第334話 補助魔法使い、平和な日々を過ごす

 「ポカポカして暖かいですね~」

 「そうだなー」

 「な~」


 こんな日は欠伸がとまりませんよね。

 一言で表すのなら平和。

 そんな日が続いています。


 「けど、あれからもう一月も経っているのですね」

 「楽しかったなー」

 「な~」


 楽しくはなかったですけどね。

 帝都で起きた魔族の襲撃は色々と大変でした。

 まぁ、久しぶりにチヨリさん達は大暴れできたみたいなので、それが楽しかったと思うのは仕方ないかもしれないですけどね。

 何せ、あれがチヨリさん達の本業ともいえるみたいですので。


 「なーなー?」

 「はい、どうしましたか?」

 「スノー達は大丈夫なのかー?」

 「はい、大丈夫だとは思いますよ」


 こんなに平和な時が続いている中、今も忙しく働いている人がいます。

 

 「けど、毎日疲れた顔で帰って来るぞー? 一緒に寝てもすぐに寝るしなー」

 「オルフェさんは普段は優しいですが、やる事はやらないと気が済まないタイプですからね」


 孤児院で生活していたので、オルフェさんの性格は良く知っているつもりです。

 与えられた仕事をサボったり、手を抜いたりすると、例え相手が子供でも怒るのをよく覚えています。

 流石に怒鳴ったりはしませんが、どうしてやらなきゃいけないのか、頑張った先に何があるのかを一人一人に説明し、ちゃんと与えた仕事を完遂させるように説いてくれるのです。

 そういった点ではアカネさんとよく似ている気がしますね。

 

 「っと、噂をしていればスノーさん達が視察していますね」


 領主の館の方から、スノーさん、キアラちゃん、オルフェさんの三人が歩いてくるのがわかりました。

 まだ、お昼前ですが既にスノーさんの顔は少し疲れているように見えますし、キアラちゃんも手にした資料と睨めっこしたり、オルフェさんが指さした方を見て、慌ててペンを走らせたりして忙しそうです。


 「スノーさん、キアラちゃん大丈夫ですか?」

 「ん? あぁ、ユアンか。うん、大丈夫だよ。ね、キアラ」

 「え? あ、ユアンさん?」


 どうやら二人はチヨリさんの店の前まで来ている事に気付いていないようで、僕が声をかけると少し驚いていました。

 

 「大丈夫ならいいのですが、無理はしないでくださいね? オルフェさんもです」

 「えぇ、私は平気です。孤児院の子供達の面倒を見るよりは楽ですからね。少し、淋しくもありますけど」

 

 それも仕方ないですね。

 オルフェさんはずっと孤児院の院長先生をやってきて、僕以外にも沢山の子供を送り出し、空きが出来ればその度に新たな子供を受け入れ、常に子供達に囲まれて生活をしていました。


 「すみません。オルフェさんに無理を言ってしまって」

 「いいのですよ。街の人からの要望でもありましたから」


 オルフェさんはこの街に来てから、新たな仕事を始めました。

 正確には始めたというよりは戻ったという感じですけどね。

 

 「アカネさんが休む間だけだとしても、助かります」

 「えぇ、短い間ですので頑張らせて頂きましょう。短い間で済めばいいですけどね」

 「赤ちゃんから目を離す訳にはいきませんからね」

 「そうですね」


 謂わば、オルフェさんはアカネさんの代理でスノーさんの補佐をやってもらっています。

 その期間は今の所は未定ですが、少なくとも来週に控えた結婚式と、お腹の子供が生まれ、生活が落ち着くまでの期間は手伝って貰う事が決まっています。

 そう考えると、オルフェさんに代理をやって頂くのは長期になりそうですね。


 「私としては、アカネさんとオルフェさんに仕事を任せていいと思うんだけどね」

 「私達よりも遥かに立派な街づくりが出来ると思いますよね」

 「経験と場数が違いますからね。ですが、スノーさんもキアラちゃんも、僕達からすれば立派で、凄く頑張っているように見えますよ」

 「そうだなー。他の者もスノー達の事を認めて信頼してると思うなー」

 「なー」

 「そうかな?」

 「そう思われているのなら嬉しいね」

 「私の目から見てもそう見えますよ。チヨリは建前でそんな事を言いませんから」

 

 その証拠かはわかりませんが、スノーさん達を見かけた街の人が、街の様子を見て回っているスノーさん達に差し入れを持っていっている所を何度も目撃しています。

 一見すると賄賂のようにも見えますけど、この街ですとそれは意味を成さないので単純に好意で渡しているように思えますね。

 賄賂を渡した所で、優遇されるようなことが今の所一つもありませんからね。


 「それで、今は何をしているのですか?」

 「今は街の外壁を建てる計画の見直しだね」

 「私達の計画に見直さなければいけない箇所があったの」

 

