第327話 補助魔法使い、軍団が結成される

 「皆さん、今回は助けてくれてありがとうございました」


 転移魔法陣を設置した森に帰って来ると、街の人達は寛ぎながら待っていたようでした。


 「ユアンよ、気にするでない。これは皆の意志じゃ」

 「それでもですよ。皆さんが居なかったらどうなっていたのかわかりませんからね」

 

 シノさんと上空から見ていたのですが、帝都に迫った魔物の大半を倒したのは間違いなく街の人でした。

 もし、皆さんがいなかったら兵士達は全滅し、帝都内部に入り込まれていた可能性は否定できません。


 「久しぶりに楽しめたからいいのよ」

 「相手が弱すぎて物足りなかったけどな」

 「そ、そうなのですね……」


 それなのに、街の人に疲れた様子は一切見られないのはびっくりですよね。

 あれだけの数を倒しておいて、まだまだ余裕を残しています。

 敵じゃなくて良かったと心からそう思えます。


 「では、皆さんをナナシキに送り……ん?」


 再び転移魔法陣を設置しようとした時でした。

 焦げ臭い匂いが僕の鼻に届いたのです。


 「ユアン、あっち」

 「はい、森の外ですね」


 その異変にシアさんも気付いたようで、シアさんは森の外を指さしました。


 「どうしたの?」

 「スノーさんはわからないのですか?」

 「何が?」

 「何か、焦げ臭いがするのですよ」

 「本当?」


 どうやらスノーは気付かないみたいですね。

 まぁ、僕達獣人は鼻が利くのでそれで気づいたのかもしれないですけどね。


 「皆さん、ちょっと森の外の様子を見てきますので待っていてください」

 

 嫌な予感がしました。

 駆け足で森の中を進み、外にでると、その予感は的中していました。


 「黒煙が……」

 「あれって、ユアンが育った村の方だよね」


 森の外に出ると、黒煙が立ち上っているのが見え、その黒煙の周りを飛び交う影も見えるような気がします。

 この場所からは村は見えませんが、あの方向は確かに僕が育った村がある方向です。


 「まだ、終わりじゃなかったのですね」

 「ユアン、行く」

 「はい!」

 「転移魔法でいける?」

 「いけます! みんなも一緒に行って頂けますか?」

 「当然じゃよ」

 「え?」


 気づいたら、街の人達まで森の外に来ていました。

 僕はスノーさん達に問いかけたつもりでしたが、返事をしたのは何とアリア様だったのです。


 「まだ、戦うんじゃろ?」

 「そうなると思います」

 「なら、手伝ってやろう」

 「いいのですか?」


 もしかしたら、強い敵が待ち構えている可能性があり、魔族がいる可能性も少なからずあるので、来て頂けるのであれば、心強いです。


 「ユアン殿、いや……ユアン様はただ俺達に命令すればいいのです」

 「うんー……。わっちらは黒天狐、本当の王に仕える親衛隊。ユアン様の指示があれば、どこにでもいきます」

 

 アラン様とチヨリさんが進み出て、僕の前で片膝をつきました。

 それに続くように、街の人達が同じように片膝をつき、頭を下げます。


 「え……み、みなさん頭をー……」

 「ユアンよ。堂々とするのじゃ」

 「で、でも……」

 「この者達は、アンジュ姉さまに長く仕えていた者達。そして、ようやく再び仕えるべき主が戻ってきたのじゃ。気持ちを汲み取るがよい」

 

 皆さんの気持ち……。

 僕のお母さんは、アンジュお母さんの方はですが、ユーリお父さんとオルフェさんを連れ、フォクシアから出ていきました。

 どうやって出ていったのかまでは知りませんが、それを境にナナシキへと隠居をしたと出発するまえに聞かされました。

 けど、再び表舞台に出てきたのは、僕やシノさん、お母さんたちの子供を助ける為でした。

 ですが、アリア様とその後に少し話をしたのですが、本当は違うと言われましたね。

 本当の理由は、心の何処かで燻っている火種が残っているとの事でした。

 最後までアンジュお母さんに仕える事が出来なかったという思いが残っているからだと教えて頂いたのです。

 狐族の人達は長命ですが、それでもお母さん達がフォクシアを離れてから亡くなった人、元から年を重ねていて、今回の戦いには老いで参加できなかった人も中にはいるのも聞いています。

 

