第325話 補助魔法使い、王様と話を終える

 んー……。

 クジャ様とサンドラちゃんに僕たちが希望と言われてしまいましたが正直な所、実感は沸きませんね。

 というよりも、希望と言われたところで僕たちは普通に生活しているだけですからね。

 

 「別に特別な事をしろとは言っていない、ただし色々と気をつけろとは忠告をしておく」

 「忠告ですか?」

 「そうだ。お前たちの街は今後狙われる可能性が非常に高い」

 「どうしてですか?」

 「自覚はないかもしれないが、ナナシキの街は龍神様の教えを築き上げている。これを良く思わない連中がいるからだ」

 「それは邪神教ですか?」

 「そうだ。今回のルード帝国のように狙われる可能性はあるだろう。まぁ、ルード帝国が狙われたのは別の理由があるだろうがな」

 

 確かに、龍姫という人が龍神様を嫌っているというのなら、龍神様の教えが上手くいっているナナシキが狙われる可能性は十分にありますね。

 ですが、それよりも気になる事がクジャ様の口から聞こえましたね。


 「ルード帝国が狙われた理由って何なのですか?」


 正直な所、龍神様をというよりも、神様という存在は僕はよくわかりませんし、特に信仰もしていません。

 信仰した所で何かが変わるのかーって思ってしまうのですよね。

 まぁ、神様を信じた結果、目に見えていい事が起きるとかあれば別ですけどね。

 それよりも、今の生活を守るためにも、ルード帝国を狙った魔力至上主義の人達のことを知っておく方が大事だと思います。


 「恐らくは僕が原因だね」

 「シノさんがですか?」


 クジャ様からその答えが聞けると思いましたが、意外な事に答えたのはシノさんでした。


 「それだけとは言い切れないが、魔族の狙いはそこにあっただろうな」

 「どうしてですか?」

 「それは、僕が邪魔だからだよ」

 「シノさんがですか?」

 「うん。僕は国境での戦いで魔族の邪魔をしているからね? 魔族からすれば今後の事を見据えて早めに始末しておきたかったって所じゃないかな? ルード帝国を落とせれば、魔族の侵攻が捗るという意図もあるだろうけどね」


 帝都を襲った魔物の特徴を考えればそうとしか思えないとシノさんは言いました。

 あの蜂型の魔物は一匹一匹は大したことはないものの、数だけはとんでもない数がいました。

 そして、針には魔力を奪う効果が施されていたのです。

 

 「あれは明らかに魔力の高い者への対策だったね」

 「確かにそうですね。普通の人を狙うのであれば、毒とか麻痺の方が効果的ですからね」


 魔力の高い人が魔力を抜かれると魔力枯渇といって、生命の維持に関わってきますが、魔力の低い人は魔力を抜かれても大したことはありません。

 逆に魔力が多いと魔力酔いになるくらいですからね。

 そう考えれば、あの魔物が召喚されたのは、シノさんへの対策と考えるのも不自然ではないような気がしてきます。

 数を用意したのも、シノさんが使う範囲魔法を連続で使用させる為とも考えられますからね。


 「だから、僕をおびき寄せる為にルードが狙われたと考えるのが妥当かな?」

 

 シノさんに深く関わりのある場所が狙われれば、シノさんが表れる可能性が高いと思ったのかもしれませんね。

 シノさんは帝都で暮らし、王様とも皇女様達とも親密……かはわかりませんが、一緒に暮らしてきた経歴がありますからね。


 「となると、またルード帝国が狙われる可能性があるってことですかね?」

 「そうだね。また別の策を練って、今度こそ確実に僕達を潰すためにね」

 

 やっぱりそうなりますよね……ん? 今、シノさんは僕、ではなく僕達って言いましたか?


 「僕達の達って、誰の事ですか?」

 「誰って……君だよ君」


 そういって、シノさんは僕の事をジッと見つめてきました。


 「え、僕ですか?」

 「そうだよ? それ以外にいないよね?」

 「どうしてですか? 僕は何もしていませんよ?」

 「したよ? あと一歩の所で僕を助け、街の人を癒し、魔族の目的を阻害した、魔族から見れば十分に君も邪魔者の一人に映っただろうね」


 そ、そんな……。

 これでは、僕の平和でのんびりと暮らす計画が破綻してしまいます!


 「どうにかなりませんか?」

 「どうにかしたいなら、魔力至上主義を潰すしかないんじゃないかな?」

 「それ以外は?」

 「ナナシキの街から出て、冒険者として各地を移動すれば少なくともナナシキは狙われないと思うよ。ただ、それをアリアを含めナナシキの人達が許してくれるかって話だけどね」


 事情を話せば街の人もアリア様もわかってくれるとは思います。

 ただそうなると念願の夢だった生活が終わりを迎えてしまう事になりますね。

 別に冒険者として活動するのも楽しいですし、嫌いではありませんけどね。

 それよりも、ナナシキは居心地がよくて、離れる事を躊躇ってしまうのです。

 けど、その為には……。


 「やっぱり魔力至上主義と戦わなければいけないのですね」

 「そうだね」


 その道は避けては通れないという事みたいです。


 「ユアン、そこまで深く考える必要はない。どちらにしても、私達はナナシキを旅立つ必要がある」

 「まぁ、そうですけどね」

 

 分かっていた事ではあります。

 サンドラちゃんの力を取り戻すためにも、スノーさんが管理者として長い命を得る為にも、何よりもお母さん達から魔力至上主義を倒して欲しいと言われた事を実行する為にも、いつかはナナシキから旅立つ事になるのはわかっていました。

 ですが、それとナナシキが狙われる可能性が高くなるのは別の話です。


 「その為にも対策は必要ですよね」


 僕達が居ない間に帰るべき場所がなくなっているなんて考えられません。


 「そこは僕がどうにかするよ?」

 「本当ですか?」

 「うん。街の人に今回の恩を返さなければいけないからね? といっても、狙われる原因が僕達ではあるんだけどさ」

 「そうですね」

 

 そうなると、僕達さえナナシキに行かなければナナシキの人達に迷惑をかける事はなかったとも思えてきますね。


 「そんな事ないぞー? ユアン達がいなくても、いずれはナナシキだけではなく、アルティカ共和国全てが狙われるぞー?」

 「どうしてですか?」

 「アルティカ共和国の国を考えればわかるぞー?」


 アルティカ共和国の国?

