第353話 弓月の刻、聖女たちの対談を振り返る
「スノーさんお疲れ様でした」
「ありがとう。ちゃんと、話は聞いてた?」
「はい! スノーさんカッコ良かったですよ!」
「スノーは頑張ってた。偉い」
「ふふっ、ありがとう」
勇者と聖女との対談を終え、僕たちは帰宅しました。
そして、今日の話を纏める為にリビングへと集まり、早速今日の事について話し合いが始まりました。
「それで、ユアンはどう思った?」
「そうですね……」
正直な所、何とも言えないというのが僕の応えです。
聖女の言っている事は自分勝手ではありますが、人を救うための行動と考えたら間違ってはいないとは思います。
「とりあえずラインハルトさんはまともな人だとは思いました。あの場ではですけどね」
「あの場? 他に気になる点があったって事?」
「はい……えっと、領主の館に向かっている最中に一度会話をしたのですが……」
うー……これって言っていいのでしょうか?
「どうしたの? 何か言いにくい事でもあった?」
「はい……えっと、シアさん怒らないでくださいね?」
「うん。怒らないから平気」
「約束ですよ?」
「うん」
「えっとですね……チヨリさんのお店でサンドラちゃんと三人で観察していたらラインハルトさんが……」
いきなり僕たちの方に向かって来て求婚された事をみんなに伝えました。
「そう。ラインハルトはいい目をしてる」
「怒らないのですか?」
「なんで? ユアンは魅力的だから仕方ない。それに、ユアンは求婚されただけ。既婚者である事も言った。問題ない」
良かったです。もしかしたら、シアさんなら怒るかと思いましたが大丈夫なようでした。
「でも、いきなり求婚か……。真面目な性格にみえてそうでもないのかな?」
「うかもしれないですね。結婚が駄目なら下僕でもいいと言っていたのでふざけていたかもしれませんし」
凄く真剣な顔でしたけどね。
「ま、ラインハルトの方はいいよ。あの感じだとただの護衛って感じだったからね。問題はセーラの方かな。ユアンはどう感じた?」
「セーラですか? んー……やっぱりいい印象はないですね」
「セーラ……ね? うん、ユアンがそう言うのならやっぱりいい人ではないかな」
「え、いい印象がないだけで悪い人とは言っていませんよ?」
「でも、ユアンさんがセーラさんをセーラと呼んでいるので、多分いい人ではない事は間違いないよ」
「うん。ユアンが呼び捨てにする人は大体が悪い人」
「それか嫌いな人だね」
「そうなのですか?」
「うん。オリオ、ナターシャがいい例。ユアンはあいつらが悪人だって見抜いてた」
「オメガとは敵対していたのにオメガさんだしね」
自分でも気づきませんでしたが、どうやら僕にはそういった傾向があるようですね。
「でも、それって僕の勘みたいなものですよね? 宛にならないですよ」
「そんな事ないよ。ユアンさんは人の目を気にして生きてきたから、そういうのを見分けるのが上手だと思うの」
まぁ、それはあるかもしれませんね。
この人と関わったら忌み子の事を突っついてくるだろうなとかは何となくわかったりしますね。
「けど、マナは悪人ではないと思いますよ?」
影狼族のマナはシアさんの友達ですけど、思い返すとマナさんではなく、マナと呼んでいた事を思い出しました。
「マナにシアをとられると感じているからじゃない?」
「そうかもですね。マナさんはシアさんに好意を抱いているのがわかりますから」
「そうなのですか?」
「知らない。マナはマナ。ただの友人」
「ま、シアはユアンにしか興味ないからわからないだろうけど、私達から見たら好意を抱いているように見えるよ」
「それも恋愛の方でですね」
それで僕はマナの事が嫌い……というよりも苦手なのですね。
まぁ、僕に風当たりが強いというのも理由ですが、風当たりが強い理由もわかった気がします。
「とりあえずその件は置いておいて、問題はセーラだね。明日はユアンには最初から居て貰うつもりだけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
「私は?」
「シアさんも一緒に居て貰いたいですね。ラインハルトさんがユアンさんに求婚した件もありますし、そうなったらシアさんの出番になりそうですからね」
「そうだね。ユアンだと勢いに呑まれそうだし」
そんな事ないですけどね。
今日だってちゃんとラインハルトさんの求婚を断りましたし。
「なーなー? 私はー?」
「サンドラちゃんは申し訳ないけど待機ですね」
「なー……また仲間外れだなー」
「仲間外れじゃないよ。聖女と勇者だし、サンドラの事を一目見ただけで龍人族と見抜く可能性は高いからね」
それだけの力があってもおかしくありませんね。
何せ聖女は魔眼持ちのようですし、情報を隠す事は可能ですが、どこからバレるかはわかりません。
「仕方ないなー。後で構ってなー?」
「はい! 今日は一緒に寝ましょうね」
「なら明日は私達とだね」
「たまにはみんなで寝るー」
「それもいいかもですね」
「ユアンの横は私」
「シアさん、たまにはユアンさんの隣を譲ってくださいよ」
「ダメ。ユアンは私の嫁。譲れない」
「なら、せめてモフモフさせてくれない?」
どうして僕の横で寝たがるのでしょうか?
結局の所、いつも通りの配置になりました。
右からシアさん、僕、サンドラちゃん、キアラちゃんスノーさんの順ですね。
「こうやって寝るのも久しぶりですね」
「ユアンとシアが結婚してからだと初めてだね」
「次は私達ですね」
「その前にキアラの両親に報告する必要がある」
「大変そうだなー」
そうですね。
いつだって僕たちの進む道の先には困難が待ち受けています。
ですが、それは僕たちだけではありません。
未来に向かって進もうとする人はみんなそれと戦い、それを乗り越えているのです。
「ユアン、明日は大変な一日になる」
「はい、わかっていますよ」
「うん。だからしっかり休む」
「はい。シアさんの隣ならいつでもぐっすり寝れるので大丈夫です」
変な感じですね。
あ、みんなで寝ているのがって事ではないですよ?
なんというか、聖女たちと明日対談をすると考えると何だかソワソワするのです。
シアさんはそれを察してくれ、僕をぎゅーっとしてくれました。
いつもの事ですけど、いつもよりも熱く感じます。
『シアさん、実はラインハルトさんの件で嫉妬してました?』
『それはする。私のユアン。当たり前』
『そうなのですね』
『けど、ユアンも一緒。ずっとマナに嫉妬してた』
『そうかもしれませんね。だって、ズルいですよね? 僕の知らないシアさんの事を知っているのですから』
『平気。マナの知らない私の事、ユアンはいっぱい知ってる』
『それでもですよ。僕がシアさんの事を過去も今もこの先も、一番知っていたいですからね』
『私も同じ。ユアンの一番の理解者でいる。だから安心して眠ると良い。明日何があっても私が助ける』
『はい、頼りにしていますよ』
スノーさん達を起こさないように念話で会話をしていると自然と瞼が重くなってきました。
そうです。
シアさんだけでなく、僕には沢山の仲間がいます。
何も心配する事はありませんでした。
今は明日に備えて眠るべきですね。
『シアさん……』
『うん、こっそりと、ね?』
まぁ、スノーさん達はもう寝ているでしょうし大丈夫ですよね?
恒例となったおやすみのキスをひっそりと交わし眠りにつきました。
そして、翌日。
僕と聖女との対談が始まったのです。
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