第303話 弓月の刻、帝都の事を考える
「もし帝都で何かがあったらどうするか?」
「はい。スノーさんだって無関係ではないと思うのですよね」
シノさんと二人きりで話した後、僕はお家へと戻り、スノーさん達が帰宅するのを待ち、帰ってきた所にそんな質問をぶつけました。
「まぁ、出来る事なら援軍には行きたいかな。帝都にはお世話になった人や慕ってくれた後輩だって沢山いる訳だし、何よりも育ててくれた親や兄弟だっているからね」
「やっぱりそう思いますよね」
「けど、どうしたのですか? いきなりそんな質問をして?」
「それはですね……」
先ほどシノさんと話した内容をスノーさん達に伝えます。
シノさんには他言するなと言われている訳ではないですし、アカネさんとの繋がりはスノーさん達の方が深いので伝えておくべきだと思いました。
「また魔族かー……」
「何が起きているのかはシノさん達が探っている段階なのでまだ詳しい事はわかりませんけどね」
「けど、魔族が設置した魔法陣みたいなのは見つけたんですよね?」
「それを壊せば解決」
「それがそうもいかないみたいですよ」
確かに魔族の残した痕跡というよりも細工ですか、それを見つける事は出来ました。
ですが、見つけたからといってそれを簡単に壊していいかというと、危険なので駄目です。
「もしですよ? 僕の設置した転移魔法陣が壊れると同時に爆発するようになってたらどうしますか?」
「壊したくても壊せないね」
「そうですよね。それに、魔族の魔法陣は他の魔法陣とも繋がっているようなので、一つを壊したことをきっかけに連動して何かが起こる可能性だってありますからね」
「だから堂々と設置してある訳か」
魔族の施した細工は割と堂々としていたと言います。
といっても、地下水路に設置されていたり、帝都の中でも治安のよくない空き家など、一目につきにくい場所にあったみたいですけどね。
「ちなみにだけど、その魔法陣みたいなのってどういう効果なのかはわかったの?」
「それは解析できていないのでまだですね」
「ユアンさんが行ってみたらわからないのかな?」
「僕でもわかりませんよ。魔族特有の魔法は専門外ですからね」
これはシノさんと同じですね。
僕は生まれつき魔法の知識は結構ありましたが、あくまでルード帝国やアルティカ共和国など広い地域で使われる一般的な魔法の知識しかありません。
まぁ、珍しいとされる聖魔法なども知っていますけど、それも人族が造り上げたと言われる分類ですしね。
「ちなみにですが、これがわかる人はいますか?」
「なに、この暗号……」
「全然読めないです……」
「これが、例の魔族の魔法陣ですよ」
ルリちゃんが模写してくれた絵をスノーさん達にみせるも、予想通り首を捻るばかりでした。
シアさんに関しては端から見る気すらなかったので、知らないみたいですね。
「なー? それ、召喚魔法だぞー」
と、やはり誰もわからないと思っていた中、僕の足を枕に横になっていたサンドラちゃんが絵を指さしそう答えました。
「サンドラちゃんは魔族の言葉がわかるのですか?」
「わかるぞー。これは古代文字から継承されてるからなー。よく似てるー」
古代文字を知っているから、魔族の文字を読めるという事らしいですね。
「それなら、ユアンさんも読めるんじゃない?」
「そうは言いますが、古代文字とは全然違いますよ?」
サンドラちゃんは似ていると言いますが、僕からすると全然似ていないと思います。
なんというか、古代文字は文字として認識できますが、魔族の文字は何かの形を表しているって感じがするのですよね。
ほら、あの字なんか猫の形に見えますよ?
「感覚だなー」
「感覚ですか……」
でも、サンドラちゃんが魔族の言葉を読み取ってくれたお陰で進展がありましたね!
