第319話 天狐の姉妹?

 「わー! シノさん似合いますよ! すごくかわいいです!」

 「可愛いって褒められてもね……」


 僕の服を着たシノさんが自分の姿を見て困惑しています。

 けど、シノさんは予備の服がないのですから仕方ないですよね?

 

 「けど、本当にかわいいですよ! お姉ちゃんですね!」

 「僕は男だけどね」

 「知ってますよ。だけど、今だけはいいじゃないですか」


 お兄ちゃんとは呼ぶのは恥ずかしいですけど、お姉ちゃんなら躊躇いなく言えるから不思議ですね。

 ちなみにですが、服はイルミナさんから頂いた服なので、サイズ調整つきなのでシノさんでも問題なく着る事が出来ています。


 「こんな姿はアカネやルリには見せられないな」

 「そんな事ないですよ。ちゃんと似合っていますので、喜んでくれると思います!」

 「いや、二人の前では着ないからね?」

 「えー、着ましょうよ。あっ、髪留めも似合いそうですね。これもつけましょう!」

 「僕の話を聞いてくれるかな?」

 「ちゃんと聞いていますよ」


 やっぱりです!

 シノさんの髪は僕ほどではないですが、男性にしては長い方なので髪留めが似合うと思いましたが、前髪を分けるように止めてあげると、いい感じです!

 

 「こうみると、女の子にしか見えませんね」

 「それはどうも」

 「これからずっとその格好にしませんか?」

 「それは断らせてもらうよ」


 けど、満更でもない感じもしますけどね。

 さっきから自分の姿を確認するように、スカートをひらひらさせて回ってみたりして確認していますからね。


 「その格好でならシノさんとお出かけしてもいいと思いましたが、残念ですね」

 「そうかい?」

 「はい、姉妹でお出かけっていいですよね」


 ルリちゃんとシアさん、キアラちゃんとエルさんは姉妹で、仲良さそうに歩いている所を街で見かけた事がありましたけど、楽しそうで羨ましかったですからね。

 

 「まぁ、君が一緒に出掛けてくれるというのなら、一回くらいなら考えるよ」

 「今の格好なら歓迎しますよ!」


 ですが、実際の所は、僕もシノさんにお出かけしようと誘われた事は何度もありました。

 しかし、シノさんと二人きりで買い物とかは考えられず、断っていましたからね。

 その度に、シノさんが少し悲しそうな顔をしていましたけど、兄妹とはいえ、男性と買い物で歩くと変な勘違いされそうで嫌ですからね。

 ですが、シノさんが女の子の格好をしてくれるのなら、問題なく出かけられる気もします。


 「さて、そろそろ向かわないとかな」

 「何処にですか?」

 「エレン達の所にだよ。傷ついた兵士達を助けるんだよね?」

 「あっ、そうでした! 急ぎましょう!」


 シノさんが可愛くて完全に忘れていました!

 本当ならば、こんな事をしている暇はありませんでした。

 この時間で助かる命が助からなかったら……。


 「その心配はいらないよ。軍の中には必ず救護隊員も従軍するからな。生きていれば命を繋ぎ留める事は出来ている筈だよ」

 「それなら良かったです」

 「うん。それに、君たちが作ったポーションの流通も順調だしね」


 ナナシキからトレンティアに販売しているポーションが帝国にまで流通しているとは思いませんでしたが、僕たちのお仕事のお陰で助かっている人がいるのは嬉しいですね。


 「ですが、命を繋ぎ留めるだけで、痛みとかで苦しんでいるかもしれないですよね?」

 「そうだね。ポーションでも救護隊員でも限界はあるからね」

 「なら、急ぎましょうか」

 「うん。それじゃ、行くよ」


 シノさんが僕の手をとり、路地裏から飛び立ちます。


 「あっ、その格好ですと下から中が見えてしまうので気をつけてくださいね」

 「…………そこまで考えていなかったよ」

 「ダメですよ。今は女の子ですからね?」

 「いや、格好はそうかもしれないけど、僕は男だからね?」

 「細かい事はいいのですよ。エレン様の所には僕が連れていってあげますので、シノさんはスカートを抑えて飛んでください」


 シノさんから空の飛び方は学びましたし、シノさんほど速くは飛べませんが飛ぶだけなら僕でも出来そうです。


 「飛ぶのって結構大変な筈なんだけどね」

 「確かに、制御するのは大変ですね」

 「そうだね。僕も最初は結構苦労したのだけどね。君の成長には恐れ入るよ」

 「それは、シノさんが教えてくれたからですよ。僕一人じゃ多分無理だと思います」


 むしろ何も知らない状態から飛べるようになる方がよっぽどすごいと思います。

 どうやったら飛べるのかを考えなければなりませんからね。

 魔法理論も自分で考えなければなりませんしね。

 っと、しゃべっている暇はありませんでしたね。


 「それじゃ、行きますよ」

 「うん。よろしく頼むよ」


 という訳で、僕はシノさんの手を引き、上空へと昇り、エレン様達の元へと向かおうと思いましたが……。


 「戻ってきているみたいですね」

 「そうだね」


 上空へと昇ると、帝都から出陣する兵士と戦場より戻ってきているエレン様達の姿を確認する事が出来ました。

 

 「アリア様達はまだ戦っていた場所に残っていますね」

 「殿ってやつだね」

 「殿ですか?」

 「兵が撤退する時に、追従する敵兵を迎撃する役目の事さ。みんな揃って撤退すると無防備な背中を討たれる事になるからね」

 「軍隊ってそんなことを考えているのですね」

 

 アリア様達が残ったのはわかりました。

 ですが、戦いが終わったのにも関わらず、今更帝都から兵が出陣するのは何故でしょうか?


