第379話 補助魔法使い、勇者の戦いを眺める

 「シアさんとラインハルトさんが戦ったらどっちが勝ちますか?」

 「今のままなら私が勝つ」

 「僕の補助魔法なしという条件でもですか?」

 「うん。ラインハルトも強い。だけど、強いだけで特徴がない」

 「特徴というと?」

 「私なら速さ。スノーなら守り。それが特徴。だけど、ラインハルトには突出した何かがない。ユージンと一緒で器用貧乏」

 「おい、俺もかよ」


 シアさんの例えにユージンさんが抗議の声をあげるもシアさんは無視しました。


 「けど、それって悪い事ではないですよね?」

 「うん。私達のパーティーは個性の塊。だからラインハルトが居ても目立つ事はない。だけど、普通のパーティーなら大黒柱になれる存在」

 「何でもこなせるというのは大きいですよね」

 「うん。だけど同時に一対一の戦いには向かないという事にもなる」

 「個性がないからという事ですね」

 「そう。自分よりも弱い相手には強く、自分よりも強い相手には敵わない戦いしか出来ない」


 それでも、ラインハルトさんの水準が高いので、そうそう負ける事はないみたいですね。

 

 「けど、シアさんよりも力があって、守りの技術もあるのですよね。どうしてそれでシアさんが勝てると断言できるのですか?」


 シアさんを疑う訳ではなく、単純な疑問です。


 「ユアンはラインハルトと戦ったら勝てる?」

 「勝てますよ。多分ですけど」

 「それと同じ。絶対に負けない何かがあれば勝てる」


 戦い方は色々とありますが、ラインハルトさんが僕の防御魔法を突破できない限りは勝てなくても少なくとも負けはありません。

 剣の扱いで勝てなくても、魔法で頑張ればどうにかなると思います。

 搾取ドレインを付与した防御魔法の応用で閉じ込めて、魔力酔いや魔力枯渇にしたりしてもいいですからね。


 「シアさんの場合は速さですか?」

 「うん。ラインハルトの剣は私には届かない」

 「でも、ラインハルトさんは魔法も使えますよ?」

 「うん。だから今のままなら私。魔法がどの程度使えるかで変わってくる」


 純粋な剣の戦いになった時なら負けないという事ですね。

 逆に言えば魔法の扱いによっては勝敗はわからないと……まぁ、シアさんも闇魔法を使えますし、実際にやってみないとわからなさそうですね。

 と、ラインハルトさんの戦いが始まりましたね。


 「いくぞ」


 静かな掛け声とともに、ラインハルトさんがダンテへと向かっていきます。

 

 「まずは小手調べといきましょう。これを防げますか?」

 

 剣を振るうラインハルトさんに対し、ダンテはラインハルトさんの剣を左腕で受け止め、右手を突き出しました。

 それを体をよじるようにして避け、剣を受け止められ、弾かれた反動を利用し剣を引き戻すと、すかさず首へと剣を振り下ろします。


 「互角ですね」

 「そんな事ない。少しだけラインハルトが不利」


 首にめがけて振り下ろされた剣は、再びダンテの左腕によって防がれました。

 そこで二人は一旦距離をとり、互いに隙を伺っています。


 「なかなかやるな」

 「そちらこそ。少しは楽しめそうですね」


 ダンテが小手調べと言ったように、ラインハルトさんもまだ本気ではなかったのかもしれません。

 それに対してシアさんは……。


 「退屈な戦いになりそう。私も戦いたい」

 「ラインハルトさんが頑張っているのですから我慢ですよ」


 戦いたくて仕方ないみたいですね。

 

