第352話 スノーVS聖女
「それにしても、偉そうな態度ですね」
「教会の重要人物なんてそんなものさ」
「神の使いだと勘違いしている人達の集まりですからね」
アーレン教会の事は全然知りませんが、スノーさんに対しても敬意を払っている様子もなく、最初から自分本位で話を進めている事から、僕は偉そうな人だなと感じました。
「実際の所はどうなのですか? アーレン教会の立場ってルードですと重要なのですか?」
「別にそんな事はないよ。確かに、アーレン教会の本部のある街は国境が近い場所という事もあり、ルード帝国からすれば重要な場所ではあるけど、あくまで街が重要なだけでアーレン教会自体はあってもなくても困らない存在かな」
「そうなのですね」
そうだとしたらある意味あの聖女は凄いですね。
最初こそ世間話から始まりましたが、スノーさんがナナシキを訪れた理由を聞いた途端に待ってましたと言わんばかりに話し始めましたね。
「けど、本当なのですかね? サンケの街で流行り病が広まっているって」
聖女が訪れた理由はそこにあったようです。
聖女の名前はセーラ。どうやら貴族ではあるみたいですが、家門名は名乗らず、聖女セーラとだけ名乗りました。
そしてセーラはアーレン教会でも高い地位にいて、今回はアーレン教会の代表としてナナシキを訪れたようです。
「どうだろうね。嘘でも本当でもすぐに確かめる術はないからね」
「シノさんがサンケに行って確かめる事は出来ませんか?」
「出来ないよ。僕もサンケには行った事ないからね。まぁ、例え行けたとしても流石にそれは断らせて貰うよ。もし流行り病が本当なら病気を持ち帰ってしまうかもしれないからね」
正しい選択ですね。
流行り病というくらいです。きっと感染力が高く、もしかしたらナナシキでも広まってしまう可能性がありますからね。
僕なら治せるかもしれませんが、発症してしまうと高熱を出し、徐々に衰弱していってしまうみたいなので、特にアカネさんが流行り病にかかってしまったら大変です。
発症して直ぐに治したとしても、治すまでに失った体力は元に戻す事は出来ません。
そうなると、お腹の子供に影響を及ぼす可能性だって出てきます。
「けど、どうして僕なんですかね? 僕が病気まで治せるだなんて知らない筈ですけど」
僕は病気を治すところを人に見せた記憶は正直ないのですよね。
それなのに、セーラは僕が病気を治せるのだと知ってナナシキに訪れた様子です。
「それは、君のお母さんの情報から治せる可能性を見出したからじゃないかな?」
「確かにその可能性はあるかもしれませんね」
お母さん達を陥れようとしていたくらいですし、お母さん達の事は色々調べていた可能性があります。
そして、その情報が今も残っているとしたら十分にありえますね。
「ですが、僕がお母さん達の子供という確証はないですよね?」
僕ですらお母さん達の存在を知ったのは割と最近の事です。
「確証はなくてもってとこじゃないかな?」
「確証がないのに、あんな遠い場所から来ますかね?」
それこそ無駄足になる可能性だって十分にありえます。
流行り病を治すためだったらもっと確実な方法を見つけるのが得策だと思います。
それこそ腕のいい薬剤師を探せばそれで解決する可能性だってあり得るはずです。
「確証がなくともユアンさんの元を訪れる理由なら十分にありえると思いますよ」
「どうしてですか?」
「シノ様から聞いた話ですと、帝都でユアンさんは人々を癒したと聞きました」
「あの時ですね。確かに癒しましたけど、それがどう関係しているのですか?」
「わからないのかい? 君の使った魔法は傷だけでなく、ウェルの呪いとも呼べる類の魔法も解除した」
「その話が伝わったという事ですか?」
「そうかもしれないね。その他にも協会関係の人物があの場に居たとしたらどうだろう?」
もしその人が風邪などに掛かっていたとして、それがあの魔法で治ったとしたら、お母さん達の子供とか関係なしに僕を探したという事に繋がりますね。
「面倒な事をしてしまったみたいですね」
「後悔しているのかい?」
「それはしていませんよ。面倒な事になってしまいましたけど、僕が面倒なだけであって助かる命が助からない方が嫌ですからね」
