第355話 シアVS聖女

 「なので、出来る事ならばユアン殿にサンケに来て頂き修道女に魔法を教えて頂けませんか?」

 

 セーラは自分が力不足である事を認め、サンケに来るようにお願いをしてきました。

 結局の所、話が堂々巡りですね。


 「先ほども言いましたが、具体的な案を出して頂かない限り、僕は行きませんよ? 折角エメリア様達のお陰もあって僕もルード帝国で堂々としていられるようになり始めているのに、アーレン教会が原因で悪い噂をたてられても嫌ですからね」


 実際の所は気にしませんけどね。

 それでも、陰で悪口を言われるのはいい気分はしませんからね。


 「ですが、このままですとユアン殿は私の助けに応じなかった人としてサンケで恨まれる事になりますよ」

 「それは脅しですか?」

 「いえ、事実を述べたまでです」

 

 んー……この人では話にならなさそうですね。


 「ラインハルトさんはどう考えますか?」

 「私は君たちが正しいと思うよ。アーレン教会に正義はないね」

 「ハルトっ! どうしてそちらの味方をするのですかっ!」

 「私にも私の考えがある。今回は依頼で君の護衛を引き受けただけで、アーレン教会に所属した訳ではないからさ」


 セーラとは話にならないので何となくラインハルトさんに話を振ってみたらまさかの返答が返ってきました。

 

 「いいのですか? 貴女の目的が崩れる事になりますよ?」

 「私の目的? あぁ、王族としての誇りを取り戻すという事を言っているのかな?」

 「えぇ。アーレン協会はアナタのサポートをする事を既に決定しています。その援助を受け取る事が出来なくなるのですよ?」


 へぇ……そんな事になっているのですね。

 けど、それって他人に話してはいけない事だと思いますけど話しちゃっていますけどいいのですかね?


 「別に私はアーレン教会にそのような事を頼んだ覚えはないのだけどね。それに、私は王になりたいのではなく、王族としての誇りを取り戻したい。そう言っているだけだよ」

 「だからこそです。アーレン教会に協力すればその王族の誇りを取り戻す近道となるのです」

 「まぁ、確かにね。私の目的がそこにあるのだから」

 「ならば……」

 「しかし、私には私の考えがある。少なくともユアン殿の心配はわかるし、ユアン殿は条件を提示した。後はセーラとアーレン教会が具体的な対策を提示すれば解決するのではないかな?」


 セーラが唇を噛み締めました。

 味方だと思っていたラインハルトさんにそんな事を言われたのです。これはきついですよね。


 「ですが、今は一刻も争う事態です。具体的な案を示している余裕なんかはありません。ユアン殿、どうかサンケに来て頂けませんか?」

 

 考えれば幾らでも思いつきそうなものですけどね。

 それでもセーラはその案を考える様子もなく、ただ僕にサンケに来るようにお願いばかりしてきます。

 

 「いい加減にする。セーラお前、何様?」

 

 僕はいい加減呆れてしまいましたが、シアさんは違ったようで、どうやらシアさんを怒らせてしまったようですね。


 「誰ですかアナタは? 出来る事なら部外者は黙っていて頂けます?」

 「私はリンシア。ユアンのパーティーメンバー。ユアンを連れていくとなると私達も行く事になる。だから部外者じゃない」

 「いえ、それを認める事は出来ません。来て頂くのはユアン殿だけになります」

 「どうして?」

 「流行り病が流行している場所に人を連れていくわけには行きませんから」

 

 それらしい理由ですね。

 でも、それだとシアさんはもっと怒ると思いますよ?


 「それなのにユアンを連れてこうとするの? ユアンがその病にかかったらどうする? お前に責任とれる?」

 「それは……ユアン殿ならば自身で治す事も可能なはずですので」

 「それが理由? お前、回復魔法は使える?」

 「はい。力不足とは言いましたが、これでも聖女と呼ばれるくらいです。それなりには使えます」

 「そう。なら、今から一人で北の森に行って魔物を倒してこい」

 「何の話ですか? 今はそんな話は関係ありません」

 「ある。お前が言っているのはそういう事。傷ついても自分で治せるなら問題ない。それを証明しろと言っている」


 治せるから問題ない。

 そういう問題ではないのですよね。

 なんか考えが駄目な貴族に似ています。

 壊れてしまったら新しく買えばいい。

 お金ならある。

 何となくですが、そんな事をいいそうなタイプの人だなと思いました。

 

 「そのような無駄な時間は私にはありません。そもそも貴女はユアンさんと同じパーティーメンバーではあるかもしれませんが、私はユアンさん個人にお願いをしているのです」

 「ユアン個人にお願いをしているから私には関係ない。お前はそう言いたい?」

 「そういう事です」

 

