第304話 弓月の刻、サンドラの力を見る
「それじゃ、日が落ちる前に始めようか」
昨日の予定通り、僕たちは日が落ちる前に仕事を切り上げ、お家の庭へと集まりました。
「それじゃシア、よろしく頼むよ」
「任せる。最初は軽く打ち合う」
「そうしてくれると助かるよ」
僕との繋がりのお陰か、シアさんとスノーさんとの実力差は結構広がりました。
十回やったら十回ともシアさんが勝つくらいの差があるみたいですね。
まぁ、そこには日ごろから動いていたか動いていないかの差もありますけどね。
「では、スノーさん達が打ち合っている間に私達はサンドラちゃんの武器を選びましょうか」
「そうですね。では、サンドラちゃんあまりいい武器ではありませんが、この中から選んでください」
タンザの街に向かう途中で倒した盗賊達の戦利品がまだ残っていたので、それらを地面に並べていきます。
錆びていたり、刃が欠けていたりと決して質のいい武器ではありませんが、試しに使う分なら問題ないですよね。
「迷うなー」
並べられた武器を眺めながらサンドラちゃんがなーなー唸っています。
うーん、ではなくて、なーですよ?
可愛いですよね!
っとそうではありませんね。
「決まりませんか?」
「そうだなー」
「サンドラちゃんは以前はどんな武器を使っていたの?」
以前というのは、サンドラちゃんがまだ龍人族の王族というか巫女だった時代の話ですね。
「武器は使った事なかったなー」
「それじゃ、どうやって戦っていたの?」
「素手だぞー?」
「素手ですか!?」
「うんー。そもそも戦う経験自体少なかったからなー。戦ったとしても龍の姿で戦っていたし、武器は使った事ないなー」
驚きの事実です!
まぁ、確かにそうですよね。
人の姿で戦うよりも、力が大幅に増幅されるという龍の姿で戦った方が強いのならそっちで戦いますよね。
「ですが、今はそれは出来ないですからね」
「そうだね。いきなり大きな龍が現われたら大騒ぎになっちゃうね」
龍種というのは、人にとって恐れの対象ですからね。
例え、僕たちが安全だと言っても、信じてくれない人の方が多いと思います。
かといって、目の前で龍人の姿に戻るとサンドラちゃんが身バレしてしまいますからね。
いずれはバレるにしろ、今ではないと思いますし。
「という事は、やはり戦いになったら武器が必要ですね」
「それか、思い切って純粋な魔法使いポジションで戦って貰うのはどうかな?」
「それでもいいかもしれませんね」
前衛二人に後衛が三人。
バランス的にはどうでしょうか?
良くも悪くもないといった感じですかね?
理想とすれば前衛二人、後衛二人に、どちらもこなせる中衛が居るのが一番ですけどね。
「けど、ユアンさんの理想だと、この三人の中の誰かがやらなきゃならないよね?」
「そうなりますね」
「それぞれの適性を考えればいいと思うぞー」
「そうですね。では、まずは後衛の適正を考えてみますか」
後衛に求められるのは何よりも火力です。
前衛が敵を抑えたり、引き付けている間に敵を倒す事が一番の役割になります。
「私は弓と精霊魔法かな」
「キアラちゃんはそうですね」
身軽さを活かして前線にたって敵を翻弄しつつ戦うという方法も有りといえば有りですが、それだとキアラちゃんの一番の良さを殺してしまいますね。
何よりも正確な素早い射撃と広い視野がキアラちゃんの持ち味ですからね。
「サンドラちゃんはどんな魔法が使えるの?」
「私は火が多分得意だなー」
「見た目通りですね」
サンドラちゃんの真っ赤な髪は燃えさかる炎を連想させます。
「元々は違うけどなー」
「そうなのですか?」
「うんー。多分、私が生まれ変わるのに
「そういう影響も受けるのですね」
そう考えると、僕が光魔法を得意とし、シノさんが闇魔法を得意とするのはお母さん達の影響を受けているからだとよくわかりますね。
「それでは、サンドラちゃんの魔法を見せて貰えますか?」
「わかったー。昔からある簡単な魔法でいいー?」
「うん。それでいいよ」
「いくぞー」
火の魔法で有名なのはファイアボールという火球を飛ばす魔法があります。
サンドラちゃんはその魔法を使用するみたいです。
ファイアボールの利点は詠唱が必要なく、少ない魔力で簡単に使用できるという点ですね。
「なー!」
サンドラちゃんの両手に魔力が集まります……って両手ですか!?
