第367話 補助魔法使い? みんなに攻めれらる

 つ、ついに僕も立派な獣化が出来ました!

 これならシアさんを背中に乗せてお散歩したりするちょっとした夢が叶いそうです!


 「こやっ!? こやぁ~」


 シアさんとそんな会話をしている時でした。

 突然、体にゾクゾクっとくすぐったいような感覚がし、変な声が出てしまいました。


 「スノー、何してる?」

 「え? 何って、ユアンをブラッシングしてるだけだよ」


 その原因はスノーさんでした。

 シアさんと会話をしている隙に僕の側面へと回り、僕をブラッシングし始めたようです。


 「ふふっ、今度はユアンの毛玉がいっぱい手に入りそう……」

 「くぁー!」

 「じ、冗談だって……ほら、楽にして」

 「こやぁ~」


 聞き捨てならない言葉がスノーさんから聞こえました。

 それに対し、僕はスノーさんに抗議をするもスノーさんは誤魔化し再びブラッシングを再開してしまいます。

 うー……絶対に後で回収しないといけませんね。


 「スノー、私もやりたい」

 「うん。それじゃ、もう一つブラシはあるから反対側をやってあげて」

 「わかった。ユアンの毛玉いっぱい集める」

 「こややん!」

 「冗談。私がやりたいだけ。ユアンは大人しくしてる」


 冗談が冗談として聞こえないのが怖いのですよね。

 というよりも、絶対に僕の毛玉を集めるつもりでいそうです。

 だってご機嫌そうにシアさんが笑みを零していますからね。

 なのでシアさんからも後で絶対に……」


 「こやーーーーっ!」


 な、なんですか!?

 シアさんから後で毛玉をどうやって回収するかを考えていると、いきなり後ろの足の付け根あたりに激痛が走りました。


 「なー?」

 「こやっ! こややっ!?」

 「痛かったかー?」


 痛かったじゃないですよ!

 激痛の原因を探るとすぐにわかりました。

 僕の後ろ足辺りにサンドラちゃんが立っていて、その手には僕の毛が握られています。


 「痛いですよ!」

 「そうなのかー? てっきり防御魔法があるから平気だと思ったー」

 「平気じゃありませんよ! 防御魔法は体を覆って剣や魔法などを弾く効果はありますけど、髪の毛や皮膚を引っ張られたら痛いですからね!」


 あまり意識していませんでしたが、防御魔法にはこういう弱点がある事を思い出しました。

 といっても、強化次第では対策はできますけどね。

 ですが、今はその対策をしていないので、凄く痛かったです。


 「わかったー。今度から気をつけるー」


 そういいつつも、サンドラちゃんは自分の魔法鞄マジックポーチに僕から毟り取った毛をしまいました。

 

 「サンドラちゃんはユアンさんの言葉がわかるんだね」

 「こやや」


 そういえば、普通に会話できてましたね。


 「うんー。私も龍化できるからなー。というよりも人化かー? どっちでもいいけど、色んな種族の言葉がわかるぞー」


 それは便利ですね……じゃなかったです!

 

 「後で毛は返して貰いますからね?」

 「えー。私も欲しいぞー? シアとスノーばっかりずるいー」

 「シアさんとスノーさんからも回収しますから平等です!」


 それにしても酷いですよね?

 せっかく合流できたと思ったら、みんなして僕の毛を集めようとします!

 まぁ、キアラちゃんだけは僕の毛を集めようとしないので助かります……けど?


 「こや?」


 そう思っていると、僕の正面にキアラちゃんがやってきました。


 「あの、ユアンさん? 申し訳ないですけど、私もいいですか?」

 「こやっ!?」


 えっ、キアラちゃんまでですか?

 

 「こや~……」

 「そ、そんな哀しそうにしないでください」

 「こやや……」


 そう言われても困ります。

 誰だって、自分の毛を集められたら恥ずかしいですし、嫌ですよね?


 「でも、ユアンさんの毛は凄く触り心地がいいですし、触っているだけで落ち着くというか……」

 「こやや?」


 そうなのですか?


 「だから、私も欲しいなーって……ダメかな?」


 駄目と言っていいのなら駄目と言いたいです。

 ですが、今更みんなから回収しようとしても回収するのは困難でしょうから、多分諦めるしかありません。

 こういう時はみんなはあの手この手を使って協力しますからね。

 そうやってはぐらかされたりするオチが見えています。

 その中でキアラちゃんだけ駄目というのは可哀そうですよね。

 

 「こやや」

 「え?」

 「こや? こややん」

 「痛くしないのならいいって」

 「本当!?」

 「こや!」

 

 言葉は通じないので、頭を縦に振りキアラちゃんに意志を伝えます。


 「ありがとう! それじゃ、ユアンさんはジッとしていてね?」

 「こや…………こやっ!?」


 わかりましたと返事をした瞬間でした。

 僕の体の周りに魔力が集まり、それが風となり纏わりつきました。


 「それじゃ、貰いますね!」

 「こやんっ!」


 な、何が起きているのですか!?

 吹き荒れる風が埃を舞い上げ、僕の視界を遮っています!

 これじゃ、キアラちゃんが何をしているのかがわかりません!

 それに、温度調整の魔法を使っていないせいか、体がスースーとして、何だか寒い気もしますよ!


 「うん、こんな感じかな? ユアンさんもういいよ、ありがとうございました」

 「こや~?」


 終わったのでしょうか?

 風が治まり、視界が晴れると嬉しそうな笑みを浮かべたキアラちゃんがいました。


 「その方法があったか……」

 「キアラ上出来」

 「キアラは頭がいいなー」


 そして、シアさん達がキアラちゃんを感心したように褒めています。


 「こや?」

 

 一体、何をしたのでしょうか?


 「ユアン、すっきりした?」

 「こや、こやーん?」


 まぁ、体が軽くなった気はしますけど……。

 多分気のせいだと思います?


 「気のせいじゃない。ユアン、自分の姿を見る」

 「こやや?」


 自分の姿ですか……?


 「こやー!?」


 シアさんに言われ、首を後ろに向けると大変事になっていました。


 「こや……こややー……」

 「うん。全部ユアンの毛」


 僕の足元あたりには山積みなった大量の毛が落ちていました。

 しかも丁寧に一か所に纏められていて、本当に山になっているのです。

 それにです!

 スースーするのは気のせいかと思っていたら違いました。

 なんと、僕の毛が短く刈り上げられていたのです!


 「こやや!」


 どうするのですか!

 僕の毛が無くなっちゃいましたよ!


 「大丈夫。短くしただけ。無くなってない。サンドラが毟った所以外はちゃんとある」


 ほ、本当です!

 足の付け根あたりの毛だけなくなっていました。

 さっきはまではちゃんと長い毛があったので隠れていましたけど、見事にそこだけ毛が無くて肌が見えて赤くなってしまっています!


 「こや~……」


 どうしましょう。

 戻れるまでこんな姿で過ごさなければいけないのですか……。


 「なー? 戻れないのかー?」

 「はい、獣化すると一日くらいはこの姿なのですよ」

 「どうしてだー?」

 「僕の獣化が完璧ではないからです」

 「そうなのかー? だけど、多分頑張れば戻れるぞー?」

 「本当ですか!?」

 「うんー。やり方はなー……」


 サンドラちゃんが獣化から戻る補法を教えてくれました。

 助かります。

 流石にこんな姿で過ごすのは嫌です!

 

 「えっと、自分のあるべき姿を思い浮かべればいいのですね?」

 

 そして、獣化は本能と向き合うのに対し、戻るときは理性と向き合う……取り戻すイメージですね?


 「わかりました。やってみます!」

 「うんー。失敗しても獣化が解けないだけだから恐れずに頑張るー」

 「はい!」


 失敗しても大丈夫なら恐れる事はありませんね。

 獣化石は必要な意味ないみたいなので、僕はただ意識を理性へと向けます。

 といっても、理性と言われてもよくわかりませんので、僕のイメージはこの状態では使えない魔法……一番イメージしやすいのは闇魔法ですね。

 闇魔法を再び使える状態をイメージします。

 意識を闇に落とす感覚です。

 見えました!

 僕の奥底に潜んだ闇があります。

 その中に微かな光が見えます。

 恐らく、あれが僕が元に戻るために必要な理性というものですね。

 後は、そこに飛び込んでいけば……。

 

 「シア、今のうちに山分けしよう」

 「うん。ユアンが集中している今がチャンス」

 「ふふっ、これで布団でも作ったら気持ちよさそうですね」

 「なー! 私ももらうー!」


 僕の耳にみんなが会話する声が聞こえました。

 ですが、何を言っているのかまでは聞こえず、次第にその声も遠くなっていきます。

 まるで眠りに落ちるような感覚です。

 しかし、意識はあります。

 そして、わかります。

 徐々に体が熱くなり、僕の体が変化している事がわかるのです。

 後少し……。この熱が治まれば、元の姿に……。

 

 「はっ!」


 まるで、眠りに落ち掛けた瞬間に目が覚めたように、僕の意識が戻りました。


 「どうやら戻れたみたいですね」


 手を顔の前にかざすと、人の手が僕の前にありました。

 手を握り、開きを数度繰り返し、自分の状態を確かめます。

 うん、僕の手ですね。ちゃんと意志通りに動いています。

 良かったです。

 戻れなかったらどうしようかと思いましたが、ちゃんと戻る事が出来ました!

 毛を再びとられるのは嫌ですけど、いつでも元に戻れるのなら獣化する機会も増えそうですね!

 毛を毟られるのは嫌ですけどね!


 「どうですか! ちゃんと元に……あれ? どうしたのですか?」


 戻れたことを証明する為に、僕は振り返ると、何故かみんなは驚いたように固まっていました。

 何かあったのでしょうか?

 

 「ユアン……なんか、ごめん」

 「えっ? 何がですか?」


 スノーさんが何故か謝ってきました。


 「ユアンはユアン。私は気にしない。むしろ、今のユアンも可愛い」

 「ありがとうございます?」


 今の僕も? どういう意味でしょうか?

 

 「ごめんね。今度から気をつけるよ」

 「はい、そうしてください?」


 キアラちゃんも申し訳なさそうにしていますけど、一体みんなして畏まってどうしたのでしょうか?

 

 「なー……私と同じくらいだなー」

 「何がですか?」


 サンドラちゃんと同じくらいと言われても、僕とサンドラちゃんの背の高さは前と同じです。

 僕が小っちゃくなった訳ではなさそうですよね?

 

 「ユアン、自分の髪触る」

 「え? 髪ですか……あれ?」


 あれれ?

 なんか変ですよ?

 髪を触ろうとしたら、髪に触れる事なく、首を触ってしまいました。

 むむむ? 首を触った……?


 「あっ……あー! ないですよ! 僕の髪の毛が無くなってます!」


 みんなが申し訳なさそうにしている理由がわかりました!

 元に戻った僕の髪の毛が首から下にかけて全てなくなっていたのです!

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