 もしかしたらセーラは人を怒らせる天才かもしれませんね。

 そして、今までに出会った誰よりも話が通じない人なのだとわかりました。


 「そう。別にお前に言うつもりはなかったけど、教えてやる。ユアンは私の嫁。だから身内。身内としてそれを許可する訳にはいかない」

 「嫁? もしかして、ユアン殿とリンシアさんは結婚なさっているのですか?」

 「そういう事」


 面倒な事になりそうなので、僕もシアさんとの関係を教えるつもりはありませんでした。

 だって、セーラさんだけでなくラインハルトさんも居ますからね。

 そこを突っついてまた求婚してきそうな気がしたのです。

 ですが、ラインハルトさんは黙ってシアさんとセーラのやり取りを見ているだけで助かりました。

 まぁ、笑っていますけどね。


 「不潔ですね。男女間ならまだしも、女性同士だなんて」

 「そんな事ない。愛し合ってる二人なら問題ない」

 「問題はあります。女性同士で結婚をしてどうなさるつもりですか?」

 「どうするもない。私達が良ければそれでいい。親も周りも納得しているのに、お前にダメと言われる筋合いはない。それとも聖女は未経験? 可哀想な奴」

 「失礼な口を閉じてください。私はアーレン教会の聖女。本来ならば貴方が私と会話を出来るような立場ではありません」


 シアさん聖女を煽りますね。

 まぁ、シアさんは怒っているようで冷静ですね。

 セーラを怒らせて失言させるように仕組んでいるのだと思います。

 その結果、既に二つ失言を漏らしましたね。

 一つは僕とシアさんの関係を否定した事。

 確かに不潔と言いました。

 そこには僕も含まれているので、否定された僕の不信感は更に上がりましたよ。

 そして、もう一つは立場。

 アーレン教会の聖女で、本来ならシアさんが会話できないほど偉いのだと言ってしまいましたね。

 ですが、それを引き合いに出すのは間違いです。

 何せ、僕たちだって爵位を授かっていますからね。


 「それはこっちも一緒。ユアンは王族の血を引いている。爵位は公爵。この意味がわかる? ユアンに正式に面会を希望した? していない。お前たちがやったのは王族を呼び出した。どれだけ不敬な事なのか理解してる?」

 「え、そっちですか? それに僕の爵位は伯爵ですよ!」


 シアさん達のやりとりに口を挟むつもりはありませんでしたが、シアさんがとんでもない事を言いだしてしまったので、思わず口を挟んでしまいました。

 

 「ユアン殿が、公爵……?」

 「そう。アルティカ共和国フォクシア領の王を務める女王アリアの姪だから当然。この間、正式に爵位を授かった。お前がやったこと理解できる?」


 いえ、僕は理解できませんよ?

 僕が公爵?


 「えっと、スノーさん?」

 「本当だよ。ユアンもシアもキアラもサンドラも私も、全員が公爵の位を賜ったよ」

 「もしかして名前を考えろって言ったのは……」

 「はい、私達が爵位を授かったからですね。まぁ、ルード帝国では伯爵の位を授かり、アルティカ共和国では公爵の位を授かった形ですね。本当なら名前が決まった後にユアンさんに報告しようと思っていましたが、早まっちゃいましたね」


 聞いていませんよ!

 そんな事が決まっていたのならもっと早く教えて欲しかったです!


 「別に何も変わらないし気にしなくても平気だよ」

 「変わりますよ! 現にほら……」


 セーラが唖然として、徐々に小さくなってしまっています。

 もちろん実際に大きさは変わりませんよ?

 だけど自分がしでかした事に気付いたようで、借りてきた猫のように小さくなっているのです。


 「ま、勉強じゃない? 私達の事も大して調べずに来たんだからさ」

 「そうかもしれませんけどね」

 「同じことをしないように気をつけようね」

 「しませんよ。相手が誰であろうと、偉そうな態度をとるのは間違っていると思いますからね」


 あ、更にセーラが小さくなりました。

 

 「ユアン、相変わらず止めを刺すのが上手い」

 「え、僕にそのつもりはありませんよ! ただ、間違っているのに気付かずに相手の事を考えずに自分本位で話を進めるのはおかしいとは思いますけど」

 「ユアンさん、流石に言いすぎだよ」

 「完全に止めを刺しにかかってるね」

 

 結局の所、セーラさんが精神的に深いダメージを受けてしまったみたいなので、これ以上は今日の会話は無理との事で、宿屋に引き上げていきました。

 これで諦めるか、具体的な対策を考えてくれればいいのですけどね。

 そうすれば僕だって苦しんでいる人の為に力を迷わずに振るう事ができます。

 

 「それにしても無駄な時間になってしまいましたね」

 「そうだね。だけど、あの手のタイプは変わらないだろうね」

 「そうですね。アーレン教会の上層部がまともなら可能性はありますけどね」

 「無理。聖女を育てたのがアーレン教会なら上層部も同じ馬鹿。自分たちの利益しか考えていない」


 そうなりますよね。

 僕はユーリお父さんとアンジュお母さんの子供ですが、性格をみれば二人にあまり似ていないと思います。

 それはきっとオルフェさんという第三のお母さんに育てられたのが要因ですね。

 育った環境というのはとても大事な事なのだと僕は思います。


 「ま、後は明日聖女たちがどうでるかだね」

 「無理はものは無理で通しましょう」

 「それでいい。それで恨まれても原因はアーレン教会。私達が悪く言われる筋合いはない」

 「そうですね。一応アリア様に報告しておきますね」

 「それじゃ、私はエメリア様とアンリ様に伝えておくよ」

 「一応ローゼにも言っとく」

 「そうだね。味方は大いに越したことはないですからね」


 何だか周りを巻き込んでいるようで申し訳ないですが、頼っていいと言われていますし、頼れるところは頼らせて頂きましょう。

 そんな感じで二日目の対談は終わりました。

 そして、運命の三日目。

 聖女たちがどう動くか楽しみですね。

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