第358話 補助魔法使い、サンケへと向か

 「やっぱり行く事に決めたのですね」

 「あぁ。ロイもエルも一緒に来てくれる事になった」


 ラインハルトさんと話した次の日の朝、僕達の家を訪れたユージンさんからそんな報告を受けました。


 「わかりました。この後にラインハルトさんとまた話しますので、伝えておきます」

 「ありがとう。ただし、聖女の方には私達が行く事は内緒にしてもらえる?」

 「聖女? ……あ、わかりました!」


 何か忘れていると思いましたが、聖女の存在をすっかり忘れていました!

 そういえば、僕にサンケに来てほしいと言ったのはセーラでしたね。

 ラインハルトさんと昨日話していて、そこにユージンさん達が急に現れ驚いたので、存在を忘れてしまっていましたね。


 「となると、何処かに転移魔法陣を設置して、後でこっそり来てもらった方がいいですね」

 「そうだな。出来る事なら嬢ちゃん達と行動を別にした方が目立たないだろう」

 「そうですね。けど、ユージンさん達は何をするつもりですか?」


 ラインハルトさんの目的はアーレン教会から紋章を取り返す事だと知りましたが、ユージンさん達が何をするかは聞いていません。


 「俺達はアーレン教会に忍び込むつもりだ」

 「もしかして、盗むつもりですか?」

 「言い方を変えればそうなるけど、あくまで返して貰うだけよ」

 「そんな簡単に行くのですかね?」

 「まぁ、難しいだろうな。警備だけはいっちょ前に固めているからな。きっと騒動が起きるだろう」


 その結果、ユージンさん達がお尋ね者にならなければいいですけどね。

 もし戦闘になっても何も問題はないと思いますが、そこだけが心配ですね。


 「では、転移魔法陣を設置しましたら連絡しますのでそれまで待っていてくださいね」

 「どうやって連絡するつもりだ?」

 「魔鼠さんをユージンさん達につけますので、魔鼠さんが教えてくれるので大丈夫ですよ」

 「ヂュッ!」

 「この子ね? よろしくね」

 「嬢ちゃん達って本当に便利だな……」

 「キアラちゃんの召喚獣はみんな優秀なので助かりますね」


 特に魔鼠さんは凄いですね。

 小さいながらも集団で戦闘も出来ますし、諜報や監視としても優秀で、今回のように離れた相手とも連絡をする事が出来ます。

 まぁ、連絡に関しては魔鼠さんの言葉を理解できるのは僕とキアラちゃんくらいなので他の人だと少し面倒かもしれませんけどね。

 それでも身振り手振りで頑張って伝えようとしてくれるので、言いたい事は何となく理解できると思います。

 

 「それではこれをユージンさん達のお家に設置して待っていてくださいね」

 「了解だ。また後でな……まぁ、サンケで会えるかどうかはわからないけどな」

 「サンケで会えなくても、ナナシキでまた無事に再会しましょうね」

 「そうね。目的を果たし無事に帰って来れたら一緒にお祝いでもしましょう」

 「はい!」


 こういうのって大事ですよね。

 お互いの無事を祈り、再会を約束する。

 これが一つの目的となり、辛い状況になっても約束を果たすために最後まで頑張る事が出来ると思います。


 「ユアン」

 「あ、次はセーラと話す番でしたね」

 「うん。急がないとセーラを待たす事になる。あのタイプはうるさい」

 「そうですね。まぁ、うるさいだけですので待たせても問題ないと思いますけどね」

 「うん。時間を作ってるのはこっち。気にする事はない。だけど、スノーがまた怒るかもしれないから行こ?」


 スノーさんが僕たちが来るまでの間セーラと話す事になるので、そこでまた言い争いになったら大変ですからね。

 まぁ、ラインハルトさんの話ですとセーラは昨日かなりへこんでいたみたいなので、大人しくしているとは思いますけどね。

 ですが、一応急いで領主の館には向かいました。


 「間に合いましたか?」

 「うん。ラインハルトはまだ来ていないよ」

 「良かったです」

 

 どうやら、僕達と入れ違いでシエンさんがセーラさん達を呼びに行ったようで間に合ったみたいですね。


 「今日はセーラは来ますかね?」

 「来てもらうように言ったよ。これで来なかったらもうどうでもいいかな」

 「そうですね。人任せにするような人に協力する必要もないですからね」

 「平気。セーラは来る」

 「そうだね。ユアンさんから大事な話があると伝えてあるから、嫌でも来ると思いますよ」


 大事な話といってもサンケに行くと伝えるだけですけどね。

 

