第302話 補助魔法使い、お願いをされる
「それで、話って何ですか?」
「まぁ、立ち話もなんだし、座ってくれるかい?」
「わかりましたけど、何だかシノさんのお家で二人きりというのは落ち着きませんね」
「そうかい? まぁ、お茶でもいれるよ」
シノさんに話があると言われ、本当はあまり気が進みませんが、いつになく真剣な顔をしていた気がしたので、仕方なくシノさんのお家へとお邪魔することになりました。
もちろん、サンドラちゃんはお家に送り届けてからですけどね。
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます……変な物は入っていませんよね?」
「僕を何だと思っているんだい?」
「冗談ですよ。一応、言ってみただけです」
僕に毒かなんかを盛ろうとするならば、もっと前にしている筈ですからね。
毎日の食卓でシノさんが育てた野菜などが食卓にあがりますし、その心配はしていません。
「それで、話って何ですか?」
「話というよりもお願いだけどね」
「そういえば、そうとも言っていましたね」
ですが、今更僕にお願いとは何でしょうか?
一応、何か思い当たる節があるか考えてみますが、これといって思い当たる節は……。
「影狼族の事ですか?」
「違うよ」
「それじゃ、ルリちゃんとの結婚の事ですかね? それとも結婚式で何か……」
意外と思い当たる節はありますね。
ですが、シノさんはその全てに首を振りました。
「むぅ……それじゃ、何なのですか?」
「うん。今から説明するから落ち着いてくれるかい?」
「僕は落ち着いていますよ」
「当てようと頑張っていたように見えたけど?」
「そんな事ないですよ。それで、何ですか?」
別に当てようとしたとかではなく、シノさんはいつも突拍子のない事を言ったりする人なので、自分で当てた方が驚きが少ないと思ったので可能性をあげたまでです。
「暫くの間だけど、アカネの様子を気にしておいて貰いたい」
「アカネさんのですか?」
意外な事に、シノさんのお願いはアカネさんの事に対してでした。
「そうだよ。何を驚いているんだい?」
「そりゃ驚きますよ。だって、アカネさんですよ?」
これが、別の人の事でしたら驚きませんでしたが、アカネさんとなれば驚くに決まっています。
だって、シノさんはアカネさんの事が大好きで、その大好きなアカネさんを他の人に任せるだなんてびっくりですよね?
シノさんの性格からしたら、自分でどうにかすると言うと思いますし。
「アカネさんに何かあったとかですか?」
「何もないよ」
「何もないのに僕に任せるのですか? 本当は喧嘩をしたとかではなくて?」
「してないよ。僕とアカネはいつも愛し合っているからね」
だとしたら余計に変ですよね?
「まぁ、シノさんの頼み事なら別に聞いても良いですけど、具体的に何をすればいいのですか?」
「何もしなくていい。ただ、ちょっと気にしておいて貰いたいってだけだよ」
「もぉ! シノさんの言いたい事がよくわからないです!」
アカネさんの事を気にしておいてほしいのに、何もしなくていいとか意味が解りませんよね?
「ごめんごめん……ちょっとね、今は僕の方が落ち着いていないみたいだね」
「そうは見えませんよ?」
「そうかい? これでも結構焦っているつもりだよ」
「全然そういう風には見えませんよ」
てっきりまた僕の事をからかって遊んでいるのかと思ったくらいですからね。
「まぁ、ユアンの顔を見たらちょっと落ち着いたってのはあるかもしれないね」
「どうして僕を見て落ち着くのですか?」
どうせ、また妹の顔がどうこう言うと思いますけどね。
「んー。いつでも能天気な君を見ていたら、焦るだけ無駄かなと思ったんじゃない?」
「失礼ですよ! もぉー!」
こんな事ならシノさんの話を聞くんじゃなかったです!
やっぱりシノさんと話をすると碌でもありませんよね!
「くくっ、ごめんって。けど、落ち着いたのは本当さ。ありがとう」
「別にいいですけどね。それで、何があったのですか?」
「何もないよ」
「嘘ですよ。わざわざ二人きりにして呼び出したくらいですし、本当は何か隠していますよね?」
僕に用事がある時に、わざわざ呼び出すなんて事は一度もありませんでした。
お店にくるなり、道で会ったりした時にさらっとそこで用件をいつも伝えて帰ってしまいますからね。
「君って、そういうところは鋭いよね」
「そうでもないですよ。ただ、シノさんがいつもよりも変なだけですよ」
「ま、そうかもしれないね」
「それで、どうしたのですか? 別に言いたくないのなら無理には聞きませんけど」
言うべきか言わないべきか悩んでいるって感じでしょうか?
