第337話 結婚式
「シアさん」
「何?」
「僕達、場違いではありませんか?」
「そんな事ない」
そんな事ないって言いますけど、明らかに僕とシアさんの二人は周りと比べ浮いています。
「そんな事ありますよ……だって、僕とシアさん以外、みんな着物を着ているのですよ?」
明らかにおかしいですよね?
街の人だけならまだわかりますが、僕達よりも先に席についているスノーさん達だって着物ですし、ルード帝国からやってきてくれたエメリア様もクジャ様まで着物を着て参加しています。
「どうしましょうか?」
「どうもしない。堂々としていればいい」
「そうは言いますけど、みんな僕達をみて笑っていますよ」
「それはユアンが可愛くて見てるだけ」
絶対に違うと思いますけどね。
会場に入った瞬間にわかりましたよ。
これは絶対にシノさんが僕を驚かす為の悪戯に決まっているって!
「ユアン様、リンシア様はこちらにお座りください」
「はい、ありがとうございます」
一瞬、どうにかしてこの場を去る方法を考えましたが、それが思い浮かぶ前にクロさん達に席を勧められ、みんなに注目されながら僕達は席に着く事になりました。
「うー……せめてスノーさん達の近くなら良かったのですけどね」
「仕方ない。こっちは身内側。スノーはこの街の代表者だからあっち」
「わかっていますけどね」
わかっていますが、わかっていてもこうだったらと思う事はありますよね?
今の僕はそんな感じです。
「それにしても、この部屋ってこういう使い道もできるのですね」
「うん。パーティーを開いたり何でもできる」
僕が今いる場所は、シノさんのお家の一階にある部屋で、階段横を通った大広間と呼べる場所に居ます。
造りが僕のお家と一緒なので、こういった使い方も出来ると勉強になりますね。
まぁ、使う予定は今の所はありませんけどね。
「そんな事ない。私達の結婚式でも同じようにできる」
「それもそうですね。この規模を開催できるとは思いませんけどね」
シノさん達がお金を沢山持っているのがよくわかります。
前にお邪魔した時にもこの部屋には来たことがありますが、天井にシャンデリアはなかったですし、こんなに照明も多くはありませんでした。
「凄い造りですね……わっ!」
部屋の中を見渡していると、突如部屋の照明が全て消えました。
「何が起きたのですか?」
もしかして、敵襲とかですかね?
そうだとしたら、みんなが危険……でもないですか。
みんなは強いですからね。
ですが、会場を見渡した時に子供がいるのを確認しました。
油断はできませんね!
「シアさん」
「しっ……シノたちが入場するから静かにする」
「え? あ、そういう演出だったのですね」
シアさんの言葉通り、一つの照明がこの部屋の入り口を照らすと、そこには真っ白なタキシード姿のシノさんと純白のドレスを身に纏ったアカネさんが腕を組み立っていました。
僕は二人の姿を見た時、言葉を失いました。
凄く綺麗。
ただその一言だけ、声にならない声で呟いた気がします。
そんな二人が照明に照らされながら集まった人達の間に作られた道を歩いて行きます。
「ルリ……」
そんな中、シアさんがボソリ声を出したのがわかりました。
ルリちゃん?
どうしてシアさんがそんな事を呟いたのか疑問に思いルリちゃんの姿を探すと、直ぐに見つける事ができました。
「えっと、何をしてるのですかね?」
「アカネのお手伝い」
「それはわかりますけど、どうしてルリちゃんが手伝っているのですか?」
「シノのお嫁さん候補だから?」
理由はシアさんにもわからないみたいですが、ルリちゃんは二人の後ろを歩き、アカネさんのドレスが地面に擦れないようにドレスを持って歩いていました。
「ルリちゃんも幸せそうですね」
「うん。ルリは優しい。幸せそうなシノとアカネを見て嬉しいんだと思う」
僕だったらあんな風に歩けない自信があります。
みんなはシノさんとアカネさんに注目していると思いますが、ルリちゃんの事も視界に入る筈です。
それなのにルリちゃんは笑顔で二人の後に続いています。
凄いですよね。僕だったら恥ずかしくて下を向いてしまう自信がありますよ。
そして、シノさん達は中央を進み、特設で作った階段を一段二段と昇っていき、壇上へとあがり、二人で並び祭壇のような場所の前で止まりました。
それと同時に会場の灯りも薄っすらとですが明るくなりました。
「なんか見ているこっちが緊張しますね」
「うん。いい見本、よく見てる」
そうですね。
こんな機会に立ち会えるのは滅多にないかもしれません。
この結婚式のやり方はどこの形式にも当てはまらないやり方のようですが、どういう事をするのかを覚えておくのには絶好の機会ですからね。
「緊張したんだよ……」
「ルリちゃん、お疲れ様でした」
「ルリは頑張った」
「うん! 後は見守るだけなんだよ」
祭壇の前で暫くシノさんとアカネさんが静かに立っている間にルリちゃんが僕達の席へとやってきました。
ですが、今更ですけど不思議な席順ですよね。
僕はシノさんの身内なので身内席なのはわかりますが、シアさんは今の所は身内ではありません。
まぁ、シアさんと一緒なので気が楽なので助かりますのでそういった心遣いだとは思いますけどね。
「あ、始まるみたいですね」
「うん」
祭壇の前に佇んでいる二人の元へと、一人の人が近づいて行きます。
「あれって……」
「二人の結婚を見届けてくれる役目の人なんだよ」
「いえ、それはわかりますけど……」
結婚式には二人の結婚の立ち合い人となる人が存在していると聞きました。
あれですね、神様の代理人として二人の仲を認めるって役割の人ですね。
ですが、気になったのはそこではありません。
その祭壇に立った人に覚えがあったのです。
むしろ、毎日顔を合わせている人が立ったので驚いたのです。
「えっと、リコさんが立会人何ですか?」
「うん。リコは巫女。儀式に慣れてる」
「結婚式もですか?」
「たぶん?」
「多分じゃないんだよ! リコさんはそういった儀式を普段からしていた凄い人なんだよ!」
リコさんと日ごろから交流のあるルリちゃんが言うのなら問題ないのかもしれませんが、そんな話は初めて聞いたので驚きですよね。
年が変わる時にジーアさんと舞いを踊っていたのは覚えていますが、まさかそんな事まで出来るとは思いませんでした。
だって、神様の代わりですよ?