サンドラちゃんは万歳するように両手を頭の上に掲げています。
その手に魔力が集まっているのです。
「サンドラちゃんストップです!」
「そっちにはスノーさん達が!」
詠唱がないという事は、直ぐに魔法が撃てるという意味でもあります。
僕たちが止めようとしている間には既にサンドラちゃんの頭の上には見た事のない大きさの火の玉が出来上がっていました。
「シアー、スノー、受け取ってー」
そして、その出来上がった火球を躊躇いなくシアさん達に放ったのです。
「げっ!」
「びっくり」
サンドラちゃんに名前を呼ばれた二人は、打ち合いの手を止め、迫りくる火球に驚きの声をあげました。
「シアっ!」
「任せる」
シュパパパパッと風の音を残し、シアさんの双剣が火球を切り刻みました。
恐ろしい事に、自分の体に当たらないように逸らしつつ、火球を切り刻んだのです。
「後は私が……精霊よ!」
切り刻まれた事により粒となった火球はシアさんを通過し、次はスノーへと振りかかりましたが、それをスノーさんが精霊魔法の水により全てを受け止めました。
「死ぬかと思った」
「私も」
「だけど、シアが散らしてくれたお陰でどうにかなったよ」
「スノーの反応も良かった」
安堵のため息とはこの事ですね。
一瞬の出来事でしたが、無事な二人を見て思わず呼吸をするのを忘れていました。
まぁ、防御魔法があったので二人に何かがあるとは思いませんが、それでも仲間の危機は冷や冷やしますし、何よりもあのまま火球が通り過ぎていたら、庭や家が大変な事になっていたかもしれませんね。
「なー? どうだー?」
「どうだじゃないですよ! いきなりあんなことしたら危ないですからね!」
「なー……ごめんなー」
「僕にじゃなくてシアさん達に謝らないとダメですよ」
「わかったー。謝ってくるー」
サンドラちゃんがシアさん達に謝りに走っていきました。
「びっくりしたね」
「そうですね……心臓が止まるかと思いました」
「でも、サンドラちゃんの魔法は中々じゃないかな?」
「そうですね。初めてであれですからね」
火の魔法が得意といっただけありますね。
「となると、サンドラちゃんは後衛の方がいいですよね」
「そうだね。ユアンさんとしても前衛で戦わせたくないでしょ?」
「当然ですよ。危険な目にはあって欲しくないですからね」
僕だけじゃなく、みんながそれを思っている筈です。
冒険をしていれば嫌でも危険な目に合うのはわかりきってはいますが、それでも出来る限りは僕たちが請け負いたいと思います。
「そうなると、後はユアンさんだね」
「そうですね。僕しかいませんね」
キアラちゃんのように素早く敵を倒すことも出来ませんし、サンドラちゃんのように凄い攻撃も出来ません。
いえ、一応は出来ますけど代償が大きすぎるのでおいそれと使えないが正しいですね。
「けど、僕が武器を持って戦う姿を想像できますか?」
「正直、できないかな……」
僕もです。
一応僕にも武器はあります。
スタッフという打撃用の武器が。
「けど、それはそれで違うような気がしますよね?」
「うん。虚はつけるかもしれないですけどね」
まさか、魔法使いだと思っていた相手が殴りかかってきたらびっくりしますよね。
ですが、所詮はそれまでです。
スタッフは木で出来ていますので、剣で防がれただけで、切れ味によってはスタッフが切られてしまいます。
「となると、武器は武器でもしっかりとした武器を持つのがいいですかね?」
相変わらず地面に転がしたままの武器を順番に見ていきます。
剣……シアさんとの契約で力はつきましたが、逆に振り回されそうですね。
槍……僕は小さいのでリーチをカバーできますが、長いので懐に入られた時に対処できなさそうですね。
斧……重いです。却下です。
弓……今は前衛の武器を探しています。
「どれもダメそうですよ」
「使ってみないとわからないと思うよ?」
「そうですけど、この中ならスタッフが一番しっくりくるのですよね」
「そうかもしれないけど、何かカッコつかないよね」
「カッコつけたい訳じゃないので別にいいですけどね」
まぁ、当面は前衛二人の後衛三人で行くのが無難ですかね?
