第316話 天狐達の共闘2

 「凄いですね、僕のお兄ちゃんは」


 上空で起きている事を眺め、僕は純粋にそう思います。

 今の事を僕にやれと言われても……まぁ、無理ですね。

 かなり無理をすればわからないですが、同じ結果になるとは限りません。

 もしかしたら、帝都の至る所を壊してしまうような気がします。


 「シノさんだから出来たのですね」

 

 天才な兄を持つのは頼もしいと思うと同時に、ちょっと悔しいですよね。

 でも、そんな感情よりも無事に終わってくれた。

 それが一番です!

 後は僕の仕事ですね……。

 

 「ユアン、終わったよ」

 「はい、見ていたのでわかりますよ」


 空を飛んでいたシノさんが僕の元に戻ってきました。

 魔力の方は……大丈夫そうですね。

 それなら。


 「シノさん、僕にもシノさんの闇魔法の素を貸して貰っても良いですか?」

 「闇魔法のかい?」

 「はい。シノさんがやった事の真似をしてみようと思います」

 「僕の真似ね……こんな感じでどうかな」


 いい感じね。

 闇魔法に自分の魔力を変えても痛まない。

 これは助かる。

 それを……。


 「光魔法に、変えます!」


 わぁー!

 凄いですね、凄いですよ!

 こんなに素直な魔力を扱ったのは初めてです!

 

 「君って、本当にえげつない事を考えるね」

 「えげつないって言い方はないと思いますよ?」


 それに、えげつないのはシノさんの魔力が凄いからですしね。

 僕はただそれを光魔法に変換しただけですからね。


 「あのね、それがえげつないんだよ。魔法の素の属性を変えるのがどれだけ難しい事なのかわかるかい?」

 「そうなのですか? まぁ、やれるからやっているだけですよ」


 それに、シノさんだって同じことを国境の戦いでやっていましたしね。

 

 「それはあくまで自分の魔力だからだよ。人の魔力を変換するのは僕にはできないね」

 「やればできると思いますよ? っとまぁ、準備が出来たのでやっちゃいますね!」


 シノさんが何かを言いたそうにしていますが、僕が魔法を使い始めたので静かにしてくれました。


 「まずは、探知魔法を展開します」


 今の戦いで、傷ついた街の人がいるかもしれませんからね。

 流石に探知魔法を使っても区別はつきませんので、必要な情報は何処に人がいるかです。


 「次は、帝都を出来る限り覆うドームを……」


 イメージとしては、防御魔法のようなドームです。

 僕を中心に広がるドームを展開する。


 「何をする気だい?」

 「何って、回復魔法ですよ?」


 探知魔法はあまり意味を成しませんでしたね。

 結局、住民は避難できずに、バラバラに点在している事がわかりました。

 それに、情報量が多すぎて頭が痛くなりそうです!


 「ならいっその事、範囲内の人を全て直してしまうまでです!」


 上手くいくかはわかりません。

 ですが、それなりに効果はある筈です!

 

 「行きますよ……リザレクション!」


 リカバリーが一人を回復する魔法ならば、フォースフィールドは範囲回復に分類しています。自分の近くに居る人を回復する感じです。

 そして、リザレクションは蘇生という意味を持ちますが、完全回復をイメージしています。

 そして、効果範囲ですが……。


 「帝都内の人を全て癒してみせます!」


 帝都内を覆ったドームの中に僕の魔力を拡散させます。回復効果のある魔力です!

 ドーム内の魔素に回復効果を持たせたと言った感じですね。

 難点があるとすれば、僕一人。

 それこそシノさんレベルの人から淀みのない魔力を貰える事と、適当な範囲指定なので敵味方関係なく回復してしまうと言った所でしょうか?

