第366話 補助魔法使い、獣化する2

 「んー……これからどうするべきですかね?」


 シアさんに念話を飛ばしましたが、返事がない事を考えると、届いていてもシアさんからは返せない状況、または返せない力が働いていると考えるべきでしょうか?

 恐らくは後者。

 この場所に入ってから変な力が働いているような気がするのですよね。

 例えるのであれば、龍人族の街で働いていた僕の魔法を妨害する力ですね。


 「まぁ、僕には影響はなさそうなので構いませんけどね」


 ですが、あれよりも遥かに弱い力ですので、僕の魔法を制限するまでには至りません。

 普通の魔法使いくらいならば妨害できるかもしれませんが、僕には全く効いていないのです。

 ちょっとばかし僕の力を甘く見ているかもしれないですね。

 自分で言うのもあれですけど、魔法に関しては自信があります。補助魔法限定ですけど、それだけなら負けない自信はあるのです!


 「っと、自分を褒めている場合ではありませんね」


 つい暇だったので、自分を鼓舞する為にもそんな事を考えていましたが、今はそれどころじゃないですね。

 まずは脱出する方法を考えなければいけません。


 「といっても、脱出するのは簡単なのですよね」


 転移魔法で移動する事も可能ですし、アーレン教会の人が戻ってきたときに消失魔法バニッシュで身を隠して、中を確かめにきたらその隙に脱出する事ができると思います。


 「それでもいいですが、どちらにしてもこの手の輪っかをどうにかしないといけないのですよね」


 無駄に頑丈に作られた手の輪っかが頑丈すぎて壊すのは僕には無理そうです。

 そうなると、シアさん達とあった時に捕まった事がバレてしまうかもしれません。

 

 「その時はその時で上手く言い訳をすればいいですけど……流石にカッコ悪いですしね」


 それにこの場所は不思議な力が働いているみたいなので、確実にこの場所に転移魔法で戻ってこれる保証もありません。

 となると、ここで脱出をしてこのまま地下を探るのが最善策なような気がしてきました。

 それなら、言い訳にも繋がりますしね!


 「となると、脱出する方法ですけど……あれしかないですね」


 収納魔法から獣化石を取り出し、手に握ります。


 正直な所、リスクがあります。

 しかし、これなら僕は小さくなれますので、鉄格子の隙間も通り抜ける事が出来、首と手に付けられた拘束器具も外せます。


 「何よりも体が小さければ、身を隠すのも楽ですからね!」


 薄暗い通路なら闇に紛れる事もできるので、それだけ安全に繋がります。


 「という訳で早速やっちゃいましょうか!」


 えっと、確か……目を閉じて、自分の本能と向き合うイメージでしたね……。

 そして、獣化石と意識を混濁させれば……。

 意識がぼんやりとし、体が熱くなってきました。

 あの時と同じです。

 後は……。


 「……獣化」


 バキッ! カランカラン……。


 金属が転がる音が聞こえました。

 どうやら、僕を拘束していた器具が外れたみたいです。


 「こやや……」


 どうやら成功したみたいですね。

 ゆっくりと目を開けると、目の前に割れた首輪と手の輪っかが転がっていました。

 

 「こやっ?」


 けど、おかしいですね。

 外れただけなのに、割れているのは不自然です。もしかして、もう少し頑張れば壊す事が出来たのでしょうか?

 それに、なんだかさっきよりも部屋が狭く感じるのは気のせいでしょうか?


 「こぁ~~~~~~」


 う……。やっぱり部屋が小っちゃくなってますね。

 僕の勘違いかと思い、鉄格子の間をすり抜けようとしましたが、頭だけギリギリ通る事が出来ましたが、体は通過できません。

 

 「こ、こやっ!?」


 あ、あれっ!?

 出る事が出来そうにないので頭を中に戻そうと思ったら今度は頭が中につっかえて戻る事が出来なくなってしまいましたよ!