 「私はみんなの気持ちがわかる。私の主はユアン。主の役にたてるのは喜び。大変でも、辛くても頼って貰いたい」

 「そうなのですね」

 「うん。ユアンが困っている時に助けになれないのは、ずっと後悔する」


 もしかしたら、ずっと街の人はその気持ちを抱えて今日まで生きてきたのかもしれませんね。


 「わかりました。みなさん、助けてください。僕達と一緒に戦ってください!」


 その思いに応えられるのは僕だけ。

 だから、僕は皆さんに助けを求めました。


 「お任せを。我が部隊がユアン様の道を切り開きます」

 「遊撃及び魔術師部隊のわっちらが敵を殲滅します」


 二人が隊長のようで、アラン様とチヨリさんが並び、僕を真っすぐに見つめました。


 「お願いします。まずは、状況の確認のために村へと転移魔法を使わずに移動します。その後、状況を確認しつつ、状況に合わせて敵を倒しつつ、最優先は生き延びている人の救出とします」


 僕達だけならば転移魔法でいいかもしれませんが、これだけの人数となると転移魔法で移動は流石に厳しいです。

 かといって、転移魔法陣を安全に設置できる保証もないですからね。

 それならば、ここから帝都まで、徒歩で一日かかる道を一時間とかからず移動できる皆さんならそっちの方が状況を確認しつつ、その都度修正もいれながら移動もできますので、確実性が増すと思います。


 「ユアン、私達の移動はどうする?」

 「私達じゃ、皆さんの移動に追い付けませんよ?」

 

 サンドラちゃんにまた乗せてもらうかどうか悩みますね。

 移動としては悪くないのですが、あまりに多用するのも微妙な所です。

 帝都でも見られてしまっているでしょうし、また今回も同じ方法で移動したとなれば、サンドラちゃんが僕達と関りがあると感づかれてしまいそうです。

 僕達が表れる所に、龍の姿があると。

 それはそれで、面倒ですよね。

 クジャ様との話で、龍人族は戦争には参加しないという事を聞きましたので、サンドラちゃんが参加しているという事が気付かれると、それを理由に魔族の龍人族が行動する可能性もあります。


 「それなら、私達を移動手段に使うとよい。ユアン達を乗せるくらいなら問題ないぞ」

 「いいのですか?」

 

 それは有難い申し出ですね。


 「うむー。ユアン様は私の背中に乗れー」

 

 チヨリさんの姿が変わりました。


 「え、首が二つありますよ!」

 「うむー。私の獣化は特殊だからなー」


 双頭の狐がしゃべっています。

 

 「なんか、怖いですね」

 「実際にチョリ婆は怖いぞ? 普段があんなだから想像はつかぬじゃろうがなぁーーーーー!?」

 「嘘をユアン様に教えるな」


 アリア様がチヨリさんに頭から咥えられ、ブンブンと振り回されています。

 そういう使い方もあるのですね。

 片方の口が塞がってももう片方の口で話す事ができるのは便利ですね。


 「うぅ……やっぱりチョリ婆は怖い……」

 「アリア、大丈夫か?」

 「うん、平気!」

 

 チヨリさんから放され、転がったアリア様にアラン様が近寄り、手を取り立ちあがらせています。

 嬉しそうな笑顔がみれるので、アリア様は大丈夫そうですね。

 っと、これ以上は無駄な時間はとる訳にはいきませんので、行動に移しましょう。


 「では、僕とシアさんはチヨリさんに乗せて貰うので、スノーさん達は誰かに乗せて貰ってください」

 「なら、キアラとサンドラは私に乗るが良い」

 「わかりました、アリア様、よろしくお願いします」

 「ありがとー」

 「うむ。アラン、悪いけどスノーをお願い出来る?」

 「あぁ、俺が適任だろうな」

 「適任? どういう事?」

 「…………領主様ですから」

 「そういう事か。よろしく頼む」


 不自然な間がありましたね。

 いえ、僕には何となく理由がわかりましたよ?

 アラン様の獣化は誰よりも大きいですからね。きっと体重が……ではなく、スノーさんは甲冑を着ていますので、それを考慮してくれたのですね。

 

 「では、みなさん行きますよ!」

 

 それにしても不思議な感じですね。

 こうみると、僕が兵士を率いているように見えますよね。

 

 「進軍、開始です!」


 僕は兵法などそういった知識はありません。

 なので、的確な指示を出せないかもしれません。

 ですが、みんなの期待に少しでも応えたいと思います。

 これは、きっと僕にしか出来ない事なのですから。

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