第329話 補助魔法使い、孤児院に向かう

 「チヨリさん、こっちはお任せして、僕達は孤児院の様子を見に行ってきます!」

 「うむー。気をつけてなー」

 「はい! シアさん一緒にお願いします」

 「任せる」


 防御魔法が展開してありましたので助かりました。

 そのお陰で魔物は村へと侵入できず、比較的安全な場所から攻撃が出来ているようですね。

 といっても、アラン様達が防御魔法の外で暴れまわっているので、魔物は大混乱し、騒ぎが収束するのも時間の問題ですね。

 上空の敵に対しては、チヨリさん達の魔法が飛んでいき、魔物を打ち落としているのでそっちも大丈夫そうですからね。


 「問題は村の中がどうなっているのかですね」

 「うん。けど、思った以上に魔物の死体が少ない」

 「あまり侵入されなかったって事ですかね?」


 そう思い、探知魔法を使用するとそうではない事に気付きました。


 「シアさん、孤児院の方角に魔物の反応が多数です!」

 「わかった。少し急ぐ」

 「お願いします!」


 ひょいと僕を抱え、シアさんが走り出します。

 傍からみたら情けないですが、僕が全力で走るよりもシアさんがこうして走った方が速いので仕方ないですね。

 これでも、シアさんの契約の繋がりにより身体能力はそれなりに向上したのですけどね。

 

 「ユアンは回復に専念する」

 「任せてください」


 こうみると、傷ついた人がちらほらと見えます。

 致命傷とはいかないものの、痛みに苦しんでいる人や倒れこんだ人も見えます。

 その傍らには魔物の死体があるので、兵士だけでは対応できなかった魔物を自力で倒したのかもしれませんね。

 

 「っと、そんな考察は意味がありませんね。フォースフィールド!」


 傷ついた人を一人一人回復する暇は今はないので、傷ついた人を中心に広がる回復魔法を使用し、僕達は移動をしていきます。

 幸いな事に魔物相手に一人で戦わず、協力して戦っていたみたいなので、傷ついた人が纏まってくれているのが助かりました。


 「ユアン」

 「はい、見えています」


 孤児院は村から少し離れた場所に建てられているのですが、一応は柵に囲まれた村の中なので、直ぐに辿り着く事が出来ました。

 しかし、その目に映ったのは悲しい現実でした。


 「あの煙は、孤児院が燃えていたからなのですね」

 

 僕が育った孤児院がバチバチと音を立て、崩れていきます。


 「ユアン」

 「大丈夫です。思いでの場所なので残念ですけど、院長先生たちはまだ無事です!」


 悲しい気持ちはあります。

 ですが、それよりも失いたくない人達が残っています。


 「どこ?」

 「魔物の群れの先です!」


 背の高いオーガ達が集まっている先に、院長先生や子供達と思われる反応が探知魔法で捉えました。


 「わかった。私に任せる」

 「はい! その、僕も頑張ります!」

 「うん。けど、無理はしなくていい。ユアンはまだ慣れていない」

 「わかっています。ですが、少しくらいは僕だって戦えますから!」


 収納魔法から漆黒の刀を取り出します。

 初めて刀を振った日から鍛錬はほとんどしていませんが、魔物を斬るくらいなら僕にでも出来る筈です。

 シアさん一人に任せてもきっと余裕かもしれませんが、大切な人を守るために補助魔法だけで見ているのは嫌です!


 「シアさん、魔物の頭上まで飛んでください!」

 「わかった。ユアンは?」

 「僕は僕でどうにかします」

 「それはダメ。冷静になる。私が、先に降りて空間をつくる。ユアンはその後に着地するといい」

 「でも……」

 「でもじゃない。防御魔法があるから安全と思っちゃダメ。防ぐものはちゃんと防ぎ、避けるものは避ける。それが出来ないなら前線は任せられない。私もスノーもユアンの防御魔法を頼りにしてる。だけど、防御魔法を盾に使った事はない。いつでも生身で戦っているつもりでいる」


 防御魔法は防げなかった攻撃の保険という事みたいですね。

 シアさんもスノーさんも基本的には剣を生業にしています。

 きっと、剣で戦う事への拘りと自信があるのですね。


 「もしかして、防御魔法は迷惑でしたか?」

 「そんな事はない。ユアンの防御魔法は一級品。生身の体では試せない事に挑戦できる。ユアンのお陰で私も成長出来ている。何よりも、ユアンに守られてる安心感がある」

 「それなら良かったです」


 もしかしたら、シアさんの剣への拘りを傷つけているかもしれないと思いましたが、そうではないみたいなので良かったです。


 「そもそも、そんな事を気にする必要はない。私には私の拘り、ユアンにはユアンの拘りがある。ユアンが仲間が傷つかないように思っているのはみんなわかってる」

 「はい、シアさんだけではなく僕はみんなが大事ですからね」

 「うん。ちゃんとみんなにその気持ちは伝わっている。だけど、今回は別。ユアンが剣で戦うのなら、剣の戦いを学ぶ機会。だから、防御魔法に頼らずに戦う」

 「わかりました」


 防御魔法を使うなて意味ではありません。

 ただ、剣で……僕の場合は刀ですけど、それで戦うのであれば、ただ斬るだけではなく、守りなども学べって事ですね。

 シアさんはシアさんで僕が成長できる機会を設けてくれたという事ですね。


 「ユアン準備する」

 「はい! いつでも大丈夫です!」

 「うん。背中は任せた」

 「はい! シアさんの背中も護って見せます!」

 

