第331話 補助魔法使い、シアと共闘する

 「敵を盾に、一対一の状況をつくる……」


 スノーさんが戦いの最中に意識している事を思い出し、それを実行するのに迷いはありませんでした。

 片方のオーガから僕の姿が見えない場所、僕から見て右側のオーガの影に隠れるようにし、左側に居たオーガの視線をきります。

 そういう事ですね!

 実践して初めてわかることがあります。

 こうやってみると、オーガとオーガが重なり、二匹に囲まれずに戦う事が出来ました。

 しかし、それも一瞬です。

 移動した事により、前になったオーガが横にずれ、後ろとなったオーガも逆に動き、僕を囲むような動きをしているのがわかります。

 ですが、移動をするという事は、その間は攻撃に専念できないという事にも繋がりますね。

 それなら、その隙を見逃す訳にはいきません!


 「てぇーい!」


 これはキアラちゃんから教わりました。

 狙いを定める時に意識するのは敵の動きを予測するという事です。

 僕にはキアラちゃんほど優れた目を持ち合わせていませんが、それでもわかる事があります。

 オーガが動く瞬間、オーガの重心が移動する為に片方の足にかかり、その力を利用して横へと移動をしたのです。

 そして、キアラちゃんが一番狙うタイミングがこの後。

 移動して止まる瞬間です。

 一瞬ですが、そこに硬直が生まれるというのです。

 あの時は言っている意味を理解できませんでしたが、今ならわかります。

 オーガの動きが一瞬だけ止まるのがわかりました。

 そこを狙い、僕は刀を振り落とします!


 「ガアッ…………」

 

 狙いとは若干ズレましたが、それでもこの刀であれば致命傷となる一撃がオーガの肩から腰へと抜けました。

 

 (ユアン)

 「わかっていますよ」


 シアさんの声が聞こえたような気がします。

 倒した敵をいちいち確認しない。

 シアさんはそうやっていつも次から次へと敵を倒してくれています。

 最初に倒した二匹は確認をしました。僕がちゃんと倒せているかどうかがわからなかったからです。

 ですが、今の一匹は倒したという自信があります。

 なので、もう一匹は続けて倒します!

 自分でも自然な流れではないと思います。ですが、それでも十分でした。

 片割れのオーガが倒されたのをもう一匹のオーガがみている間に、僕はオーガの心臓に狙いを定め、刀を突き出します。

 まるでそうすれば倒せるとわかっていたかのように体が動きます。

 剣ではできない、刀だからこそ出来る突きという攻撃がオーガへと届きました。

 どうやら、上手くいったみたいです。

 オーガの瞳から光が失われていきます。

 

 「ユアン。すごい」

 「そ、そうですかね?」

 「うん。だけど、スノーなら二匹相手するのなら、まず二匹と一度剣を交わしてから、ユアンみたく動く」

 「そうなのですね」

 「うん。いきなりユアンの姿が消えたら標的を変えるかもしれない。だから、一度剣を交わし、意識を自分に向けさせるようにする」

 「なるほどです」


 ただ真似をしてみるだけではダメですね。

 ちゃんと、その行動をする意味とその過程が大事という事がよくわかります。


 「けど、ユアンの動きはそれなりに良かった」

 「それなりにですか……」

 

 つまりは及第点って所ですかね?

 シアさんならもっと褒めてくれるかと思いましたが、ちょっと残念です。


 「ごめん。だけど、戦いは命懸け。ダメな所はダメ。甘やかしたくない。それがユアンの為になる」

 「わかっていますよ。けど、もっと成長したら褒めてくれますか?」

 「うん。楽しみにしてる」

 「えへへ、僕もです!」


 シアさんに褒めて貰えるかもしれないと思うとそれだけで頑張れますね!