 「スノー様、お連れ致しました」

 「ご苦労。中に通してくれ」


 本当に入れ違いだったようで、僕とシアさんが到着して暫くするとシエンさんが戻ってきました。

 

 「失礼致します……」


 開かれた扉から先に入ってきたのはセーラでした。

 ちゃんと来たのですね。

 ですが、元気がないように見えますね。


 「まぁ、早速だがかけてくれ」

 「はい、ありがとうございます」


 初日の勢いはありませんね。

 自分に自信があるといった雰囲気が全くみられず、顔を伏せたままスノーさんの対面へと座り、僕の前にはラインハルトさんが座りました。

 一昨日と同じ位置ですね。

 

 「ユアン殿、おはようございます」

 「おはようございます。ゆっくり休む事は出来ましたか?」

 「えぇ、お陰様で。それで、私に大事な話があると伺ったのですが……」


 恐る恐ると言った感じで、セーラが訪ねてきます。

 この様子ですと内容までは伝えていないみたいですね。

 スノーさんもキアラちゃんも意地悪ですね。

 まぁ、セーラの自業自得でもありますし、僕が気にする事もないですね。


 「はい、率直に伝えさせて貰いますが、条件次第ではサンケに一緒に行ってもいいですよ」

 「本当ですか!? それで、その条件とは……?」


 一緒に行っても良いという言葉にセーラは声を弾ませましたが、条件という言葉を思い出したのか、すぐに声を小さく訪ねてきます。

 感情の浮き沈みが激しい人ですね。


 「条件は僕達のパーティーで行動を共にさせて貰う事が条件です」

 「それは……」

 「これは絶対条件ですので譲れませんよ。そもそも僕が行く理由もありませんからね。まずはそこを理解してください」

 「ですが、私にそのような決定権はないので、私が判断する訳には……」

 「それなら私が許可しよう」

 「ハルトがですか? ですが、ハルトにもそのような決定権は……」

 「ないな。しかし、セーラもユアン殿に来て頂かない事には困るだろう。責任は私が持つのならセーラの立場も悪くはならないだろう?」

 

 セーラが悩みました。

 頭の中を覗けたら大変な事になっているでしょうね。

 きっと色んな事で頭がグルグルしていそうです。僕だったら考えが追い付かず、頭が痛くなりそうな気がします。


 「わかりました。その条件を呑みます。ですが、先日にユアン殿が仰られた条件は果たせていませんが、よろしいのですか?」

 「何があっても僕の悪口を広めないという事ですか?」

 「はい。その対策はまだ練れていません」

 「大丈夫ですよ。ラインハルトさんが聖剣に誓い、どうにかすると言ってくれましたからね」

 「あぁ、ユアン殿への悪口は私が許さない。そんな恩知らずは私が切り捨てよう。例え、セーラでもな?」

 「わ、わかりました」


 ラインハルトさんが味方に見えてきますね。

 まぁ、敵ではないと思います。

 アーレン教会が敵とは限りませんが、敵の敵は味方という言葉もありますし、一種の共闘状態みたいなものですね。

 少しだけアーレン教会が可哀想ですけどね。

 まぁ、アーレン教会が何もしてこなければ回復魔法を教え、そのお手伝いをすれば終わりですので直ぐに終わりますけどね。

 僕達の方はですけど。


 「では、出発はいつにしますか?」

 「ユアン殿の準備が整い次第で構いません。私としては早いに越したことはありませんが、ユアン殿にも準備が必要だと思いますので」

 「僕はいつでも構いませんよ。むしろラインハルトさんが大丈夫かどうかですね」

 「私は問題ない。ただし、先にユアン殿を連れていく必要があるがよろしいか?」

 

 そういえばラインハルトさんが一緒に連れ行けるのは一人まででしたね。

 しかも何度も休憩を挟まなければいけないので、サンケにつくのに時間が掛かってしまいそうですね……。

 ですが、ラインハルトさんは嬉しそうですね。

 もしかしたら、僕の事をまだ諦めていないのかもしれませんね。

 それで、二人きりで居られる時間が嬉しいとかかもしれません。

 ですが、そうはいきませんよ?


