第346話 補助魔法使い、アリアに相談する

 「え、いいのですか?」

 「構わぬじゃろう。この街はお主らの街じゃ、アルティカ共和国やフォクシアの風習に囚われる必要はない」


 アリア様に用事があり、アラン様のお家へ訪ねたついでに先日の件を聞いてみるとあっさりと許可を頂いてしまいました。


 「ですが、僕とシアさんは夫婦で、そのうちですけどスノーさんとキアラちゃんが結ばれて夫婦になるにしても、僕達とスノーさん達とでは繋がりはないですよね? それでも大丈夫なのですか?」


 シアさんと僕となら夫婦なので同じ名前を名乗るのはわかりますけど、スノーさん達まで一緒の名前ですと、知らない人からするとどういった関係? と首を傾げる事になると思います。

 せめて、見た目が似ていればどちらかが姉妹で、その姉妹の家門名を名乗っているとわかりますが、僕達は種族がバラバラです。

 とてもではありませんが、姉妹には見えませんよね。


 「別に問題ないじゃろう。本当の姉妹でなくても、手続きでどちらかが姉妹になってしまえばいい。例えばユアンとキアラとかでな」


 それなら問題ないのですかね?

 まぁ、子供のいない夫婦が子供を養子として引き取り、跡継ぎとして育てるなんて事も珍しくない事のようですし、再婚相手の子供同士が兄妹となる事だってありますので、ありといえばありかもしれませんけど、僕達の場合は少し違いますからね。


 「何事も前例じゃよ。お主らがそれが可能とすれば同じように正式に姉妹の関係を結べるようになるものもおるじゃろう」

 「確かにそうですね」


 意外にも身近にそういう関係の二人がいましたね。

 血は繋がっていないですが、お互いが姉妹だと思っている二人が直ぐ近くにいるのです。


 「そうなれば、リコさんとジーアさんも喜ぶかもしれませんね」

 

 二人は狐族ですが、見た目が全然違います。

 リコさんは一般的な金色の髪をもつ狐族ですけど、ジーアさんに関してはハッキリと白と黒がわかれた珍しい髪の色をしている狐族です。

 それでも二人は義理の姉妹のようなものと言っていて、お互いを信頼し合っていて、性格が全然違うのにも関わらず、凄く仲が良くて、お互いの欠点を理解して補っている感じです。

 本当に息がぴったしなので、見た目以外は姉妹と言っても納得するくらいですからね。

 それが、正式に姉妹の関係を結べるとなれば、きっと喜んでくれるような気がするのです。


 「シアさんもそう思いますよね?」

 「うん。リコとジーアは仲が良い。だけど、違う関係に発展する可能性もある」

 「違う関係ですか?」

 「うん。いずれは夫婦になるかもしれない」

 「そんな事…………あり得るかもしれませんね」


 そう言われると、確かに可能性としてはありそうな気がしてきました。

 シアさんと恋人となり、夫婦となった今なら少しだけですけど、恋愛というものがわかるようになった気がします。

 何というか、人との関係を順番に表すのなら、他人、友人、恋人、夫婦となっていくと思うのですよね。

 まぁ、二人の場合は姉妹ですけど、さっきの関係で表すのなら、友達以上に親しくて、恋人までには至らない、どこか遠慮しているといった感じがしますね。

 

 「そういう関係はきっかけがあれば変わるもの」

 「僕達がそうでしたからね」


 僕とシアさんが恋人となったきっかけを考えれば……あれ? 今更ですけど、僕達のきっかけって何でしょうか?

