第363話 補助魔法使い、捕まる
「では、行ってきますね」
「うん…………何かあったらすぐ呼ぶ」
「わかっていますよ。シアさん達も狙われるかもしれないので、油断しないようにしてくださいね?」
「ユアンこそ油断して捕まらないようにね?」
「大丈夫ですよ! そんな心配しなくても僕はそこまで間抜けではありませんからね!」
「そう言ってるから心配なんですよ」
「そうだなー。ユアンは凄いけど、時々やらかすのが心配だなー」
「本当に大丈夫ですから、安心して待っていてくださいね。では!」
もぉ……本当にみんなは心配性ですよね。
サンケに来て二日目、僕たちが朝食をとっていると、アーレン教会から案内の方が来て、僕たちは再びアーレン教会へと向かいました。
そして、待合室と呼べばいいのですかね?
そこに案内された僕たちは暫くそこで待たされた後、病気の人達を治すために僕だけ呼ばれました。
もちろんそれは断りましたよ?
ですが、他の人に病気が移る可能性もありますし、今から行く場所はアーレン教会の関係者しか行けない場所みたいな事などを色々と並べられて、その説明が回りくどく、面倒なのでアーレン教会の要求を呑む事にしました。
安全は保障しますと言ってきましたしね。
まぁ、僕達からすると、そこは危険な場所なのですか? と聞きたくなりましたが、それすらも面倒に思えてきたので聞きませんでしたけど。
それらしい理由で中身が無いスカスカな話なので誰だって罠だとわかる内容でしたからね。
「ここですね?」
「はい。この中に患者がいます」
案内されたのは中央にあった建物でした。
人が集まってお祈りするであろう礼拝堂の奥へと抜けた場所ですね。
「でも、どうしてこんな場所に病気の人がいるのですか?」
「本来ならば、別館の二階が修道女の部屋なのだがあちらには病気にかかっていない者も暮らしているからです」
どうやら隔離する為みたいですね。
納得できる理由ではありますけど、普通逆じゃないですかね?
礼拝堂というのはアーレン教会の人だけではなく、一般の人も訪れる場所な筈です。
礼拝堂を抜けた奥で、少し礼拝堂から離れているとはいえ、病気の人を隔離するには近すぎように感じます。
何よりも、こんな場所では病気の人がゆっくり休めないと思います。
昨日の帰る時に、礼拝堂から賛歌と呼ばれる歌が聞こえてきましたからね。
寝ているのに近くでそんな音楽や歌が聞こえたら起きてしまいそうなものです。
まぁ、他の理由があると考えるのが妥当でしょうね。
やはり、油断はできないみたいです。
「失礼しますね」
案内された部屋へと入ると、それは酷い状態でした。
「こんな場所で……」
簡易なベッドに寝かされた人が並ぶように……それこそ、肩と肩が触れるくらいの間隔でずらりと寝かされていたのです。
あれでは寝返りひとつうてませんよ。
「大丈夫ですか?」
「ぅう……だい、じょうぶです。ゴホッ」
部屋に入って一番近くの人の容態を見ようと声をかけると、苦しみながらも返事が返ってきました。
しかし、とても大丈夫には見えませんね。
「早速、治療に入りたいと思いますがよろしいですか?」
「構わない。よろしく頼む」
「わかりました」
それにしても妙ですね?
