第330話 補助魔法使い、オーガと戦う

 僕にとってシアさんは大切な仲間であり、誰よりも愛しい恋人です。

 それと同時に、憧れでもありました。

 僕にできない事を平気でやってのけ、涼しい顔をして僕の期待に応えてくれるのです。

 時には失敗することもありました。

 ですが、その度に強くなって常に僕の前で成長していく姿を見せてくれるのです。

 シアさんと出会う前の僕はどうだったでしょうか。

 Eランク冒険者として、いつか家を建て、薬草などを採取して、人の傷を癒したりして、のんびりと暮らしていければいい。

 そんな小さな目標を持ち生きていました。

 やっている事は今と大して変わりません。

 変わらないのです。

 だけど、今と昔では気持ちが全然違います。

 もっと強くなりたい。

 シアさんと並んで一緒に戦いたい。

 弓月の刻のみんなを防御魔法だけ……お母さん達から引き継いだと思われる力ではなく、自分の手でみんなを護りたいと強く思うのです。


 「だから、僕は負けません!」


 オーガの剣が僕に迫ります。

 力では遥かにオーガの方が上かもしれません。

 だけど、速さなら僕が有利です!

 シアさんのように見た瞬間に反応できるほどの目はありませんが、オーガが剣を振るったと思うと同時に、僕の体が動き、刀でオーガの剣に合わせぶつけるように振るい返す。


 「ぐが?」

 「え?」


 カランと金属が転がるような音が僕の耳に届きました。

 

 「ユアン! 手を緩めない!」

 「は、はい!」


 音の方向に顔を向けそうになりましたが、それをグッと堪え、型も何もないですが、刀身を肩に乗せるようにし、全身を使い刀を振り下ろす。

 オーガはまだ反応できていないようです。

 何が起きたのかわかっていないようで、僕がやってしまいそうになった、金属の音の方をみて、僕から少しだけ目を逸らしています。

 それが隙なのですね。

 シアさんの言葉がなかったら、逆の立場に僕がなっていた可能性もあります。

 ですが、その隙を見逃す訳にはいきません!


 「てやー!」


 あっ、声を出して攻撃するのは今から攻撃しますよと言っているのと同じと前にシアさんが言っていましたね。 

 確か、ニーナさんと模擬戦をした時にです。

 失敗しました。僕の掛け声でオーガが僕の方を向きなおし、僕の攻撃を防ごうと剣を構えました。

 ですが、その剣は半ば辺りから刀身がなくなっています。

 きっと、さっきの金属音は刀が折れ、地面に転がった音だったのかもしれませんね。

 この刀の切れ味は本物だという事が証明できました。

 なら、このまま斬るだけです!

 オーガの背は高く、結果的には首を狙いましたが狙いが外れた事もあり、オーガの二の腕辺りに刀があたりました。


 「うぇ……」


 それなのに、僕の刀は止まることなく、刀を振り切ると、オーガの体がずるりと上と下にズレました。


 「ユアン、呆けない」

 「は、はい!」


 こんな感覚は初めてです。

 以前にナイフで盗賊の頭を倒したことがありましたが、ここまで派手ではなく、心臓と首を狙い、最小限で出来るだけ済ましました。

 正直、かなり動揺しました。

 この力は間違った使い方をすれば、大変な事になると思ったのです。


 「けど、正しい使い方をすれば、みんなを護れるということです!」


 シアさんの分身がオーガを抑えてくれいる間に小さく深呼吸をし、出来る限り平常心を保ちます。


 「次、いきます!」


 戦いはまだ始まったばかりです。

 僕の背中の方はオーガの数はかなり減っていますが、僕の正面にはまだ多くのオーガが残っています。


 「ユアン、次がいく」

 「はい、任せてください!」


 個体による差はあるかもしれませんが、オーガの動きの速さは大体わかりました。

 この相手なら僕の動きでもどうにか戦えそうです。

 それに、分身ですが、シアさんが僕のサポートに回ってくれています。これなら、負ける気はしませんね。

 

 「ユアン、油断はだめ」

 「わかっていますよ。油断すると、シアさんでも負けたりしますもんね」

 「むぅ……もうしないもん」

 「わかっていますよ」


 それだけ油断が危険という事は経験からわかっているという事です。

 だから、刀を構えなおし、真っすぐにオーガを見据えます。

 それと同時に、分身のシアさんがまた一匹だけ通すようにオーガが通れる道を作りました。

 オーガが意図的に作られた道を抜け、僕へと向かってきます。

 先ほど一匹倒したからか、気持ち的に少しだけ余裕が出来たような気がし、オーガの動きが遅く見え、細かい所まで見えるような気がします。

 