「ある意味ね。だけど、これって結構やばいんじゃない?」
「これが至る所にあるという事は、帝都に魔物を召喚をいつでもできるって事だよね?」
「そういう事になっちゃいますね。サンドラちゃん、この魔法陣みたいなのを壊すとどうなりますか?」
「魔法陣は魔法陣だなー。それ以外に効果はないなー」
「けど、他の魔法陣と繋がっている。その意味がある」
「あるけど、大した意味はないなー。この絵が正しければ、繋がっているのは効率よく魔法陣を起動するためだけだぞー」
繋がっているのは、魔力回路が繋がっているのと同じ感じという事ですね。
「それなら、早々に壊してしまっても問題はなさそうですね」
「この類ならなー」
「その言い方だと、他のタイプがあるという事ですか?」
「当然だぞー? これだと起点がないからなー」
「起点ってどういう事?」
「そのまんまだぞー。始まりの場所だなー」
それは僕にもわかります。
魔力の起点は心臓だったり、お腹だったりと人によっては違いますが、魔力を流し始める場所というのは魔法を使う人なら誰にでもあります。
仮に起点が心臓とすると、心臓から魔力を流し魔法を使うのですが、脚に魔法を流せば脚から魔法を、手に魔法を流せば手から魔法を使う事になる訳ですね。
なので、今回みつけた魔法陣はその腕や脚にあたる訳です。
「という事は、起点となる魔法陣みたいなのを潰せば解決って事かな?」
「その可能性もありますが、それは難しいと思いますよ」
「なんで?」
「頭や心臓など、そこを攻撃されたらマズいと思う場所は守りを固めますよね?」
スノーさんもシアさんも頭の防具はつけていませんが、心臓を護るプレートなどは最低限身につけていますよね。
それと同じで、魔法陣の起点となる場所が無防備となっているのは考えづらいと思います。
「それでも目星くらいはつけられるんじゃない?」
「魔法陣が連動しているのなら、その繋がりを辿れば探せそうだよね」
「無理だと思いますよ。だって、そもそもその起点が魔法陣ではない可能性がありますからね」
「どういうことなの?」
僕は転移魔法陣を設置し、実際に見てもらう事にしました。
「ここに二つの転移魔法陣があります。これを繋げたのが、その絵の魔法陣みたいな状態ですね」
転移魔法陣同士を繋げた所で意味はありませんが、説明の為に繋げます。
「でも、これでは起点はどこにもありませんよね?」
「ありませんね……」
当然です。転移魔法陣はただ置けばいいって代物ではありませんからね。
「だけど、こうすれば使えますよね?」
転移魔法陣に僕の魔力を流すと、転移魔法陣が淡く光ります。
これでようやく転移魔法陣が効果を表したわけです。
「つまりは、この場合の起点がユアンって事?」
「そうですね。なので、必ずしも起点が魔法陣とは限らないのですよ」
むしろ魔法陣を起点にしている可能性は低いですよね。
「となると、結局は起点となる人を見つけない事にはどうしようもないって事かな?」
「そうなりますね。ですが、他にも方法はあると思います」
「どんな方法ですか?」
「繋がりとなる中継地点を壊してしまえばいいのですよ」
わかりやすく、丸を乱雑に書き込み、それを線で繋いだ図をみんなに見てもらいたい。
「魔法陣がどう繋がっているのかわかりませんが、一番いやなパターンで説明しますね?」
嫌なパターンとは、一つの丸から何方向にも線が伸び、あらゆる丸に繋がっているパターンです。
「この丸が魔法陣だとすると、一つを潰しても無駄ですよね?」
「これだけ繋がっているとなると意味はないね」
「結局は他の線と繋がっているからね」
「そうですね。ならこれならどうですか?」
丸を書いた紙を半分に遮断するように一本の長い線を書き込みます。
「半分になる」
「わかりにくいですが、そういう事です」
繋がりとなる中間地点、より多くの丸と繋がっている場所を潰していけば効果はそれだけで減る筈ですね。
「けど、どっかしら繋がっていたら意味はないんじゃない?」
「そうでもないですよ。ちょっと、失礼しますね」
スノーさんの手を握り、僕は魔力を流します。
「っ!」
「痛いですか?」
「ううん。これくらいなら平気だけど……これが何なの?」
魔力回路がないスノーさんが顔をしかめました。
「今、スノーさんの魔力回路に僕の魔力を流しています。その流れを感じてください」
これは、魔力回路を強くしたり、新たな魔力回路を使ったりする方法で、子供の時に魔法を使えるようにする為にされていた、古い方法です。
現在では体に悪影響を及ぼす可能性があるらしいので一般的にはやられていないみたいですけどね。
それはさておき、僕はスノーさんの体に負担がでないように魔力を流していきます。
「右手、右足、左足、右手……魔力が流れているのがわかりますか?」
「わかるけど……?」
何をしているのかわからないといった感じですね。
「手や足などが魔法陣だと考えると、効率が悪いと思いませんか?」
「まぁ、そうだね?」
「これがもし、体の中心から広がるのなら一度に全体に送れるのですよ、こんな風に……」
流石に胸を触るのはまずいので、お腹を触らせて頂き、そこから魔力を流します。
「あぁ……そう言う事ね」
「はい。起点を潰さなくても、起点と近い場所を潰せれば、それだけ効率が悪くなるという事です」
今の説明でスノーさんも理解して頂けたようですね。
「ユアン、私もやって?」
「シアさんもですか?」
「スノーばっかりずるい」
「わかりました」
シアさんなら理解していると思ったのですが、シアさんもやって欲しいというのでスノーさんと同じようにシアさんにも魔力を流します。
「ユアンの魔力暖かい……」
「もしかして、それが目的でしたか?」
「うん。スノーばっかりじゃずるい」
「それなら、私にもやってください! 私だけやって貰えないのはずるいです!」
「え、キアラちゃんもですか?」
キアラちゃんは魔法をちゃんと使えますし、自分でも出来ると思うのですけどね。
「まぁ、やって欲しいというのなら……」
キアラちゃんのお腹にも失礼をして、魔力を流します。
「ホントだ。防御魔法とは違った暖かさがあるね」
「外ではなくて、内側に魔力が流れていますからね……って、今はそんな話ではないですよ!」
すっかり話が逸れてしまいました!
