったせいもあり兵士も装備を捨てて逃げていきました。

 

 「馬鹿の相手は疲れるね」

 「同感」

 「でも、こんな強引なやり方で大丈夫なのですか? 爵位も国の名前も色々出してしまいましたけど」

 「問題ないよ。先に引き合いに出したのはあっちだからね。それでこっちだけ問題にする事は出来ないかな」


 そこで更に問題にするようなら救いようのない馬鹿って事ですね。

 個人的な問題ではなく、国を相手にした問題になりますからね。

 図式的には、アルティカ共和国とルード帝国、ナナシキを相手にあの人達が戦う事になると思います。

 

 「まぁ、これで一件落着ですかね?」

 「まだだよ。ダビド殿の事もあるし、セーラ達の事も残ってるよ」

 「病に掛かった街の人も残ってますね」

 「面倒。もう帰りたい」

 「家に帰ってゆっくりしたいなー」


 僕としてはシアさんとサンドラちゃんに賛成ですね。

 ですが、そうも言っていられません。


 「その為にも残りのやる事をやって帰りましょう」

 「わかった」

 「なー……仕方ないなー」

 「ありがとうございます。それで、ユージンさん達はどうしますか?」

 「俺とルカはダビド様と一度話そうと思う」

 「だからロイとエルだけでも先に帰してあげてもらえる?」

 「わかりました」


 という事で役割分担する事になりました。

 スノーさんとキアラちゃん、ルカさんとユージンさんはダビド様の元に向かい、残りの僕たちは街の人をラインハルトさんとすっかり居た事を忘れていたセーラさんと一緒に周る事にしました。

 これが終われば帰ってゆっくりできそうですね。

 ですが、そうはいかなかったみたいです。


 「ユアンさん、お疲れの時に申し訳ないないけど、一緒に来てもらいたいのだけど大丈夫かな?」


 ようやく長い一日が終わったと思った時、僕を尋ねてきた人がいたのです。

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