第308話 補助魔法使いと従者、魔物と遭遇する
「では、まずは僕が向こうに飛んで転移魔法陣でみんなが移動できるようにしますね」
「何があるかわからないし気をつけてね?」
「大丈夫ですよ、シアさんが来てくれますからね」
「任せる」
ルリちゃんからシノさんの伝言を受け取り、僕たちはシノさんの手助けに向かう為にルード帝国に向かう事にしました。
ですが、僕は帝都には行った事がないので、帝都に出来る限り近い場所へと飛ぶことにしたのです。
「では、行ってきます」
シアさんと手を繋ぎ、意識を集中し、僕は記憶に残っている思い出の場所に……あそこはあまりいい思い出はないけど、仕方ないですね。
「ふぅ…………無事につけたみたいですね」
「大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ。少しだけ、疲れましたけどね」
転移魔法陣と違い、転移魔法は距離や人数に応じて消費する魔力が変わります。
流石に、帝都の近くまで飛んできたので結構な魔力を消費したようです。
「転移魔法にも慣れないとですね」
それでも、転移魔法に慣れれば、それだけ無駄がなくなるのでここまで魔力を消費せずに済むので、もっと練習しておく必要がありましたね。
「それで、ここどこ?」
「ここは、僕の住んでいた近くにあった森ですよ」
「ユアンが蜘蛛を嫌いになった場所?」
「そうです。だから、思い出したくないのであまり来たくなかったのですがね」
いきなり住んでいた村に飛ぶとみんなが驚いてしまう可能性がありますからね。仕方なくこっちに来たという訳です。
「けど、魔物がいないって言ってなかった?」
「いない予定でしたけど……」
なんか、いっぱいいますね。
僕たちが急に現れたからなのかわかりませんが、僕たちの様子を伺うように、離れた木々の隙間から僕達の事を見ているのがわかります。
「どうしますか?」
「倒した方がいい」
「まぁ、近くに村がありますしそっちの方がいいですよね」
だけど、あまり気が乗りませんね。
魔物たちの様子をみると、早くどこかに行ってくれって感じがするのですよね。
僕達の方が怖い、そんな雰囲気が伝わってくるのです。
「シアさん」
「うん。可哀想だけど」
「どうしてもですか?」
「ユアンが住んでいた村が危険になる」
「わかっていますけど、あの目を見ていると……」
恐怖と好奇心が半々といった様子で、僕たちの周りにはどんどんと魔物が集まってきていて、僕たちを見つめる目が円らな瞳で悪意が感じられないのです。
「コボルト、ですよね?」
「うん。犬型の魔物」
魔物の正体はコボルトだと直ぐにわかりました。
犬なのに二足歩行で人のように生活する事が知られている魔物です。
性格は好奇心旺盛なのに、戦闘になると一目散に逃げていく臆病な性格な事で知られています。ですが、暫くすると再び戻ってくる変わった魔物です。
それ故に、戦闘能力は極めて低く、ゴブリンと同ランクなのですよね。
数こそ多いものの、戦えば結果はわかりきっています。
「ん……ユアン、気をつける」
「はいっ!」
倒すか倒さないかを考えていると、一匹のコボルトが恐る恐るといった感じで僕たちに近寄ってきました。
二足歩行ではなく、四足歩行で犬のようにです。
「くぅ~ん」
そして、そのコボルトは僕とシアさんを見上げながら行儀よくお座りをしました。
「人懐っこいですね」
「びっくり」
コボルトは魔力を持った動物ではなく、れっきとした魔物に分類されます。
人に懐くといった話は聞いた事がないのに、これは不思議ですね。
「シアさん……この子を倒すのですか?」
「うん……そうしないといけない」
四足歩行で移動しているのは、コボルトが大人ではなく子供だからです。
コボルトは子供から大人へと変わっていく過程で二足歩行になっていくと言われていますからね。
「けど、こんなに甘えてきてますよ?」
僕たちの前にお座りしていたコボルトは僕たちが反応しないからか僕とシアさんの足の間を移動し、体を擦りつけるようにすりすりしてくるのです。
「けど、周りのコボルトが殺気立ってる」
僕たちに怒っているというよりも、子供を心配しているといった感じですかね?