そして少しずつ、シアさんやスノーさんに稽古をつけてもらいつつ、僕にあった武器を探すのがいいかもしれません。
「ユアン、武器が欲しいの?」
「あ、聞かれてしまいましたか。そうなのですよ、今のままですと、前衛二人と後衛三人なので、バランスが微妙だという話になりまして」
「別に悪くないんじゃない?」
「悪くはないんですけど、そこに両方こなせる人がいたら大きいと思いまして」
サンドラちゃんの魔法を機に、一度休憩の為にスノーさん達も戻り、僕とキアラちゃんが考えていた事を伝えました。
「まぁ、いたらいたで助かる場面はあるけどね」
「でもユアンは補助魔法使い。それに司令塔。元々、前衛でも後衛でもない。今のままで十分助かる」
「そうなんですけど、この先もっと強い敵とかと遭遇する可能性だってありますし、僕ももっと強くならないと駄目だと思うのですよね」
実際にドラゴンゾンビ時代のサンドラちゃんには大苦戦しましたからね。
あのレベルの敵と戦う機会はそうはないと思いますけど、想定はしておいた方がいいと思います。
「それこそ、ユアンの補助魔法が光ると思うよ? 足止めもできるし、守ってくれるし、万が一傷ついたら回復もできるからさ」
「そもそも、隊列を組んだところで意味がない事の方が多い。気にするだけ無駄。それぞれの役割をその時に果たすだけ」
むむむ……確かに、そっちの方が正論ですね。
隊列を組んで戦える時なんて、僕たちから戦いを挑んだ時や戦いの場が決まった時に限られています。
知らない間に敵に囲まれていたら隊列なんて関係ないですね。探知魔法を使っていればそれも避けれる可能性も高いですけど。
となると、僕の役目はあくまで補助がメインになりますね。
でも、やっぱり……いつまでも僕だけ攻撃にあまり参加できないのは良くないですよね。
「それでもユアンが戦いというのなら手伝う」
「まぁ、やれる事が多いに越したことはないしね。私達からすれば、一緒に前衛で戦ってくれると楽だからね」
僕の気持ちが伝わったようで、シアさんとスノーさんがやるならば手伝うと言ってくれました。
「ありがとうございます。やれるだけはやってみたいと思います。ですが、肝心の武器が……」
何を選んでいいのかさっぱりなんですよね。
「確かにね……」
「どれもユアンに似合わない。杖持ってる方がかわいい」
今はかわいいとかは関係ないですけどね!
せめてカッコイイと思われたいです!
「あ、そういえばアレなんてどう?」
「アレってなんですか?」
一通り剣や槍などを実際に持ってみたのですが、いま一つしっくりこなかったので収納魔法に武器をしまっていると、スノーさんが思い出したようにポンと手を叩きました。
「アレだよアレ……えっと、キアラがお祭りで獲ったやつ」
「キアラちゃんがお祭りで?」
「あ、私が弓の的当てで貰った景品がありましたね!」
「弓……的当て……あぁ!」
僕もようやく思い出しました!
そういえばそんな事もありましたね。
確か、誰も使いそうにないので一応僕が預かっていた武器がありましたね。
けど、どうして忘れていたのでしょうか?
せっかく貰ったのに使わないと勿体ないですよね。
「確か、これですよね?」
収納魔法からしまっておいた武器を取り出しみんなに見せます。
そして、取り出して思い出しました。
今まで出さずにしまっておいた理由を。
ただ単に忘れていたというのもありますが、それ以外にもしまっていた理由があったのです。
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