第360話 弓月の刻、アーレン教会へ行く
「ここがサンケですか」
キティさんの配下に転移魔法陣を設置して貰い、サンケの近くまで飛んだ僕たちは残りの距離を徒歩で移動をしました。
「病が流行っているのは本当みたいだね」
サンケの街はそれなりに発展しているのか、石造りの建物が多く、新しい家やお店も確認できます。
しかし、開いているお店もあるようですが、ほとんどのお店が閉まっていて、活気がなく、とても寂しい印象を持ちました。
「まずはアーレン教会へとご案内致します。どうぞこちらに」
「領主様に挨拶はしなくていいのですか?」
「問題ありません。この街の領主はアーレン教会の者ですので」
となると、この街はアーレン教会が支配しているという事になるのですね。
支配という言い方はあれですけど、僕はそんな風に思いました。
セーラに案内され、サンケの街を歩き暫くすると大きな建物が見えてきました。
「あちらが、アーレン教会になります」
「街の中心にあるのですね」
「はい、アーレン教会はこの街の象徴でもありますので」
だからあれだけ大きくて目立つ場所にあるのですね。
ですが正直な所、あまりいい印象は持てませんでした。
だってですよ?
建物が黒塗りで見るからに不気味な感じがするのです。
しかも、アーレン教会の敷地に入る為に門を潜ったのですが、潜ってすぐに見えたのは両脇に設置された二対の魔物のような銅像です。
「あれは魔物ですか?」
「違います。あの像はアーレン教会が崇拝する女神さまの眷属です」
どうやら、大きな羽を持ち、二本の角を生やした猿みたいな見た目をした銅像は女神の親衛隊みたいな存在のようです。
しかし、どうみても魔物ですよね。
「ガーゴイルに似ている」
「シアさんは見た事あるのですか?」
「本で見た事がある」
ガーゴイルとは魔物の一種ですね。
魔物の中でも知性が高く、剣や弓などの武器を操る事が出来て、集団で空から襲い掛かってくるそれなりに危険な魔物です。
ルードやアルティカ共和国では見る事は滅多にありませんが、魔素の濃い魔族領では割と頻繁に見かける魔物らしいです。
シアさんの話ではCランク相応の魔物ですが、上位種も存在するらしく、個体によってはAランク相応の強さを持っている個体もいるらしいです。
まぁ、割とランクの強さというのは曖昧なので本当に強いかどうかはわかりませんけどね。
ですが、そのクラスの強さになると、他のガーゴイルを操る事ができて、剣や弓だけでなく強力な魔法を操る事も出来るみたいなので、結構に厄介な魔物だと思えますね。
ただし、魔素がなければ弱体化するみたいなので、場所によってはオーク並みの強さになるみたいですけどね。
「このまま進むと礼拝堂がありますが、一度女神様の姿を拝見していきますか?」
建物は三つに分かれていて、門を潜り真正面に見える建物は誰でも入る事が出来る礼拝堂……女神様に祈りを捧げる場所で、右側が領主の館のような場所で、左が関係者の建物になっているみたいです。
「僕達は祈りを捧げに来た訳ではないので、遠慮しておきます。出来る事なら今日中にはナナシキへと戻りたいので、僕が魔法を教える人の場所に案内して貰えますか?」
「…………わかりました。こちらです」
僕が女神に興味を持たなかった事に不服なのか、セーラが眉間に皺を寄せました。
「まずは、教皇様の元へとご案内致します。決して失礼な態度をとらぬようお願いします」
「教皇ですか?」
「サンケの領主であり、アーレン教会で一番の権力持っている人だよ。優しそうな見た目をしているが、油断はしないようにね」
僕に聞こえるようにラインハルトさんがこっそりとどんな人か教えてくれました。
とりあえず、凄く偉い方なのですね。
そして、同時にアーレン教会を仕切っているという事は、悪い人でもあるはずです。
ラインハルトさんの言う通り、油断はできないですね……。
左側の建物に入り、奥へ奥へと進むと来るものを拒むような頑丈そうで、煌びやかな扉が見えてきました。
明らかに偉い人がいて、大事なものを守っているそんな扉です。
それにしても、僕達は歓迎されていないような感じがしますね。
アーレン教会の敷地内に入ってから感じていたのですが、ここに来るまで色んな人とお会いしましたが、僕達の姿をみると立ち止まり睨みつけるようにジッと僕たちを見てきますし、所々に配置されたアーレン教会の兵士でしょうか?
