第323話 補助魔法使い、王様と話をする

 「神様がいるか、ですか?」

 「そうだ」


 いきなり難しい質問が王様から投げかけられました。


 「えっと、居てもおかしくはないと思います」

 

 少し悩みましたが、王様からの質問に僕はそう答えました。

 

 「では、神様を信じているか?」

 「その辺は、よくわからないですね」


 目の前に存在すれば信じる事はできても、何処にいるのか、どんな存在なのかがわからなくては、信じたくても信じられないというのが本音です。


 「ですが、その神様が王様とサンドラちゃんとどう関係しているのですか?」


 今から王様とサンドラちゃんの関係を教えてくれるというのに、いきなり神様を信じているかと聞かれても困りますよね?


 「龍人族が大きく関わっているからだ」

 「龍人族がですか?」


 そういえば、サンドラちゃんは龍神様を祀る巫女と言っていましたし、確かに関係があるといえば関係はありますね。


 「世間一般の言い伝えでは、龍神が龍人族を生み、そこから人族や魔族、獣人が生み出されたと伝えられているのは知っているか?」

 「そういう話は聞いた事がありますね」


 あれは、確かローゼさんに湖の真ん中に大きな赤い点があるのを聞いた時でしたね。

 そんな言い伝えがあると聞いた事があります。


 「しかし、実際の所それは違う」

 「そうなのですか?」

 「龍人があらゆる人種を生み出せるのなら、もっと色んな人種が世界に溢れているはずだろう? 人族、魔族、獣人、精霊族だけでなく、虫族や魚族などあらゆる生物を人化させても良かったはずだ」

 「確かに、虫型の人や魚型の人は見た事はありませんね」


 もしかしたら、魔族でそれに近い人がいるかもしれませんけどね。

 それでも、魚のように尾ひれのついた人は見た事はないです。

 というよりも、尾ひれがついていたら、二足歩行ではないので、人と言っていいかわかりませんよね。

 虫だって手足がいっぱいありますし、そんな人が居たとしても、人の定義がわからなくなりそうです。


 「でも、龍人族は龍神様が生み出した種族なのですよね?」

 「それも違う」

 「え、それも違うのですか?」

 「というよりも、わからないと言った感じだな。お前は自分が生まれた時の事を覚えているか?」

 「覚えていないです」

 「それと同じだ。龍人族が生まれた由来というのは誰も知らない。気づいたら人として生活をしていた」


 なので、龍種が長い時を経て、何かをきっかけに人の姿へと変わったのか、龍神様が生み出したのかというのは龍人族の人でもわからないみたいですね。


 「となると、色々と残っている言い伝えはほとんど嘘だったってことになるのですね」

 「いや、嘘ではない事実もある」

 「どの辺りがですか?」

 「龍人族が各種族を導いたというのは本当の話だ。正確には、引き離したというのが正解だがな」

 「なんのためにですか?」

 「争いを避けるためだ」

 

 まぁ、種族が違えば生活環境や癖なども違いますし、反発しあう事があってもおかしくはないですね。

 僕達パーティーはそんな事ないですけどね!


 「けど、そうなると神様は関係ないですよね?」


 王様とサンドラちゃんの関係を教えてくれると言いましたが、今の所は神様が関係してくる要素は見当たりませんよね。


 「大いに関係している。龍人族が各種族を導いた理由にな」

 「争いが起きない為じゃないのですか?」

 「では、その争いが起きた原因は何だと思う?」

 「単純に仲が悪いから、生活が合わないからじゃないのですか?」

 「そんな些末な理由で導いたりしない。もっと大きなことで争いが起きたのだ。まぁ、俺達が巻き込んでしまった、というのが大きな原因ではあるがな」


 どうやら、その争いに神様が大きく関わっているようで、王様がその原因について話してくれました。


 「お前は神様と聞いて、何を思い浮かべる?」

 「真っ先に思い浮かぶのは龍神様ですね」


 他にも、女神様だと魔神様とか良くわからない神様の話も聞いた事はありますが、真っ先に浮かぶのは龍神様です。


 「では、龍神様とはどのような存在だ?」

 「どのような……と言われても、よく分からないです」


 一説には、火、風、水、光、闇……魔法の原初由来となったとも言われていますし、自然を操り、災害を起こし、愚かな人間を粛正したりするとは聞いた事があります。

 そう考えると、凄く恐ろしい存在でもありますね。


 「そうか、お前の知っている神様は五龍神と呼ばれる神なのだな」

 「五龍神ですか?」

 「そうだ、アルティカ共和国で広く信じられていた神の事だ」

 「アルティカ共和国、という事はルード帝国では違う龍神様が居るって事ですか?」

 「そういう事になる。俺達が崇拝していたのは更にその上の龍神であられる、時や次元を司る龍神様だからな」


 ルード帝国には長く住んでいましたが、そのような話は聞いた事はありませんでしたね。

 まぁ、僕が住んでいた村とかには、神様を祀ったりする余裕はありませんでしたし、関係がなかったのかもしれませんけどね。


 「まだ、そんな事を言っているのかー。次元龍は五龍神様から生まれた神だぞー」

 「逆だ。次元龍様が居たからこそ、五龍神が生まれたのだ」

 「なー? 逆だ逆ー。次元魔法を考えればわかるだろー」

 

