第348話 補助魔法使い、ローゼと話す

 「今回の納品はこれで大丈夫ですかね?」

 「うむ。問題ない。いつもすまんのぉ」

 「いえ、お仕事ですからね。僕達もローゼさんのお陰で助かってますよ」


 今日もポーションの類を納品をするためにトレンティアを訪れ、無事に終えることも出来ました。

 

 「そういえば、今日はローラちゃんはいないのですね」

 「うむ。ユアンが来たと知ったら、勉強を放り出してしまうからな」

 「そ、そうですか」

 「なんだ、ローラに会いたかったのか?」

 「いえ、そうではありませんよ。ただ、最近のローラちゃんはやたらと積極的なのでちょっと安心しただけです」


 シアさんと結婚式を挙げた日、トレンティアからもローゼさんとローラちゃん、そしてフルールさんも来てくれていました。

 そして、その日を境に以前にも増してローラちゃんからのスキンシップが増したようにも思えるのですよね。

 僕の尻尾を撫でるように触って来たり、隣に座る時もやたらと距離が近かったり……。

 まぁ、前に一度告白、というよりも宣言されているので理由はわかりますが、あまりにもぐいぐい来られるので、ちょっと困惑してたりもします。


 「うむ。それもあって今日は家で大人しくさせておるからな」

 「それで今日は僕達のお家で話そうと言ってくれたのですね」

 

 どうやら僕を気遣ってくれたみたいですね。


 「そうじゃな。ローラが居たら大事な話を邪魔されかねないからな」

 「大事な話ですか? もしかして、ローゼさんが王様になる事ですかね?」

 「なんじゃ、もう伝わっていたのか、つまらんのぉ」

 「スノーさんから教えて頂きましたよ。遅くなりましたが、おめでとうございます」

 「うむ。ありがとう。儂としては面倒でしかないがな……これでは後の事を娘のロールに任せ隠居も出来ん」


 まぁ、仕方ないですよね。

 

 「それで、これからお城でも建てるのですか?」

 「そんな無駄な事はせぬよ。トレンティアはトレンティアのままでいる。そっちの方が美しいじゃろう」

 「僕もそう思います」


 大きな湖のほとりにお城があるのも美しいとは思いますが、そこにお城があるという事は、人も沢山集まるという事にも繋がりますので、自然豊かな静かな湖が賑やかになってしまうのはちょっと残念でしたが、そのつもりはないようなので安心しました。


 「ま、手続きはこれからじゃし、何も焦る事はない」

 「公国になるのはまだ先なのですね。えっと、その場合は改めて色々と手続きが必要になりますよね?」

 「本来ならな。じゃが、ユアン達が気にする事は一つもない。今までどおりの関係を築いてくれればよいぞ。儂も変に敬られるのは面倒だからな」


 良かったです。

 何だかんだいって、色んな王族の人と関わるようにはなりましたが、それでも未だに緊張する気持ちというのは消えません。

 まぁ、アリア様は別ですけどね。

 

 「それで、これからどんな感じにトレンティアは変化してくのでしょうか?」

 「何も変わらぬよ」

 「そうなのですか? それでも一つの国となる訳ですし、そのままって訳にもいきませんよね?」

 「まぁな。じゃが、本質は変わらぬ。ただ街から国へと格があがった。ただ、それだけじゃよ」


 そうは言いますけど、街と国とでは大きな違いがあります。

 もちろん所属はルード帝国の属国となりますけど、一つの国となる訳ですから、独自の法律が制定する事も可能となりますよね?


 「出来るが、今はそんな事はしないぞ」

 「どうしてですか?」

 「それがエメリア様との約束でもあるからな」


 ローゼさんの話だと、今回トレンティアが公国として認められた背景にはハーフエルフの地位の向上が狙いであったようです。

 

 「そんなにハーフエルフって立場が低かったのですか?」

 「そんな事はないが、中には偏見を持つ者もいるからな。エメリア様は差別のない国造りを目指している。じゃから、一番わかりやすい派閥の中心であった儂の街を公国にしたって訳じゃよ」


 ハーフというのは半分という意味があります。

 つまりは何かと何かが混ざり合っている事をさしていて、ハーフエルフでいえば、人間とエルフの血が半分ずつ混ざっているという事になります。


 「差別のない国造りですか……とてもいい事ですよね」

 「そうじゃな。その代わり、かなり大変だとは思うがな」

 「そうですよね。僕も凄く苦労しましたからね」


 忌み子と呼ばれていた僕は人間と獣人のハーフだという認識をされていました。

 実際の所は違いましたけど、それを他の人が知る訳もなく、ただそういった存在が忌み子であるという認識は一度根付いてしまうと取り払うのは大変だと思います。


 「じゃが、今回の事でユアン達の地位も向上している筈じゃぞ?」

 「僕達、ですか?」

 「うむ。まぁ、ユアンとシノじゃな」

 「どういう事ですか?」

 「わからぬか? 帝都の危機を救った英雄様よ」

 「英雄……? え、もしかしてそれって僕の事ですか!?」

 「そうじゃよ。帝都の事は私の耳にも届いている。ユアン達の活躍もな」


 そ、そんな話になっているとは知りませんでした。


 「それで、ユアン達の家門名は決まったのか?」

 「家門名ですか? まだですよ?」

 「そうか。なら早めに決めないとマズいのではないか?」

 「どうしてですか?」


 まず、ローゼさんが僕達が名前を考えているのを知っていた事に驚きました。

 まぁ、結婚式に参加していたので僕とシアさんが結婚した事から予想したのかもしれませんけどね。


 「どうしてって、エメリア様から聞いておるじゃろう?」

 「エメリア様からですか?」


 あれ以来、エメリア様とはお会いしていませんし、エメリア様から伝言も受け取っていませんので、ローゼさんの言葉に僕は首を傾げました。


 「なんじゃ、何も聞いておらぬのか」

 「はい。何も聞いていませんよ。一体、何の話ですか?」

 「じゃから、地位の向上じゃよ。ユアン達の功績を称え、ユアンとシノに爵位を授ける事になったのじゃよ」


 爵位……?