 シアさんのお陰で冷静になれました。

 これは、敵を倒す戦いではなく、大事な人を守るための戦いである事に。

 僕を抱えたシアさんが跳びました。

 トン、トン、トンと、見えない足場を駆けあがるようにし、オーガの真上まで来ました。

 

 「気付かれてますよ!」

 「問題ない。このまま降りる」


 僕を宙で放し、シアさんがオーガの群れの中に飛び込んでいきます。

 既にオーガは標的をシアさんに変え、手にした剣を降りていくシアさんに合わせて切り上げました。


 「遅い」


 剣というものに触れ、その扱いが見た目以上に難しいという事を知りました。

 攻撃するよりも相手の攻撃を避けたり、受け止めたりする守りが如何に難しいという事もわかります。

 だって、相手の動きをみてから行動しないといけないのですよ?

 それなのにシアさんは……。


 「ガァ……」

 「隙だらけ」


 オーガの攻撃を弾き、そのままオーガの首を飛ばしたのです。

 わかりますか?

 双剣使いのシアさんが一本の剣で、オーガの剣を弾き、その剣でオーガの首を飛ばしたのです。

 つまりは、オーガの攻撃をみて、弾いて、弾いた方向と自分の剣を調整して攻撃に繋げたのです。

 シアさんの凄さや強さは知っているつもりでしたが、ただ単に強いと思っていただけで、その強さたる由縁を僕はしっかりと理解していなかったのです。

 今の攻撃の中に詰めこまれた技術を今日まで理解していなかったのです。


 「このままでは、パートナー失格ですね。ですが、本当に頼もしいです!」


 情けないと思うと同時に嬉しくも思えます。

 こんなに頼りになるパートナーが目の前にいるのです。

 見て学ぶにはうってつけの人が目の前にいるのです!


 「ユアン、おいで」

 「はい!」


 着地すると同時に、シアさんは周りのオーガ達を葬り、宣言通りオーガの群れの中に空間が出来上がりました。

 僕もそこに着地し、シアさんと背中合わせになります。


 「見ている余裕はないと思う」

 「はい、今の僕には無理です」

 「うん。だから、感じる」

 「何をですか?」

 「私の動き、剣の声、敵の呼吸。戦いの場と一体化する」

 「難しい事をいいますね」

 「うん。だけどそれは慣れ。実践が一番身に付く」

 

 模擬戦では得られない経験があります。

 それは僕も良く知っているつもりです。

 

 「フォローはする。ユアンは好きにするといい」

 「わかりました。背中を護るといいながら、頼ってすみません」

 「最初は誰でもそう。気にする必要ない」

 「はい。ですが、いつか本当に背中を護れるように頑張ります!」

 「その調子。だけど、冷静さを忘れない」

 「はい……出来る限り頑張ります!」

 「うん。やる……」

 「はい、やりましょう!」


 僕まで降りてきた事で警戒していたオーガが動き出しそうです。

 院長先生の方は……大丈夫ですね。

 何となく予想はしていましたが、村の防御魔法を張ったのは院長先生で、今もその証拠に防御魔法で子供達を守りながら戦っているのが飛んだ時に見えました。

 その時に、一瞬ですが目が合い、笑ったのが見えましたので僕達が来なくても大丈夫そうでしたね。

 ですが、それとこれとは話が別です!

 僕は冒険者として生きる事を選び、後押ししてくれたのは院長先生です。

 あれから僕は色んなことを経験し今日までやってきました。

 その成果を。

 僕がどれだけ成長したのかをみせる機会でもあります!


 「…………ユアン、刀の向き逆」

 「ふぇ!? あ、あの……今のはなしです!」


 僕の身長的に刀を鞘から抜き出すためには、鞘を滑らせ、地面に落とすようにしなければいけません。

 ですが、僕には収納魔法というものがあり、鞘だけそこに収めてしまえば解決します。

 結果的に鞘から刀を抜くという動作が省略できるのですが、その動作がなかったせいで、刀の向きを確認できていなかったのです。

 こればかりはしょうがないですよね?


 「ユアンの言い分はわかる。だけど、剣の重心で普通はわかる」

 「うー……だって、刀の重みがないんですもん」

 「そうだった」

 

 だから、今回は多めに見て欲しいですよね?

 っと、オーガが動き出しましたね。

 

 「ユアンは一匹に集中するといい。他は私の分身アバターで抑える」

 「ありがとうございます!」


 シアさんの言葉通り、三体の分身が僕の前に立ち、迫りくるオーガと先に戦い始めました。

 僕の背中はシアさんが護ってくれています。

 そして、分身を通り抜け、一匹のオーガが僕に向かってきます。

 あの敵に集中ですね。

 

 「魔力を流せば、切れ味があがる……ですよね」


 準備は整いました。

 正直、不安ばかりです。

 ですが、シアさんが作ってくれた実戦経験をつむいい機会です!

 これを無駄にはできませんよね……。


 「補助魔法使い、ユアン! 相手させて頂きます!」


 気合は入りました。

 迫りくるオーガに気迫で負けないように、僕も前に出ます。

 距離はもとよりほとんどない状態なので、オーガと僕は互いに剣を振るいます。

 僕の初めての刀での戦いが幕を開けたのでした。

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