第364話 欠けた弓月の刻、補助魔法使いを探しにいく

 「ユアン、遅いね」

 「そうだね。ユアンさんが行ってからもう半日立つのに……」

 「なーなー。もしかしたら、捕まったとかかー?」

 「ありえるね。シアはどう思う?」

 「わからない。だけど、何かあったら私達に伝える筈」


 ユアンは賢い。それに凄い。

 何かあれば直ぐに私達に相談する。

 例え捕まっていたとしても、ユアンなら大丈夫……だと思う。

 けど、心配があるとすれば……。


 「!」

 「どうしたの? いきなり立ちあがって」

 「ユアンから念話が届いた」

 「本当ですか? ユアンさんはなんて?」

 「シアさん聞こえますか? えっと……申し訳ありませんが、ちょっと帰りが遅くなりそうです。えっと、捕まった訳ではないですが、ちょっと立て込んだ用事が出来てしまったので、みんなと先に宿屋に戻っていてもらえますか?」

 

 ユアンから届いた念話をユアンの口調でスノー達に伝える。

 

 「あー……やっぱり捕まったんだ」

 「うん。多分そう」

 「ユアンさんらしいですね。でも、それだけ余裕があるみたいですし良かったです」

 「うん。だけど、何があるかわからない。助けに行く」

 「なー! 頑張ろうなー!」

 「頑張る!」


 しかし、私の心配は当たってしまった。

 ユアンの事だから、捕まったら恥ずかしいと思い誤魔化すと思った。

 まさにそれが起きた。


 「それで、ユアンは何処にいるの?」

 「礼拝堂の奥。今、移動を始めた」

 「なら、直ぐに追いつけますね」

 「うん。ユアンの位置を追いかければ…………」

 「シア?」

 「消えた……」

 「え? ユアンさんがですか?」

 「うん」


 驚いた。

 ユアンが移動し始めたのはわかった。

 だから、ユアンの位置をずっと追っていたのだけど、礼拝堂の奥に向かった辺りで、ユアンの反応がそこで途絶えた。


 「となると、転移魔法で移動したとかかな?」

 「その可能性もある。だけど、違うような気がする」

 

 転移魔法を使用するのならば、少しだけでも歩みをとめる必要がある。

 だけど、ユアンの反応は移動しながら消えた。

 

 「どういう事ですか?」

 「わからない」

 「もしかすると、龍人族の街みたくなっているとかかな?」

 「それはあり得る」


 スノー予想は正しいかもしれない。

 龍人族の街ではユアンは探知魔法が妨害されると言っていた。

 もし、ユアンが移動した先にそれと同じような効果があるとするならば、ユアンの反応が消えた事に納得がいく。


 「念話はどうだー?」

 「やってる。だけど、反応がない」

 「いつから?」

 「ユアンから念話が届いた後から。だけど、最初に念話が届いたきり」


 ユアンなら私が念話を送り返せば必ず何かしら返してくる。

 しかし、それがないとなると念話も妨害されている可能性もある。


 「ユアンからは送れても、こっちからは送れないって事?」

 「うん。そうかもしれない。もしかしたら、恥ずかしいから聞こえないふりをしている可能性もある。だけど、ユアンなら返してくれる自信がある」

 「そうですね。シアさんの念話を無視するとは思えません」

 「それで、どうするんだー? こうしている間にもユアンが何処かに行っちゃうぞー?」

 「わかってる」


 問題はユアンを探すためにどうすればいいかが問題。

 礼拝堂には入れても、その奥は関係者しか進む事は出来ない。

 恐らくそれを理由に私達が入ろうとしても妨害される事になる。


 「キアラ、魔鼠はどう?」

 「うん。今ユアンさんを追いかけさせてるよ」

 「そうなんだ。危なくなったら頼むね」

 「うん。だけど、奥に進むにつれて体が重くなるみたいで、戦闘は厳しいかもって。それに、どうやらこっちの指示は届いていないみたい」

 「キアラの方もそうなんだ。となると、ユアンに念話が届いていない可能性が高いね」

 

 これは面倒。

 礼拝堂の奥には何かがある。

 

 「なーなー? 魔鼠たちは大丈夫なのかー?」

 「うん。無理しなくていいよと伝える為に追加の魔鼠さん達を送ったから大丈夫だよ」

 「なら安心だなー」

 

 魔鼠たちはかわいい。

 ラディは生意気でかわいくないけど、あの子達は素直でかわいい。

 だから、無事だとわかって良かった。

 だけど、ユアンはこのままだとわからない。


 「それで、ユアンをどうやって助けに行こうか?」

 「問題はそこですよね。無理に押し通ってもいいけど……」

 「最悪はそうする。それか、ラインハルトに……だれ?」


 ユアンの救出を相談していると、部屋をノックする音が聞こえた。


 「私です。セーラです。みなさんに伝えたい事があるのですが、中に入ってもよろしいですか?」

 「構わない。ただ、私達は忙しい。用件を伝えたら直ぐ帰る」

 「ありがとうございます」


 セーラが部屋の中に入ってきた。

 しかも変な恰好で。


 「そ、そんな目で見ないで頂けますか?」

 「悪い。だけど、変な恰好をしているから仕方ない」

 「やっぱり変ですか? 変装してきたつもりですけど……」

 「変。甲冑のサイズが合っていない」


 セーラはよろよろとしながら私達の元へと近寄ってきた。

 甲冑を着こみ、動くたびに甲冑がずれてカチャカチャとうるさい音を鳴らしている。

 それにちゃんと前が見えているのかも怪しい。顔を覆うフルフェイスの防具が横を向きかけてしまっている。

 

 「それで、なに?」

 「ユアンさんが私達の手の者に捕まりました」

 「知ってる」

 「き、気付いていたのですね」

 「当然。それで?」

 「助けに行くのですよね?」


 それを伝えに来た?