その人達もピリピリと殺気を放つように僕達を見てきたのです。
そして、扉の前に立つ二人の人も同じでした。
「止まれ。何用だ?」
「ダビド様の命により、黒天狐殿をお連れ致しました」
立場的には二人組の男の方が上なのでしょうか?
セーラは聖女で立場的には結構えらい存在だと思っていましたが、男達はぶっきらぼうに話、セーラは敬語を使っています。
普段の話し方がそうなのかもしれませんが、セーラに対して敬意を払っているといった感じはしませんね。
「確認する。暫く待て」
片方の男が僕たちを威圧するように前に出ると、もう片方の男が扉を少しだけ開け、中に入って行きます。
そんなに中を見られたくないのでしょうか?
「後は俺達が対応する。お前たちは帰って休め」
「ですが、私が案内するように……」
「帰れ。これは命令だ」
「……わかりました。ユアン殿、私はこれで失礼致します。何か困った事がありましたら私の元へと訪れてください。場所は……」
この建物の三階なのですね。
どうやらセーラを含め、修道士と呼ばれる人達が暮らす場所を教えて貰いました。
まぁ、行く事はないと思いますけど一応覚えておいて損はないですね。
僕達からすればここは安全な場所ではありませんし、建物のどこにどんな人がいるかは覚えておいた方がよさそうです。
「では、私は一旦ここで失礼するよ。後ほど宿屋に案内するから、終わったらここに来てくれ」
ラインハルトさんも行ってしまうのですね。
そして、代わりに渡されたのは一枚の地図でした。
地図といってもとても簡易な手書きの地図で、現在地……アーレン教会とラインハルトさんが待っている場所くらいしか描かれていない地図でした。
これじゃわからないと思いますけどね。
まぁ、お店の名前でしょうか?
それが書いてあるのでそれを探せばどうにかなりそうなので有難く受け取っておきます。
「待たせたな。教皇様がお会いになるそうだ。通れ」
ラインハルトさんも立ち去り、暫くすると中に入って行った男が戻ってきて、中に入るように言われました。
「わかりました」
「ただし、武器の類は預からせて貰う」
ですが、どうやら武器は持ち込み禁止なようで、武器を出すように言われてしまいました。
「わかりました」
ですが、これは想定の範囲内ですね。
「お、おい!」
「何ですか? 武器を預かるのですよね?」
「そうだが……一体どれだけ取り出すつもりだ?」
前にも同じような事がありましたからね。
今回はそれ以上に用意してきましたよ。
「どれだけってまだ半分も取り出してませんよ? 全部出せばいいのですよね?」
足の踏み場がなくなるほど武器を取り出したせいで二人の男が取り乱しています。
「わかった……収納持ちなら仕方ない。武器をしまってくれ」
「わかりました」
「ただし、武器は見えないようにしてくれ」
「仕方ないですね。みなさん、僕に武器を預けてください」
どうやら僕達から武器を取り上げるのを諦めたみたいですね。
その代わり僕に武器を全て預けて、すぐに武器を取り出せないようになりました。
まぁ、表面上はですけどね。
みんなには予め適当な武器を渡してあったので、それを受け取りましたが、本来の武器はそれぞれ
流石にそこまでは頭が回らなかったようで、まんまと武器を隠したまま進む事が出来ましたよ。
「ついて来い」
そして、片方の男が僕たちを案内するように扉を開けました。
「通路ですか?」
「そうだ。この先に教皇様はいる。失礼な態度はとるなよ? 命が惜しければな」
そんな事を言われると帰りたくなりますよね?
別に僕達としては会う必要もありませんし、協力する必要もありません。
まぁ、まだ我慢しますけどね。
ラインハルトさんとユージンさん達が行動するまでは我慢です。
「ダビド様、例のお方たちをお連れ致しました」
「どうぞ、中にお入りください」
扉の向こうから優しそうな男性の声が聞こえました。
この声の主が教皇と呼ばれるアーレン教会の偉い人で、同時に悪い人なのですね。
「失礼致します」
扉を開けて貰い、僕が先頭となり中に入ると僕は驚きの光景を目にする事になりました。
「魔族……ですか?」
扉を抜けた先で座っていた男性は額から角を生やしていたのです。
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