 「これが、経験ってやつですかね?」


 迫りくるオーガの歩幅が小さくなりました。

 僕との距離を調整し、剣を振るうタイミングを測っているのがわかります。

 しかし、それがわかれば、それに合わせる事も可能です。

 僕はオーガが剣を振り上げるタイミングよりもほんの少しだけ前に自らオーガとの距離を詰め、懐へと潜り込みます。

 タイミングはばっちりでした。

 予想通りオーガが剣を振り上げると、既に僕は小さな体を活かしオーガが振り上げた手の側へと回り込みます。

 その態勢では、まともに剣は振るえませんよね? 振るったとしても、力は入らない筈です。

 何よりも、刀の切れ味も速さでも僕の方が上です!

 オーガが剣を振り下ろすよりも早く、僕は刀を振ります。

 狙いはがら空きとなった胴。

 余分な力は抜き、刀の切れ味を信じ、刀を左から右へと振り抜く。

 オーガの動きが止まりました。

 そして、また再びずるりと体が半分にずるりとズレていくのを横目で確認します。

 

 「シアさん、次お願いします!」

 「うん! ユアン、いい感じ」

 「ありがとうございます!」


 シアさんから褒めてもらえました。

 ですが、ここで気を抜いたらまた注意されてしまいます。

 探知魔法を一瞬だけ使用すると、今戦ったオーガの反応が消えているのを確認できました。なので、次の敵を見据えます。

 オーガの数はまだまだ居ます。

 気を抜くにはまだ早いです。

 全ての敵を倒すまでは安心はできません。

 新たなオーガが迫ってきます。

 足元に転がったオーガの死体が少し邪魔なので、収納魔法に納め、足場を確保し迫るオーガと対峙します。


 「今度は斧ですね」


 斧を持った敵と戦うのは初めてですね。

 ですが、それも経験になると思います。

 結果的に斧との戦闘は剣を持ったオーガよりも楽でした。

 剣には突きという攻撃の選択肢もありますが、斧はその攻撃がありませんので、攻撃の予測が楽だったのですよね。


 「ユアン、次は二匹。頑張る!」

 「いきなりですか!?」

 「出来ない?」

 「うー……やってみます!」


 シアさんが二匹通すって事は、僕なら二匹同時に相手もしても大丈夫って判断したからですよね。

 なら、その期待に応えるだけですよね……。

 大変そうですけどね。

 シアさんの宣言通り、二匹のオーガが迫ってきました。

 挟み込むような形じゃなくて良かったです。

 互いの剣がぶつからないように、少しだけ距離をあけて迫りくるオーガの動きを観察します。

 うん、大丈夫そうです。

 連携をとるような動きはしていないのがわかりました。

 それに、オーガ同士距離を多少開けているとはいえ、互いの攻撃を意識してか、動きに遠慮が見えるような気もします。

 それが、致命的な隙になっているように感じます。

 けど、その動きも罠の可能性もありますので油断は出来ませんけどね。

 

 「では、お相手させて頂きますよ!」


 迫りくるオーガに僕はそう伝えます。

 深い意味はありません。

 オーガに伝わっているのかもわかりません。

 ただ、戦うという気持ちを相手に伝えたかったのです。

 遠慮はいらず、全力で戦って貰いたいとそう思えたのです。

 

 「「ガァァァァァァ!」」


 言葉は伝わらずとも、気持ちが伝わったのか、オーガが吠えました。

 鬼の形相とはよく言ったもので、オーガの気迫が凄いですね。

 思わず一歩下がってしまうのをグッと堪え、ギュっと刀を握りオーガを迎えうちます。

 そんな中、ふとスノーさんの戦い方が頭に浮かびました。

 そういえば、スノーさんは攻める剣ではなく、護りの剣でしたね。

 二対一となると、どうしても今の僕では受け身に回ってしまいます。

 なら、スノーさんの動きを参考にして……。

 うん、多分大丈夫です!

 一つの作戦……ではありませんが、試してみたい事が出来ました。

 早速それを実験してみたいと思います。

 上手くいくかはわかりません。

 ですが、試してみる価値はきっとあります!

 僕は向かってくるオーガに対し、それを実行するのでした。

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