 

 「行く…………何が狙い?」

 

 私達の様子を探りにきた?

 だけど、わざわざそんな目立つ格好をして?

 本人は変装と言っているけど、とてもそうは見えない。


 「疑う気持ちはわかります。しかし、私はただ、皆さまをユアンさんが連れていかれた場所に案内しようと思っただけです」

 「嘘」

 「嘘ではありません。これでも、私は……私達は感謝していますので……」


 顔の表情が見えないから何とも言えない。

 だけど、ユアンの場所に行ける可能性が少しでもあるのならば、例え罠だとしても向かう価値はあるのかもしれない。


 「わかった。案内する」

 「信じて頂けるのですか?」

 「信じてはいない。ただ、罠だとしても私達には問題ない。それを突破してユアンを助けるだけ」

 「そうですか。その覚悟があるのなら大丈夫そうですね。では、こちらに」


 聖女が周りを気にしながら部屋を出ていく。


 「スノー達は待ってる?」

 「行くに決まってるよ」

 「そうですよ。私達は仲間ですからね」

 「仲間だからなー」


 確認するまでもなかった。

 私が立ちあがると、スノー達も同時に立ち上がった。

 

 「罠かもしれない。だから気をつける」

 「わかってるよ。だけど、シアが言った通り油断しなければ平気だよ」

 「私達にはそれだけの力がありますから」

 「なー! 仲間の力は凄いからなー」

 「うん。それじゃ聖女について行く」


 私達は聖女を信じ、ついて行く事になった。


 「どこに向かってるの?」

 「この先に、私達だけが知っている隠し通路があります」

 「隠し通路?」

 「はい。恥ずかしい話ですが、アーレン教会は教皇派と武闘派の二つに分かれています。今向かっている隠し通路は教皇派のみが知っている秘密の場所なのです」


 教皇派はダビドを中心とした派閥で武闘派は教会の兵士達の派閥らしい。

 しかし、ダビドは言っていた。

 アーレン教会は乗っ取られていると。

 だから教皇派に力は無い。


 「だけど、ユアンを連れていったのは武闘派の連中なんだよね?」

 「はい」

 「それなのに、その隠し通路からユアンが捕まっている場所へと向かえるのはおかしくない?」

 「ユアン殿が捕らえられている場所はアーレン教会の地下です。その場所は複雑に入り乱れ、迷路のような場所になっています」


 元は逃走用に作られた地下だったらしい。

 教会は世界に幾つも存在していて、他の教会から宗教戦争を仕掛けられる事も昔はあったみたい。

 よくある話。

 だから幾つも入り口は存在するとセーラは言った。


 「他の入り口は武闘派に抑えられてしまっていますけどね。ですが、ここの事は知られていません。ここならば、気付かれずに地下へと向かう事ができるでしょう」

 「わかった。だけど、何故私達に協力する?」

 「ダビド様から協力するように言われましたから。ただそれだけです」

 「そう。だけど下手な理由を言われるよりは信用できる」

 「はい。私は貴女たちが苦手です。本当ならば関わりたくないと思うくらいに」


 ここで私達が気に入ったとか言われても信じる事は出来なかった。


 「私もお前は好きじゃない。だけど、教えてくれた事は感謝する」

 「こちらの都合ですので感謝は不要です…………ここです」


 壁に架けられた燭台を引っ張ると石の壁がゆっくりと開いた。

 その奥には階段が見える。


 「みなさんの事はどうにか誤魔化すつもりですが、期待はしないでください。直ぐに追手が向かうと思います」

 「そこまでは期待していない。だから自分の身だけ案じるといい」

 「はい、そうさせて頂きます」

 「それじゃ」

 「一応、無事は祈っておきますね」

 「好きにする。祈っても祈らなくても私達は平気。むしろ、教会が壊れない事だけ祈っておくといい。その保証はできない」

 「できれば穏便にお願いします」

 「できたら。それじゃ、行く」

 「はい。ここは閉ざしますので、脱出は自力で頑張ってください。では、ご武運を」


 私達が隠し通路に入ると扉がしまっていく。


 「罠かな?」

 「その可能性もある。だけど、平気。あいつは嘘はついていない」

 「どうしてわかるのですか?」

 「何となく。セーラは悪い奴ではない。そんな気がした」

 「シアがそういうのならそうかもね。ま、どっちにしてもやる事は変わらないからいいけど」

 「そうだなー。問題はこの通路がユアンのいる場所に繋がっているかだなー」

 「その時はその時。この場所に戻って隠し通路の入り口を壊して、今後は正面から乗り込めばいい」

 「それもそうだね」

 「出来る事なら騒ぎを大きくならないうちに合流したいですけどね」

 「とりあえず先に進むなー? 灯りは任せろー」


 暗い通路に明かりが灯る。

 サンドラが小さな炎を浮かばせた。

 

 「見にくくてごめんなー」

 「そんな事ない。灯りを作れるのはサンドラだけ助かる」


 ユアンの光魔法よりは見にくい。

 だけど、これだけ明るければどうにでもなる。


 「それじゃ、いつもどおり私が前を護るよ」

 「私は風で先の様子を見ますね」

 「私は後ろを警戒する。サンドラは私の前にいるといい」

 「わかったー」


 ユアンが居ないだけで変な感じがする。

 早く会いたい。

 だけど、一人で行動する訳にもいかない。

 今は我慢。

 私だって成長した。だから我慢できる。

 きっとユアンも褒めてくれる。

 だから、すぐにユアン会いに行くから待っててね?

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