 「随分とリンシアの嬢ちゃんは自信あるみたいだな」

 「当然。今なら誰にも負けない自信がある」


 そう言って、僕を引き寄せ腕を組みました。

 僕との繋がりが自信になっているみたいですね。

 実際に僕たちは互いを高めあっているので、繋がりがかなり深くなった今、シアさんも僕も強くなっていますけどね。


 「なら、今度俺と模擬戦でもやってみるか?」

 「恥をかかせる事になる。いい?」

 「面白い。受けて立とう」

 「二人とも……ライが戦っているのだからちゃんと見てあげなさい。ほら、攻撃に転じてるわよ」


 その様子を呆れた様子で眺めていたルカさんが二人を窘め、ラインハルトさんの戦いを見るように促しました。


 「けど、やってる事はさっきと同じなのですよね」


 僕は二人のやり取りを聞きつつもちゃんと見ていましたよ?

 剣を振って、防いで、避けて、また斬ってとシアさんともスノーさんとも違う、一つの完成された型を操っているような戦いをしっかりと見ていました。

 

 「ユアンはどう思う?」

 「えっと、勉強になると思いますよ」

 「真似したいと思う?」

 「それは……別ですかね」


 一つ一つの動きは凄く参考になると思います。

 ですが、ラインハルトさんは剣、僕は刀と戦い方が全然違います。

 参考にはなりますが、真似を出来ないような戦い方なのですよね。

 

 「でも、おかしいですね」

 「何が?」

 「僕の見立てでは、ラインハルトさんの聖剣なら簡単にダンテの腕くらいなら飛ばせると思うのですよ」


 初めて聖剣を見た感想は、僕の刀と同じくらいの切れ味がありそうな凄い剣だと思いました。

 それも、鞘に収まった状態でそんな印象を持ったのです。


 「私もそう思ったなー」

 「そうでしたよね」


 チヨリさんのお店でお仕事をしている時に見たので、サンドラちゃんもチヨリさんも同じ印象を持ったのです。

 それにも関わらず、ラインハルトさんの剣は振るう度にダンテの腕に防がれています。


 「シアさんならダンテとどう戦いますか?」

 「どうもこうもない。剣で腕を落として首を刈るだけ」

 「簡単に行きますかね?」

 「出来る。ダンテの腕は見た目ほど硬くない」


 シアさんが誇張して言っている訳ではなさそうですね。

 だとしたら、余計に変ですね。

 

 「どうしました? 勇者の名が廃りますよ?」

 「何がだ?」

 「貴方の戦いは勇者とは名ばかりの平凡なもの。全く楽しめませんよ」

 「戦いは楽しむものではない。平和へと導くための一つの手段だ」

 「だから私を本気で殺そうとしないと? 笑わせますね。そんな事ですと、何も守れませんよ?」


 ダンテの方も違和感を覚えているのでしょうか?

 僕から見てもラインハルトさんは本気で戦っているようには見えません。

 かといって遊んでいるようにも見えないのですよね。

 

 「守れるさ。それが勇者であり、王族の誇り。私には全て見えている。この先がね」

 「何を馬鹿な……私がこうなった以上、結末は……」

 「確かに変わらないだろう。貴方が死んで、それで終わりだ」

 「同じ攻撃がそう何度も……なにっ!?」


 何度も見た光景でした。

 ラインハルトさんが剣を振るい、それをダンテが腕で防ぐ。

 しかし、一つ違う光景が目の前で起きたのです。


 「腕が落ちましたね」

 「うん。けど、変な感じ」


 正確には腕が落ちたというよりも、崩れたと言った方が正しいです。

 まるで石壁が崩れ落ちるように、ダンテの腕がボロボロと崩れ始めたのです。


 「な、なにが……再生もしないだと……」

 「思ったよりも掛かってしまったようだな」

 