「君の方がよっぽど聖女らしい考えだ。いっその事、君が聖女になったらどうだい?」
「それは嫌ですよ。僕は冒険者ですからね」
何よりも聖女を名乗るのならばアーレン教会に入らなければなりません。
他にも教会があるかもしれませんが、宗教に入るのは僕は面倒なので嫌ですね。
「ま、それがいいと思うよ。今の聖女を見ていればわかるだろうけど、君もああはなりたくないだろうしね」
「そうですね」
何というか、スノーさんと話すセーラは余裕がないというか、自由がないように思えます。
常に自分の事、アーレン教会の事を考えてばかりいる。
そんな感じがするのです。
「なんか、悲しい人って感じですね」
表情は変わらず、淡々と話す姿をみて僕はそう思いました。
常に感情を押し殺し、アーレン教会の為に働いているようにしか見えないのです。
「実際にそうだろうね」
「聖女は女神の化身とも言われています。勝手な行動は許されないのでしょう」
そんな生活は楽しくないでしょうね。
まぁ、本人が望んでいるのならいいと思いますけど、僕はシアさんや仲間たちと仲良く楽しく暮らし、自由気ままに生きる生活を望んでいます。
今のセーラとは別の生き方になるでしょうね。
「でも、おかしな話だね」
「何がですか?」
「君は疑問に思わないのかい? 聖女の行動についてね」
「疑問にですか? 別に流行り病を治すためにナナシキに来たのですよね?」
それが本当の目的だったらおかしくはないと思います。
それは聖女としては正しい行動ですからね。
「そうじゃなくて、ナナシキに着いた時期がだよ」
「時期ですか?」
「うん。流行り病が流行り始めたのは、一月ほど前と言っていたよね?」
「スノーさん達の会話ですとそうですね」
シノさんと話しながらですけど、スノーさん達との会話は聞いています。
そんな会話をしているのを僕も聞きました。
「なのにだよ? ナナシキに到着している。おかしいと思わないかい?」
「あ、確かにそうですね」
サンケという街はタンザから北に向かい、魔族領の近くにあり、ナナシキから凄く離れた場所にあるのです。
それなのにナナシキへと到着している。
タンザからトレンティアまで馬車で一か月もかかるのに、それよりも遠い場所にあるサンケからナナシキへと到着しているのはあまりにも移動が早すぎますね。
「それに、聖女と勇者の二人で行動している。これもおかしな話だ」
「それもそうですね。アーレン教会の重要人物なのに護衛が一人だなんて考えられませんよね」
アンリ様から頂いた情報もフォクシアの都からナナシキへと向かっている最中も常に二人で行動していたのは知っています。
『失礼だが、ここまでどうやって来たのでしょうか? セーラ殿の説明ですと不可解な点が多すぎて信憑性に欠けますね」
どうやら同じ疑問をスノーさんも持ったらしく、セーラに疑問を投げかけました。
『それは私の力だ。私は転移魔法を使う事が出来る。国境まではそれで移動した』
そして、スノーさんの質問に答えたのはラインハルトさんでした。
『そうでしたか。それでしたら、たった二人で行動していた理由も納得できますね』
驚きました。
なんとラインハルトさんは転移魔法も使えるのですね。
ただし、一度に移動できるのは二人までと制限があるようで、移動できる距離も遠くまでは移動できないみたいです。
それに加え、魔力を多く消費するみたいなので連続して使用する事も出来ない為、街から街を移動したら暫く休み、それを繰り返して移動の時間を短縮したとの事ですね。
「それが本当かもわからないけどね」
「まぁ、そうですね」
本来ならば転移魔法を使える事は隠した方がいい事です。
それを敢えて公表したくらいですし、裏があってもおかしくありませんね。
「ま、僕たちも使えるとわかっているだろうから隠す必要がないって所だろうね」
「どうしてバレてるのですか?」
「帝都にいた僕たちがもう戻っているからだよ」
当たり前の理由でしたね。
帝都からナナシキまで普通に移動するとなると半年近くはかかります。
しかも、何事もなく順調に進んで半年なのです。
それなのに僕たちが戻っているとなれば転移魔法を使えると考えるのが妥当で、だからこそ隠す必要もないと考えたのかもしれませんね。
『それよりも、黒天狐殿にはいつ合わせて頂けるのですか?