病気と聞いていましたが、何かが違うように感じます。
いえ、息を乱し、苦しみ額に玉の汗を浮かべているので体調が悪いのはわかりますけど、これは病気の影響ではないような気がしてきました。
「では、まずは診察から……」
実際に診察なんて出来ませんけどね。
ですが、気になる事が一つあるので僕は調べさせて頂きます。
「やっぱり……」
「何かわかったのですか?」
「はい。体内の魔力がぐちゃぐちゃです」
どうやらこれが苦しんでいる原因みたいですね。
これに似た症状を僕は見た事があります。
「恐らくですが、これは魔力酔いの一種ですね」
魔力酔いというよりも暴走と言った方がいいかもしれません。
けど、これなら治すのは簡単そうですね。
「
原因はわからない。
しかし、魔力が体内に多く籠ってしまっているのならば、それを抜いてあげればいいだけの事。
私が搾取を使い、暴れまわっていた魔力を吸い取ると苦しんでいたのが嘘のように落ち着き、次第に呼吸も安定してきた。
「これでどうにかなりそうですね」
「何をしたんだ?」
「ただ魔力を抜いただけですよ。特別な事をした訳ではありません」
ただし、根本的な解決には至っていませんけどね。
とりあえず、魔力を抜いて落ち着かせただけなので再発する可能性は十分にありえます。
「この方たちは、魔法が使える人達ですか?」
「当然だ。修道女というのはそういった役割がある」
当然ですか。
それなのに、魔力が暴れているのは妙です。
それに、この部屋で苦しんでいる人達はみんな魔族という事が一目見てわかります。
それなのに、魔力酔いみたいな状況に陥っているのは謎でしかありません。
だって、ですよ?
魔族というのは魔素に依存して生きる人種であるのに、その魔素を変換した魔力に苦しむなんてありえるのでしょうか?
「こうなったきっかけみたいな事はわかりますか?」
「知らん」
んー……この様子ですと、知っていても教えないって感じもしますね。
けど、一つ違和感を感じましたよ。
感じたのは魔族の手。魔力の流れを感じ取っていると、少し嫌な感じがしたのです。
「その指輪はなんですか?」
「知らん」
「知らないのですね。それを外しても、大丈夫ですか?」
「治るなら好きにしてくれ。ただし、本人に確認をとってからにしろ。本人にとって大事なものかもしれないからな」
「わかりました……すみませんが、これを外してもいいですか?」
先ほど魔力を抜いてあげた人に僕は指輪を外していいか尋ねました。
しかし、その人は静かに首を横に振りました。
「これは……教皇様に頂いた、大事な物なの、です」
だから外したくないと彼女はいいます。
もしかして、この人はダビドさんの恋人……かと思いましたが、他の人も全く同じものをつけていますね。
「困りましたね」
「何がだ」
「いえ、恐らくですがその指輪が原因のような気がするのです」
嵌められた指輪が
そして、その指輪の効果が魔力を外に放出しないという役割があるみたいです。
「それがどうした?」
「魔族は魔素を体内にとりいれ、魔力へと変え、魔力を自然と放出しているのを知っていますか?」
「知っている。それがどうした?」
「ある意味、僕達の呼吸と同じなんですよ。息を吸って新鮮な空気を取り込み、新しい空気と循環させ、不要となった空気を吐きだす」
これを自然に行っています。
ですが、走ったりなど激しい運動をすると、そのサイクルが追い付かなくなり、苦しくなりますよね?
魔族にとって、魔素を取り込むのはそれと同じことなのです。
「ですが、その指輪のせいで魔素を放出できていないのですよね」
そうなると幾ら魔力の高い魔族だとはいえ、体内に許容量以上の魔力が籠る訳ですから、魔力酔いに陥ります。
現に僕だってそうですよ?
誰にだって限界があるのです。
まぁ、僕は吸いとった魔力をその都度使用しているので問題ありませんけどね。
お陰で僕の防御魔法の強度がとんでもない事になっている自信があります。
「それをどうにかするのがお前の役目だろう」
「違いますよ。僕は病気を治すために来ただけであって、解決する為に来た訳ではありませんからね」
解決する方法は簡単。
指輪を取り外せばいいだけなのです。
ですが、彼女はそれを拒みました。
となると、僕が出来るのはここまでです。
「後は、アーレン教会の問題になると思いますので、彼女たちを説得するにしろ、無理やり外すにしろ、好きにしてください。僕は残りの人達を治してしまいますからね」
これだけの人がいれば、一人くらい
「また来てくれるか?」
「それはお断りしますよ。解決策は見出しましたので、後は頑張ってください」
けど、こんな簡単な解決策に気付かないものでしょうか?