 色々とあったのは覚えていますけど、何か自然とそうなったような気もします。


 「きっかけは私とユアンが出会った事」

 「まぁ、その出会いがなかったらこの関係はなかったですので間違いではないですね」


 それでもシアさんとは何処か別の場所で出会い、同じような関係になった気もしますけどね。

 遅いか早いか、ただそれだけの違いのような気がします。


 「お主ら、すぐに話が脱線するのぉ」

 「あ、すみません。シアさんとならずっと喋ってられるのでつい……」

 「ま、気持ちはわかるがな。私もアランと一緒ならずっと喋ってられるもん。仮に話が途切れても苦痛じゃないし、むしろその時間も愛おしいかな」

 「あ、凄くわかります!」

 「だよね!」

 「アリア、口調が変わってる」

 「む? すまんすまん。アランの事となるとついな?」


 それほどアラン様の事が大好きって事なのですね。


 「ですが、僕としては砕けたアリア様の方が好きですよ」

 「そうかのぉ?」

 「はい! 何か、お姉ちゃんって感じがしますからね」


 キアラちゃんの気持ちが少しだけわかります。

 僕にはお兄ちゃんはいますけど、お姉ちゃんと呼べる存在はいませんからね。


 「ユアン、一応だけどイル姉が義理の姉」

 「あ、そうでしたね。忘れてました」

 「仕方ない。お姉は自分からはあまり外に出ないし人と関わらない。私もたまに存在を忘れる」


 流石に存在までは忘れませんけどね。

 色々とお世話になっていますし、魔法道具マジックアイテムの制作に関していえば、凄い人ですからね。


 「ほらまた脱線しておるぞ」

 「あ、そうでした。それで、何の話でしたっけ?」

 「私がお姉ちゃんみたいって話じゃよ」

 「そうでしたね。ですが、アリア様はアリア様なのでまたちょっと違いますね」

 「そうじゃな。じゃから、ユアンと話すときはこのままの口調で、おばちゃんと呼んでもらう方が嬉しいかのぉ。こっちの方が威厳を保てるからな」


 おばちゃんと呼ぶのも抵抗がありますけどね。

 けど、アリア様にもかなりお世話になっていますので、いずれはそう呼べるようになりたいとは思います。


 「それで、私に要件とはなんじゃ? さっきの話ではないじゃろう?」

 「はい、本題は別です。アンリ様からの伝言で聞いたのですが、フォクシアの都で僕の事を探っている人がいるみたいですが、アリア様は何か知っていたりしますか?」

 

 対策ってやつですね。

 その人達がどんな人かわかりませんが、もしかしたら極悪人の可能性もゼロとは言えません。

 そんな人が僕を探しにナナシキへと訪れるのです。

 トラブルが起きない筈がないですよね。


 「いや、私も話には聞いておるが、若い二人組としか聞いてはおらぬな」

 「そうでしたか。話では聖女と勇者と名乗っているみたいなのですよね」

 「そうみたいじゃな。じゃが、そんな存在は眉唾ものじゃよ。聖女はともかく、勇者の家系はとうの昔に途絶えたと聞くからな」

 「その話だと、勇者というのは存在したという事ですか?」

 

 おとぎ話の話だと思っていたので、本当にそう呼ばれていた人がいたとは思いませんでした。


 「逸話が残っているくらいじゃからな。全くの作り話とは言えぬじゃろう。話が大きく変わっているとしても、元となったエピソードが存在してもおかしくはないと思うぞ」

 「そうなのですね」


 そうは言っても僕の知っている勇者の逸話はどれもあり得ない事ばかりなのでピンと来ませんけどね。

 だって、神様と対等に渡り合ったという話なんてとてもじゃないですが信じられませんよね?

 そもそも神様が存在するのかすらわからないのですからね。


 「それでも一つだけ信憑性の高い逸話はあるぞ?」

 「そんなものがあるのですか?」

 「うむ。ユアンの職業はなんじゃ?」

 「僕ですか? 僕は一応ですが、冒険者のつもりでいますよ」


 他にもチヨリさんのお店を手伝ったりしますけど、何の職業かと聞かれると答えに困ります。

 街の人の傷を癒したりはしていますので、お医者さんとも呼べるかもしれませんが、冒険者の方がしっくりきます。


 「そうか。なら、最初の冒険者の事を知っておるか?」

 「最初の冒険者ですか? わからないです」

 「シアはどうじゃ?」

 「知らない」


 シアさんが知らないのに僕が知っている筈がないですよね。


 「じゃろうな。私も知らぬ」

 「アリア様も知らないのですね」

 「当然じゃろう。冒険者は冒険をする者じゃからな。言ってしまえば、近くの森を毎日探索するのも冒険者と言えるじゃろう。それを最初にした者を探せというのには無理がある」

 

 やろうと思えば子供だってそれくらい出来る子供はいますからね。

 となると、初めての冒険者は誰も知らないという事になりますよね。

 それなのに、どうしてそんな質問をしたのでしょうか?