なので、話を元に戻そうとしたのですが……。
「ユアン。誰のお腹が一番柔らかかった?」
「え? それはスノーさんですよ」
「えっ、私なの?」
「はい、一番ぷにぷにしてましたね」
「やっぱり……」
「そうだと思った」
シアさんが引き締まっていて、キアラちゃんは無駄なお肉がないって感じでしたからね。
「別に、太ってるわけじゃないからね?」
「はい、太ってないとは思いますよ?」
慌てたようにスノーさんが否定してますが、太ってはいないと思います。
ただ、ちょっと柔らかかったなと思ったくらいです。
「大丈夫だよ。ちゃんとお肉の下には固い筋肉があるのは知っているからね!」
「キアラ、フォローになってない」
「確かに、シアとの模擬戦で運動不足なのは実感したけどね……」
まぁ、大事な話や説明は出来ましたし、あんまり堅苦しい話になっても仕方ないですからね。
「けど、この先の事を考えると今のうちに鍛えなおした方がいいかもしれませんね」
「そうだね。帝都で何かあったら私も行きたいし」
ナナシキに暮らすまでは常に戦っていたり、街と街を移動していたので沢山歩いていました。
その習慣がなくなっただけで、以前より体の動きは鈍くなっている筈ですからね。
「シア、明日から時間を作るから手伝ってくれる?」
「任せる」
「私も弓の感覚を研ぎ澄ますようにしないとだね」
「僕もですね」
鍛錬もなしに実戦に挑むのは危険ですからね。
「なーなー?」
「はい、どうしましたか?」
「私も模擬戦したいぞー」
「サンドラちゃんはまだ早いですよ?」
「そんなことないー。私も弓月の刻だぞー?」
「そうですけど、サンドラちゃんが戦う必要はありませんよ?」
だって、僕よりも小さいですし、今の体に慣れていませんからね。
「だから慣らすー」
「んー……みんなはどう思いますか?」
僕が駄目とも良いとも言うのは簡単です。リーダーですからね。
ですが、リーダーの僕が全てを決めるのも違います。
「サンドラがやる気あるならいいと思う」
「私もです。サンドラちゃんが弓月の刻に所属しているのなら、仲間外れには出来ないよ」
「私も同じ意見かな。それなら、どうして仲間に入れたのってなるし」
そうですよね。
僕がちょっと過保護になり過ぎたのかもしれません。
サンドラちゃんを弓月の刻に入れたのは全員の意志です。
それなのに、小さいからという理由で参加させないのはサンドラちゃんにも失礼ですよね。
「わかりました。だけど、無茶はしないでくださいね?」
「大丈夫だぞー?」
といいつつも、今日一緒にお仕事をしたせいか少し眠たそうにしていますけどね。
それで、さっきまで僕の足を枕にうとうとしていたのですから。
「となると、サンドラちゃんの武器も必要になってきますね」
「明日はまずは適性をみるのがいいかな?」
「そうですね。前衛なのか後衛なのかがわからないと隊列も組めないよね」
「出来る事なら得意な魔法も知りたい」
一緒に戦うのなら、仲間が何を出来るか、何が得意なのかを把握するのは大事ですからね。
僕に前線で戦えといっても本領は発揮できませんからね。
まぁ、帝都で戦いが起きた時に連れていくかはまた別の話になりますが、それでも経験を積むのは大事ですね。
という訳で、明日はサンドラちゃんの武器や戦い方などを確かめる事にもなりました。
何処かに出かけて魔物を退治するという事はまだしませんけどね。
それは模擬戦などをしてからになると思います。
話は中途半端になりましたけどね。
ですが、現状何か出来るという訳でもありませんし、僕たちはその時に備えて準備をするまでです。
もちろん、今日の事はシノさんに伝えますけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます