第351話 補助魔法使い、シノの名前の由来を知る

 「呼ばれたと思ったらまたこの部屋で待機ですか」

 「対談の様子を見れるしいいんじゃない?」

 「状況が見れるからいいですけどね。それよりも何でシノさんまで居るのですか?」

 「さぁ? まぁ、解説役って事で一つよろしく頼むよ」


 チヨリさんとサンドラちゃんとお昼を堪能し、暫くすると魔鼠さんから連絡があり、領主の館へと向かいました。

 そして、案内された部屋は以前オーグとスノーさんが対談の様子を眺めていた部屋でした。

 魔法道具マジックアイテムで対談の様子を見る事が出来るあの部屋ですね。


 「そういえば、改めてですけど結婚おめでとうございます」

 「ありがとう。ユアン達もね。あれから生活はどうだい?」

 「凄く幸せですよ」

 「それは良かったです。シノ様と共に計画した甲斐がありました」


 そして、シノさんの他に今日はアカネさんもいました。

 以前はスノーさん達と共にオーグの相手をしていたアカネさんでしたが、今日はオルフェさんがスノーさん達のサポートに回ってくれているので、こっちでシノさんと一緒に解説をしてくれるみたいです。


 「シノさんもアカネさんも幸せそうで何よりです。けど、これから大変そうですね。もう少しで子供が生まれるのですよね?」

 

 アカネさんのお腹はかなり大きくなってきましたね。

 

 「そうですね。予定では二が月は掛からないでしょう」

 「二か月なんてあっという間ですね」

 「はい。少し怖いですけどね」


 確かに怖いですよね。

 赤ん坊とはいえ、それなりの大きさのある人が自分の体から生まれてくるのです。

 血もいっぱい出るでしょうし、それに伴う痛みも凄いと聞きました。

 まさに命懸け。

 中には子供を産んでそのまま亡くなる方も少なからずいるらしいので、アカネさんが怖いというのも頷けます。


 「その時は君にも手伝って貰うかもしれない」

 「はい。僕に出来る事は限られていますけど、痛みを和らげたり、回復魔法などでサポートさせて頂きますよ」

 「助かります」

 「宛にしてるよ」


 まぁ、それ以外は見守る事しか出来ませんけどね。

 ですが、この街にはチヨリさんという出産のサポートをするスペシャリストがいますし、メインのサポートはチヨリさんにやって頂くことになると思います。

 流石長い事生きているだけあってか、そういった知識も高く、この街で生まれた子供の出産には全て携わってきたと言っていました。

 

 「それで、名前はもう決めたのですか?」

 「僕たちのかい?」

 「違いますよ。子供の名前です」

 「そっちか。うん、もう決めてあるよ」


 シノさんも爵位を授かるというので、家門名を考えているのは知っています。

 当然ですが、その名前も気になります。

 しかし、それ以上に気になるのは二人の間に生まれた子供名前です。

 家門名は自分たちで考えた名前なので、自分たちで決める事が出来るのに対し、僕で言えばユアン。これは親に与えられた名前ですので自分で決める事は出来ません。

 まぁ、シノさんは自分で改名したのでそれに当て嵌まりませんけどね。

 

 「どんな名前にするのですか?」

 「うーん……アカネ?」

 「はい、ユアンさんにならいいと思います。ユアンさんの姪にあたる子供ですので、私としては生まれる前から大事に思ってくださると嬉しいですので」

 「そうだね。ただし、まだみんなには内緒だからね?」

 「わかりました! 絶対に言いません!」


 まだみんなには内緒のようですが、教えて頂けるみたいです!

 今の所、子供の名前を知っているのは、シノさん、アカネさん、ルリちゃんとこの三人だけでそこに僕が加わるみたいです。

 みんなが知らないのに僕が知れるってちょっと嬉しいですよね!


