第320話 補助魔法使い、お城に案内される

 「エレン様たちは先に戻られたみたいですね」


 スノーさん達と合流を果たし、僕たちはお城へと向かっていたのですが、タイミングが良かったようで、ちょうどエレン様達もお城へと帰還した所のようでした。

 

 「といっても、話しかけにくい雰囲気ですね」

 「戦闘が終わった直後で死傷者が出ている訳だし、仕方ないかな」


 あれだけ沢山の魔物を相手にしたのですから、流石に無傷とはいきませんよね。

 それでも、ナナシキの人達が到着するまで耐え凌いだのは凄いですよね。


 「どうしますか?」

 

 実際の所、僕たちがお城まで来た意味はありませんからね。

 元々はエレン様達を回復する目的でしたが、それもスノーさん達と合流を果たす前に終わらせてしまいましたからね。


 「けど、報告は必要かな?」

 「そうですね。エレン様はその様子は知っていても帝都内の様子は知らないと思うし、ユアンさんとシノさんが説明した方がいいと思うの」

 

 確かにそうかもしれませんね。

 エレン様の元に兵士の人が行ったり来たりし、兵士の人が一言二言話すと、違う兵士が訪れ、その度にエレン様が頷き、指示を出しているようにも見えます。

 もしかしたら、帝都の状況を兵士の人に報告させているのかもしれませんね。

 となると、キアラちゃんの言う通り、僕たちが説明した方が早いかもしれませんね。


 「ですが、話しかけられる雰囲気ではありませんよ?」


 見るからにピリピリしているように見えますからね。

 

 「うーん、私が声をかけてみるよ」

 「そうだね。スノーさんなら適任かな?」

 「シノさんでもいいと思いますよ」

 「僕は遠慮しておくよ。この格好だからね? 流石に、エレンやエメリアにこの格好は見せられ……ん?」


 誰がエレン様に話しかけるか話し合っていると、幸いな事に兵士の一人が僕達の事を指さし、エレン様に伝えているようでした。

 そして、エレン様も僕達の事をみつけ、近寄ってきてくれました。


 「スノーか、援軍に来てくれたそうだな。助かったぞ」

 「私は何もしていませんけどね」

 「そんな事はないさ。スノーとの繋がりがあったお陰だ」

 

 エレン様はスノーさんが兵を引き連れて援軍に来てくれたと思っているみたいですね。

 実際はシノさんを助けたくて街の人がついてきてくれただけですけど、いい話になっているみたいなので水を差すような真似は出来ませんね。


 「それで、兄上は知らないか? 兄上なら帝都内部で起きた事を知っていると思うのだが……」

 「シノ様ですか? シノ様なら……」


 そこに居ると、スノーさんが説明しようとしたのですが、どうしてかシノさんはシアさんの後ろへと隠れてしまいました。


 「シノさん、何をやっているのですか?」

 「君ね? 僕は隠れているのだから言わないのが優しさだと思うよ?」

 「別に隠れるような事はしてませんし、エレン様が探しているのですから、話を進めてくださいよ」


 エレン様だって出来る事なら早く休みたいと思いますし、自分が無事な事を知らせたいと思う人だっていると思います。

 こんな所で無駄な時間を割くのは申し訳ないですよね。


 「ユアンが正しい。シノ、説明する」

 「くっ……」


 僕と同じで力ではシアさんに敵わないようで、シノさんは簡単にエレン様の前に突き出されてしまいました。


 「あ、兄上……!?」

 「ま、久しぶりだね」

 「え、えぇ、お久しぶりです」


 シノさんの格好を見て、エレン様が驚き目を見開いています。


 「だから、嫌だったんだよね。先に言っておくけど、これには事情があってね?」

 「そ、そうなのですか……」


 まぁ、エレン様が驚くのも仕方ないですよね。それだけ似合っていますからね!


 「そ、それで帝都の状況なのですが、お聞かせいただけますか? 兄上にしかわからない事もあると、思いますので……」

 「いいけど、君って僕に対してそんな喋り方だったっけ? 別に気にしないけどさ」


 昔はよく会話していた人でも、少し時間や距離が空いてしまうと接し方がわからなくなってしまう時ってありますよね。

 エレン様もそんな感じなのでしょうか?


 「エレン姉さま!」

 「エメリア!」


 シノさんとエレン様の間に変な空気が流れていると、次はエメリア様が現われました。

 

 「エレン姉さま……ご無事で、良かったです」

 「約束したからな。必ず生きて帰ると」

 「はい!」


 生きている事を確かめ合う様に、二人は手を取り合い、エメリア様が涙を浮かべています。


 「こういうのっていいですね」

 「うん。感動する?」

 「何で疑問形なのですか?」

 「約束は守る。普通だから?」

 「そういう問題じゃないですよ」


 約束は守るものですが、守れない時だってありますからね。

 今回だって、もしかしたらエレン様の約束は果たせなかった可能性はあります。


 「それに、シアさんだって僕との約束を守らずに危険な目に遭った事がありますからね?」

 「…………忘れた」


 もぉ! そうやって言い逃れるのはずるいと思います!


