第336話 補助魔法使い、結婚式の支度をする
「本当に変じゃないですか?」
「はい、何も問題ありません」
「ユアン様のドレス姿、とても素敵ですよ」
今日はシノさん達の結婚式当日。
僕は紫色のドレスを身につけ、鏡の前に立っています。
それにしても驚きました。
朝起きたら、僕の為にクロさんとハルさんがお家を訪れ、メイクと着付けをしに来てくれたのです。
「本当に変じゃないですか? 僕、メイクなんてするのは初めてですけど……」
「とっても素敵ですよ。狼のお姉さんもきっと喜んでくれると思います」
うー……鏡に映った僕はまるで別人です。
普段は髪なんて縛らないのに、今日はスノーさんみたく髪は纏められていますし、唇に口紅を塗られたり、綿みたいなので白い粉をポンポンと薄く塗られたりしました。
綺麗になった……とは思いますよ?
ですが、僕が僕でないみたいで不思議な気分になります。
「シアさんの方はいいのですか?」
「はい。私達の仲間が仕上げている頃だと思います」
「シアさんもカッコよくしてくれているのですね」
シアさんは確かタキシードを着る予定でしたね。
「そうですね。ユアン様もきっとお見惚れになる出来になっていると思いますよ」
「あの時の狼のお姉さんはとても素敵でしたから」
それはすごく楽しみですね!
ですが、逆に僕がシアさんと並んだ時、ちんちくりんな僕が隣にいたら不釣り合いになってしまうような気がします。
「では、会場にご案内させて頂きますね」
「え、シアさんと合流しないのですか?」
「はい。ユアン様はシノ様の関係者と伺っていますので、先に会場の控室にご案内するように言われています」
「ってことは、僕は一人で結婚式が始まるまでいなければいけないって事ですか?」
「いえ、狼のお姉さんも着付けが終わり次第、ユアン様の控室にご案内させて頂きますよ」
良かったです。
てっきり一人で待つ事になると思ったので安心しました。
何せ、結婚式に参加するのは初めてですからね。
シアさんがわかるかはわかりませんが、それでも一人でいるよりは安心します。
「では、どうぞこちらに」
クロさんとハルさんに前後に挟まれ、僕は移動を開始します。
移動といっても、結婚式の会場はシノさんのお家と決まったので、お隣に移動するだけですけどね。
「では、ユアン様はこちらで暫くお待ちください」
「はい、色々とありがとうございました」
「いいえ、これも私共の仕事ですので」
「では、失礼致します」
クロさんとハルさんが退出していきました。
今からシアさんの着付けを確認し、連れて来てくれるみたいですね。
けど、クロさん達のお仕事も楽しそうですね。
結婚式など、特別な日に着る服を見繕ったり、結婚式の手配をしたりと、人の幸せな瞬間をお祝いするお仕事みたいで、大変そうですが、常に人を幸せに、笑顔にするお仕事なので素敵なお仕事だと僕は思います。
「っと、僕もやる事をやってしまわないといけませんね…………はぁ」
ため息が出るのは仕方ないですよね?
だって、結婚式が始まり暫くしたら親族の挨拶という事で、幸せになってくださいねというメッセージをみんなの前で読まなければいけないのです。
みんなの前でですよ?
緊張しない訳がないですよね。
なので、今のうちに練習しなければいけません。
「この度は、シノさんの……」
うーん。
やっぱりこの部分はお兄ちゃんに変えてあげた方が喜びますかね?
けど、それはそれで恥ずかしいのですよね。
「まぁ、ここは会場の雰囲気にあわせて……」
シノさんという文字の隣に(おにいちゃん)と書き込みを新しくします。
「けど改めて思いますが、シノさんとの思い出を語ってくれればいいと言われましたけど、シノさんとの思い出ってあまりないのですよね……」
シノさんと出会ってからまだ一年も経っていません。
それで思い出を語ってくれと言われても難しい注文だと思います。
「やれと言われたからやりますけどね」
なので、最後の確認の為に、紙と睨めっこを開始します。
本番でもこの紙を見ながら話す予定なので、変更する場合は綺麗にしないといけません。
「うーん……これは大袈裟ですかね?」
もちろん嘘を言う訳にもいきません。
短い間にあったエピソードを纏めなければいきません。
それに、出来る限りシノさんや周りの人が感動したりするエピソードをですよね?