「巫女とは神の代理人。何もおかしくない」
「そういうものなのですね」
「うん! だからリコさんは凄い人なんだよ」
サンドラちゃんも龍人族の巫女だったと言っていたので、もしかしたらサンドラちゃんも同じことができるかもしれないですね。
まぁ、僕には巫女という定義がどうで、どれだけ凄いのかはいま一つピンときませんけどね。
「聖女と同じくらい凄い」
「んー……聖女と言わられましても、それもピンと来ないですね」
こればかりは勉強不足ですね。
ですが、いわゆる宗教の一環みたいですし、正直な所、あまり興味は沸きません。
もちろん、リコさんが凄い事をしているというのは理解していますよ?
「ユアンお姉ちゃんもシアお姉ちゃんも静かにするんだよっ!」
「あ、すみません」
そうですね。
今はそんな事を話している場合ではなかったです。
二人にとっては一生に一度となる大事な儀式です。
シノさんはいずれはルリちゃんとも結婚式を挙げるつもりみたいですが、アカネさんとは最初で最後の結婚式になります。
それを見届けないのは、妹としては失格ですよね。
と思いましたが、既にシノさん達の結婚式は少し進んでしまっていたみたいで、リコちゃんと何やら会話をしている段階にまで進んでしまっていました。
「龍神様に近い、新郎は新婦に、新婦は新郎に永遠の愛を捧げ、いついかなる時も互いを支え合い、共に生きる事を誓いますか?」
「「誓います」」
リコさんの問いに、二人は声を揃えて頷き返事をしました。
どうやら神様というのは龍神様のようですね。
といっても、五龍神様になのか、神龍様に誓ったのかはわかりませんね。
以前ならあまり気にしなかったと思いますが、この間、クジャ様とサンドラちゃんから話を聞いてしまったので少し気になるところです。
それでもあくまでこれは通過儀礼であり、大事なのは二人の気持ちです。
それを証明するように、二人は互いを見つめあうように体の向きを変えました。
そして……。
「うぅ……二人が幸せそうでルリも嬉しいんだよっ!」
「そうですね……でも、みんなの前でキスをしなければいけないのですね」
「うん。普通の事」
ルリちゃんが感動のあまりに涙を零し、鼻をすすっています。
確かに、感動の瞬間ですね。
ですが、あれを僕もやる可能性があると考えると感動よりも、想像しただけで恥ずかしさが込み上げてきました。
「あれって、絶対にやらないとダメなのですか?」
「ダメじゃないと思う。だけど、私はしたい。私はユアンのものってみんなに知らせたい。ユアンは違う?」
「僕もシアさんのものって証明になるのなら、したいとは思いますけど……」
「なら、同じようにしよ?」
「うー……頑張ります」
シアさんがしたいと言っていますし、それに恥ずかしいですが恋人同士なので普通な事で、誰でもやっている事でしょうし、頑張らないとですね。
「龍神様に代わり、二人の想いを見届けさせて頂きました。これより二人は夫婦となる事を認めましょう」
長いキスが終わり、互いの顔が離れ、再びリコさんの方へ二人は向き直ると、リコさんが二人の結婚を認めました。
この時から二人は正式に夫婦となったのですね。
そして今のが儀式の第一段階のようで、リコさんが祭壇から離れていきます。
「この後ですね……」
「うん。シノとアカネの話が終わったらユアンの出番」
「緊張します」
「頑張る」
頑張ります。
ですが、みんなの前で立つだけでも緊張するのに、その状態で話さないといけないなんて今から足が震えてきます。
それに、なんだかトイレに行きたくなってきた気がします。
式が始まる直前に行ったばかりなのにおかしいですよね。
ですが、時間は待ってくれないようでついにシノさんとアカネさんのスピーチが始まってしまいました。
僕の出番はもうそこまで来ているみたいです。
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