 次元魔法は時空魔法とも呼ばれ、収納魔法や転移魔法がその分類になりますね。

 解析してわかるのは、光と闇属性を合わせたりする複合魔法だということです。

 他の属性も関係していますけどね。

 なので、サンドラちゃんは五龍神様が協力して生まれたのが次元龍様だと言っているみたいです。


 「だから、逆だと言っている。次元龍様が各属性の龍神をそれぞれ生み出したのだ」


 ようは、次元魔法が先か、各属性の魔法が先かって話ですね。

 けど、争いが生まれるっていう理由は分かった気がします。

 自分たちの崇拝する神様が相手の主張する神様よりも上か下かって話になっているのですからね。

 

 「なーなー、ユアンはどっちが上だと思うー?」

 「当然、次元龍様が上だよな?」

 「僕はどっちでもいいと思いますよ。僕は魔法使いですので、一応ですが全ての属性の魔法を使いますので、助けて貰っていますからね」


 それに、僕がどっちの神様が上と言ってしまうと、それはそれで大変な事になりそうですからね。


 「シアー、シアはどう思う?」

 「私はユアンが一番」

 「なー、神様の話だぞー」

 「私にとってユアンがそう。私はユアン教に入る」

 「そんな宗教はありませんけどね?」


 けど、シアさんの一言でわかりました。

 これがいわゆる宗教戦争ってやつなのですね。


 「あれ、そういえば魔族は何なのですか?」


 ルード帝国とアルティカ共和国が崇拝する神様はわかりましたが、魔族の崇拝する神様が何なのかはまだわかりませんよね?


 「あいつらは、何も信じなかった」

 「むしろ、龍神様の存在を否定していたな」

 

 あいつら、というのは魔族ではなく魔族を導いた龍人族の事を指しているようですね。


 「という事は、魔族の人達は無宗教って事になるのですかね?」

 「昔はな」

 「昔は、って事は今は何らかを崇拝しているという事ですか?」

 「そうだ。それが、今回の戦いにも影響している」

 

 魔族の人達がルード帝国に攻め込んだり、国境での戦いを起こしたのはそれが原因のようですね。


 「では、魔族の人達は、魔族を導いた龍人族の人は何を崇拝しているのですか?」

 「いわゆる邪神と呼ばれる存在だな」


 向こうの人は女神と呼んでいると付け加えましたが、王様はその女神を邪神と称しました。

 

 「聞くだけで不穏な存在な気がしますね」

 

 実際はどんな神様なのかわかりませんが、僕はそう思いました。

 まぁ、存在しているかもわかりませんので、いい神様なのか悪い神様なのかはわかりませんけどね。

 それを言ったら龍神様も同じですけど、それでも王様から聞かされる話を聞く限り、いい神様だとは思えません。

 だって……。


 「生贄を捧げる事によって、加護を得られるって酷い話ですよね」

 

 実際に加護を得られているのかは不明です。

 しかも、現在進行形でその儀式が何処かで行われていると言うのです。

 聞いただけで嫌な気分になります。


 「しかも、その宗教にどっぷりはまっているのが、魔力至上主義の人達なのですね」

 「魔力至上主義の、上の人間がそうだという情報は出回っているな」


 それに、リアビラという国もその宗教に染まっていると言います。

 奴隷として人を攫ったりするのは、そういう生贄とも関係しているみたいですね。


 「それで、王様はカミネロさんにリアビラを探らせているのですね」

 「そう言う事だ。最近のリアビラは行動が大胆になってきているからな」


 大胆になってきているという事は、それだけ力をつけている証拠でもあり、大掛かりな事をしようとしている可能性も高いという事に繋がるみたいです。

 

 「ということは、また戦争が起きる可能性も……」

 「十分にあり得るな」

 「どうするのですか?」

 「どうするも、関与はしない。今回のようにな」

 

 そういえば、今回の戦いも国境での戦いでも王様は関与しませんでしたね。

 シノさんは理由があると言っていましたが、気になりますね。


 「どうして、王様なのに関与しないのですか?」

 「俺はルード帝国の王の座についてはいるのは、導く者だからだ」

 「導くのなら、国を守らなければなりませんよね?」

 「本来はな。だが、俺が軍を動かすという事は別の意味がある」

 「別の意味がですか?」

 「俺の率いる兵は、龍人だ。そうなると、どうなると思う?」

 

 龍人族の人って、サンドラちゃんのように龍化できるのですよね?

 となると。


 「一方的な戦いになりそうです」

 「そう言う事だ。それに対抗するには?」

 「同じく、龍人族が出てくる、って事ですか?」

 「そう言う事だ。そうなった時、どちらかの国が形として残ればいいが、決してそうはならないだろう」


 どちらかが灰になるまで戦う事になるだろうなと王様が凄く怖い事を言いました。

 

 「だからエメリア様達に任せているのですね」

 「そう言う事だ」

 「あれ、でもエメリア様達って王様の子供ですよね? となると、エメリア様達も龍人族って事になるのですか?」

 「確かに俺の血は引いているが、少し違う。龍人族と他種族で子が生まれても、龍人族にはなれないのだ」

 「どうしてですか?」

 「そういう風に出来ている。としか言いようがないな。仮に、お前とそっちの影狼の間に子が出来たとしよう、その子供が必ず狐族として生まれる。これを説明できるか?」

 「無理です」

 「そう言う事だ。龍人族と他種族との間に子が生まれても、必ず他種族の子供が生まれるように出来ているのだよ」


 龍人族同士ではないと龍人は生まれないように出来ているみたいですね。

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