 そういった理由から国境での戦いでは使えませんでした。

 先ほど探知魔法を使用した際にわかりましたが、存在する魔物が大していなかったので、使う事が出来た訳ですね。


 「んー? こんな感じですかね?」

 「いいんじゃないかな?」

 「わかるのですか?」

 「いや、わからないよ? ユアンはわかるのかい?」

 「いえ、わからないです」


 効果はある確信はありますけど、実際に癒せたかどうかは目で見ないとわからないですからね。


 「ま、帝都の方はこれで大丈夫だろう」

 「大丈夫ですかね? 魔法陣を起動した人をまだ捕まえていませんよ?」

 「そうだけど、僕の予想が正しければだけど、きっと今ので大丈夫だと思うかな」

 「どうしてですか?」

 「今の魔法には状態異常を回復する効果も付与されているだろう?」

 「はい、もしかしたら毒や麻痺状態の人もいるかもしれませんからね」


 傷ついた状態がわからない以上、傷だけ癒しても意味はありません。

 悪い場所があるならば、それを全て直さない事には意味がないですからね。


 「という事さ」

 「どういう事ですか?」

 「魔法陣を起動した犯人は、恐らく第二皇子のヴェルだ」

 「第二皇子様ですか?」

 

 もしかして、第二皇子様って悪い人だったのですかね?

 何となくは話は聞いていましたが、正直な所、明確な敵の存在は知りませんでした。

 魔族が関わっているのは知っていますけどね。


 「エメリアから聞いていた話からヴェルは操られていたと考えるべきなんだ」

 「それは大変ですね」


 そうなると、早くその皇子様をどうにかしないといけませんね。


 「慌てる必要はないよ。さっき言った通り、もう大丈夫だろうからね」

 「どうしてですか?」

 「君が治したからだよ。人を操る魔法も状態異常の一種じゃないかい?」

 「どうですかね? 僕はトリートメントという状態異常を回復するだけの魔法がありますけど、血の契約のような魔法は無理だと思いますよ」


 出来るならあの時に使って、シアさんやルリちゃんを回復しましたからね。


 「それは、血で繋がっているからさ。治した所で再び魔法をかけられただけに過ぎない」

 「では、今回は違うという事ですか?」

 「恐らくね。僕は以前にこれに似た、もしくは同じ魔法を見た事がある。君もね」

 「僕もですか?」


 むむむ……?

 そう言われてもピンときませんね。

 というよりも、第二皇子様の状態がわからない以上はわかりませんよね?


 「タンザの領主は覚えているかな?」

 「えっと……あの太った人ですか?」

 「そうだね。タンザの領主がこれと同じような状態だったんだ」


 タンザの領主は半分は自分の意志で、半分は操られているような状態だったらしいです。

 

 「けど、それを知った所で治せるかどうかがわかるのは別ですよね?」

 「わかるよ。色々と実験をしたからね?」

 「実験……ですか?」

 「うん。タンザの領主をトレンティアで捕らえ、色々と尋問をしたんだ。その時にね?」


 これ以上は聞かない方が良さそうですね。

 というよりも、聞くのが怖いです。

 でも……。


 「今後はそんな酷い事をしないでくださいね?」

 「しないよ。僕はもう、オルスティアではないからね」

 

 あれはシノさんが皇子としての責務だと言いました。

 

 「わかりました。シノさんを信じます」

 「ありがとう……っと、話が逸れたね」

 「そうですね。この後は、どうするつもりですか?」

 「決まっているよ。外で戦っているエレンの助けに向かう。早く向かわないと危険だ」

 

 外ではエレン様が少ない兵士を引き連れ、魔物の大群と戦っています。

 シノさんはその手助けに向かうつもりみたいですけど、そういえばシノさんは知りませんでしたね。


 「それなら、問題はありませんよ」

 「どういう事だい?」

 「エレン様の所には既に援軍が向かっていますよ」

 「援軍だって?」

 「はい、シノさんが頑張っている事を知って、自ら手伝いを申し出てくれたのです」

 

 正直、あれには驚きましたね。

 だって、帝都に向かう準備をしていたら、みんなが領主の館の前で待ち構えていたのですからね。


 「影狼族かい?」

 「違いますよ? 影狼族の人も一部の人は手伝ってくれていますが、ほとんどの人はナナシキを守ってくれています」


 流石に、全ての戦力を率いて出ては来れませんからね。

 もしかしたら、これが陽動でナナシキを教われる可能性だってあります。


 「となると、キアラの召喚獣達かい?」

 「違いますよ? まぁ、色々と裏で頑張ってくれていますけどね」


 僕たちが移動する為の転移魔法陣を設置して貰ったり、今もラディくんの配下が帝都の状況を探ってくれている頃で、その情報はキアラちゃんに届けてくれていると思います。

 ですが、戦力としては人相手には数と麻痺や毒などで優位にたてますが、魔物相手ですと耐性を持っている魔物も多く存在するので、あまり無茶はさせられないですね。


 「他に思い浮かぶ人達といえば……もしかして?」


 ここでようやくシノさんが正解を導き出しました。

 