 

 「獣人だからですか?」

 「違うー。国の数だなー」


 アルティカ共和国の特徴とはいえば、獣人がいる事だと思いましたが、どうやら違ったようで、サンドラちゃんは国の数といいました。


 「わかった。五龍神」

 「そうだぞー」

 「どういう事ですか?」

 「国の位置関係だなー。あれには意味があるんだぞー?」

 

 国の位置関係?

 えっと、確か真ん中に帝都みたいな場所があって、それを囲むように、狐族、虎族、狼族、鳥族、鼬族と線で結べば五芒星になるようになっていると聞いた事がありますね。


 「もしかして、その形は五龍神様を表しているという事ですか?」

 「私達が居なくなった後に出来たから狙ったのかはわからないがなー。だけど私の目から見るとそう映るぞー?」


 五つの国が五龍神様を表すのなら、中央の帝都みたいな場所は、五龍神様が生み出した次元龍……神龍様を表しているようにも見えますね。

 サンドラちゃんからみてそう思うのであれば、五龍神教や神龍教を良く思わない人達からすれば、それだけで排除の対象になるって事ですね。


 「どちらにしても、狙われる事には変わりがなかったという事ですね」

 「そうだなー。逆に、フォクシアからすれば、ユアン達がいる事は大きいだろうなー」

 「だろうな。今回の戦力は俺も見ていた。ナナシキの兵に加え、シノ、お前たち弓月の刻、影狼族、魔物軍団、更にはAランクパーティーまでいるそうではないか。例え魔力至上主義が戦力を揃えたところで、一筋縄ではいかないだろう。俺なら、攻め込むのを躊躇うな」


 一般の兵を率いた場合になると思いますけどね。

 それこそ、サンドラちゃんみたいな古龍軍団が攻め込んで来たら一溜りもありませんからね。


 「良かったです。僕達はナナシキに行ってよかったのですね」

 「見ればわかる。ユアンの事も、シノの事もみんな慕っている。だから、街の人は今回手伝ってくれた」

 「そうですね。みんなには感謝しないといけませんね」


 その為にも、今後ともみんなで仲良く平和に暮らすためには、魔力至上主義と戦う道を選ばないといけませんね。


 「ま、今回の報告はこんな所かな?」

 「報告らしい報告はしていませんけどね」


 というよりも、全く今回の被害について報告はしていませんね。

 そもそも、どれだけの被害があったのかすら僕は知りませんからね。

 ただ、魔物は全て倒しましたと報告に来ただけでしたしね。

 こんな壮大な話になるとは思いもしませんでしたけどね。


 「あ、でもあの件は報告しないといけませんよね?」

 「どの件だい?」

 「ほら、エレン様がシノさんに求婚した話ですよ」

 

 その瞬間、空気が凍りつくのがわかりました。


 「ほぉ? 詳しく聞こうか?」

 

 あ、あれ?

 クジャ様の雰囲気が変わりました?


 「ユアン、それは言わない方が良かった」

 「え、でもシノさんは報告するって……」

 「するつもりでいたよ? 今じゃなく後でね……」


 シノさんに大きなため息を吐かれてしまいました……けど、今でも後でも報告するのなら一緒ですよね?


 「全然違う」

 「戦闘が終わり、エレンも気分が高揚し、一種の興奮状態にあったと思うよ。冷静になれば考えを改めたと思うからね」

 「そ、そういうものですか?」

 「そうさ。だから、改めてエレンが僕に同じことを言うようなら陛下に報告をしようと思っていたのに君ってやつは……」


 どうやら僕は余分な事を言ってしまったみたいです。


 「まぁ、それもそれで面白い事になりそうだからいいけどね? エメリアも含め、今回の件はいい薬になるだろうし、この際だ、陛下に厳しい教育をされるのも悪くないだろうね」

 「そうだな……ユアン。まずはその話を詳しく話して貰おう。ついでに、エメリアと関係を結ぼうとしているフォクシアの皇子の事もな?」


 クジャ様がにっこり笑いましたが、逆にすごく怖いです!

 あ、でもこの辺はシノさんに少し似ている気がしますね。

 血は繋がっていませんが、一緒に暮らし、クジャ様の事を見て育ったので似たのかもしれませんね。

 

 「で、でも……クジャ様はルード帝国の王様ですがそういった事には関わらないのではなかったのですか?」

 「戦争に関してはな? だが、これは政治的な問題であり、身内の問題でもある。その辺は王として親としての責任がある」


 だそうで、どうやら僕は逃れられる事は出来ないみたいですね。


 「わかりました、まずはエレン様の事ですが……」


 エレン様、エメリア様、アンリ様……ごめんなさい。

 僕の失言のせいで怒られてしまうかもしれません。

 ですが、僕はみんなの味方です!

 きっと、みんなが幸せになれるように、説明しますからね!

 補助魔法使い、ユアン!

 頑張ります!

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