 「それなら、タンザでしたら僕は行ったことあるのでそこまでは移動できますよ」

 「助かる。タンザまで連れていってくれるのであれば、明日にはサンケに着くことは出来るだろう」

 「それなら、タンザまで僕の転移魔法で飛び、その後にラインハルトさんの転移魔法で行ける所まで行きましょう」

 「となると、野営の支度が必要か」

 「野営は問題ありませんよ。僕は収納魔法が使えますので、常に準備してありますからね」

 

 予定は決まりましたね。

 流れはこうです。

 タンザまで僕の転移魔法で飛び、そこからラインハルトさんの転移魔法で行ける所まで行き、後は野営を挟みつつ徒歩で移動をして明日サンケへと到着するといった感じです。

 表面上はですけどね。


 「では、サンケに着きましたら、戻ってきますのでセーラさんは宿で待っていてくださいね」

 「はい、お待ちしております」


 セーラを宿屋へと返し、僕とラインハルトさんは早速移動を開始する事になりました。

 まずは僕のお家にですね。


 「この場所の事は内緒ですからね?」

 「ここがユアン殿の家か……驚いた」

 「まぁ、僕のお兄ちゃんとおばちゃんから頂いたお家ですけどね」

 「白天狐殿と狐王アリア様か」


 僕がアリア様と姪とは伝えてありましたが、白天狐……シノさんがお兄ちゃんという事まで知っていたのですね。

 

 「ここは?」

 「ここは転移魔法陣を設置してある秘密のお部屋ですよ」

 「確かに、秘密の部屋だね」


 ここに入るためには僕たちのお家を横断しなければなりません。

 入口から入り、別館二階へ上り、本館へと移動をして、僕達の部屋を通り秘密のスイッチを押して、螺旋階段を降りる。

 ここまでしなければ来れません。

 しかも、魔鼠さん達の監視の目を潜らないといけないので、簡単には来れませんね。


 「しかし、私に教えて良かったの?」

 「はい。ラインハルトさんの事を信用してですよ。裏切ったりしませんよね?」

 「しないよ。そこは安心して、といっても難しいか」

 「まぁ、そうですね。といっても、ラインハルトさんは転移魔法を使えるので、警戒するだけ無駄だという判断ですね」

 「そう言う事ね」


 転移魔法を使える時点で、僕達よりも時間は掛かるにしても、ナナシキへラインハルトさんが来る事が可能です。

 ならいっその事、秘密を共有し、裏切りしにくくした方がいいとの判断をみんなでしました。

 裏切ったら裏切ったでそれまでですし、もし僕たちに何かをしようとして、お家なり領主の館に侵入しようものなら、ラインハルトさんに教えていない魔鼠さんトラップが発動しますからね。

 その時は自業自得になりますね。


 「けど、嬉しいな」

 「何がですか?」

 「ユアン殿と短いとはいえ二人旅だからね」

 「そうですか……ですが、そうは行きませんよ?」

 「え?」

 「だって、直ぐにお家に帰りますからね」

 「どうやって?」

 「えっと、セーラが居たので詳しくは言いませんでしたが、僕は転移魔法で帝都まで飛ぶことが可能で、回数制限も魔力が無くならない限りありません。そして、こういう物があります」


 収納魔法から簡易版の転移魔法陣を取り出します。


 「なので、この後はタンザに飛んで、ラインハルトさんの転移魔法で移動できる所まで行った後は、キアラちゃんの召喚獣に転移魔法陣をサンケ近くまで運んで貰うだけですね」


 なので、僕達の移動はすぐに終わります。

 

 「それじゃ、野営は?」

 「しませんよ。直ぐに帰ってきますのでお家でゆっくりしましょうね」

 「そんな……」


 むしろ喜ぶべきだと思いますけどね。


 「という訳でちゃっちゃと済ませちゃいましょうね。では、その魔法陣に乗ってください」


 という事で、まずはタンザに設置したルリちゃんの元拠点に移動ですね。

 この場所の事も教えていいか悩みました。

 ですが、これからラインハルトさんはアーレン教会から紋章を奪い返すために行動するみたいですからね。

 その時に逃走ルートはあった方がいいと思います。

 なので、一応教えておく事にしました。

 その後は予定通り、ラインハルトさんの転移魔法でタンザとサンケの中間あたりまで飛び、魔鳥さんにお願いし、転移魔法陣を運んで頂きました。

 その時にラインハルトさんに肩を抱かれ飛ぶことになりましたけど……まぁ、それくらいなら許容範囲内ですね。

 飛ぶためだから仕方ないとします。

 

 「では、お疲れ様でした」

 「お疲れ様でした……短い旅だったよ」

 「楽できて良かったじゃないですか」

 「そうだけどさ」


 そんなにショックだったのですかね?

 ですが僕にはシアさんという大事なお嫁さんがいますからね!

 まだまだ新婚さんなのですから、男性と二人きりで旅なんてしていられませんから仕方ありません。

 ですが、夕食くらいは誘ってあげようと思います。

 流石に一人で食事は淋しいですからね。

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