「シアさん、少しだけ待っていてもらえますか?」
「何するの?」
「先にキアラちゃんを呼んできます。キアラちゃんならもしかしたらどうにかできるかもしれませんので」
「わかった」
仮の転移魔法陣を設置し、僕はキアラちゃんを呼びにナナシキに戻りました。
「えっと、ユアンさん達は何をしてたの?」
そして、再びシアさんの元に戻ってくると呆れた顔でキアラちゃんにそんな事を言われてしまいました。
「何って、僕も知りたいですよ。シアさん、どうしてそんな事になっているのですか?」
「暇だから撫でてたら、みんな寄ってきた」
シアさんの周りには三十匹ほどのコボルトが座ったり寝転がっていたりしています。
「ぐるるるるる!」
「あれは、私の仲間。平気」
「くぅ~?」
僕たちが近づくと、警戒したコボルトが唸り声をあげますが、シアさんが撫でてあげると、再び大人しくなりました。
「それで、どうして私が呼ばれたの?」
「キアラちゃんならどうにか出来ないかと思いまして」
「うーん……どうかなぁ? ラディ、話は出来そう?」
「出来るとは思う」
キアラちゃんには転移した先にコボルトがいるとしか伝えずに急いで連れてきたので困っていますね。
「ヂュッ?」
「くぅ~?」
「ヂュッ! ヂュッヂュッ!」
「くぅ~ん……」
ラディくんがコボルトに話しかけると、コボルトがそれに反応し、ラディくんと会話をし始めました。
「ユアン、何て言ってる?」
「えっと、ラディくんが僕たちが怖くないのかと聞いて、コボルトさんがシアさんと一緒にいると安心すると言っていますね」
獣化して以来、僕も完璧ではないですが魔鼠などの言葉がわかるようになりました。
流石にコボルトさんの話はカタコトで話しているように聞こえて、何となくそう言っているいる気がするだけなので確証はありませんけどね。
「私が呼ばれた意味ない気がするよ……」
「いえ、そんなことありませんよ。事の次第ではキアラちゃんにしか頼めない事がありますからね」
「私にしか……あ、もしかして契約魔法?」
「はい、そうです!」
これだけ懐いているのなら、ラディさんやキティさんのように契約したいと言ってくれる可能性がありますからね!
「うん。まさにその通りみたい」
「あ、話が終わったのですか?」
「うん。契約したいって、リンシアと」
「私?」
「なんか、リンシアとユアンさんと一緒にいると安心するって」
「僕もですか?」
シアさんに懐いているように見えましたが、僕も慕われているようですね。
でも、どうしてでしょう?
「多分、コボルトはイヌ科の魔物。私とユアンはイヌ科の獣人と魔族。関係ある」
「そういう事なのですか?」
「たぶん?」
こてんとシアさんが首を傾げます。
それに合わせて、コボルト達も一斉にこてんと首を傾げました。
むー……可愛いですよ!
「となると、契約はシアさんとユアンさんでいいのかな?」
「はい……できますか?」
「出来るとは思うけど、魔法陣を変えなくてはならないので、少し時間がかかるかも……ユアンさんほど私は魔法陣は得意じゃないから」
キアラちゃん本人が使うのであれば魔法陣は必要ありませんが、他人の契約となると魔法陣が必要になるみたいですね。
「それじゃ、僕も手伝いますよ」
「うん、ありがとう」
この際ですし、僕も契約の魔法陣を覚えた方がいいですからね。
「となると、サンドラちゃんがいたら楽ですね」
という訳で、サンドラちゃんも呼びに行き、スノーさんもついでに連れてきました。
きっと、この状況を一番喜ぶのはスノーさんですからね。
その証拠に……。
「ねぇ、撫でてもいいんだよねっ!?」
「はい、乱暴しなければ大丈夫だと思いますが、一応…………こや~?」
「くぅ~ん!」
「いいそうです」
「やった! ふふっ、おいでおいで~」
スノーさんがコボルトに囲まれて喜んでいます。凄く幸せそうです。
動物や僕やシアさんの耳と尻尾も好きなのは知っていましたが、相手がコボルトでもスノーさんはいいみたいですね。
「なーなー」
「はい、どうしますか?」
「ユアン達って常識が通用しないなー」
「人を非常識みたいに言わないでくださいよ」
「どうみても非常識だぞー?」
むー……。
僕だって、この状況がおかしいくらいわかっています。
ですが、別に意図してやった事ではないので仕方ないですよね?
「それよりも、サンドラちゃんも手伝ってください」
「わかったぞー」
「ありがとうございます。では、キアラちゃんの契約魔法をサンドラちゃんが解読して、僕に教えて貰えますか?」
「わかったー」
キアラちゃんの契約魔法は魔族文字で出来上がっています。
それを読めるのはこの中ではサンドラちゃんしかいません。
キアラちゃんは魔法陣の形をそのまま暗記しただけなので、意味などをしっかりと理解している訳ではないですからね。
なので、これを機に魔族の文字から人族の文字に置き換えた魔法陣を新しく構築してしまおうというわけです。
本当なら、こんなところで時間を潰す訳にはいきませんけどね。
ですが、近くに村がありますので、魔物を放置する訳にもいきませんし。
こればかりは仕方ありません。
それに、ラディくんやキティさんがあれだけ強くなったように、もしかしたらコボルトさん達も強化される可能性だって十分ありますからね!
という訳で、僕たちはコボルトさん達との契約を試みるのでした。
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