第376話 補助魔法使いの作戦

 セーラと初めてであった時、僕はセーラから魔眼を使われ、僕の事を調べられそうになりました。

 その時に、ふと思ったのです。

 魔眼とは一体何なのかと。

 そこで、僕はセーラとラインハルトさんと対談の合間を縫って、魔眼について調べる事にしました。


 「魔眼というのは、固有魔法みたいなものよ」

 「固有魔法というと、精霊魔法みたいな分類なのですか?」

 「考え方はそれでいいかもしれないわね」


 ナナシキにも魔眼を持った人が存在しています。

 シアさんのお姉さんで、シアさんと結婚した事により、僕のお姉ちゃんにもなったイルミナさんです。


 「という事は、魔眼にも色んな種類があるって事になりますか?」

 「そうかもしれないわね。正確には得意な事が違うと言った感じかしら?」

 「得意な事?」

 「えぇ、私なんかは人や物の魔力回路を見る事を得意としていて、攻撃魔法は苦手なのよ。けど、人によっては魔眼を使って攻撃魔法を使用する事ができる人もいるみたいね」


 イルミナさんが魔法道具マジックアイテムの制作を得意としているのは、作った物の魔力回路を見る事が出来て、不具合などを発見する事が出来るからだといいます。

 例えばですけど、冷蔵庫という食材を冷やしておく魔法道具マジックアイテムがあるのですが、あれは魔石を嵌めこむだけでは効果は表れず、魔石を嵌めこむ場所から魔力回路を伸ばし、魔法文字と繋げる事により効果が発揮されるみたいです。

 なので、魔力回路が断線していたり、魔法文字に間違いがあったりすると効果が落ちたり、発揮されなかったりするみたいです。

 ですが、イルミナさんが魔眼を使う事により、それを発見する事ができ、原因を突き止め修正する事により、より良い商品を作っていく事ができると言います。

 っと、僕が今知りたいのはそれではありませんでしたね。


 「魔眼に気を付ける事ってありますか?」

 「そうね……私は得意ではないけれど、魅了チャームに気をつけた方がいいかもしれないわね」

 「魅了チャームですか?」

 「えぇ。魔眼には人を虜にする力があると言われているわ。一般的には特殊な目に惹かれると思われているみたいだけど、実際は魔眼の力を使われているからに過ぎないの。実際には魔眼を制御しきれずに、常に魅了チャームを使用している状態になっているという場合も多いみたいだけどね」


 それだけ魔眼を制御するのは難しいという事なのですね。

 

 「逆に魔眼を制御出来ているのなら、それだけの使い手と見る事もできるけどね」


 そうとも考えられますね。


 「魅了チャームの対策ってあるのですか?」

 「簡単よ。一番は目を見ない事ね」

 

