第309話 補助魔法使い、懐かしい人と再会する

 「それで、皆さんはどうしてこの森に住んでいたのですか?」


 森に住んでいた魔物はコボルトだけで、他に魔物もいないという事で転移魔法陣をここに設置させて頂く事にしました。

 ちなみにですが、契約の方は無事に成功する事が出来ましたよ。

 以前にも僕は一度試したことがあったのですが、相変わらず闇魔法に属する魔法なので僕には適正はなかったようなので、シアさんが契約しましたけどね。

 シアさんは僕よりも闇魔法が得意で、血の契約のお陰もあって、魔法陣があった事もあり、簡単に契約を交わせたみたいです。

 

 「召喚されました、ご主人様!」

 「召喚ですか? えっと、誰にです?」

 「わかりません! すみません、ご主人様!」


 コボルトの中でほんの少しだけ身体が大きいコボルトが居たのですが、その子がこの群れのリーダーのようで、僕の質問にハキハキと答えてくれます。

 ですが、気づいたらこの場所にいたようで、他には何も知らないみたいですね。


 「どういう事何だろう?」

 「特に村を襲ったりしていないみたいですし、何の為に召喚されたのかわからないね」

 

 コボルトと戯れながらスノーさんが首を傾げ、キアラちゃんがうーんと考え込んでいます。

 そうなんですよね。

 意味もなく召喚をする意味がないですからね。

 ですが、この答えは僕はわかりました。


 「実は、この森は浄化の森と言われていまして、もしかしたらそれが働いたのかもしれませんね」

 「浄化の森? どういう効果があるのですか?」

 「えっと、凶悪な魔物が住めなかったり、マイナス効果のかかる魔法を解いたりできたりすると言われていますね」

 「本当なの? 帝都に住んでいたけどそんな話は聞いた事はないけど?」

 「そうかもしれませんね。この森に立ち入る人はほとんどいませんからね」


 この森に入る利点がないという事ですね。

 魔物は出ないので冒険者は立ち寄らず、狩りの為に動物を獲ろうとしても大した成果も得られず、川で釣れる魚も労力に見合う成果はあげられません。

 言ってしまえば、森にはいる理由がない感じですね。

 ここを通らなければ何処かに行けないという場所でもありませんから。


 「それで、誰もよらないからそんな効果がある事を知らなかったのか」

 「そうかもしれませんし、そもそもそう聞いているだけでその効果がない可能性もありますしね」

 「それをユアンさんが感じる事は出来ないの?」

 「出来ませんね。昔から何度もここに足を運ぶことはありましたが、そういった魔力などを感じた事はありませんよ」


 それはそれで不思議ですけどね。

 もし本当にそのような効果があるのならば、浄化作用のある魔力を感じる事ができそうなのに、感じないのです。

 つまりは魔力とかではない作用が働いているということになります。


 「って事は、召喚された際にその作用が働いてこの子達が良い子になったって事?」

 「その可能性はありますね。本来ならばコボルトはれっきとした魔物で縄張り意識も高く、人間を数で襲う事で知られていますから」

 「御主人様! 僕たちはそんな事をしたりしません!」

 「わかっていますよ。世間一般的に知られるコボルトの話でですからね。みんなはもう違うという事は知っています」


 今はですけどね。

 それ以前の話は記憶がないみたいなので、聞きだす事は出来ません。

 もしかしたら、この子達も人を襲っていた過去がある可能性もあります。


 「けど、食事とかはどうしていたのかな?」

 「この森に食料になりそうなものない」


 確かにそれは気になりますね。

 魔物は魔素がないと生きられない事は有名ですけど、魔素があれば生きられるという訳でもないですからね。

 ちゃんと食事も必要になるはずです。


 「貰っていました!」

 「貰っていたのですか? それは、みんなの召喚をした人です?」

 「違います! 優しい人に貰っていました!」

 「優しい人?」


 むむむ?

 これは、魔族でもない人が関わっている可能性もあるという事でしょうか?


