第339話 結婚式 第一部閉幕
「な、なんですかあれ……」
「ケーキ」
「それはわかりますけど……大きすぎませんか?」
僕のスピーチが終わり、暫くすると各テーブルに豪華な料理が配られました。
そんな中、会場の中央に子供くらいの高さの見た事のない大きさのケーキが運ばれてきたのです。
「ただいまより、新郎新婦によるケーキ入刀が行われます。新郎新婦による初の共同作業です」
アナウンスと共に、シノさんとアカネさんが席をたち、ケーキの元へと向かいました。
そして、傍らに置いてあった大きな包丁を二人で握りました。
「二人でケーキを切るのですか?」
「うん。これから一緒に頑張りますって意味がある」
「あのケーキを食べると、幸せを分けてもらえるって意味もあるみたいなんだよ!」
「面白い事を考えますね」
結婚式は来てくれた人に私達は結婚しましたよと報告する儀式みたいなものだと思っていましたが、色々と参加者が楽しめるようにもなっているのですね。
「二人とも本当に幸せそうですね」
「うん」
シノさんがアカネさんを支えるように腰へと手を回し、ぴったりと身を寄せ合いながらケーキに包丁を入れていきます。
「流石に真っ二つにはしないのですね」
「崩れるから仕方ない」
てっきり一刀両断をするかと思いましたが、ケーキの一角に二人で包丁を入れただけで、ケーキ入刀は終わりました。
正式に夫婦となり、初めての共同作業を終えた二人は本当に幸せそうです。
僕達もいつか、こういう日が訪れるのでしょうか?
「けど、これだけの規模の事をやっていますし、相当お金がかかりそうですよね」
「間違いない」
会場こそシノさんのお家ではありますが、集まった人の料理、あの大きなケーキ、それに帰りには記念品が配られると聞きました。
しかもですよ?
配られた料理は僕が誕生日に頂いたカードが使える、帝都にある常に予約でいっぱいのお店の料理みたいなので料理だけでも相当な金額になっていると予想されます。
「今の僕達の資金ではとてもこの規模の結婚式はあげられそうにないですね」
「頑張ればいける……それに」
「それに? 何ですか」
「ううん。何でもない」
むー……。
シアさんが何かを言いかけてやめました。
僕を見てにこっと笑ったので、今は言えないだけなのだとはわかりましたけど、凄く気になります!
「大丈夫。すぐにわかる」
「すぐにですか?」
「うん。それよりもシノが喋る」
「あ、本当ですね」
ケーキ入刀が終わり、会場が暖かな雰囲気に包まれる中、シノさんとアカネさんが壇上へと戻ると、マイクの前に立ちました。
あ、マイクとは声を響き渡らせる
僕がスピーチにする時に使った
「本日は、僕とアカネの為に集まってくれて本当にありがとう」
シノさんが深々と頭をさげ、それに続きアカネさんも深く頭を下げます。
「ささやからながら、料理をご用意させて頂いたので、それを楽しみ僕達の結婚式は終わらせて貰います」
んー……。
なんか、それはそれで淋しいですね。
何というか、あっという間に終わってしまったような気がします。
いえ、実際は僕とエメリア様以外にもフォクシアの代表としてアリア様が祝辞をしたり、友人代表としてデインさんが祝辞をしたりと色々とありました。
ですが、この幸せを分けて頂ける時間が終わってしまうと何だか切ない気持ちになります。
「そういえば、アカネさんの家族の人はいないのですか?」
「うん。アカネさんに家族は居ないんだよ? アカネさんの両親はずーっと前に亡くなっているらしいから……」
「そうだったのですね……」
どうりでアカネさん関係の祝辞がなかった訳ですね。
「けど、アカネさんは幸せそうですね」
「うん! お父さんとお母さんに花嫁姿を見せてあげられないのは残念とは言っていたけど、それでも幸せそうで本当に良かったんだよ!」
「はい。きっと、アカネさんの幸せな姿は届いていますよね」
死んだ後の世界があるかはわかりませんが、きっとアカネさんの幸せな姿は届いている。
そんな気がするのです。
むしろ、そうであって欲しいと思います。
あれだけ、ルード帝国の為に頑張り、シノさんとようやく掴んだ幸せです。
みんなから祝福されるのは当然ですからね。
「では、最後にもう一つだけ僕とアカネから幸せのおすそ分けをしたいと思います……ユアン、リンシア、こっちに来てくれるかい?」
「え、僕達ですか?」
アカネさんの事をルリちゃんから聞き、ちょっとだけしんみりしていると、突如シノさんからシアさんと一緒に壇上に上がってくるように言われました。
「ユアン行く」
「え、えぇ!?」
そんな予定は聞いていませんよ?
後は、みんなでご飯を食べたりして終わりの予定の筈です。
なのに、もう一度みんなの前に立って何かをするなんて……。
シノさんへのスピーチも終わりましたし、話す事ももうないので困ります!
「ユアン」
「あ、ちょっと……」
シアさんに腕を組まれ、壇上に連れていかれます。
もしかして、シアさんは何か知っているのでしょうか?
そうじゃないと、シアさんがこんなに落ち着いている理由が……まぁ、シアさんはいつもの事ですか。
こんな事で僕みたくあたふたしたりしないですし。
でも、何か知っているような気もするのです。
もしかして、さっき濁した話と関係があったりするのでしょうか?
そんな事を考えている間に、僕はシアさんに連れられ、シノさん達の所へと連れていかれてしまいました。
やっぱり、凄く注目されてしまっています。
「いきなり呼び出してすまないね」
「本当ですよ。今更何ですか?」
「僕とアカネから君たちにプレゼントさ。リンシアは知っていると思うけどね?」
「そうなのですか?」
「うん。打ち合わせ通り」
うー……また僕だけ何も知らないで何かをやっているみたいです!
本当にこういうのは心臓に悪いのでやめてもらいたいです。
「シアさん、後でお説教ですからね?」
「なんで?」
「何でじゃないですよ……もぉ!」
とぼけてもダメですからね!
だって、スピーチの時以上にみんなから注目されてしまっています!
こんなの恥ずかしすぎますよね……。
「ユアンさん、あまりリンシアさんを責めないであげてくださいね。これは私とシノ様からの提案なのですから」
「うー……別に責めてはいませんよ?」
シアさんが何かをする時って最終的には僕が喜ぶような事をしてくれようとしているのは知っていますからね。
「それじゃ、準備はいいかな?」
「え、準備って、せめて何をするか教えてくださいよ」
「君たちはそのままでいいよ……では、始めようか」
シノさんが何かを合図するように右手を掲げました、それと同時に会場に魔力が充満していきます。
「わっ! ちょっと、前が見えませんよ!」
それと同時に、会場の照明が全て落され真っ暗となりどよめきが響き渡ります。
「な、何が起きているのですか?」
「平気。ユアン、落ち着く」
「落ち着けって言われても……」
わからないことばかりです。
こんな何も知らない状況で落ち着けと言われても流石に無理があります!
「シアさーん……」
「大丈夫。近くに居る」
「うー……ならせめて手を……」
「もう少しで終わる。我慢」
酷いです。
いつもなら、直ぐに僕の事を安心させるために手を握ったり、ぎゅーっとしてくれるのに、今日はそれもなしです。
何か意図があってやっているのはわかります。決して意地悪している訳でもないのもわかりますが、正直不安な気持ちになります。
何が起きているのか、せめてわかれば……。
「わっ! ま、眩しいです!」
暗闇にようやく目が慣れてきたころ、突然僕たちだけを照らすように灯りが着きました。
「え、あ……シア、さん?」
「不安にさせてごめん。もう、大丈夫」
言葉に詰まった僕に対し、シアさんがにっこりと笑いました。
その瞬間、不安だった気持ちが全て吹き飛びました。
「これより、第二幕へと移行させて頂きます。お集りの皆さまは今しばらくご静粛に願います」
司会の人のアナウンスが響き、会場に静寂が訪れました。
そして、シアさんが僕を真っすぐにみつめ静かに口を開いたのです。
「ユアン、私と結婚して欲しい」
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