 影狼族の移住にあわせ、農業区を拡張し、家屋と外壁を建てる計画をしているのを知っていましたが、そこまで進んでいるとは思いませんでした。


 「けど、見直しって事は何か問題があったのですか?」

 「うん。外壁を建てる場所がよくないみたいなんだよね」

 「このままだと、場所によっては日が当たらない家や畑があるし、外壁が壊れた時に、一緒に家が潰れちゃう場所もある事に気付いたの」

 「それは大事ですね」


 どうやらオルフェさんの指摘で気付いたみたいで、実際に計画した場所の視察に向かっている途中のようですね。

 

 「本当にオルフェさんが居てくれて良かったよ」

 「この計画は私とスノーさんだけで進めなければいけなかったので助かりました」


 この計画は二人でやっていたのですね。

 

 「アカネさんは関わっていなかったのですか?」

 「うん。ただでさえアカネさんの仕事は多いからね。これ以上は負担をかけられないし」

 「その結果、私達の配慮の足りなさがよく分かりましたけどね……」

 「そんな事はありませんよ。その一点を除けば、計画には問題ないように思えますので」

 

 落ち込むキアラちゃんにオルフェさんがすかさずフォローをいれています。

 見た所、いい関係を築けているみたいで良かったです。

 ただ、このままで終わらないのがオルフェさんだと僕は知っていますけどね。


 「ですが、スノー様達は些か外に出る機会が少なすぎます。図面や文面で判断できない事は沢山あります」

 「はい、今後は気をつけます」

 

 いい所と悪い所をはっきりと言ってくれるのがオルフェさんです。

 そうやって僕達を成長させてくれましたからね。


 「っと、それじゃ私達は行くよ」

 「はい! 引き続き頑張ってくださいね」

 「うん。また後でね」

 「ユアンもしっかりと仕事をするのですよ? 欠伸ばかりしていないで」

 「は、はい!」


 僕の事もばっちり見られてしまっていましたか……気を引き締めないとですね。

 スノーさん達が、問題の場所を見るために離れていきました。


 「どんどん街が変わっていくなー」

 「そうですね。チヨリさんから見て、街が変わるのはやっぱり嫌ですか?」

 「そんな事ないぞー?」

 「でも、ずっと住んでいた場所がどんどんと変わっていくのですよ?」


 この前、僕は生まれ育った村へと行きましたが、村の様子が変わり、少しだけ淋しくも感じました。

 僕があそこに住んでいたのは約十五年ほどでしたが、それでも淋しく思えたのに、それよりも長くナナシキに住んでいるチヨリさんからすれば、もっと思い入れがあってもおかしくない筈です。

 

 「わっち達は待っていたからなー」

 「誰をですか?」

 「ユアン達をだなー」

 「僕達をですか?」

 「うむー。今ならわかると思うが、私達は変わっているなー?」

 

 変わっているとは違うと思いますが、確かに特殊な人達が集まっているのがわかります。

 表面上は農業をしたりする一般市民ですが、本当の姿はアンジュお母さんの親衛隊。

 今では僕の親衛隊という戦う事が本職の人達です。


 「街を発展させることはできたー。だけどなー、それじゃユアン達が来たときに、自由に街を発展させることはできない。だから、ユアン達がくるまで、最低限の事しかしてこなかったんだなー」

 「僕達のために、発展しなかったという事なのですね」

 「うむー。それに生活には困っていなかったしなー」


 これは街をつくり始めた頃からのみんなの意志のようですね。

 それを聞けて安心しました。

 スノーさん達にも伝えないとですね。


 「それにしても、今日も暇ですねー」

 「そうだなー」

 「なー」


 お昼前になるといつもの事ですが、訪れる人が少なくなります。

 特に帝都での戦いが終わったこの一か月はそれが顕著にでていて、以前よりも暇に思えます。


 「まぁ、まだ戦いの余韻が残っているからだろうなー」

 「僕とシノさんの為に戦えたからって言いますけど、本当ですかね?」

 「うむー。ずっと待ち望んでいた戦いだったからなー」


 先ほども街の人は僕の親衛隊という事になっていると言いましたが、暇な原因はそこにあるようで、僕の役に立てたからそれが嬉しくて、その嬉しさを今は噛み締めているとチヨリさんは言います。

 確かに、最近の街の人達はいつも以上に仕事を張り切って楽しんでいるようにも見えますけどね。

 にわかには信じられませんよね?


 「ユアン」

 「あっ、シアさん!」


 そんな話をしていると、今度はシアさんが来てくれました!


