第326話 補助魔法使い、スノーの報告を聞く
「何か、凄く疲れました」
「仕方ない。私も同じ」
何というか、肉体的というよりも、精神的に凄く疲れた気がします。
色んな情報がありすぎて、頭の中がいっぱいいっぱいなのです。
「けど、改めてサンドラちゃんって凄い人だったんですね」
「そんな事ないぞー。結果的には五龍神様の教えに背いてしまったからなー」
それでもです。
ルード帝国の王様であられるクジャ様とも顔見知りで、今後ともいい関係を築いて行けるように協力する事を約束して頂けましたからね。
といっても、戦争面ではなく経済面でですけどね。
「それよりもシノを残してきて良かった?」
「うーん……大丈夫じゃないですかね?」
本人がまだやる事があると言って、自ら残りましたし、僕が一緒に帰ろうと誘う訳にもいきませんよね。
それに、シノさんは自力で帰ってこれますしね。
「なーなー」
「はい、どうしましたか?」
「この後は帰るのかー?」
「そうですね。僕達が残ってもやる事はなさそうですからね」
街が荒れているので、そのお手伝いをする事も考えましたが、僕達が勝手に何かをすると逆に迷惑がかかる可能性もありますからね。
「うん。それでいい。エメリア達の支持が下がるだけ」
「そうですよね。また、お母さん達と同じような事になったら大変ですからね」
僕やシノさんのような黒髪、白髪の獣人が忌み子となったのは、お母さんたちの活躍を気に食わない人が存在したからです。
今回の件で、僕とシノさんは目立ってしまったので、これ以上何かをすると、そう思ってくる人が出てくる可能性があります。
助けた人が僕達を支持し、エメリア様達が何もしていないと思われたらエメリア様達との関係が崩れてしまうかもしれません。
まぁ、実際の所はその心配はしていませんけどね。
何せ、エメリア様もエレン様も、更には第二皇子のクラヴェル様までアルティカ共和国に移住したいと言っているくらいです。
理由はどうあれ、僕達と敵対するつもりは今の所はないでしょうからね。
「という事で、まずはスノーさん達と合流し、アリア様達の元に向かいましょう」
「アリア達は何処にいる?」
「ちょっと待ってくださいね……わかりますか?」
「ヂュヂュッ!」
アリア様達が何処にいるのかを魔鼠さんに尋ねると、ちょっと待ってねと返事がありました。
「ヂュッ! ヂュヂュッヂュ!」
「わかりました。ありがとうございます」
「なー? 良くそれでわかるなー」
「はい、魔鼠さんとは前に色々とありましたからね」
「それで、何処にいく?」
「アリア様達は転移魔法陣を設置した森に向かったみたいですね。それと、スノーさん達も用事が終わったみたいで、こっちに向かっているそうです」
それにしても便利ですよね。
今こうして情報を得られたのは、魔鳥さんと魔鼠さんがペアになり、魔鳥さんに乗って魔鼠さんが情報を得て、離れた魔鼠さん同士が連絡をとり、僕達に伝えてくれているのです。
こんな感じでナナシキの周りも警備してくれているのですよね。
「それじゃ、スノーさん達とまずは合流しましょう」
「うん」
「わかったー」
「騒ぎになると困るので、サンドラちゃんはローブを被ってくださいね」
当然ですが、僕もローブを深く被り、尻尾を体に巻き付けて、耳と尻尾を隠して移動です。
サンドラちゃんの尻尾はそうもいかず、ローブで隠してもふっくらしていますが……まぁ、サイズの大きなローブなので大丈夫ですよね?
そんな心配しつつ城から出ると、スノーさんとキアラちゃんがお城の前で待っていてくれました。
「お待たせしました」
「お帰り! 待ってたよ!」
「みなさん、お疲れ様でした…………」
城門を潜り、二人の元へつくと、すっきりした顔のスノーさんと少し疲れた感じでキアラちゃんが立っていました。
「どうしたのですか?」
「ん? どうもしないよ!」
「そんな事ない。スノー、変」
「変って……そんな事ないよ?」
まぁ、変ではないですよね。
ただいつもよりもテンションが高いような気がするくらいです。
「それで、スノーさん達の方はどうなったのですか?」
「私達の事? 聞きたい? 聞きたいよね?」
スノーさんはお父さんに呼ばれ、僕達と別行動をしていたので、その結果を聞こうと思ったのですが、待っていましたと言わんばかりにスノーさんが喰いついてきました。
「面倒そうだからいい」
「えー……折角だし聞いてよ」
「遠慮する」
「そう? けど、ユアンは聞きたいよね?」
「え、僕ですか? んー……まぁ、スノーさんが話したいというのなら聞きますよ。ただ、アリア様達が待っているみたいなので、簡潔にお願いします。詳しい話は落ち着いた時にでも聞きますので」
この様子ですと、スノーさんの話は長くなるような気がしてならないですからね。
「わかったよ。それじゃ、まずは結果だけど、無事にキアラとの関係を認めて貰えたよ」
「本当ですか!?」
「うん、それは本当だよ」
それはおめでたいですね!