 爵位ってあれですよね。

 

 「頭が追い付いていないな。ユアン達も貴族の仲間入りって事じゃよ」

 「貴族の仲間? え、えぇ!? そんな話は聞いていませんよ!」

 「じゃが、さっきの様子からすると、家門名を考えていたようじゃな?」

 「考えてはいましたよ。ですが、それはシアさんと結婚して、夫婦である事の証明というか……それに、アルティカ共和国で家門名は貴族の証明にならないと言われたので考えていただけで……」


 なので、シアさんと夫婦、スノーさん達と家族である証明の為に名前を考えていただけにすぎません。


 「また遊ばれてるな。確かに間違いではないな。アルティカ共和国では、な」

 「そうですよね。アルティカ共和国ではその文化はない筈です」

 「うむ。アルティカ共和国では、な?」

 

 強調するようにローゼさんがアルティカ共和国では、と二度繰り返しました。


 「もしかして、名前を考えろって……」

 「察しの通りじゃ。アルティカ共和国では、意味のない家門名も、ルード帝国では意味を成すという事じゃな」

 

 また知らない所で大変な話になっているみたいですよ!


 「ですが、僕はアルティカ共和国に住んでいますし、ルード帝国で爵位を授かったとしても意味はないですよね?」

 「どうしてそう思う?」

 「どうしてって……僕はルード帝国出身ですけど、ルード帝国に住む予定はないですからね」


 例えルード帝国に住む予定があったとしても爵位を授かるつもりはありませんけどね。

 それが可能ならですけど。


 「ふむ? それじゃ、もう一つ面白い話をしてやるか」

 「……何ですか?」


 面白い話と言われても正直嫌な予感しかしません。


 「今回、トレンティアが公国になったのは何故じゃ?」

 「それは、ハーフエルフの地位の向上ですよね?」

 「そうじゃ。じゃが、これはルード帝国に所属しているから出来た事じゃな?」

 「そうですね。という事はですよ? アルティカ共和国に住む僕の地位を向上したくても出来ないって事になりますか?」

 「そうなるな」


 それはいい事を聞きましたね!

 ルード帝国に所属していたら問答無用で爵位を授かっていましたが、これならきっと大丈夫な気がしてきました!


 「ちなみにじゃが、ナナシキの街はどの国に所属しているのかわかるか?」

 「それは、アルティカ共和国ですよね?」


 アルティカ共和国、フォクシア領になるので、間違いなくアルティカ共和国に所属している事になると思います。


 「それは土地の場所じゃよ。正確にはフォクシア領にある、ルード帝国の街というのが現在のナナシキの立ち位置じゃよ?」

 「え、そうなのですか?」

 「親交を深めるために土地を交換するという話は聞いた事はなかったか?」

 「そういえば、そんな話を前に少しだけ聞いた事があるような気がします」


 という事はですよ?

 僕の住んでいるナナシキはアルティカ共和国ですが、ルード領になるって事ですかね?


 「つまり、ユアンも爵位を授かる権利が発生しているという事じゃな」

 「そ、そんなの要りませんよ!」

 「まぁ、最後まで聞け」

 「はい……」


 本格的に大変な事になってきました。


 「今のスノーを見ていればわかるが、ルード帝国に従っているように見えるか?」

 「従ってはいないと思います」

 「そうじゃ。ナナシキの街は特別じゃ。例え、ルード帝国の領地であっても、ルード帝国の管轄からは外れているからな。まぁ、当然ルード帝国の貴族として活動する時はあるじゃろうが、基本的には名乗らないじゃろう?」

 

 そうですね。

 そう考えると、爵位を授かった所で何も変わらないという事ですかね?


 「まぁ、そういう事じゃ。今回の措置はあくまでユアン達に帝都を救って頂いた事の感謝表明であるだけじゃ」

 「良かったです。爵位を授かったから何かをしろって事ではないのですね?」

 「うむ。むしろ、爵位を授かった事を利用しろとも言えるがな」


 何かをしようとは思いませんが、もし変な人に絡まれたとしても、爵位を利用して切り抜ける事が可能になるかもしれないって事ですかね?


 「どちらにしても、これは決定事項なのですよね?」

 「そうじゃな。まぁ、ルード帝国で活動する時に便利になったと思えばいいじゃろう。ただし、貴族となった事を言いことに、その力を振りかざせば痛い目にみるじゃろうがな」


 授かる爵位が何かはわかりませんが、貴族でも偉い順番がありますからね。

 例えば、伯爵が公爵に力を振りかざした所で何も意味を持ちませんし、むしろ逆に手痛い反撃を受ける事になるはずです。


 「基本的には黙っている事にしますね」

 「それが賢明じゃな。まぁ、困ったら儂に相談するが良い。一応これでも王となる訳じゃからな」

 「ありがとうございます」


 むー……。

 それにしても、アリア様にまたやられてしまいましたね。

 まさか、名前を考えろと言っていた背景にこんな話があったとは思いませんでした。


 「そうそう、一つ言い忘れていたが……」

 「はい? 何ですか?」

 「ナナシキも公国として独立する流れになっておるから頑張るのじゃよ」


 最近、僕の頭では追い付かない事ばかりが起きているような気がします。

 これは、色々とアリア様を問い詰める必要がありそうですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る