 「どうしたのですか? こんな時間に!」

 「暇だから、ユアンに会いにきた」

 「えへへ、嬉しいですっ!」

 「なー……」

 「サンドラにも。いい子にしてた?」

 「なー! してたぞー!」


 シアさんが来て、サンドラちゃんも嬉しそうですね。


 「本当にユアン達は仲が良いなー」

 「チヨリも撫でて欲しいの?」

 「私は遠慮するー」

 「わかった」

 「それじゃ、僕が撫でてあげましょうか?」

 「うむー」


 僕に撫でられるのはいいのですね。

 けど、こうみると本当に子供みたいですよね。

 撫でると狐耳がぴょこぴょこして嬉しそうにしています。


 「あ、そういえば孤児院の方は順調なのですか?」

 「うん。イル姉が援助してくれてるし、マナもそれなりに上手くやってる」

 「意外ですね。そんな風には見えませんけど」

 「うん。だけど、マナは意外と子供が好きだから適任ではある」

 「そうなんですね」


 ついにこの街にも孤児院が出来ました。

 孤児院といっても、子供が纏めて暮らす場所で、普通の大きな家屋ですけどね。

 それでも、子供達が今の所は不自由な生活を送らなくても済む場所が出来たのは良かったです。

 問題となるのは、孤児院の生活を見守る大人が必要な事でした。

 何せオルフェさんはスノーさん達の補佐をしてもらっていますからね。夜は一緒に過ごしているみたいですけど、昼間はそうはいきません。

 そんな中、子供達の面倒を見るのを買って出たのは意外な事にマナでした。

 影狼族のシアさんの友達の人ですね。


 「けど、マナで大丈夫なのですかね?」

 「今の所は。ああみえて、面倒見がいい」

 「本当ですか? シアさんを疑う訳ではないですが、僕から見るとそうは思えないので……」

 「そこはごめん。マナがユアンの事をまだ良く思っていない。私の責任」

 「いえ、シアさんの責任ではありませんよ。僕がマナとは反りが合わないだけだと思いますので」


 人付き合いで相性というのがあるのは知っています。

 幾ら仲良くしようと思っていても、自然と反発してしまう間柄というのはあるものですよね?

 たまたま僕とマナがそういった間柄なのだと思います。

 僕は嫌いではありませんけどね。

 ただ、どうしても冷たくされれば僕も自然と距離を置くようになってしまいます。


 「けど、何か問題がありましたら手伝いますので言ってくださいね?」

 「うん。孤児院に顔を出すとユアンの事を毎回聞かれる。今度一緒にいく」

 「わかりました。シアさんと一緒なら僕も行きづらくないですからね」

 「うん。マナはその間私が相手しとく」


 とりあえず、孤児院の方は問題なさそうで良かったです。

 となると、残った問題といえば……。


 「結婚式の準備はどうですか?」

 「うん。その件を伝えに来た。この後、アリアの所にいく。ドレスが完成したらしい」

 「ついに完成してしまったのですね……」


 嬉しさ半分、どうしようという気持ちが半分です。


 「大丈夫。ユアンのドレスはきっとかわいい」

 「ありがとうございます。だけど、やっぱり着なきゃダメですかね?」

 「ダメ。シノの親族代表はユアン。ユアンがしっかりしないとシノが可哀想」

 「わかっていますけど、みんなの前でスピーチするのは恥ずかしいです」


 何よりもシノさんとの思い出が少ないので、話す事が思い浮かびません!

 出来る事なら、エメリア様やエレン様も来るみたいなので、変わって貰いたいものです。

 シノさんが僕を指名したみたいなので、仕方ないですけどね。


 「それもアリアに相談するといい」

 「そうですね。えっと、チヨリさん?」

 「うむー。暇だから行ってくるといいぞー」

 「ありがとうございます」

 「なーなー? 私はー?」

 「サンドラちゃんも一緒に行きましょうか。サンドラちゃんの服も用意してくれているという話ですし」

 「なー!」


 やったーとサンドラちゃんが両手をあげています。

 何処かにお出かけできるのは嬉しいみたいですね。

 帝都での戦いで外に出た時も嬉しそうでしたからね。


 「では、行ってきますね」

 「うむー。楽しみにしてるなー」

 「期待はしないでくださいね?」

 

 馬子にも衣裳という言葉があるようですが、まさしく僕の為にあるような言葉ですね。

 きっと、僕がドレスを着ても、ドレスに着られているといった感じになると思います。

 せめて、もう少し背が大きくて、ぺったんこな体じゃなければ見栄えがあったかもしれないですけど……。

 まぁ、無いものは仕方ありません!

 そういう訳で、僕達はアラン様のお家に向かいました。

 お城ではなく、ナナシキにあるアラン様のお家にです。

 どうやら、アリア様は今そこで生活をしているみたいですからね。

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