 確かにそれなら簡単ですね。

 ですが、それはそれで問題があります。


 「けど、目を見ないと戦えませんよね?」


 戦いにおいて、相手の視線というのはとても大事だとシアさんから教わりました。

 正確に攻撃を行うのには、その場所を見て集中する必要があります。

 シアさんレベルになれば、感覚でわかるみたいですけど、刀を使い始めたばかりの僕は狙った場所に刀を振るう為にどうしてもその場所をちゃんと見る必要があります。

 そして、それは守りも一緒です。

 相手の視線を追いながら戦う事により、相手の狙いがわかるのです。


 「そうね。それが嫌なら抵抗レジストするのがいいかしら? 私の探知魔法を妨害したようにね」


 そうなってきますか。

 けど、それはそれで問題がありますね。

 僕はシアさんやスノーさんから近接の戦いを教わっています。

 その中の一つで、相手の得意な攻撃を逆手にとるという方法をスノーさんから教わりました。

 相手の必殺技とも呼べる攻撃を敢えて引き出し、その隙を利用するという方法です。

 絶対的な自信を持つ攻撃を捌く事により、相手の戦意を折ったり、相手が優位に立っていると思わせたりして、攻撃が雑になったところを付くという方法みたいです。

 なので、出来る事ならば魔眼を使われた時に抵抗レジストするのではなく、別の対策ができればと思うのですよね。


 「なら、実際に魅了チャームを体験してその中が対策をしてみたらどう?」

 「そうですね。けど、ちょっと怖いですけどね」

 「そうでもないわよ。そもそもユアンちゃんには魅了チャームが利かない可能性もあるからね」

 「そうなのですか?」

 「えぇ、ユアンちゃんはシアちゃんの事が好きなんでしょ?」

 「は、はい……大好きです」

 「その気持ちを忘れなければきっと大丈夫よ。それじゃ、シアちゃんを呼んで、早速練習でもしてみましょうか」

 「わかりました、お願いします!」


 こうして、僕たちはシアさんを含めて魔眼の対策をするのでした。

 ですが、不思議ですね。

 イルミナさんが魅了チャームを僕に使用するたびに、僕はシアさんへの大好きが止まらなくなってしまったのです。

 イルミナさんが言うには本来ならありえない行動といいますが、どうしても僕はシアさんへと気持ちが向かってしまいます。

 イルミナさんの魅了チャームがおかしいのかと思いましたが、どうやら僕がおかしいみたいですね。

 試しに魅了チャームを使えるオルフェさんにも試して貰いましたが、そこでも同じ結果になりましたので。

 ですが、僕としては問題ありません。

 大好きなシアさんへと気持ちが溢れる程度でしたら、いつも通りですからね。

 まぁ、その分夜が大変だったりしますけど、そこは割愛させて頂きます。

 そして、色々と対策を練り、サンケへと訪れ地下を探索していると、ダンテとセーラと遭遇することになり、そこでセーラが僕に魅了チャームを使用してきました。


 「えへへ、シアさんシアさん!」


 やっぱり、シアさんへの想いが溢れ出てきます!

 うー……シアさんの匂いをずっと嗅いでいたしですし、頭もいっぱい撫でで貰いたいです!

 

 『ユアン、しっかりする』

 『ふぇっ! あ、やっちゃいました?』

 『うん。けど、いつも通りだった。もう、大丈夫?』

 『はい。大丈夫です』

 『良かった』


 シアさんに頭を撫でられていると、シアさんから念話が届き、それだけで魅了チャームの効果が途切れたのがわかります。

 対策の段階でもそうでしたが、僕は魅了チャーム抵抗レジストする事が出来ているみたいなので、ちょっとしたきっかけで元の状態へと戻る事が出来るみたいです。

 

 『どんな状況ですか?』

 『セーラが困惑してる』

 『そうなのですね』

 『うん。でも魅了チャームに掛かっているとは思ってそう』


 シアさんへと抱き着き、状況があまり見えていませんので、今がどんな状態なのかシアさんに尋ねると、シアさんが状況を説明してくれました。


 『そうですか……なら、この状態を利用しますか?』

 『どうやって?』

 『今からシアさんを僕が倒します。あっ、もちろんそう見せるだけですよ? それで、僕が操られているように見せかけ、その隙をついてダンテからセーラを解放します』


 セーラが僕に魅了チャームを使ったのは、ダンテに人質をとられ、鎖で逃げられない状態だからだと思います。

 その状況自体が罠の可能性もありますが、どちらにしてもあの状態ではセーラは邪魔です。


 『いい案。私はどうすればいい?』

 『シアさんは影狼で奥の様子を探ってきて貰えますか? 探知魔法で奥に人の反応があるので、それが気になります』

 『任せる。スノー達はどうする?』

 『敵を騙すにはまず味方からと言いますし、このまま行きましょう。みんななら途中で気付いてくれると思いますからね』

 『わかった。ユアン、無理はしないで』

 「はい! では、行きますよ!』


 シアさんへと首へと腕を回し、キスを交わすような動作をすると同時にシアさんがゆっくりと倒れ始めました。


 「シアさん、ダメですよ。油断しては」

 「え…………ゆ、あん?」

 『ちゅー……したかった……』

 『が、がまんですよ!』


 思わず笑いそうになりました。

 倒れながらシアさんがそんな事をいきなり言うのです!

 どうにかそれを堪え、僕は操られた振りをしてセーラとダンテの元へと歩き始めます。


 『スノー達は私が捕まえておく。そっちの方がスノー達は気づく』

 『ありがとうございます』


 スノーさんが動き出そうとしたのは僕も見えていましたが、いち早くシアさんが影から腕を伸ばし、スノーさん達の足を捕まえてくれました。

 その間に僕はセーラの元へと移動をします。


 「僕の演技もなかなかではなかったですか?」

 「はい。私も見事に騙されてしまいました?」


 セーラに頭を下げるのは何となく嫌ですが、僕の行動と態度でセーラは僕を操っていると勘違いしてくれていそうですね。

 もしくは僕の行動に状況の理解が追い付いていないかです。

 

