第313話 帝都防衛戦3
「なるほどね」
一向に終わりの見えないワスプの群れとの戦いで一つ気付いた事があった。
「僕しか狙ってこないというのは、完全に操られている証拠だね」
正確には操られているというよりも、命令に従っている、もしくはインプットされていると言った感じか。
召喚されたワスプは上空へと飛び上がったのち、辺りを見渡しながら一度静止する。
その動きが不自然だと思ったがそれには意味があるようだね。
「最初に見た敵に反応するみたいだ」
そうなると、ワスプの群れの中で戦う選択をしたのは正解だったらしい。
もし、僕が離れた場所で戦う選択をしていたら、ワスプは地上にいる住民をみつけ、その住民を狙い一か所に留まらず、バラバラに散開していただろう。
「といっても、数が数だね。これじゃ、キリがない」
魔力の残量は……まだ問題ない。
しかし、終わりが見えないワスプの群れに最後まで魔力が持つという保証はない。
かれこれ戦闘が始まってから一時間ほど経過したけど、状況は何も変わっていない。
「一度、本格的に別の方法を……ぐっ!?」
防御魔法を展開しているにも関わらず、右手に熱いほどの痛みが走った。
それと同時に、魔力が抜かれていく感覚がし、体が震えるほどの悪寒が全身に走る。
「防御魔法が破られた?」
右手をみると、掌を突き破り、深々と突き刺さっている針が目に見えた。
「油断したか……傷を癒せ」
力任せにその針を引き抜き、穴の開いた掌に
「あいつか」
こうなった原因を探すと、その原因はすぐにわかった。
黄色と黒の縞模様のワスプの群れの中に、赤色と黒の縞模様の一回り体のサイズが大きなワスプが混ざっている事に気付いた。
どうやら、あれはワスプの上位個体らしい。
「僕の防御魔法ではあの個体の攻撃は止められないみたいだね」
もう少し防御魔法の強化に魔力配分を割けば防ぐ事は可能だろうけど、
これ以上は無駄な魔力を消費する事は出来ない。
「まずは、あのワスプを……っ!」
今度は左肩に痛みが走った。
「一匹では、なかったんだね」
絶え間ない戦闘で集中力が低下しているようだ。
それにどうやら、僕は複数の敵と戦う事は苦手のようだね。
「上位種の数は……結構いるな」
これは新しく召喚され始めてたと見るべきかな。
「それよりも、この針を抜かないと……」
背後から刺されたせいで、力が入らない。
針は先端に向かうにつれ、細くなっている。
どうしても、刺された方向からしか抜くことは出来ない。
「ごほっ……ひどいなぁ」
畳みかけるように、ワスプの攻撃が激しさを増してきた。
僕は攻撃を中断し、防御魔法を強化し受け身に回らざるおえない。
それでも、強化した防御魔法を越えて、上位種の針は腹に突き刺さる。
「傷は、どうにかなる……問題は、魔力だね」
マズいね。
魔力枯渇状態に陥りつつある。
人で言えば、血を多く失った状態。
目が少し霞み、四肢に力の伝達が上手く伝わらない。
「これは、一度撤退をするしか……」
このまま戦った所で、勝機は薄い。
しかし、この状況で僕が離脱すると帝都は間違いなく……。
「それに、逃がしてくれそうにはないかな?」
ワスプに指示を与えた者は僕をどこかで見ているのかな?
召喚されるワスプの中に更に大きな個体が表れ始めた。
あんな個体が暴れまわったら……。
「なら、せめてアレだけでも……アビスホール!」
巨大な個体が闇魔法に吸い寄せられ、次々に呑み込まれていく。
その代わりに……。
「代償は、大きいね」
無数の針が僕へと突き刺さった。
防御魔法の分を攻撃に回した代償だ。
「身体が軽くなった?」
ワスプが離れていく。
いや、違うか。
僕が遠ざかっているのか。
どうやら体が軽くなったのも気のせいらしいね。
重力に逆らわず、重力に任せ落下しているらしい。
地面に叩きつけられる……。
「それは、避ける……」
地面に当たる直前に飛翔の魔法を一瞬だけ展開し、どうにか地上へと降り立つ事に成功した。
しかし、状況は変わっていない。
「やっぱり、狙いは僕からは変わらないか」
地上に降りても、ワスプは僕を狙い後を追ってきていた。
そして、僕を再び針で串刺しにする為に無数の針が放たれる。
「避けるか……それとも」
短い時間の中で選択を余儀なくされる。
どうすればいい?
しかし、すぐに気付く事になる。
考える時間などなかったことに。
目前に針が迫る。
防御魔法を展開する時間も、避ける時間もない。
針が僕の体に……。
キンッ!
金属同士がぶつかるような甲高い音が耳に届いた。
どうやら、僕には当たらなかったようで、その証拠に僕の周囲にはワスプの針が大量に落ちている。
だが、僕は防御魔法を展開できていない筈だ。
という事は……?
「全く、世話のかかる兄ですね」
「え?」
僕に届いた、女性の声。
それと同時に、前進に広がる痛みが引いて行く。
「幾ら何でも、焦り過ぎです。一人で戦える相手ではないですよ?」
いつの間にか、背後にはリンシアと共に並んだユアンが立っていた。
どうやら、僕は妹に助けられたらしい。
絶望とも思える戦いに、光が差したように思えた。
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