第332話 補助魔法使い、オルフェを誘う

 「他にはもう居なさそうですね」

 「うん。大丈夫そう」


 探知魔法を使用し、他にも魔物が隠れていないかを確認するも反応はなし。

 ようやく一息つけそうですね。

 

 「ユアン、助けに来てくれてありがとうございました」

 「お姉ちゃんかっこよかった!」

 「兄ちゃんって強かったんだな!」

 

 周囲の警戒をしていると、院長先生たちも安全だとわかったのか、僕達に近づいてきました。

 けど、あまり子供達にオーガの死体を見せる訳にもいきませんね。


 「ユアン、オーガは私が回収しとく」

 「ありがとうございます。院長先生、ここはあれなので、少し移動しましょう」

 「そうですね。と言っても、孤児院が……」


 オーガの死体から少し離れ、院長先生の見つめる先には、今も燃え続ける孤児院の姿があり、一目見ただけでもう住める状態ではないと思えるほど燃えてしまっています。

 


 「これからどうするつもりですか?」

 「そうですね。暫くは子供達の負担になりますが、テントでも張り、外での暮らしを余儀なくされるでしょう」


 うーん……院長先生はそう言いますが、育ち盛りの子供達にそんな生活をさせる訳にはいきませんね。


 「それなら、僕達の街に来ませんか? まだ開拓中で、家も沢山空いていますし、住む場所には困らないですし、僕の仲間が領主をしていますので、援助もしてくれると思います」

 「それは有難い申し出ですが、流石にそこまで迷惑をかける事は出来ませんよ」

 「迷惑なんかじゃないですよ。僕も院長先生たちが近くに居てくれると安心できますからね」

 

 これは僕の本音です。

 やっぱり、母親とも呼べる人が遠い場所にいるとふと思い出した時に淋しい気持ちになる事もありましたし、子供達も元気にやっているのか心配になることがありました。


 「オルフェ、気にする事はない。私の一族も住まわせて貰ってる。その中には、孤児院の子供と同じくらいの子も沢山いる」


 早いですね!

 オーガの回収を終えたシアさんが戻ってきて、話に加わりました。

 そして、とてもいいタイミングです!

 これは院長先生を丸め込むチャンスな気がします!


 「そうですよ。院長先生や子供達が増えた所で、何も問題ないですからね」


 それに、いずれは僕も院長先生のように、孤児院を開いたり、援助したりしたいと思っていました。

 

 「お姉ちゃんの街に行けるの?」

 「はい、院長先生が許可してくれれば、僕達は歓迎しますよ」

 「兄ちゃんって偉くなったんだな!」

 「兄ちゃんじゃなくて、お姉ちゃんですよ。別に偉くはないですけどね。それで、みんなは行ってみたいですか?」

 「いきたーい!」

 「いってみたいなー」

 「だそうですよ?」


 僕と院長先生の会話を聞いていた子供達が僕の街に行ってみたいと言っています。

 まだ十にも満たない子供達ばかりですので、他の街に行ってみたいと思うのは当然ですね。

 

 「ユアン、本当に負担にはなりませんか?」

 「はい! 僕達だけではなく、色んな孤児院を経営し、援助をしてくれている人が街に住んでいますので、その人も協力してくれると思いますからね」

 「そんな方がいるのですね」

 「うん。私の姉。子供達が成人した時に、職を紹介したりもしてる」

 「そうですか。子供達の事も考えると、決して悪い話ではなさそうですね」

 「という事は……」

 「はい、今はユアン達の好意に甘えさせて頂こうと思います」


 やりました!

 院長先生が僕達の街に来てくれる事になりましたよ!


 「ですが、その前に領主様に伝えなければなりませんね」

 「それもそうですね」


 院長先生たちはこの街の住人として住民登録されている筈ですからね。

 流石に勝手に出ていくわけにはいきませんね。

 問題は、向こうがどうなったかになってきますが、それも直ぐに解決しました。


 「あちゃー、大変な事になってるね」

 「あ、スノーさん。向こうは終わったのですか?」

 「うん。一瞬で終わったよ」

 「また私達の出番がなかったの」


 どうやら、空の敵はチヨリさん達が、外の敵はアラン様達が片付けてしまったみたいですね。

 それなりに数は多かったと思いますが、それを一瞬で殲滅してしまうとは改めて凄い人達ですよね。


 「オルフェ殿、ご無事でしたか」

 「ブルーム様の方もご無事で何よりです。街の方はよろしいのですか?」

 「えぇ、不思議な事に怪我人はいましたが、幸いにも死人は今の所は確認できていません」

 「そうでしたか」


 院長先生がちらりと僕の方を見てきました。

 その目は貴女ですねと言っているように見えたので、僕は小さく頷き返します。


 「それで、孤児院はどうするの?」

 「こんな状態ではとても住めそうにはありませんね」

 「あ、その件なのですけど……」


 ちょうどいいですね。

 この村の領主であるブルーム様とナナシキの領主のスノーさんが揃っていますので、院長先生と話合った事をそのまま二人に伝えます。


 「本気ですか? スノーの街はここからどれだけかかると思っているのか理解しているのですか? とても、子供達を連れ、移動できる距離ではありませんよ」

 