 『ユアン、奥には兵士がいっぱいいる』

 『反応は兵士でしたか。他にはいませんか?』

 『修道女が少し。けど、兵士とは離れた場所に隔離されているから大丈夫。ただ、奴隷の首輪が嵌められてるから、それが面倒』

 『わかりました。恐らくですが、ダンテの手に握っているのが奴隷の首輪を操る魔法道具マジックアイテムだと思いますので、それをどうにかしましょう』

 『ダンテをこっちに誘導してくれたらどうにかする』

 『わかりました』


 問題はダンテとセーラをどうやってシアさんの元へと誘導するかですね。

 ですが、それはすぐに解決する事になりました。


  「……これで、ダビド様と修道女を解放してくれますよね?」

 「まだです。それは全てが終わってからです……さぁ、生贄の準備を進めなさい。やり方は身をもってわかっているでしょう?」

 「はい……まずは動けないリンシア殿から生贄に捧げましょう。ユアン殿、手伝って頂けますか?」


 間抜けな二人が僕の行動を信じ、シアさんをまずは生贄に捧げようとし始めたのです。

 これは好都合ですね。

 僕はセーラの言葉に従うように返事を返しました。

 そして、セーラとダンテと共に、シアさんの元へと移動をしていると、キアラちゃんが弓を構えようとしているのが見えました。

 これも、好都合ですね。


 「キアラだめだよ。セーラの邪魔したらね。だから、腕も拘束させて貰ったよ」


 キアラちゃんが驚いた顔をしましたが、すぐにハッとした表情へと代わり、静かに頷き返してくれました。

 キアラちゃんなら、僕の闇魔法とシアさんの影から伸びた腕の違いに気付いてくれると思いましたが、やっぱり気付いてくれたみたいですね。

 こうなったらもう成功したも同然です。

 僕が操られていない事を知っている人が増えたのです。

 僕とシアさんが次の行動に移った時に、キアラちゃんもきっと合わせて動いてくれると思います。

 結果的にはここからとんとん拍子に事が進みました。

 起き上がったシアさんがダンテの腕を飛ばし、僕はその隙をみて鎖に繋がれたセーラを引っ張るようにしてキアラちゃん達と合流を果たしたのです。


 『ユアン、頑張った』

 『シアさんもですよ。ありがとうございます』

 『うん。後でご褒美がほしい』

 『ご褒美ですか?』

 『ちゅー……お預け』

 『あ、後でですからね?』

 『うん!』


 シアさんが倒れる時に、飛ばしてきた念話は僕を笑わせる為ではなく、本心だったのですね。

 

 「キアラちゃんが気付いてくれて助かりました」

 「ユアンさんの機転のお陰だよ。ユアンさんがあそこで私に闇魔法を使ってくれなかったら確信は持てなかったと思うの」

 

 もし、キアラちゃんが気付いてくれなかったら、弓で妨害されていた可能性もあります。


 「なー! 私も気付いてたー!」

 「そうですね。サンドラちゃんも魔法を使わずにいてくれましたからね」

 「スノーさんは気付いていなかったみたいだけどね」

 「そういう時もありますよ。スノーさんの勘にはムラがありますからね」


 頼りになるときは凄い頼りになります。

 ただ、仲間に何かあると人一倍動揺してしまうみたいですね。

 ともあれ、僕の作戦は上手くいったみたいです。


 「では、まずは敵を倒してしまいましょう。出来る事なら、生け捕りがベストなのでほどほどにお願いします」


 僕の探知魔法とシアさんのお陰でこっちに向かっているのは兵士だという事がわかりました。

 なので、先制攻撃させて貰うとしましょう。


 「精霊さん、力を貸して!」

 「火の玉飛んでけー」

 

 キアラちゃんの弓とサンドラちゃんの火の魔法が通路へと飛んでいきます。

 サンドラちゃんの魔法はちょっと強そうに見えましたが、兵士ですしきっと死にはしませんよね?

 

 「キアラちゃんとサンドラちゃんは引き続き通路から出てくる兵士をお願いします。前線は僕とシアさんで防ぎます」

 「任せる」

 「私はどうすればいいの?」

 「スノーさんはセーラを守っていてください」

 

 キアラちゃんとサンドラちゃんの攻撃を掻い潜った兵士が僕たちの元へと向かってきます。

 どうやらあの兵士も操られているせいか、目が血走っていますね。

 その原因も突き止めないと、面倒な事になりそうです。

 ですが、防御魔法もありますしそれほど問題はなさそうですね。


 「終わりにしましょう、この戦いを」


 僕たちの戦いはこうして始まったのでした。

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