 「正解ですよ」

 「本当に大丈夫なのかい?」


 シノさんが眉間に皺を寄せました。

 そうですよね。初めて聞いた時は僕も同じように心配しましたからね。


 「大丈夫だと思います。僕の防御魔法が効いていますし、実際に心強いと思えましたから」


 この人達は強いなとか、敵に回したら苦戦するだろうな、など一目見たらわかる強さというのがありましたからね。

 むしろ僕たちが心配するのが失礼なくらいです。


 「それでも心配だ」

 「そうですね。それなら、見に行きますか?」

 「そうしよう。僕の所為であの人達が傷つくところを見るのは忍びない」

 「わかりました」


 帝都の上空にあがれば戦いの様子は遠目ながらわかるかもしれないという事で、とりあえず上空に飛んでみる事にしました。

 ですが、僕は空を飛ぶことは出来ません。

 という事で……


 「ユアン、手を繋いで」

 「わかりました。けど、変な事はしないでくださいね?」

 「わかってるよ」


 シノさんが手を差し出し、僕はそれを握ります。


 「この機会に君も覚えるといい」

 「出来ますかね?」

 「転移魔法も一回で覚えたんだ。君ならわかるよ」

 「頑張ります」

 「うん。それじゃ、行くよ?」


 シノさんに手を引かれ、ふわりと宙に浮かび上がります。

 それと同時に、シノさんが魔力を僕に流してくれて、魔力をどう使えば空を飛ぶことができるのかを教えてくれます。


 「どうだい?」

 「練習すれば、できるような気もします」


 ですが、難しいですね。

 転移魔法は転移魔法陣があったお陰で理論が何となくわかりますが、これは一から知る事になるので理論ではなく、感覚で覚えなければいけなさそうですね。


 「大丈夫だよ。まずは感覚を掴み、その後に解析をすればいい。君はそういうのが得意でしょ?」

 「それなりに出来るとは思います」

 「それなり……ね」

 「何ですか?」

 「いや、何でもないよ。ただちょっと、僕たちの両親は意地悪だなと思ってね?」

 「お母さん達ですか?」

 「うん。不平等だなってね」


 まぁ、僕も少しだけ不平等だとは思いますね。

 だって、シノさんに比べて僕はまだまだ未熟ですからね。

 シノさんみたくもっと、攻撃魔法とかバンバン使えたら役に立てたと思います。


 「多分だけど、君が思っている事は僕も思っているからね?」

 「そうなのですか?」

 「うん。僕は僕で君が羨ましいよ?」

 「意外ですね」

 「うん。そういう能天気というか、無自覚な所がね?」

 「もぉ! それって褒めてないですよね!」

 「褒めてるよ。それが君の長所だからね。まぁ、同時に短所でもある訳だけど」


 むー!

 結局、シノさんはシノさんでした!

 せっかく、いい感じに仲良くなれそうだったのに、また僕の事を馬鹿にしてきます!


 「あれ、もしかして怒ったのかい?」

 「別に、怒ってませんよ!」

 「本当かい?」

 「知らないです!」


 こうなったら少しでも早く、飛ぶ方法をシノさんから学び、直ぐにでも離れるべきですね!


 「うん、その調子だよ」

 「わかってますよ。ほら、エレン様の様子を見るのですよね? 早く移動してください」

 「はいはい。それじゃ、少し飛ばすからね?」

 

 僕たちの飛ぶ速度があがりました。

 落ちる感覚に比べると、マシですけど、高い場所ってサンドラちゃんの背中に乗っている時も思いましたが怖いですね。

 

 「一体、どうなっているんだい?」


 上空にあがると、帝都の外の様子が見えてきました。


 「なんか、凄い事になってますね」


 シノさんが驚いたのも無理はありません。

 僕も何が起きているのか全然理解できませんでしたからね。

 だって、明らかにおかしいですよね?

 魔物の群れの中心に幾つもの火柱が上がっているのですから。

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