ですが、喜んでいるスノーさんに対し、キアラちゃんの反応が今一なのが気になりますね。
「けど、よく認めて貰えましたね」
「うん。スノーの親、頭堅そう」
騎士の家系で、スノーさんも男同様に育てられ、僕達と一緒になるまでお菓子も食べた事がなかったと聞いていましたからね。
「実際に父の方はそうだよ」
「それなのに、認めて貰えたのですか?」
「一応ね」
「最初は怒鳴られちゃいましたけどね」
どうやら、スノーさんがキアラちゃんとの仲を報告したら顔を赤くして、怒られてしまったみたいですね。
「一体どうやって認めさせたのですか?」
「まぁ、この際だから立場を利用させて貰ったよ」
「もしかして、ナナシキの領主である事を利用したって事ですか?」
「そうだね」
女性同士で結婚するなんて、一族の恥とまで言われたみたいですが、それに対してスノーさんは。
「わかりました。父上がそこまで言うのであれば、私は正式にクオーネ家とは縁を切り、爵位を授かったフォクシアの貴族として独立させて頂きます……って言ってやったよ」
「それに対して、何も言われなかったのですか?」
「言われたよ? 好きにしろってね」
その代わり、ルード帝国の貴族でないのなら、ルード帝国から派遣された領主としての役割はなくなるからフォクシアとの交友が無くなる事、同時にキアラちゃんとも繋がりがなくなるので、ナナシキだけではなく、エルフ族との交友の可能性もなくなると思ってくださいと言い放ったみたいですね。
「スノー、それはあくどい」
「まぁ、自覚はあるよ。だけどさ、シアだってユアンと一緒になるためなら手段は選ばないでしょ?」
「うん。私も同じことする」
「そう言う事だよ」
実際にはルード帝国とフォクシアの繋がりは途切れたりはしませんけどね。
エメリア様とアンリ様は親密な仲ですし、僕とローゼさんは仕事上で繋がりもありますからね。
ですが、スノーさんのお父さんはそんな事実を知らない為、効果てきめんだったようで、流石にまずいと思ったのか、掌を返し、スノーさんとキアラちゃんの関係を認めてくれたみたいですね。
「それなのに、どうしてキアラちゃんは浮かない顔をしているのですか?」
スノーさんはキアラちゃんとの事を認めて貰えて、更には厳しかった父親に言い返したから、あんな感じになっている理由はわかりましたけど、キアラちゃんが沈んでいる理由がわかりません。
「うちの親に認めて貰えたのはいいけどさ、キアラの両親にはまだ認めて貰えてないからね」
そういう事でしたか。次は自分がスノーさんを紹介する番となったので緊張というか、重圧がかかっている感じなのですね。
「キアラちゃんの親は厳しい人なのですか?」
「ううん、そんな事はないよ。ただ、エルフの村に外部の人を基本的に連れていく事は禁止されているから、どうやって紹介しようかなって……」
そういえば、未だに僕達はキアラちゃんが育った場所の事を知りませんでしたね。
前にどの辺にあるのかを尋ねた事がありましたが、申し訳なさそうに場所を教える事は禁止されていると言われてしまいましたからね。
それ以来、聞かないようにしてすっかり忘れていました。
「でも、スノーさんと一緒になるのなら、いずれは報告しないといけないですよね?」
「そうですね」
「私も挨拶はしっかりとしておきたいしね」
「村にいけないのなら、キアラが連れて来ればいい」
確かにその方法もありかもしれませんね。
「それは難しいの。これはエルフ族全体に言える事だけど、基本的には外に出たがらない種族だから……」
「そうなのですね。その割にはエルさんもキアラちゃんもこうして冒険者として活動してましたよね?」
「うん。外の情報を村に伝えるのが若いエルフの役目でもあるからね」
その辺は影狼族と少し似ていますね。
若いエルフは、外で様々な事を経験し、世界の情勢をエルフの村に伝えるのが役目となるらしいです。
といっても、長命なエルフが村に戻るのは十年単位になる事も多いらしいので、旬な情報を伝える事はあまりないみたいですね。
何よりも大変なのは、親に教わった国や街の位置関係とかが古すぎて、そこを目指したら既に無くなっていたとかもあるみたいです。
「そうなると急いで報告する必要もなさそうですね」
「うん。急がなくても、いずれはキアラの村に行く事になる」
「どうしてですか?」
「キアラが弓月の刻だから。どうせキアラか、エルフの村で何かが起きる」
「あー確かに。ユアンと一緒ならそうなるかもしれないね」
「僕は関係ないですよね?」
失礼ですよね!
まるで僕と一緒にいると、トラブルに巻き込まれるみたいな言い方は心外です!
確かに、僕が行く先々、関わった人がトラブルに巻き込まれている事は多いですけど、きっと偶然ですからね。
「ま、私達はそんな感じかな。まだ、細かい話はあるけどね」
「それは後で聞きますよ。ですが、まずはおめでとうございます」
「おめでとう」
「ありがとうね」
「ありがとうございます」
浮かない顔をしていたキアラちゃんも改めて祝福すると、恥ずかしそうですが、それよりも嬉しそうに笑いました。
やっぱり、認められると嬉しいものは嬉しいのですね。
「っと、これ以上アリア様達を待たせる訳にはいきませんので戻りましょうか」
「そうだね」
後は、アリア様にお礼を言って、ナナシキにみんなで戻れば終わりですかね?
「ユアン、オルフェはもういいの?」
「あっ! 忘れてました!」
そういえば、院長先生との話もまだ途中でした!
それに、あの件も伝えていませんね。
「そういえばスノーさん、僕の育った村の領主がスノーさんのお兄さんになっていましたよ」
「そうなの? 領主になったとは聞いていたけど、ユアンの村だったんだ」
「はい、それでスノーさんと会いたがっていましたよ」
「なら、アリア様達を送った後に行っていいかな?」
「私も挨拶しないとですね」
「そうですね。僕も院長先生とまだ話がありますし……シアさんも大丈夫ですか?」
「平気。ユアンが行くなら私もいく」
という事で、新たに行く場所が決まりましたね。
「では、まずは転移魔法陣を設置した森に移動し、その後に向かいましょう」
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