 「あれ、シアさん?」

 「あっちは終わった。最後は一緒に戦う」


 僕の背中を護るように戦っていたシアさんが僕の隣に立ちました。


 「いいのですか?」

 「うん。連携取るのも大事」

 「それもそうですね……えっと、足を引っ張ったらすみません」

 「気にしない。大丈夫、ユアンは好きに戦う。フォローは私がする」

 「はい! 勉強させてもらいます!」

 「うん。いい心がけ。余裕があれば、私が何をしているか見るといい」


 その余裕があれば、いいですけどね。

 ですが、一緒に戦える。

 僕からシアさんに合わせる事が出来なくても、それだけで今は十分です。


 「それじゃ、シアさんよろしくお願いします」

 「うん。頑張ろ?」

 「頑張ります!」


 オーガ達には悪いですが、シアさんと一緒に戦うのです。

 もう勝ち目はありませんよ?

 といっても、オーガ達は周りの味方がやられたのにも関わらず逃げる所か、闘志をむき出しにしていますね。


 「あれじゃ、ダメですね」

 「うん。熱くなっても冷静に」

 「ですね!」


 気持ちはわかりますけどね。

 僕だってシアさんが傷つけられた時、凄く怒った記憶がありますからね。

 シアさんも実はそうでした。

 初めてイリアルさんと会った時、僕はイリアルさんに剣を向けられました。

 それでシアさんは怒って、お母さんなのに斬りかかってましたからね。

 あれが、本気だったかはわかりませんが、怒っていたのは確かです。


 「ユアン」

 「あ、そうでした! いきますよ」

 「うん。だけど、戦闘の最中にまたボーっとしてた。後でお仕置き」

 「え……それはずるいです!」

 「なら、しっかりする! お仕置きはするけど、ね?」

 「むー……わかりました。お手柔らかにお願いしますね?」

 「うん! 夜が楽しみ」


 お仕置きってそっちなのですか?

 え、いや……別に夜だからってそうとは限りませんよね?

 それよりも、シアさんだって集中していませんよね!

 そう思いシアさんを見ると、シアさんがにやっと笑いました。

 むぅ……シアさんがそんな風に笑うのはあまりありません。やっぱり……。

 っと、オーガが迫ってきています。

 シアさんが分身を消したからですね。

 

 「ユアン、いく」

 「はい!」


 シアさんの表情が切り替わります。

 おふざけはここまでって事ですね。

 シアさんと出会ってからずっと一緒に戦ってきました。

 ですが、こうやって肩を並べて戦うのは初めてですね。いつも、シアさんが前線で頑張っている中で、僕は後ろでサポートしかできませんでしたから。

 だけど、今は一緒に剣を構え、迫りくるオーガと戦っています。

 それが嬉しくて、緊張して、すごくドキドキしているのがわかります。

 本当ならこの戦いは院長先生と子供達を護るための戦いです。

 それなのに、僕はこの戦いが終わらなければと少し思ってしまいました。

 それだけこの時間が充実しているのだと実感してしまっているのです。


 「大丈夫。これからも一緒」

 「はい。ずっと、一緒ですよ」


 一瞬だけ、シアさんと目線が合い、直ぐにオーガに視線を戻します。

 この日、僕は少しだけかもしれませんが、また一つ成長できたような気がします。

 戦いとは何か。

 それをまた違った角度で見れたような気がします。

 しかし、楽しい時間というのは無常に足早に去ってしまいます。

 気づけば、オーガが一匹になっていました。


 「ユアン、最後は……」

 「わかりました。いつもの僕の力でですね?」

 「うん!」


 期待した目でシアさんが僕を見ています。

 それだけで何を求めているのかがわかりました。

 僕は刀を収納魔法にしまい、声を大に叫びます。


 「スタンスパーク!……シアさん、今です!」

 「任せる!」


 僕の補助魔法でオーガが痺れ、直立不動になりました。

 それと同時に、シアさんがオーガへと一瞬で詰め寄り、少し遅れてオーガの首がごろりと地へと転がりました。


 「僕達の勝ち、ですね!」

 「うん。私達の勝ち」

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