 「それじゃ質問を変えるぞ? 初めて冒険者ギルドを通して冒険者となった者は誰か知っておるか?」

 「わかりません。ですが、今の話からすると勇者がそうって事ですかね?」

 「正解じゃ。いまや何処にでも存在する冒険者ギルドを設立したのが勇者と言われておる」

 

 今じゃ当たり前に存在している冒険者ギルドとそれに所属する冒険者ですが、元を辿れば勇者へとたどり着くという事なのですね。


 「でも、それだけでは信憑性は薄いですよね?」


 信憑性というのは何か裏付けがなければ高くなりません。

 ただ、勇者と呼ばれる人が作ったと言われても人違いの可能性もあります。


 「それこそ名前じゃよ」

 「名前ですか?」

 「うむ。初代勇者の家門名はエクス。そして、冒険者ギルドの設立者もエクスという家門名を持っている」

 「そういう事ですか」


 つまりは初代勇者が設立したかどうかは不明でも、エクスという家門名を持つ、勇者の家系に生まれた人が設立した可能性は比較的に高いという事に繋がるのですね。


 「そうなると、名前ってすごく大事なのですね」

 「うむ。歴史に名が残るくらいじゃからな」


 個人的な名前も残りますが、何か偉業を成し遂げた時に残るのは家門名がどうやら多いらしく、その以上を忘れずに語り継ぐという意味があるようです。


 「となると、僕の事を探している勇者もエクスの名を持っているという事ですか?」

 「一応な。じゃが、それに関しては真否はわからぬ。先ほども言ったが、エクスの名は途切れたと聞いておるからな」

 

 もしかすると、勇者の家系を名乗る偽物の可能性も十分にありえるという事になりますね。


 「ただし、一つだけ厄介な事がある。そやつの出身がルード帝国なのじゃ」

 「それの何処が厄介なのですか?」

 「ユアンの事を探している勇者を名乗る者の正式な名前は聞いたか?」

 「いえ、そこまでは聞いていないです」

 「そうか、アンリの話だとな、そやつはこう名乗ったそうじゃ」


 ラインハルト・エクス・アルファード


 「それが僕を探している勇者を名乗る人の名前なのですね」


 ですが、それの何処が厄介なのか僕には全く分かりませんでした。


 「確かに厄介」

 「え、シアさんはわかったのですか?」

 「うん。ローゼと同じ。アルファードは領主を指す」

 「はい、そうですね」

 

 という事は、その人は領主って事ですかね?

 ですが、ルード帝国でアルファードなんて街は聞いた事がないですよ?


 「逆にシアが知っていた事に驚いたな」

 「色々な街を回っていたから知っていただけ」

 「ふむ。なら、その場所にシアは行った事があるか?」

 「ない。行く価値が無いから」

 「ま、そうじゃな」

 「もぉ! 僕にもわかるように説明してくださいよ!」


 二人だけで話しても全然わからないですからね!


 「すまんな。では、シアがその街に行く価値がないと言ったのは何故だと思う?」

 「えっと、行っても何もないからですか?」

 「そうじゃ」


 やりました! どうやら正解みたいですね!

 けど、シアさんが行く価値がないほど何もないって相当ですよね。

 どの街にも、その場所でしか手に入らない珍しい物があったりしますよね。

 それを見るだけでも行く価値があってもおかしくはないと思います。


 「ふむ。ユアンは廃墟や遺跡には興味があるか?」

 「んー……何か変なのが出そうなのであまり興味はないですね」


 何よりも人気がないのは怖いですし、淋しく思えます。

 それに、もしもですよ?

 幽霊なんていないと知っていますが、そんなのが万が一出たりしたらと考えるだけで行きたくなくなります。

 幽霊なんていないですよね?


 「うむ。私もじゃよ」

 「そうなのですね。というか、何の話をしているのですか? 今はアルファードという街の話ですよ?」

 

 また話が脱線してしまいましたので、今度は僕が話を元に戻します。

 ですが、それはどうやら違ったようです。


 「いや、話はそれていない。そもそも、ユアンは勘違いしておる」

 「え、何をですか?」

 「アルファードは街ではないのじゃよ」

 「街じゃない? それじゃ、街じゃないのなら何なのですか?」

 「国じゃよ。ルード帝国がまだ出来る前に栄えていた人族の都、それがアルファードだったのじゃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る