第305話 補助魔法使い、刀を抜く

 「あー……しまっていた理由を今更ながら思い出しました」

 「私も今ならわかるよ、これがやばいものだって」


 お祭りの景品で貰った刀という武器を収納から取り出すと、全員が全員、顔をしかめました。


 「なー……ユアン、それ大丈夫なのかー?」

 「やっぱりそっとしておいた方がいいと思いますよ」

 「うん。絶対良くない」

 「そうですよね」


 けど、刀という武器がどういうものなのか、僕は見た事ないので興味はありますね。


 「けど、いずれは処分しないといけませんよね」

 「ずっとしまっておいたら?」

 「それはそれで気持ち悪くないですか?」

 

 忘れた頃にまた思い出して、またその度に気持ち悪い思いするのも嫌ですよね。

 

 「誰かにあげたらどうかな?」

 「それでその人が不幸になったら可哀想ですよ」

 「なら海に捨てる」

 「それはそれで後が怖いです」


 物にも命が宿るって聞いた事がありますからね。

 大事に使った物はいずれ恩を返し、粗末に扱うと恨みを返しにくるって怖い話があるのです。


 「それは誰から聞いたの?」

 「孤児院の先生ですよ。だから物は大事に扱いなさいって言われてました」

 

 今となっては僕たちに物を大事に扱わせるために言っていたとわかりますけどね。

 

 「ならどうする?」

 「んー…いっそのこと、抜刀してみますか?」

 「危険じゃないかな?」

 「そうかもしれませんが、僕ならまだ大丈夫だと思いますよ」


 この不穏な魔力の正体がどうあれ、魔力は魔力ですからね。

 僕の魔法耐性を越えて何かをしてくるとは思えません。


 「という訳で、みなさんは離れていてください」

 「ユアン、気をつける」

 「本当に気をつけてよ?」

 「不安しかないです」

 「なー……」


 そんなに心配なのか、みんなが僕の事を注目してきます。


 「では、いきますよ?」


 そういえば、鞘から剣を抜くのって初めてだったりしますね!

 ちょっとだけ、気分だけですけど、剣士になった気分です!

 

 「ん……あれ、意外と何ともないです?」


 気分だけはカッコよく、シャキーンと剣を鞘から抜いたのですが、意外な事に何も起きませんでした。


 「何ともないね」

 「逆に魔力が収まった気がしますよ?」

 「うん。今なら平気」

 「そうだなー」

 

 みんなも同じ意見のようで、今の状態では何も感じないようです。

 といっても、魔力を纏っているのはわかりますので、普通ではないのですがね。


 「ユアン、私に貸して?」

 「わかりました……一応、気をつけてくださいね」

 「うん。だいじょうー……」


 何ともなさそうなので、シアさんに剣を渡そうとすると、シアさんが剣を落としてしまいました。


 「大丈夫ですか!?」

 「平気。それより、ごめん」

 「怪我がなければいいのですよ」

 「うん。怪我はない」


 良かったです。

 刀にはちゃんと刃がついていますからね。それで手を切ったりしたら大変です。

 防御魔法があるとはいえ、絶対ではありませんからね。もしかしたら、この剣の効果が魔法無効とかが効果がある可能性だってあります。

 おとぎ話の話ではありますが、そんな武器が存在する可能性だってゼロではないですからね。


 「けど、シアが剣を落とすなんて珍しいね」

 「スノーも持てばわかる」

 「持てば? ユアン、私も持っていい?」

 「はい、さっきの事があるから気をつけてくださいね?」

 「大丈夫だよ。刀を拾うだけだから……って持ち上がんないだけどっ!」


 地面に落ちた刀を拾おうとした、スノーさんが顔を真っ赤にしています。


 「スノーさん、今は遊んでいる場合じゃないよ?」

 「遊んでないしっ! 本当に持ち上がんないだって!」

 「そんな冗談みたいな話が……ってあれっ!」


 スノーさんの話が冗談だと思ったのか、キアラちゃんも持ち上げようとしますが、失敗しました。


 「えっと、何やっているのですか?」

 「何って、見たまんまだけど……」

 「凄く重い」

 「こんなの持ち上がらないよ」

 「そんな訳ないですよ…………ほら」


 ひょいっと刀が持ち上がりました。

 重いどころか、軽いと感じるくらいです。


 「なー。珍しい武器だなー」

 「そうですね。みんなが持てないのに、僕だけ持てるって珍しいですよね」


 珍しいというよりも、不思議ですけどね。


 「ユアンが選ばれたって事だなー」

 「僕が選ばれた、ですか?」

 「うんー。私も初めて見たけど、その手の武器は昔から存在していたとは聞いた事があるー」

 「古代魔法道具アーティファクトって事ですか?」

 「違うぞー。そういう武器の造り手がいるらしいなー」


 それは凄い技術ですね!


 「って事はその武器はユアン専用になるのかな?」

 「わかりませんよ。こうすればみんなも持てますよね?」


 刀を鞘に戻し、スノーさんに渡します。


 「確かに、持てるけど……」

 「なんか、さっきよりも不穏な雰囲気が増した気がします」

 「不気味」


 そうですかね?

