第371話 弓月の刻、通路の奥で何かを発見する

 「今頃、ラインハルトさん達はどうしているのでしょうね」

 

 ラインハルトさんの目的がいま一つわかってはいませんが、王族の証をとり戻すと言っていましたね。


 「そもそも敵が誰なのかいま一つわかってないのが困るのですよね」

 「うん。教皇黒幕の可能性もある」


 僕たちに注意を促してはくれましたが、だからといって味方と見るのは危険です。

 敢えて僕たちの信用を得る為にそう伝えてきた可能性も十分にありえます。


 「けど、魔族の女性ばかり優先的に狙われているのですよね」


 となると、一番の被害者は魔族と考えるべきでしょうか?

 そうなると魔族の教皇様も?

 

 「難しく考える必要はない。私達を襲ってきた奴らが敵」

 「そうかもしれないですけどね……っと、この先に人の反応がありますね」

 

 トーリさん達を救出した後、僕たちは地下通路を進んでいました。

 結局の所、トーリさん達以外に捕まった人は見つかっていません。

 なので、久しぶりに人の反応を確認した感じですね。


 「どうやらちょっとした広場になっているみたいです。スノーさん気をつけてね」

 「わかったよ」


 風魔法で先の様子を伺っているキアラちゃんがスノーさんに状況を伝えています。

 いい連携ですよね!

 僕が敵の存在をしらせ、キアラちゃんが敵のいる場所がどんな所か伝える。

 まぁ、そこにいるのが敵とは限りませんけどね。

 それでも何も知らないで進むよりは安全に進めます。


 「ちょっと、何かいるんだけど」

 「なー……でっかいなー」

 「不気味です……」


 進んでいた通路の先がちょっとした広間になっているとキアラちゃんが言っていましたが、どうやら扉はないようで、先頭を歩くスノーさんとそれに続いたサンドラちゃんとキアラちゃんが何かを見つけたみたいですね。

 

 「何があるのですか?」

 「石の人形」


 あれですね?

 スノーさん達が立ち止まったので、僕は隙間から広場の様子をみると、シアさんが言った通り、そこには石で作られた人形がありました。


 「人形というか、あれってゴーレムじゃないですか?」

 「ゴーレム? ゴーレムってあれだよね」

 「はい。魔物の一種ですね」


 必ずしもゴーレムが魔物とは限りませんけどね。

 中には土から魔法で造りあげ、術者がそれを操る場合もあります。

 

 「それじゃ、あれは魔物なの?」

 「いえ、反応的には人になっていますけど……」


 それはそれで変ですけどね。

 魔物のゴーレムなら赤い点になる筈ですけど、反応は青い点。人を表す反応になっているのです。

 となると、魔物ではなく誰かが作ったゴーレムだと考えるのが自然だと思えるのですが……。

 

 「でも、明らかに人には見えませんよ?」

 「そうですね」


 広場に静かに立っているゴーレムは、高さは三メートルくらいでしょうか? そして、横幅も二メートルくらいあってがっちりとした体形をしています。

 数は一体。


 「ですが、青い点の反応が五つ?」


 ゴーレムが居る場所に五人の人がいる反応になっているのです。

 魔物ではないのならその反応が術者であると考えるべきなのですが、その術者の姿を確認する事も出来ません。

 

 「んー……僕の探知魔法だとあのゴーレムが五人の人って事になるのですよね……」

 

 けど、幾ら大きなゴーレムだとはいえ、五人もの人が隠れられる場所はないですね。

 子供ならゴーレムの中に隠れられる可能性もありますけど……。


 「とりあえず近づいてみる?」

 「はい。ですが、気をつけてくださいね?」

 

 ゴーレムの動きに注意しつつ、僕たちはゆっくり慎重にゴーレムへと近づきます。


 「ここまできても反応はなしか」

 「もしかして、動けないのですかね?」

 「そうかもね。それなら怖くはない……」


 怖くはないと、スノーさんが言い、ゴーレムが本当に動かないかスノーさんが剣でゴーレムをぺちぺちと叩いている時でした。

 ゆっくりとゴーレムの右手が振り上げられ、その手がスノーさんへと振り下ろされました。

 正確にはスノーさんがいた場所にですね。


 「……動いたんだけど」

 「そうですね」

 「そうだなー」

 「動きましたけど……」

 「のろま」


 腕が振り上げられた時には、スノーさんは既にゴーレムの攻撃を察知し、飛びのいていました。

 それなのに、ゴーレムは誰も居ない場所へと腕を振り下ろしたのです。

 

 「一応、意志みたいなのはあるって事かな?」

 「そうかもしれませんね。会話をするのは難しそうですけどね」

 

 そして、さっきの攻撃がきっかけになったのか、ゴーレムが本格的に動き出しました。

 

 「どうしますか?」

 「私達を狙っているから倒すべきなんだろうけど……」

 「なんか可哀想に思えてきました」


 ゴーレムから距離をとった僕たちは向かってくるゴーレムを迎え討ちます。

 ですが、一歩一歩がとても遅いので、微塵も脅威に感じる事は出来ません。


 「ぷぷっー」

 「もぉ、シアさん笑っちゃダメですよ」

 「無理……。動きが面白い」


 シアさんがゴーレムを見て笑っています。

 確かに、面白い動きをしているのはわかります。

 一歩進む度にバランスを崩し、足は前に進んでいますが、上半身は今にも倒れそうに上を向いてしまっていますからね。

 

 「今度は前に倒れそうだね」

 「がんばってください!」

 「こっちだぞー」


 どうにか倒れずに状態を起こしたゴーレムでしたが、その反動で今度は前に倒れそうになっています。

 その間も足だけは一歩一歩進んでいるので、いつ転んでも……あぁ、ダメでしたか。

 

 「ゴーレムさん!」

 「なー!」


 そして、キアラちゃんとサンドラちゃんが転倒したゴーレムを心配しています。

 まぁ、近寄ろうとはしないので危険という認識はあるみたいですけど、ちょっと愛着が湧いているのかもしれませんね。


 「けど、どうしますか?」

 「危険なら壊してもいいと思うけど……」

 「どうみても危険じゃないですよね」


 危険には危険ですよ?