『あなた方が信頼における人物だと納得出来たらですね』
『私達が信頼出来ない、そう仰られているのですか?』
『えぇ、あなた方が探している人物は私の仲間であり、この街の象徴でもあります。アーレン教会の象徴である貴方であればその重要性がよくわかると思いますが如何でしょうか?』
スノーさんの方からも色々と探りをいれているせいか、聖女が痺れを切らしたようですね。
僕に早く会わせろとスノーさんに言っています。
『スノー殿のご意見は御尤。ですが、今も病に苦しみ、命を落とそうとしている人々がいるのです』
『えぇ、それは理解できます。しかし、あなたは聖女だ。それこそ自らの力でどうにか出来ないのですか? 聖女と名乗るくらいだ、それだけの力があるのでしょう?」
僕もスノーさんの意見に同意ですね。
僕を探す前にアーレン教会でやれる事は山ほどあると思います。
聖女を送り使いに出さなくても他の人物をナナシキへと送り、聖女は人々を癒すために奔走する方が病にかかった人が助かる可能性が高くなると思いますね。
『黒天狐殿の力をお借りする事がより確実だと判断したまでです』
『そうでしたか。セーラ殿では力及ばずと?』
『そうは言っておりません。ただより確実な方法を選択したまでです。私と黒天狐殿が力を合わせれば最善な結果に辿り着くと思っているだけです』
僕より下とは認めないのですね。
まぁ、僕が上という保証もありませんけど、あくまで僕の力を借りたいだけで、自分では何もできないとは認めないようですね。
それならば、自分でどうにかしろと言いたくなりますね。
『それよりも話を逸らさないで頂けます? 私達の求める人物は貴女ではなく、黒天狐殿なのです。それとも、この間に命を落とす者の責任を貴女がとってくださるのですか?』
『責任ですか? それはとれませんよ』
『それなら……』
『早く合わせろですか? ふざけるのも大概にして貰える? そもそもそうなった責任は貴女方、もしくは街の領主にあるのですからね。それを私がユアンに合わせないのなら責任を持てだなんておかしいって思わないの? そんな人に責任という言葉を使われる筋合いはないと思うんだけど。本当に街の人が大事ならばどうして頭を下げてお願いしないの? 私なら迷わずするよ、ナナシキは私一人の街じゃない。私が居なくなってもどうにかなる。だけど、街の人がいなくなったらナナシキはナナシキでなくなる。私にとって街の人とはそういうものなんだけど? それとも頭を下げてお願いする。これだけの事もできないのかな?』
珍しいですね。
スノーさんが反論する暇も与えないほど捲し立てて話しました。
「スノーさんかっこいいですね」
「うん。よく言った」
「それだけ街の領主であるって責任が生まれてきたのだろうね」
「スノー様も成長されています。当然です」
まぁ、ルード帝国とフォクシア両国の元宰相に仕事などを教わっていますからね。
嫌でも色々と身に付きますよね。
『スノー殿、セーラの失言、大変失礼致しました』
スノーさんの言葉にセーラは唇を噛み締めうつむきました。
その代わりに口を開いたのはラインハルトさんで、セーラに代わり、ラインハルトさんが頭を下げました。
『構いませんよ。私こそ、感情を露わにして申し訳なかった』
『いえ、スノー殿の言葉は正しい。国ありきの人ではなく、人あってこその国。私も同じ考えですから』
ラインハルトさんはまともな人みたいですね。
あ、別にセーラがまともじゃないって訳ではないですよ?
まぁ、自分勝手な人だとは思いますけどね。
ただ、流行り病を治すために行動しているとしたらそれだけはまともな考えだと思います。
真意がまだわからいので何とも言えませんけどね。
結局の所、ラインハルトさんの執り成しのお陰もあり、場は落ち着き、旅の疲れもあるとの事で今日の所はここでお開きとなりました。
明日、改めて対談の場を設けるとの事ですね。
「僕の出番ありませんでしたね」
「それでいいんだよ。情報を集めてからの方がいい」
「まぁ、そうですけどね」
「それに聖女の性格は何となくわかったでしょ?」
「そうですね」
「それだけでも収穫さ」
だからといって僕がその性格を利用して何か出来るとは思いませんけどね。
ただ、セーラとは反りが合わないだろうとは思いましたね。
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