 

 「こやぁ~……」


 うー……。こんな姿を誰かに見られたら恥ずかしすぎます。

 どうにかしないと……。


 「こ~やっ! こややっ!?」


 今度は前足を使ってどうにか鉄格子が少しでも広げられないかと思い、鉄格子に前足を引っかけてみました。

 すると、カランカランという音と共に、鉄格子がバラバラになり、転がるようにして外へと出る事ができました。


 「こや?」


 もしかして、結構古くて耐久が限界に来ていたのですかね?

 そうじゃなきゃ、たまたま爪が当たったくらいで壊れたりするはずがありません。

 何にせよ、外に出る事はできました!

 あとはこっそりと見つからないように地下を探索するだけですね。


 「こや……」


 そう張り切って探索を始めたのですが……。

 うー……退屈です。

 やっぱり僕は迷宮というのが苦手みたいです。

 しかも、たった一人でこんな姿で暗い通路を歩くなんて淋しすぎます。


 「こやん」


 こんな事なら、大人しく恥ずかしいのを我慢してシアさんと合流すれば良かったです。

 しかし、この姿では転移魔法は使えません。

 前とは違い、少しは成長しているみたいですので、防御魔法とか簡単な魔法は使えそうですけど、難しい魔法は厳しいのです。


 「ぐぅ~~~」


 それに、どれくらい歩いたのかわかりませんが、それなりに時間が経っているみたいで、お腹が空いてきました。

 前にも感じましたが、この姿は燃費が悪いみたいなのでお腹が空きやすいみたいです。

 かといって、収納魔法からご飯を取り出して食べる訳にはいきません。

 だって、今の僕が食べようと思ったら、手では持てないので、一度地面におかなければならないのです。

 獣化したからといって、僕は僕です。

 そんな方法でご飯を食べるのははしたないですよね。


 「こやー……こやっ!」


 今の状況に絶望仕掛けている時でした。

 通路の先から、心地よい風が僕を通り抜け、それと同時に大好きな匂いが流れてきたのです!

 

 「こややん!」


 間違える筈がありません。

 あれはシアさんの匂いです!

 きっと僕を探しに来てくれたに違いありません!


 「こやー!」


 僕は走ります。

 急いで走ったせいで、壁に防御魔法がカンカンとぶつかりますが気にせず走ります。

 匂いが強くなってきました。

 この曲がり角を曲がれば……。


 「こややん!」

 「ユアン、おいで」


 僕の予想通り、そこには両手を広げて僕を待ち構えているシアさんの姿がありました。


 「こや~」

 「よしよし。淋しかった?」

 「こやっ!」


 そんな事はありません。

 こうしてシアさん達と合流出来ましたし、地下を探る事も出来ましたので。


 「そう。捕まった訳じゃない?」

 「こ、こやや?」


 違いますよ?

 僕は敢えて捕まって、アーレン教会の内部を探り、ついでにユージンさん達が行動をしやすくする為に行動していたのです。


 「わかった。ユアンは頑張った。偉い」

 

 シアさんが頭を沢山撫でてくれます。


 「えっと、シア……何が起きたの?」

 「それに、シアさん今……ユアンさんって?」

 「見ての通り。ユアン」

 「こやっ!」


 暗いせいかスノーさん達は僕だと気付かなかったみたいですね。

 ですが、シアさんが僕の言葉を伝えてくれたので、スノーさん達も僕が獣化した姿だと納得してくれました。


 「こやや?」

 

 そういえば、皆さんちょっと小さくなりましたか?

 シアさん達と再会し、淋しかった気持ちも消え去り落ち着くと、僕は少し変な事に気付きました。


 「変わってない」

 「こや?」


 え、でも……みんなの目線と僕の目線は同じくらいですよ?

 獣化した僕の大きさは頑張ってジャンプしないと、普段生活している机の上を覗けない程の大きさしかありません。

 前足を机に乗せて背伸びしても机の上を見る事ができないくらいの大きさです。


 「勘違い。私達が小っちゃくなった訳じゃない。ユアンがおっきくなった」

 「こやっ!」


 そうだったのですね。

 確かにそう言われると思い当たる節があります。

 獣化をした直後に拘束器具が壊れた事、鉄格子がすり抜けられなかった事。

 あれは、僕の体が逆に大きくなった事が原因だったのですね。

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