 僕からするとさっきよりも魔力が強くはなった気がしますが、変な感じはしませんよ。


 「それに、私じゃ抜けないみたい」

 「スノー貸す……私も無理」

 「二人が無理なら私もきっと無理だね」

 「私も無理そうだなー」


 力いっぱいスノーさんが引っ張ってみても刀が鞘から抜ける事はありませんでした。


 「やっぱり、僕なら抜けるのですね」


 シアさんに刀を返して頂き、同じように僕も引っ張りましたが、簡単に鞘から刀を抜くことができました。

 まぁ、抜くといっても鞘を滑らせるようにして抜いているので、腰にさした状態では身長的に抜けませんけどね。


 「けど、いいのですか? これを僕が使っても?」

 元々はキアラちゃんが景品で貰った武器ですからね。

 所有権がキアラちゃんが一番優先的にあるはずです。


 「私が持っても使えませんので、ユアンさんが使ってください」

 「けど、魔法道具マジックアイテム……いえ、古代魔法道具アーティファクト級の武器かもしれませんよ?」


 売ったら物凄いお金で売れる可能性だってあります。

 武器として使えなくても、武器収集が趣味の人になら十分に売れる代物かもしれませんし。


 「私自身お金を持っても仕方ないよ。今の生活で十分幸せだからね。もし気にするのなら、今のお家に住まわせて貰ってるお礼だと思ってくれればいいかな」

 

 一応、お家の家主は僕になってますので、キアラちゃんはそのお礼だと言ってくれました。


 「そういう事でしたら、使わせて頂きますね」

 「うん。それで、私達を護ってね?」

 「期待に添えるように頑張ります!」


 けど、その為には武器を使う鍛錬が必要になりますね。

 

 「けど、見れば見るほど不思議な剣だね」

 「剣じゃない。刀」

 「そうだけど、不思議じゃない?」

 「まぁ、不思議ですよね」


 改めて刀の刀身をマジマジと見つめると、見れば見るほど不思議なのです。

 刀だけでなく、剣というのは鉄製だったり、鋼だったりと、金属を加工して作られているのがほとんどです。

 中にはミスリルやアダマンタイトといった、固くて珍しくて高い鉱石を使用した剣とかもありますが、どれも一目見ただけで、金属製なのか鉱石製なのかは、剣に詳しくない僕だってわかります。

 それなのにです。

 この鞘だけでなく、刀身まで漆黒に染まった刀は何の素材を使用しているのかがさっぱりわからないのです。


 「切れ味とかはどうなのかな?」

 「試してみないとわかりませんね」

 「なら、斬ってみる。スノー、そこに立つ」

 「えっ、私が実験台なの!?」

 「冗談。ユアン、これ斬ってみるといい」


 僕まで本気にしかけましたが、シアさんの冗談で安心しました。

 試し切りで、傷つけるつもりは全くなくても、武器の扱いに不慣れな僕に調整などできる筈がありませんからね。

 冗談で良かったです。

 そして、スノーさんの代わりにシアさんが取り出したのは、人の形をした人形みたいなものでした。


 「何ですかそれ?」

 「案山子かかし……剣の練習に向いてる」


 シアさんが案山子について軽く説明してくれます。


 「剣には刃の入れ方がある」

 「刃の入れ方ですか?」

 「うん。みればわかる」


 シアさんが軽く案山子に剣を振ると、シアさんの剣は案山子の途中で止まりました。


 「刃の入れ方が悪いと、こうなる。逆に……」


 案山子から剣を引っこ抜き、再び剣を振るうと……。


 「わぁ! すごいですね!」


 今度は案山子が真っ二つになりました!


 「こんな感じで刃の角度と当て方で色々と変わる」

 「そうなんですね」


 武器にはちゃんとした使い方があるって事ですね。

 僕は剣を振って、それが人に当たればそれでいいと思っていましたからね。


 「当てる場所次第ではそれでも悪くはないんだけどね」

 「そうなのですか?」

 「うん。剣が当たればそれだけ相手は少なからず傷を負う訳だし。小さな傷が後の戦いに響く事だってあるよ」


 ただし、それも状況次第だと言います。

 剣は消耗品でもあるため、金属に当たれば欠けてしまったり、相手を傷つける事に成功したはいいものの、その後の動きが敵に有利に働く場合もあるようです。


 「むむむ……そこまで考えて戦わなければいけないのですね」

 「戦い方の違い。私は敵を倒すのが仕事」

 「私は敵から味方を守る事が仕事だからね」

 

 役割によって戦い方違うのは当然ですが、それでもただ無暗に戦うのはダメと言う事はよくわかりますね。

 その辺は補助魔法も一緒ですけどね。

 こうみえて、色々と考えて魔法を選択していますからね。本当ですよ?


 「では、さっきの事を踏まえて、案山子を斬ってみますね」

 「ユアン、頑張る」

 「いいとこ見せてね」

 「期待していますよ!」

 「なー! 頑張れー!」


 逆に、ここまで応援されると恥ずかしいです。

 ですが、期待には出来る限り応えたいですよね!