 「約束だからね? 子供の名前はヒイロだよ」

 「ヒイロですか?」

 「はい。私達との繋がりを考え、そう名付ける事にしました」


 可愛い名前ですね。

 ヒイロちゃん、ヒイロくん。

 生まれてくるまで男の子か女の子なのかわかりませんが、どちらでもいい名前ですね。


 「ですが、繋がりですよね? どういった繋がりがあるのですか?」

 「それは色だよ」

 「色ですか?」

 「うん。僕もそうだけど、アカネもルリも全て色に関係している。それも空の色にね」


 倭の国の言葉らしいですね。

 

 「アカネは夕焼けを差し、ルリは夜明け前を差すのさ。僕もそれにちなんで自分の名前をつけたんだよね」

 「シノという名前にはそういう意味があったのですね」

 「そうだよ。正確には東雲しののめという夜が明け始めた頃合いを差す色だね」


 アカネさん、ルリちゃん、シノさんと繋がっているのですね。


 「素敵ですね!」

 「そう言って貰えると嬉しいよ」

 

 名前でも繋がった意味があるなんてすごく素敵だと思いませんか?

 そして、その繋がりから生まれた子供の名前がヒイロ。

 倭の国では家族愛や燃える思いなどそういった意味もあるのだとシノさん教えてくれました。


 「きっと生まれてくる子供は幸せですよね」

 「困難もあるかもしれませんけどね」

 「まぁ、そうですよね。でも、この街では関係ありませんよ」

 「そうだろうね。だけらこそ、子供を健やかに育てられるようにアルティカ共和国に移住する事を決めたんだけどね」


 ルード帝国では人間と獣人の間に授かった子供が忌み子とされていました。

 その話は黒髪と白髪を持つ子供が忌み子とされていましたが、それ以外にも獣人と人間の耳を持つ子供も忌み子とされていたようで、今でこそその認識は薄れてきましたが、場所によっては深く根付いている場所もあると言います。


 「特にアーレン教会の教えが広まっている街なんかがそうだね」

 「そうなのですね」

 

 まぁ、僕のお母さん達を陥れようとしたくらいですし、忌み子に対して風当たりが強いのは想像つきますね。


 「アーレン教会ってそもそも何なのですか?」

 

 実際の所、アーレン教会が何なのかよくわかっていなかったりもします。

 教会というくらいですので、神様を祀り、その教えを広めているというくらいは知っていますが、どんな活動をし、どんな神様を祀っているのかは全然知らなかったりもします。

 

 「女神を祀る、宗教団体だよ。表面上はね?」

 「表面上は、ですか?」

 「うん。中身は金稼ぎの為に民衆を騙し、洗脳する腐った宗教団体かな? 今はね」

 「今はというと、昔は違ったのですか?」

 「はい。私達が生まれる遥か前は慈善団体として活動していたと聞いております」


 それこそ僕のお母さん達がルード帝国で活躍していた頃に遡るようで、その頃からアーレン教会は変わってしまったようです。

 女神様からの祝福を受け、聖魔法で人々の傷や病気を癒し、命の大切さを説いていたのが昔のアーレン教会だったらしいです。

 それがお母さん達の時代の頃辺りから、傷や病気を癒すのにも莫大なお金を要求するようになったみたいです。

 しかもですよ?