 「で、感動の再開を果たしている所悪いんだけど、早く帰りたいから報告だけ済まさせてもらってもいいかな?」

 「え……えぇ!? お、お兄様ですか?」

 「ま、そうだね」

 「どうなさったのですか、その格好は……?」

 「色々あってね。それもあって早く帰りたいのだけどいいかな?」


 アカネさんとルリちゃんが心配して待っているので帰りたい気持ちはわかりますけど、二人の感動の場面を遮るのはちょっと酷いですよね。

 

 「わかりました……と言いたい所なのですが、お父様がお兄様が来られたら案内するように言われてますので、報告ならそちらでして頂きたいのですが……」

 「やっぱり、そうなるか。けど、それは断らせて貰うよ?」

 「どうしてですか!?」

 「どうしてって……心配して待っていてくれる人もいるし、この格好だからね?」


 あくまで服に拘るのですね。

 別に悪くないと思うのですがね。


 「服の心配をなさっているのなら、お兄様の服はまだ残っておりますのでそちらをお使いください」

 「それは助かるね。流石にこんな格好をアカネやルリには見せられないからね」

 「では、それを条件に少しだけお時間を頂いても……?」

 「わかったよ」

 「ありがとうございます」


 状況の報告はシノさんがしてくれそうなので、良かったですね。


 「では、僕たちは先に帰りましょうか」

 「うん。街の人も連れて帰る」

 「無事に終わって良かったね」

 「この間も仕事は溜まっているんだろうなぁ……頑張ろう」


 では、失礼しますと僕たちは街の人を迎えに離れようとしましたが。


 「お待ちください。ユアン殿も一緒に連れてくるようにお父様より言われておりますので、ご一緒に来ていただけませんか?」

 「え、僕もですか?」


 何故か、僕まで王様に会う様に言われてしまいました!


 「はい。城の方からユアン殿の活躍も拝見させて頂きましたので」

 「べ、別に僕は何もしていませんよ?」

 「いえ、街の者を癒して頂いた所をこの目で見させて頂きました」


 あ、あれ……?

 もしかして、あの時に調子に乗って回復魔法を使ったのは失敗でしたか?

 いえ、助かった人がいるので失敗ではありませんけど、まさかこんな事態になるとは思いもしませんでした!


 「ユアン、諦めた方がいいよ?」

 「え、でも……僕が行ったら流石に失礼な事しかしませんよ?」


 礼儀作法だっていま一つよくわかっていませんし、言葉遣いだって正しく使えていない自信がありますからね!

 なので、どうにかして断ろうと考えているのですが。

 

 「まぁ、陛下のご指名だし、ユアンは行ってきた方がいいよ?」


 スノーさんが敵に回り、僕に行くように勧めてきました。


 「スノーさんはどうするのですか?」

 「私達は帰るよ?」

 「ずるいですよ!」

 「ずるいって言われてもね?」


 いえ、ずるいです!

 絶対に僕があたふたするのをわかっていてそう言っているのです。

 その証拠に笑っていますからね!


 「いえ、スノーも帰られては困りますよ?」

 「え? どうしてですか?」

 「クオーネ子爵からスノーが顔を出したら家に一度顔を出すように伝えて欲しいと言われてますので」

 「えぇ……父上がですか?」

 「はい。なので、スノーは一度実家の方に戻ってください」

 「嘘でしょ……」


 僕の事を笑っていたのが嘘のように、スノーさんが肩を落としています。

 ま、まぁ……これならずるくはないですね。


 「となると、キアラちゃんはどうするのですか?」


 シアさんは僕と一緒に来てくれると思うので残るはキアラちゃんとサンドラちゃんですね。


 「キアラは私と一緒に行くよ」

 「え、私は行かないよ!?」

 「いや、この際だしはっきりさせるよ」

 「ちょっと待って……心の準備が」

 「私だって出来てないよ。けど、困難は一緒にね?」

 「こんな時ばっかりずるいよ……」


 けど、キアラちゃんはスノーさんと一緒にスノーさんの実家に行くことになりましたね。

 後は……。


 「サンドラちゃんはどうしましょうか?」

 「なー?」

 

 どうしたのと首を傾げているのが可愛いですが、状況はあまりわかっていないみたいですね。

 というよりも、気にしていないって感じでしょうか?


 「いえ、僕とシアさんはお城に、スノーさんとキアラちゃんはスノーさんの実家に行くので、サンドラちゃんはどうしようかなって話ですよ」

 「なー? 私はユアンと一緒にいくぞー」

 「遊びに行くわけではないですよ?」

 「それくらいわかってるぞー! 帝王に会うんだなー?」

 

 どうやら、状況は理解しているみたいですね。

 まぁ、サンドラちゃんは一応ではありますが、王族でしたので問題はないですかね?


 「えっと、サンドラちゃんを一人に出来ないので、一緒に連れていっても大丈夫ですか?」

 「ユアン殿が来て頂けるのなら、問題ありません」

 「ありがとうございます」


 良かったです。

 ここで断られたら、サンドラちゃんを一人お家に返さなければなりませんでした。

 流石に、ここまで一緒にきて一人だけお家に帰って貰うのは可哀そうでしたからね。


 「では、ご案内致します」

 「兵士達はいいのかい?」

 「問題ない、です。おい、もう魔物はいないとは思うが引き続き警戒にあたれ! それと、被害の確認も進めろ!」

 「「「はっ!」」」」


 エレン様が兵士の人達に指示を出し、それに従って兵士達が二人組になって散っていきました。

 

 「街の方は心配なさらず、こちらへ」


 この間もどうにかして逃げれないか考えていましたが、それも思い浮かばず、エレン様の後に続きお城の中へと入る事になりました。

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