 ダンテは人の姿から今の姿へと変わる時に、腕が再生しました。

 恐らくは再生持ちだったのかもしれません。

 それにも関わらず、ダンテの腕は再び生えてくる事はなく、その事に対し狼狽えています。


 「次はどう防ぐ?」

 「くっ……」


 ラインハルトさんが剣を振るうと、ダンテは今度はそれを防がずに大きく飛び退きました。


 「そういう事だったのですね」

 「うん。腕を斬っても再生される。だからラインハルトは違う方法をとっていた」


 すっかりと騙されていました。

 全ての攻撃はこれに繋げる為の布石だったのです。

 やろうと思えば、腕を簡単に落とす事も出来たでしょうけど、敢えてしなかったのは再生をさせない為だったのです。


 「シアさん」

 「うん。ラインハルトの評価を変えざるを得ない。私達にはない戦術という戦いの基盤がある」


 僕たちの戦いは謂わば臨機応変です。

 その場にあった戦いを選択し、最善の結果を求めます。

 それに対し、ラインハルトさんは最初から戦い方を決め、最善の結果を追っているように思えました。

 求めると追うのでは同じような意味でも全然違います。

 そうなるように戦いを組み立てているのです。


 「だが、片腕を失ったくらいで、私が……」

 「そうかな? よく見るといい、体が崩れていっているよ」

 「は?」


 この時点でラインハルトさんは剣を鞘へと納めました。

 そして、その言葉通り体全体が徐々にボロボロと崩れ始めたのです。


 「終わりだな。残された時間で己の罪を懺悔するといい」

 「まだだ、せめてお前だけでも道連れに……」


 崩れていく体でダンテがラインハルトさんへと向かっていく。


 「言ったでしょう。私には先が見えていると」


 しかし、振り上げた腕はラインハルトさんに届くことはありませんでした。

 振り下ろされた腕が、崩れもう少しで当たるといった所で地面へと落ち、そのまま体も灰となるように朽ちていきました。


 「ようやく、取り戻す事ができたな」


 灰の中からペンダントを拾い、ラインハルトさんが笑いました。

 

 「ユアン」

 「はい?」

 「見惚れてる?」

 「そ、そんな事ないですよ。ただ、大事な物を取り戻せたので良かったなと思っただけです」

 

 達成感でしょうか?

 ラインハルトさんの表情は晴れ晴れとしています。

 そのせいか、ちょっとだけ笑顔が素敵だなとは思いましたよ。

 誰でもそうですが、やっぱり人が喜んでいるとこっちまで嬉しくなるものです。


 「それよりも、これをどう処理するかですよね」

 「うん。ラインハルトが悪い」

 「え、私が悪いのか?」

 「はい。先を見通すのならもっと先を見てもらわないとですよ。ダンテから色々と情報を聞き出そうと思っていたのに、倒してしまいましたからね」

 「そこまでは考えていなかった……すまない」

 

 まぁ、問題はありませんけどね。

 大事なのはこれでアーレン教会がきっと生まれ変わってくれる事です。


 「とりあえず、兵士は縛ってしまいましょうか」

 「そうだな。後で暴れられても面倒だ」

 「処分はダビド様に委ねましょう」

 

 とりあえず、キアラちゃんとサンドラちゃんによって無力化された兵士を捕縛し、僕たちは地上へと戻る事にしました。


 「後は、街の病に掛かっている人達を癒して終わりですかね?」

 「うん。終わらせて帰る」


 まぁ、原因は魔力酔いのような物だというのがわかったので解決は簡単そうですね。


 「そうだといいけどな……」

 「これで終わればいいのだけど」


 地上へと戻りながら、この後の予定を考えていると、ユージンさんとルカさんが不安になるような事を言ってきました。


 「えっと、まだ何かあるのですか?」

 「昔のままならな……」

 

 どういう事でしょうか?

 昔のままと言われても、昔のサンケの事を僕は知りません。

 けど、ユージンさん達の表情は以前として険しいままです。

 もしかしたら、本当に終わりではないのかもしれません。

 そして、その予感は的中する事になりました。

 地下から伸びた階段を登ると、そこはアーレン教会へとつながっていました。

 そして、その場所から外へと出ると、サンケの街の人達がアーレン教会へと武装をして集まっていたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る