 貴族などには少額で引き受けるのに対し、一般市民など位が下がるにつれて沢山のお金を要求するようになったみたいです。


 「酷い話ですね。命の大切さを説いている人達だとは思えませんね」

 「本当にね。だからこそ、ユーリやアンジュが邪魔だったんだろうね。あの二人が居る限りはアーレン教会の懐が潤う事はないだろうから」


 聖女の格が下がってしまうのを問題視し、お母さん達を陥れようとしていたのだと思いましたが、それよりももっと酷い理由でお母さん達を陥れようとしていたのですね。

 どちらにしても許せない理由ではありますが、お金を儲けたいが為に人を陥れようとするなんてもっと許せません。


 「まぁ、だからこそ衰退していったんだけどね」

 「当然ですね。因果応報ってやつだと思います」


 今のアーレン教会の立場というのはあまり良くないらしいですね。

 お母さん達を陥れようとした結果、民衆の怒りを買い、頼られるどころか追い出そうとする動きが民衆の中であったようです。

 その結果、次々と教会は潰れていき、残った教会は本部があった街のみになってしまったみたいです。


 「その街は何処にあるのですか?」

 「タンザから北に進んだサンケという魔属領に近い街にあるね」

 「そんな場所にまで追いやられてしまったのですね」

 「元々の本部だから追いやられたのとは少し違うけどね」


 そうかもしれませんが、それでもルード帝国の端っこと考えると立場的には低そうですね。


 「それがそうでもないんだよね」

 「どうしてですか?」

 「国と国の境にあるからだよ」

 「えっと、辺境だからって事ですか?」

 「そういう事。トレンティア程ではないにしろ、それなりに街の意味としては重要な場所だね」


 それも魔属領に近いですからね。

 となると、少し面倒かもしれませんね。


 「下手すると魔族と協力している可能性もありえてきますね」

 「可能性というかほぼ確実にだね」

 「これは昔から言われていますが、内部は魔族に乗っ取られているという噂があります」

 「対策はしないのですか?」

 「それこそ巧妙に隠されていてね。帝都から距離も離れていて、魔族領も近いという理由から重要な人物を送る事は出来ないんだ」

 「暗殺される可能性も十分にありえましたからね」


 内部調査をする為には嘘偽りのない情報を持ち帰るために信頼できる人物を送る必要があるのですが、暗殺の恐れや拘束されて洗脳され、逆に帝都の情報を盗み出される可能性が高いみたいですね。

 

 「そこに勇者が加わっているとなると、かなり面倒な事になっていそうですね」

 「間違いなくね。目的が何にせよ、警戒だけはしておくべきだね」

 「スノーさん達は大丈夫ですかね?」

 「大丈夫ですよ。オルフェ殿もついていますし、スノー様もキアラさんも成長していますから」


 一番近くでスノーさんとキアラちゃんの事を見てきたアカネさんがそう言うので大丈夫だとは思いますが心配ですね。


 「それよりも自分の心配をした方がいいんじゃないかな?」

 「そういえばそうでした。目的は僕でしたね……」


 忘れていましたが、勇者と聖女はスノーさん達に会いに来たのではなく、僕を探しに来ていたのでした。

 

 「となると、アカネさんとシノさんが一緒に居てくれるのはありがたいですね」

 

 僕一人でスノーさんと聖女たちの話を聞いても意図などを読み取れない自信があります。

 ですが、二人なら聖女たちの話の矛盾点などに気付き、おかしな点を教えてくれる可能性があります。


 「さて、そろそろ聖女たちが入室してくるだろうし、雑談はここまでだ」

 「はい、一語一句聞き逃さないようにします」

 「それは危険です。聞くことばかりに集中せずに考える事を優先してくださいね」

 「わ、わかりました」


 聞いているだけではダメだと注意されてしまいました。

 当然、話は聞きます。

 その中で、話の矛盾点に気付けという事ですね。

 難しいですね……。

 

 「お待たせ。まだ始まってない?」

 「あ、シアさんも来てくれたのですね!」

 「当然。私のユアンに用があるなら私も一緒」

 「有難いね。リンシアの勘は宛てになるからね」

 「そんな事ない。シノたちの事を宛にしてる。私はオマケ」


 そうは言いますけど、シアさんは勘が良いというよりも察しがいいですからね。

 いつもいち早く相手の意図を察してくれます。

 なので凄く頼りになります。

 何よりも、聖女達と会う時についてきてくれると言いました。

 それだけで安心できますよね!


 「ま、君たちの惚気のろけはそこまでにして、今は話を聞こうとしようか」

 「別に惚気てなんていませんけどね」

 「これが私達の通常」

 「それならいいんだけどね。後で話を聞いていなかったっていうのはなしだからね?」


 流石にそんな事はしませんよ。

 っと、そんな事を言っていたら聖女たちが入ってきましたね。

いよいよまずはスノーさん達との会話です。

 話は自己紹介から始まりました。

 まずは、聖女と勇者が名乗り、その後にスノーさん達が名乗ります。

 その時にスノーさんが握手を交わそうとしましたが、聖女はそれを拒みました。

 何でも、聖職者である自分は清くなければいけないという理由で。

 スノーさんが汚いと言っている訳ではないと補足をしましたが、いきなり失礼ですよね?

 スノーさんは笑顔で対応していますが、凄いですよね。

 僕だったら顔に出てしまう自信がありますよ。

 何にせよ、対談は少しピリついた状態から始まりました。

 一体どうなるのでしょうか?

 僕は呼ばれるその時をジッと待つのでした。

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