まぁ、とりあえずはセーラの情報は嘘だというのはわかりましたけどね。
セーラはあの時、帝都にいて僕の魔法で病気が治ったといいましたが、僕が使ったのは回復魔法で、
回復魔法では癒せない、そもそも病気ですらなかったのですからね。
「ちなみにですが、街の人達も同じ病気にかかっているのですか?」
「そうだ」
となると、同じ指輪が嵌められている可能性が高いかもしれませんね。
もしくは同じ効果がある何かを持っているか……。
ともあれ、修道女たちが特別という訳ではないようですね?
むむむ……よくわかりませんね。
まぁ、僕にはもう関係ありませんね!
「っと、この方で最後ですね」
流石に疲れた。というよりも体が痛いわね。
ここまで連続で
誰だって痛いとわかっていてやるのは嫌よね?
「ありがとう、ございます」
「気にしなくてもいいですよ。それよりもゆっくり休んで、どうすればいいのかしっかり考えてくださいね」
「はい」
指輪を外さなければいずれ、それも近いうちに同じことが起きます。
「では、治療は終わりますね」
「ご苦労だった」
とりあえず、三十人ほど苦しんでいた地獄絵図は治まりましたね。
それにしても、何も起きずに済んで良かったです。
これで、僕もみんなの元へと戻る事が出来そうです。
「黒天狐様……」
「はい?」
「私の、指輪を外して、頂けませんか?」
僕が帰ろうとした時でした。
最初に治した修道女の方が声をかけてきました。
どうやら、僕が他の人を治している間に考えを改めてくれたみたいです。
「構いませんよ!」
僕の説得が上手くいったみたいですね。
まぁ、当たり前ですよね。
彼女もそうですが、みんな魔力酔いに酷く苦しんでいました。
それが治り、解決方法がわかったのに再びその状況に陥るのは誰だって嫌に決まっていますからね。
「それじゃ、外しますよ」
「はい……」
横になりながらですが、ゆっくりと手を僕の方に差し出し、僕はその手を取ります。
んー……変な感じですね。
人の指輪を外すのって何か嫌な感じがします。
彼女にとってきっとこの指輪は大事な物な筈です。
僕だってシアさんから貰った指輪は凄く大事で、人に外されるのは絶対に嫌です。
「黒天狐様、ごめんなさい」
そんな事を考えていたせいか、指輪を外すのを少し躊躇い、一瞬ですがボーっとしてしまったようで、指輪を外そうとした女性から謝罪の言葉が聞こえました。
僕が気を遣った事が伝わってしまったのかもしれませんね。
「あ……いえ、大丈夫……ふぇ?」
ガシャンっという音が僕の耳に届きました。
「あの……これは?」
「黒天狐様、ごめんなさい。騙すような真似をして……」
えっと、これは何でしょうか?
僕の両手首に金属の輪っかが取り付けられています。
そして、輪っかは繋がっているのです。
「あの、これじゃ身動きがとりずらいののですが……」
「当然だ。これは人の動きを制限する為の道具だからな」
「そうなのですね? それじゃ、直ぐにとって貰えませんか?」
「ダメだ」
「どうしてですか?」
「まだ気付かないのか? お前は捕まったんだよ。アーレン教会にな」
捕まった?
あれ、もしかして……。
「捕まったという事はですよ? 僕は捕まったということですよね?」
「そのままだな」
「えー! 困りますよ! 僕は捕まらないから安心してくださいとみんなに言ってきたのですから!」
「そこまで予想していて捕まったのか? 馬鹿なやつだな」
や、やってしまいました!
みんなに安心して待っていてと言ってきたのに、見事に捕まってしまいましたよ!
「あの、みんなには内緒にして貰っていいですか?」
「当然だ。というよりも、ちゃんと状況を理解しているのか?」
「していますよ。僕は捕まったのですよね? だから、恥ずかしいので内緒にしてほしいです!」
「あ、あぁ……任せろ」
良かったです。これで僕が捕まった事はバレずにすみそうですね。
「では、みんなにバレないうちに移動しましょう!」
「そのつもりだが……お前、何を企んでいる?」
「何も企んでいませんよ! いいからバレる前に急ぎましょう」
「わかった。念のためにこれをつけてもらうぞ」
「はい! わかりましたから、早くしてください」
あれは、奴隷の首輪ですね?