 ですが、近寄らなければ大丈夫そうですし、向こうから近づいてくるにしても時間が掛かっています。

 危険だけど、脅威に感じないといった所ですね。


 「けど、このままというのも……あれ?」

 「どうしたの?」

 「いえ、最初にゴーレムが居た所に何かがあります。ちょっと、ゴーレムの気を引いといて貰えますか?」

 「任せて。シアは……使い物にならなそうだし、私が気を引いとくよ」

 「お願いします」


 スノーさんがゴーレムに近づき、ゴーレムが転倒しながらスノーさんに手を伸ばして掴まえようとしているのを横目で確認しながら、僕はその間にゴーレムが立っていた場所に向かいます。

 

 「魔法陣でしたか」


 近づいてわかりましたが、薄っすらとですが地面に魔法陣が描かれていたのがわかりました。


 「なー? 魔法陣かー」

 「サンドラちゃんも来たのですね」

 「うんー。ユアン一人だと危ないからなー」

 「ありがとうございます」

 「なー……ユアンの手はきもちーなー」

 

 優しいですね。

 ゴーレムの様子が気になるみたいで、ちらちらとゴーレムを見ながら、サンドラちゃんが一緒に来てくれました。

 感謝の意味をかねて、サンドラちゃんを撫でてあげると目を細めて嬉しそうにしています。

 

 「ずるい」

 「シアさんも来てくれたのですね。もう大丈夫なのですか?」

 「うん。ゴーレムを見なければ平気。それより、サンドラばっかりずるい。私も来た」

 

 シアさんが僕の隣でしゃがみました。


 「ありがとうございます」


 サンドラちゃんだけでなく、私も撫でろって事みたいですね。

 こんな状況でやっている場合ではないですけど、シアさんが撫でて欲しいのなら仕方ないですね。


 「もっとー」

 「なー」

 「はいはい。撫でてあげますから大人しくしていてくださいね」


 僕は二人の頭を撫でながら、視線は魔法陣へと移します。


 「初めて見る魔法陣ですね……」


 けど、解読はできそうです。

 魔族特有の文字ではなく、一般的な魔法文字なのでこれなら解読するのは……。


 「む、難しいです」


 いえ、簡単なのですよ?

 ですが、魔法陣に刻まれた魔法文字が滅茶苦茶すぎて、逆に解読が難しいのです!


 「これを作ったのは素人でしょうか?」


 目の前の魔法陣はそうとしか思えない仕上がりになっていました。

 一応はゴーレムを動かす為に必要な魔法が組み込まれているのはわかりましたが、それでも仕上がりが酷すぎるのです!


 「ここをこうすればもっと効果はあがりますし、これなんか完全に無駄ですね」


 直接手を加える事はしませんけどね。

 この魔法陣を手直ししてしまうと、途端にゴーレムの性能があがってしまう可能性があります。

 

 「でも、うまくいけば……」

 「むー!」

 「あっ、すみません」

 「なー!」

 「ど、どっちかは我慢してくださいよー!」

 

 既存の魔法陣を手直しする訳にもいかないので、新たな魔法陣を試しに作ってみようと撫でるのを中止すると二人から抗議の声が上がりました。

 流石に両手が塞がった状態で魔法陣を描くのは無理ですからね。


 「順番」

 「順番なー」

 「もぉ……わかりましたよ」

 

 魔法陣は集中しないと失敗してしまいます。

 それなのに片手で魔法陣を描いて、もう片方の手でシアさんとサンドラちゃんの頭を撫でるのは難易度が高すぎます!

 でも、これが完成すればもしかしたら、あのゴーレムをどうにか出来る可能性もあります。

 となると、それとは別に必要な物が出てきますね……。

 何かいい物は……。

 あっ、そういえばアレがありましたね!

 収納魔法の中に、キアラちゃんから預かってそのままだったものがあったのを思い出しました!


 「後はこれを置いて、魔法陣と繋げれば……」


 出来ました!

 

 「ユアン、それ何?」

 「お楽しみですよ!」


 上手くいくかはわかりません。

 なので、失敗した時の保険として、今は何をしているのか内緒にしておきます。


 「スノーさん、ゴーレムをこっちに誘導してください!」

 「わかったよ……ほら、こっちだよ」

 「こっちですよー」


 スノーさんとキアラちゃんがゴーレムを魔法陣の方へと誘導してくれます。

 ゴーレムは単純な意志しかないみたいなので、簡単にその誘導に引っかかり魔法陣の方へと移動をしてきます。

 そして、結構な時間がかかりましたが、ゴーレムが魔法陣へと足を踏み入れました。

 その瞬間、魔法陣が光輝き、薄暗かった部屋に一筋の光の柱が立ちました。

 

 「思った以上に効果が高かったのかもしれませんね……」

 「ユアンの魔法陣だから当たり前」

 

 色々と手直しをして、僕の持っている知識を書きこみましたからね。

 さて、一体どうなるのか……。

 僕たちはその光が治まるのを静かに待つのでした。

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