 案山子は魔法道具マジックアイテムだったようで、シアさんに斬られて真っ二つになっていましたが、斬られた体を元に戻すと、元の姿に戻りました。

 僕はそれと対峙します。


 「型も何もありませんが、いきます!」


 シアさんからのアドバイスで横よりも斜めに刀を振るう方が上手くいくというので、僕はそのアドバイスに従い、刀を振るう!


 「あ……」

 

 刀は案山子の途中で止まる事はありませんでした。

 だって……。


 「案山子が転がったね」

 「ユアン。それは打撃武器じゃない」

 「それに、ユアンさんまで転ぶ必要はないと思うの」

 「ださいなー」


 刀を振るうと、気づけば僕は地面に転がり、空を見上げていました。

 そして、僕に並ぶように案山子も一緒になって寝転がっています。

 五体満足で。


 「何が起きたのですか?」

 「ユアンが案山子を殴り飛ばしたね」

 「ユアンがバランスを崩して転んだ」

 

 という事は、失敗って事ですよね。

 うぅ……悔しいですし、恥ずかしいです!


 「気にする事ない。最初から上手くいく事でもない」

 「そうだね。鍛錬を積みかねて初めて身に付くのが剣だからね」

 「そうですね……はい」


 最初から上手くいくと思っていた僕が甘かったのだと思います。

 何事も練習が全てという事がよくわかりました。


 「だけど、案山子に傷一つないのが不思議だね」

 「ちょっとくらい傷ついてもいいのになー」


 それもそうですね。

 僕の扱いが下手だとしても、案山子は草で出来ています。

 少しくらい草が切れてもいいようなものです。


 「単純に切れ味が悪いのかな?」

 「けど、ちゃんと刃はあるように見える」

 「そうですね。今度はわかりやすく、これを斬ってみますか」


 包丁だって刃物ですので、野菜とかを切る事が出来ます。

 いい包丁はよく切れますし、悪い包丁は野菜でも切るのに苦労します。

 包丁と剣を一緒にすると怒る人は怒りそうですが、素人の僕でも違いがわかるので、試してみる事にしました。


 「机に野菜を置いてっと……」


 包丁と同じように刀に野菜をあて押して引く。

 こうすれば、どれだけ切れ味がいいのか直ぐにわかるのですが……。


 「全く切れないです」


 幾ら切れ味が悪くても、野菜くらいなら少しは刃が入るのに、僕の刀は刃すら入りませんでした。


 「もしかして、使えない刀なのかな?」

 「そうだったらショックですね」


 期待だけさしてそれはないと思います!

 折角、僕も剣術を少し頑張ってみようとした矢先にこれですからね!


 「ねぇ、ユアンさん刀に魔力を流してみたらどうなるの?」

 「あ、そういればそれは試していませんでしたね」


 魔法道具マジックアイテム古代魔法道具アーティファクトも魔力を流さない事には発動はしませんからね。

 中には発動する物もありますが、それはあくまでそういう風に造られているだけであって、基本的には人力で魔力を流すのが普通です。


 「まぁ、大して変わらないと思い……」


 ますけどね。

 と言いながら魔力を流しながら再び野菜を切ったのですが。


 「真っ二つになった」

 

 シアさんの言う通り、今度は綺麗に切る事が出来ました!

 机ごと。


 「逆に切れ味はやばくない?」

 「そうだね」


 大して力を入れていないのにも関わらず、ちょっと魔力を流しただけで効果が表れました。


 「よくわからないですが、凄い可能性を秘めた武器なのかもしれませんね」

 「うん。他にも効果があるかもしれない」

 「色々と試してみる価値はあるね」

 「そうだね。だけど模擬戦をする時は魔力を流さないように気をつけてね?」

 「そうですね。加減を間違えたらどうなるかわかりませんしね」


 結局、凄いかもしれない刀という事だけはわかりました。

 けど、そんな刀がどうしてあんな場所にあったのでしょうか?

 単に抜けない刀だから不要とされた可能性もありますが、それでも些か不自然すぎますよね?

 ともあれ、僕にも武器が出来ました!

 実戦で使えるのはずっとずっと先になりそうですけどね。

 それでも、嬉しいものは嬉しいです!

 不気味な所もいっぱいありますけど、それでもです。

 ちなみにですが、サンドラちゃんの武器はサンドラちゃんの希望により僕が使っていたスタッフを譲る事になりました。

 あれはあれで殴ってよし、魔法にも少しだけ効果ありと万能ですし、後衛の魔法使いとしてやっていくのなら当面は問題なさそうです。

 

 「それじゃ、明日からはユアンの稽古に入るからよろしくね?」

 「一緒に強くなる」

 「はい、頑張りますのでよろしくお願いします!」


 模擬戦はまだ早いので当分先になりますが、明日から刀を振るう練習が始まる事が決まりました。

 ですが、そんな悠長な事をしている暇はあまりないのだと直ぐに理解する事になります。

 そのきっかけはシノさんからの伝言によって。

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