 「つまりは、コボルトは何らかの目的でここに召喚されて、この森の作用でいい子になって、誰かにご飯を貰っているという事かな?」

 「そうなりますね。ですが、それはそれでややこしい話になりますね」

 

 この子達には言えないですが、正直な所、悪いコボルトとして召喚されてそれを討伐するだけの方が話はわかりやすかったですからね。

 ですが、契約も上手くいきましたし戦力としては……微妙かもしれませんがそれでも協力してくれる仲間が増えるのは助かりますね。


 「問題はコボルトさん達をどうするかだよね」

 「うん。連れていくわけにはいかない」

 「御主人様、僕たちを連れていってはくださらないのですか?」


 うぅ……ずるいですよね。

 獣人と同じように耳と尻尾を垂らして、シュンとなっています。

 それをコボルトさん達が一斉にやるのです。

 

 「ユアン、連れて帰ったらダメ?」

 「ダメではないと思いますよ。ですが、いきなり連れていったら街の人が混乱しちゃうと思います」

 「けど、それなら大丈夫じゃないかな? この後に……」

 「ちょっと待ってください、誰か来ます」


 コボルトさん達を今後どうするのか話し合っていると、探知魔法で人が向かってくるのを捉えました。

 しかも、一人ではなくゾロゾロと歩いてくるのです。


 「敵か味方かわからないから気をつけて!」

 

 もしかしたらコボルトさん達がいる事を知って討伐に来た人かもしれません!

 スノーさんが僕たちを守るように戦闘に立ち、剣を構え警戒態勢に入りました。

 

 「あ、でも……この反応は」


 それと同時に僕は他の事にも気付いてしまいました。

 こちらに向かってくる点が、青い点だけではなく友好を示す紫の点も混ざっている事に。

 

 「御主人様、大丈夫です! この匂いは僕たちにご飯をくれていた人達です!」

 「そうなの?」

 

 コボルトさん達の言葉に、スノーさんが構えた剣を下ろし、それとほぼ同時に向かって来ていた人達が見え始めました。


 「あら……? 先客がいると思いましたら……」


 その顔を忘れる訳がありません。


 「院長先生!」


 僕が赤ん坊の頃から育ててくれたもう一人のお母さんの姿がそこにありました。

 

 「やはり、ユアンでしたか。元気にしていましたか?」

 「はい! 先生も変わらずお元気なようで何よりです」

 

 手紙のやりとりは何回かしていましたが、やはり直に会って声を聞き、話をするのとは違います!


 「あ、お姉ちゃんだ!」

 「久しぶりですね。元気にしていましたか?」

 「してた!」

 「それは良かったです」

 「兄ちゃんも元気にしてたか?」

 「兄ちゃんではなく、お姉ちゃんですよ。ちゃんと冒険者として活動して、お家も買いましたよ」

 

 嬉しいですね。

 ちゃんと僕の事をみんな覚えていてくれたみたいで、僕を囲むように寄ってきてくれました。

 中には見た事のない子供も増えていますので、また孤児院の子供が増えたみたいですね。


 「ほらほら、ユアンお姉ちゃんが困っているし、他の方にも挨拶をしなければダメですよ」

 「「「はーい!」」」


 相変わらず、みんないい子に育っているようで院長先生の言葉にみんな元気に挨拶をしています。


 「それで、どうして院長先生がコボルトさん達にご飯をあげていたのですか?」


 僕の方もシアさん達の事を紹介し、子供達が騒ぐ中、どうしてそんな事をしているのかを尋ねました。

 

 「そうですね。それを説明するには時間が少しかかります。ユアン達に時間があるのならば説明しますがどうしますか? ユーリとアンジュとの関係も知りたいでしょう?」

 「うぅー……それは聞きたいですけど」


 時間があるかと聞かれると正直ないです。

 今現在の様子はわかりませんが、シノさんが帝都で一人魔法陣を壊すために頑張っていますからね。

 

 「ユアン。どちらにしても、帝都に今向かった所で今日は間に合わない」

 「キティに頼んで先行して転移魔法陣を設置させますので、久しぶりの再会に華を咲かしたらどうですか?」

 「急いだところで変わらないしね」

 「いいのですか?」

 「ユアンもたまには我がまま言っていいと思うぞー?」

 「ありがとうございます。院長先生、お話を聞かせてください」


 みんなもそう言ってくれたので、僕は院長先生から話を聞くためにお願いをしました。


 「わかりました。では、皆さんをご案内いたしましょう」


 どうやら、院長先生たちはコボルトにご飯をあげるためにお散歩がてらこの森を訪れ、目的も果たせたようなので村へと戻る事になりました。


 「私とキアラは此処に残るよ」

 「大丈夫ですか?」

 「大丈夫だよ。万が一、誰かにこれを知られても困りますし、コボルトの事で街の人が驚くかもしれないからね」

 「わかりました。何かあったら連絡をください」

 「うん、魔鼠さんを通して連絡するね」


 村へと行くことになるのは僕とシアさんになりました。

 サンドラちゃんも来たそうにしていましたが、サンドラちゃんの正体が気づかれたりしたら、僕以上の騒ぎになりそうですからね。

 といっても、僕の正体は村の人にはバレているので今更ですけど。

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