 ブルーム様はいい人ですね。

 移住の件を伝えると、子供達が安心して暮らせるのなら問題ないと言ってくれ、子供達の心配までしてくれました。

 確かに、ブルーム様の心配は無理もありませんね。

 子供達を連れ、ナナシキまで普通に向かったら、相当な時間がかかりますからね。

 その間にも危険が伴うのも当然の事です。


 「えっと、スノーさん……」

 「大丈夫。兄上は口が堅いから」

 「わかりました。えっと、これは内緒の話なのですが……」


 ブルーム様に転移魔法が使える事を伝えます。


 「それは、本当ですか?」

 「本当ですよ。そうでなければ、僕達がこの場に居ること自体がおかしいですよね?」

 「確かに。よくよく考えれば、ナナシキの領主をしているスノーがこの場にいる事がおかしいか」


 少し悩んだ素振りを見せましたが、ブルーム様は納得してくれたみたいですね。


 「わかった。この状況ですから、直ぐの直ぐには手続きはできませんが、落ち着いた時に手続きをしておきましょう。では、オルフェ殿の無事も確認できましたので、これで失礼します。スノー、もう少し手伝ってくれるか?」

 「わかった。ユアン、私達は暫く兄上の補佐に回る。後で迎えに来てくれる?」

 「わかりました」

 「終わった頃に、連絡をいれますね」

 

 これで、院長先生たちの移住も問題なさそうですね。

 ブルーム様と共に、スノーさんとキアラちゃんが離れていくのを見届けました。

 これから大変そうですね。

 っと、そう言えば院長先生に確認したい事がありましたね。


 「そういえば、あの防御魔法って院長先生の魔法ですか?」

 「えぇ、ユーリに教わり使いました。久しぶりでしたが、上手く作動して良かったです」

 

 やっぱり、魔物の侵入を妨害していたのは院長先生の魔法でしたか。


 「ですが、それでも被害は出てしまいましたけどね」


 村の中で暴れまわっていた魔物は、展開が終わる前に侵入された魔物のようでしたね。


 「ですが、どうして孤児院ばかりが狙われたのですか?」

 

 村の中の被害に比べると、孤児院の被害の方が遥かに大きいのが一目でわかります。


 「それは、私が魔物を惹きつけたからです」

 「魔物をですか?」

 「えぇ、ユアンは魅了チャームという魔法を知っていますか?」

 「はい、聞いた事があります」


 確か、魔族や魔物が使う魔法で、相手を虜にするサキュバスとかが使うので有名ですね。

 後は、海で漁師が船だけ残し、行方不明になる事がありますが、それはセイレーンという魔物の歌声に引き寄せられたからという話も聞いた事がありますね。


 「孤児院が狙われたのは、恐らくそれが原因だと思います」

 「院長先生がその魔法を使ったのですか?」

 「はい。子供達に怖い思いをさせてしまいましたが、その方が村人に被害が少ないと思いまして」


 実際に僕達が助けに向かわなくても、院長先生一人でどうにかなりそうでしたしね。


 「そんな事はありませんよ。もし、ユアン達が来てくれなかったら、どうなっていたのかはわかりません。私の防御魔法は模倣で、完璧ではありませんから」


 そうは言いますが、村を覆う防御魔法と、自分と子供を護るために防御魔法、二重の防御魔法を展開していたのです。

 きっとどうにでもなったと思います。


 「そういえば、ユアンはあの刀を受け継いだのですね」

 「あの刀? あの刀って、これの事ですか?」

 「はい、それは元々アンジュが使っていた刀ですよ」

 「えっ! この刀がですか!?」


 先ほどまで使っていた漆黒の刀を収納からとりだすと、懐かしそうにオルフェさんがまじまじと刀を見つめました。


 「けど、この刀を手に入れたのは偶然でしたよ?」

 

 これを手に入れたのはお祭りでキアラちゃんが射的でとってくれたからです。

 僕の力では手に入れる事は出来ませんでした。


 「偶然ではありませんよ。その刀は主を選ぶ。ユアンと出会うために、その場に居合わせたのかもしれません」

 「そんな事があり得るのですか?」

 「あり得るでしょう。貴女が隣の影狼族の子と出会ったようにね」

 「うん。偶然じゃない。ユアンと出会うのは運命だった」

 「だそうですよ?」


 むー……そう言われると納得してしまいそうです。

 僕のお母さんとシアさんのお母さんは主と従者という関係でした。

 シアさんのお父さんはルード帝国の王様、クジャ様の従者でした。

 普通に生きていればとてもお会いできる人ではない人と出会う事ができたのは、目に見えない繋がりというものが引き合わせている。

 そんな風に考えられるような気がしてしまいます。


 「そう考えると、この刀は僕と出会うためにあの場所にいたって思えてきますね」

 「はい。そう考えた方が浪漫があるでしょう。恐らくは、誰かが仕込んだと考えるのが妥当でしょうけどね。例えばアリアなんかが」

 「それはあり得る」

 「確かにそう言われるとあり得そうな気がします」


 手に入れたのはフォクシアのお祭りでした。

 もし、あのお店の人がアリア様関係の人だったら、十分にあり得るような気がしてきますね。

 今度聞いてみようと思います。


 「あの、少し……いいか?」

 

 院長先生とそんな会話をし、待たせてしまっているアリア様達の元へとみんなで移動を開始すると、突然僕達に話しかけてくる人がいました。


 「あ…………」


 それは僕も良く知っている人でした。

 いえ、会話はほとんどしたことはありませんが、顔をみれば良く知っている人……この村の人達が僕達に話しかけてきたのでした。

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