んー……あんなのをつけられるのは情けないですが、今は仕方ないですね。
「俺達の言う事に逆らったら、その首輪がお前を苦しめるからな。大人しくしていろ」
「わかりました」
大丈夫そうですね。
首輪の効果も発動していませんし、手の拘束も見た
僕の魔力で無効化しているようですね。
それにしても、今更ながら冷静になるととんでもない状況になってしまっていますね。
でも、冷静になったからこそわかる事があります。
これはチャンスでもありますよね?
わざと捕まった事を後で説明すればいいですし、同時にアーレン教会の内部を探る事も出来ます!
そうすれば、僕が裏で行動している間にシアさん達もユージンさん達もラインハルトさんも行動を起こしやすくなるかもしれませんからね!
これなら僕の面目も保てるわけです!
「という訳で行きましょう!」
「あぁ……大丈夫かこいつ」
「僕は大丈夫です!」
「妙な気は起こすなよ……こっちだ」
僕をこの部屋に案内した男に剣の鞘で背中を押される様にして僕は移動する事になりました。
部屋を出る際に、ごめんなさいという声が聞こえましたが、どうやらあの人達も逆らえない立場にいるのかもしれませんね。
どんな事情があるのかはわかりませんが、いいように使われているような気がしました。
「ここからは目隠しさせて貰う」
「はい。変な所触らないでくださいね? 防御魔法がかかっているので、僕に触ったら大変な事になりますよ。この手の輪っかには魔法を使えなくなる効果があるみたいですが、先に防御魔法は展開してあったので、その効果は残っていますからね」
「御忠告どうも。その効果が切れた時が楽しみだな」
効果は切れる事はありませんけどね。
何せ、そもそも輪っかの効果が発動していませんからね!
それにしても、本当にやってしまいましたね。
その後、僕は地下へと進む階段でしょうか?
そこを降り、長々と右や左へと移動をし、再び階段を登ったり降りたりしながらかび臭い場所へと連れてこられました。
歩いたのは三十分くらいですかね?
多分、実際にはそんな距離はありませんでしたが、僕が自分の現在地をわからないように色んなルートを通り、感覚を狂わせようとしたのかもしれませんね。
ガシャンっ!
「わっ! な、なんですか?」
「目隠しをとっていいぞ」
「わかりました」
目隠しをとっていいというので、目隠しを外すと、そこは薄暗い汚い場所で、鉄格子を挟んだ先に僕を連れてきた男が立っていました。
どうやら、ここは牢屋みたいですね。
「暫くそこで大人しくしていろ。朝と晩に食事を運んできてやる」
ご飯はくれるのですね。
でも、他にも大事な事はありますよ。
「えっと、トイレは?」
「そこだ」
男がツボを指さしました。
もしかして、そこで済ませって事ですかね?
「じゃあな」
「あっ、ちょっと待ってくださいよ!」
と声を掛けるも男は去っていきました。
「むむむ……これは早急に脱出する必要がありそうですね」
といっても、直ぐには出る事は出来ませんね。
シアさん達とユージンさん達が行動を移すのを待つ必要があります。
「仕方ないですね。少しだけゆっくりしますか」
僕の事を舐めているのか、それとも拘束器具の効果を過信しているのかわかりませんが、監視の目は全くありません。
「その間に、この拘束器具をとる方法を考えましょう」
問題なのは手の拘束ですね。
こればかりは両手が使えないので外す事が出来ません。
流石に手を使わずに刀でどうにかするのは危険ですからね。
切れ味が凄いのでもしかしたら僕の防御魔法を越えてくる可能性もゼロではありません。
「となると別の方法ですね」
僕は牢屋の中で一人、その方法を考えるのでした。
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