「あ、でもこれは素敵だったので混ぜた方がいいですよね?」
つい最近の事ですが、一つ思いついたのでそれも付け足ししておきます。
「ユアン、何してるの?」
「わっ! もぉ、いきなり現れたら………………」
集中していたせいか、気づいたらシアさんが僕の背後に立っていました。
そして、シアさんの姿をみて、僕は言葉を失いました。
「…………変?」
「変、じゃ……ないです」
変どころか、言葉を失う程でした。
「本当? 私に、こういう服は似合わない」
「そんな事ないですよ……すごく、綺麗です」
シアさんは僕の予想を裏切ってきました。
もちろん悪い意味ではなく、良い意味でです。
だって、タキシードではなく、シアさんも赤を基調としたドレスを身につけて来たのですから。
それに、メイクも施しているようで、いつものシアさんよりも艶やかで色っぽく見えます。
頬が少し赤いのはメイクではなく、シアさんが照れているからでしょうけど、それが可愛くて、ぎゅーって抱きしめたくなります。
「ありがとう。けど、ユアンも凄く素敵」
「あ、もぉ……ドレスが皺になっちゃったら大変ですよ?」
「ごめん。だけど、我慢できない」
「我慢できないのなら仕方ないですね」
シアさんも同じような気持ちで居てくれているようで、先にぎゅーってされてしまいました。
「あれ、いつもと匂いも違いますね?」
「うん。何か匂いのする水をぷしゅってされた」
「あー、香水ですかね?」
「嫌だった?」
「そんな事ないですよ。シアさんの匂いも好きですけど、この匂いも良い匂いだと思います」
シアさんの匂いも残っていますしね。
それと香水の匂いが混ざり、何とも言えない……何かうずうずしてしまいそうな気分になります。
「ユアン、欲情してる?」
「し、してませんよ!」
「本当?」
「本当ですよ! けど、どうしてシアさんまでドレスなのですか?」
予定ではシアさんはタキシードを着る予定だった筈です。
「わからない。アリアのお城で着付けをした時はタキシードだった」
「そうなのですね」
シアさんもドレスを着る事になった理由はわからないみたいですね。
「うーん……シアさんのドレスも
「うん。ユアンのもそう」
「そうなのですよね。何か意味があるのでしょうか?」
効果が今の所は不明なのですよね。
サイズは寸法を測り、僕にぴったりと仕上げてくれましたのでサイズ調整の魔法って訳ではないようですし、魔力を流しても防御魔法が施されて身を護るといった効果もないようです。
そもそも
「気にしても仕方ない。それより、それはいいの?」
「あ……忘れていました!」
シアさんの視線の先には僕が後で読む予定の紙で止まっています。
シアさんが素敵すぎて完全に忘れていましたけど、最終確認がまだでした。
「大丈夫。まだ時間はある」
「まぁ、見直しだけなので問題はないですけどね」
前もって準備はしてきましたからね。
ただ、いざこれを読むとなると、本当にこの内容で大丈夫なのか心配になっただけです。
「そういえば、スノーさんとキアラちゃんはどうしているのですか?」
「スノー達も着付けをしている。私の後にハルとクロが向かった」
「確か、スノーさん達も僕達とは別の場所で待機でしたよね?」
「うん。領主として参加。スノー達はスノー達で準備がある」
「お仕事として参加なのですね」
「それも兼ねてるだけ。スノー自体はアリアの友人みたいな感じでもある」
ルード帝国とアルティカ共和国は距離が離れているので、友人を気軽に呼べないですからね。
なので、今回の結婚式は限られた人だけでやる事になりました。
といっても、シノさんはエメリア様やエレン様も招待しているので、その辺りは参加するみたいですけどね。
恐ろしい事に身分と姿を隠してクジャ様も来る予定でいるみたいですけどね。
「警備の方は大丈夫なのですか?」
「うん。今日ばかりは影狼族に休みはなし。全員フル稼働で働いてもらう」
「何か、申し訳ないですね」
「平気。普段はしっかり休む日は休ませてる。後で代休をあげるから、本人たちも納得してる」
それならいいのですけどね。
「ですが、影狼族の人達の中で不満が溜まらないようにはしてくださいね?」
「うん。気をつける」
お休みは大事ですからね。
そんな事で不満が溜まり、影狼族の人が謀反を起こすとは思いませんが、不満が溜まったりするのは良くないですけどね。
まぁ、休み関係で一番不満を募らせているのはラディくんかもしれませんけどね。
本当に文句は言っても、頑張って働いてくれているのでありがたい限りです。
「では、時間まで僕も準備してしまいますね」
「うん。私は寛いでいる」
そう言って、シアさんも僕の隣に座り、ぴったりと身を寄せてきました。
「ユアン」
「は、はい?」
「意識してる?」
「そりゃ、します……よ」
「嬉しい」
「でも……そういうのは後でお願いしますね?」
「どうして?」
「せっかく着飾ってくれたのに、崩れてしまったら大変ですからね」
「わかった。後でならいい……って事だよね? 楽しみにしてる」
うー……この宣言っていつものですよね?
何だか、夜になったら大変な事になりそうな気がしてきましたよ?
僕としても……まぁ、綺麗なシアさんをみて……っとそうではありませんよ!
今は別の事に集中しなければいけませんからね!
ですが、時間というのは時に残酷な物で、スピーチの内容を纏めていると、あっという間にその時間が来てしまいました。
「ユアン様、リンシア様、会場の準備が整いましたのでご案内致します」
「は、はい! シアさん、行きますよ?」
「うん。エスコートしてあげる」
「ありがとうございます。この靴ですと歩きにくいので助かります」
慣れない靴というのは大変ですよね。
なんか踵の部分が細くて、転びそうになるのです。
そんな中、シアさんが僕の手をとり、転ばないようにゆっくりと一緒に歩いてくれました。
そして、いよいよ僕達も会場入りをしたのですが、僕は驚きの光景を目にする事になりました。
その瞬間、僕は思いましたよ。
またシノさんにやられたと。
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