 「エメリアの指示だろうね」

 「そうなのですか?」

 「うん。エメリアも軍を動かす事が出来るからね」

 

 今出陣した兵は事後処理と、アリア様達の援軍へと向かったとシノさんは予想しています。

 今は魔物の姿はみえませんが、まだ魔物が現れる可能性もあり、再び現れた魔物の処理を他国の兵に押し付ける訳にはいかないとの事です。

 戦力的には力にならなくとも、共闘したという事実だけは作っておきたいみたいです。


 「政治って面倒ですね」

 「そうだね。ま、いずれ君も関わる事になるし、色々とみて勉強しておくといいよ」

 「僕は関わりませんよ。そういうのはスノーさん達のお仕事ですからね」


 僕はのんびりと暮らすのが生涯の目標です。

 まぁ、こうやって事件に巻き込まれる事もありますけどね。


 「では、僕たちはどうするべきですか?」

 「エレンの事だ、エメリアと合流するだろうし城に向かった方がいいかな」

 「それなら、僕たちも一度合流した方がいいですね」

 「そうだね」

 

 っと、その前に……戦ってきた人たちを癒しておいた方がいいですね。

 距離は結構離れていますが、範囲をしていすれば……。


 「フォースフィールド! これで、大丈夫ですかね?」

 「大丈夫だと思うけど……兵士が混乱しているね」

 

 まぁ、いきなり傷が回復すればびっくりはしますよね。


 「でも、痛い思いをするよりはいいですよね?」

 「まぁね? だけど、君はもう少し考えてから行動をした方がいいかな?」

 

 少し怒られてしまいました。

 けど、大きな混乱ではないですし、エレン様達は一瞬足を止めましたが、すぐに移動を再開しましたので大丈夫そうですね。


 「それじゃ、僕たちも合流をしましょう」

 「そうだね。スノー達の位置はわかるのかい?」

 「はい。魔鼠さん、お願いします」

 「ヂュッ!」


 ローブの中で魔鼠さんから任せてと返事が返ってきました。

 スノーさん達は魔鼠さん達に任せて、僕はその間にシアさんと連絡をとります。


 『シアさん』

 『なに?』

 『今、忙しいですか?』

 『平気。どうしたの?』

 『一度合流した方がいいという話ですけど、これますか?』

 『任せるすぐ行く』

 「来た……あっ」


 まるで転移魔法で移動してきたみたいに、シアさんが僕の横に現れました。


 「もぉ、いきなり現れたら危ないですよ!」

 「うん。助かった」


 僕の横に現れたのはいいですが、僕たちは空を飛んでいます。

 となると、シアさんはすーっと落ちていきそうになりました。


 「暫く、僕に掴まっていてくださいね」

 「うん、これでいい?」


 ギリギリの所でシアさんに触れる事ができ、シアさんを捕まえる事ができました。

 触れていれば、一緒に飛べるので助かりましたね。


 「ユアン」

 「はい? どうしましたか?」

 「シノが可愛い格好している。どうしたの?」

 「それはですね……」


 事の経緯をシアさんに伝えると、納得したようにシアさんは頷きました。


 「ルリも喜ぶ。シノはこの先その姿で過ごすといい」

 「今回だけだよ?」

 「勿体ない。似合ってる」

 「そんなにかい?」

 「うん。ユアン程じゃないけど、かわいい」


 シアさんもシノさんの格好が気に入ったみたいですね!

 やっぱりシノさんはその格好の方がいいという事が証明されましたね!


 「ヂュッ!」

 「はい、わかりました…………スノーさん達と連絡がとれましたよ。城の方に向かってくるとの事です」

 「なら、その途中で合流する」

 「そうしましょう」

 「出来る事なら、僕はあまり人と会いたくはないけどね?」

 

 なので一足先にお城へと向かいこっそりと着替えると言い始めました。

 お城に行けば、昔着ていた服が残っている可能性があるみたいですね。

 ですが……。


 「それはダメ」

 「そうですよ、ダメですよ!」

 「どうしてだい?」


 当然です。

 そんな事を許せるはずがありません!


 「ダメなものはダメですよ! 今日はその格好で過ごして貰いますからね」

 「それは、僕が決める事だと思うんだけど?」

 「ダメです! シノさんを助けてあげたお礼だと思ってください!」

 「それを言われると、何も言えないね……」


 僕は決めましたからな!

 今日一日くらいは、お兄ちゃんではなく、お姉ちゃんとして過ごしてもらうって!

 それに、シノさんが今お城に向かい、そこで誰かに会ってしまうと、それはそれで騒ぎになってしまうかもしれませんしね。

 戦いの前はお城に居たと言っていましたが、それでもです!

 

 「スノーさん達はあっちですね」


 魔鼠さんからスノーさん達がいる方向を教えて頂き、僕たちは移動を開始します。

 もちろん、地上に降りてからですよ?

 流石に飛んでいると目立ちますし、シノさんのスカートの中が心配ですからね。

 暫く歩くと、スノーさんと合流を果たす事が出来ました。

 そこでもシノさんの格好は褒められましたよ。

 やっぱり、みんな絶賛してくれるのです。

 シノさんはそれでまた困惑していましたけどね。

 合流を果たした後はみんなでお城に向かいました。

 正確には、お城に帰還しているエレン様達と合流をする為にですけどね。

 ですが、この後すぐに修羅場に突入するとは思いもよりませんでした。

 帝都の新たな戦いが幕を開ける事になったのです。

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