普段なら言いたい事はズバッといやらしく言うシノさんが迷っているので、無理には聞きたくはありません。
ですが、話してくれるのなら、僕も快くシノさんのお願いを聞けますよね。
「本当はユアンに話す事ではないのだけどね」
と暫く顎に手を宛て悩んだ後、シノさんがゆっくりと口を開きました。
「最近、帝都の様子がおかしいとエメリアから連絡を受けたんだ」
「帝都の様子がですか?」
帝都ってルード帝国の王様が居る場所ですよね。
「うん。それで、僕も気になってルリに色々と調べさせたんだけど……」
シノさんの口から飛び出た言葉は驚くべき事でした。
「魔族の痕跡ですか?」
「うん。痕跡というよりも魔族の細工が見つかったんだ」
魔族が何かをした形跡ではなく、現在進行形で何かをしている後を見つけたのだとシノさんは言います。
「具体的にはどんな事がしてあったのですか?」
「それはわからないかな。流石に魔族特有の魔法とかは専門外だからね」
魔族は魔族独自の固有魔法が使えます。
最近捕まえたオメガさんも血の契約という珍しい魔法を使えましたし、それと同じように魔族の人は僕たちの知識にない珍しい魔法を使えたりします。
「だから、暫く僕も帝都で色々と探ってみようと思っているんだ」
「それで、アカネさんの事を気にしておいてほしいと言ったのですね」
「まぁ、そうだね。僕に何かある可能性もゼロではないからね」
「シノさんに限って何かあるとは思いませんけどね」
だって、シノさんは僕よりも強いと思いますからね。
「そうでもないさ。確かに攻撃という点については僕の方がまだ上だろう。だけど、補助魔法や防御魔法といった点をみればユアンの方が遥かに上だよ」
「そ、そうですかね?」
なんかくすぐったい感じがします。
まさか、シノさんにそんな風に褒められるとは思いませんでしたからね。
「けど、別に危険な事をする訳ではないですよね?」
「そうだといいけどね」
「その言い方ですと、危険なのですか?」
「どうだろう。これはルリと同じ考えなんだけど、今の帝都は凄く嫌な感じがするんだ。まるで、魔力が暴発する寸前のような危うい感じがね」
「それは、嫌な感じですね」
シノさんは時々帝都へと買い物などに出かけたりするみたいですが、それを感じたのは今回が初めてだといいます。
「エメリアから報告されて、そういった目で見ているからそう感じるのかもしれないけどね」
「それもありえますが、シノさんとルリちゃんがそう感じるのなら間違いないような気もしますね」
「まぁ、楽観的に構える訳にはいかないよね」
「そうですね」
気を張り過ぎて、いざっていう時に動けないのは問題外ですが、それ以上に楽観的に大丈夫だろうと思うのはダメですよね。
「ま、という訳でアカネの事をお願いしたいのだけどいいかな?」
帝都で魔族が何かをしようとしていて、シノさんはそれについて調べるので忙しくなりそうなので僕にアカネさんの事を頼んだみたいですね。
そうなると仕方ないですよね。
「ダメですよ?」
「…………どうしてだい?」
「当り前じゃないですか。シノさんが僕にお願いするくらいです。シノさんは軽く話していますが、実際は結構深刻な問題なのですよね? もしかしたら、自分の身に何かが起きるかと思うくらいに」
「可能性はあるね」
「ですよね? なら自分の身をもっと案じてください。自分に何かあった時は後はよろしくだなんて都合がよすぎますよ。別に、協力するのはいいですが、ちゃんと無事に戻るからと約束してくれない事には僕だって約束は出来ませんからね」
死んでしまったらそこまでです。
ですが、残された立場の人はそれをずっと引きずる事になります。
あの時ああしていれば、と一生後悔する事になるのです。
「厳しいね、君は」
「当り前ですよ。スノーさん達から聞きましたよ。 もうすぐお父さんになるのですよね」
「そうだね」
「僕は孤児院で育ち、本当の両親の事を知れたのはつい最近の事です。それまでずっと辛かったのですから。シノさんの子供に同じことをさせたくはありません」
アカネさんがいるから大丈夫、な訳がありません。
それに、シノさんに何かがあったらアカネさんがショックで体調を崩して、お腹の子供に影響がでてしまう可能性だってあります。
「だから、シノさんが無理だけはしないと約束するのなら僕も協力しますよ」
何が出来るのかはわかりません。
ですが、僕にだって出来る事はあるかもしれません。
何もせずにシノさんに何かあったら僕だって嫌ですからね。
一応、お世話になっている人ですし。
「君に話したのはやっぱり失敗だったかな」
「そうかもしれませんね。ですが、話してしまった以上は仕方ないですよね?」
「そうだね。確実な安全は保障できないけど、帝都にはルリも居る。無理はしないし、させないと誓うよ」
「わかりました。シノさんが帝都に居る間は僕たちでアカネさんの事を気にしておきますね。他にも頼みたい事があったら遠慮なく言ってください。出来る限りの事はしますので」
「その時はよろしく頼むよ」
シノさんに約束をして貰えました。
「それじゃ、お邪魔しました」
「うん。時間をとらせて悪かったね」
「そんな事ないですよ。僕たちも無関係という話ではないですからね」
帝都にはスノーさんの家族もいますし、近くの村にはお世話になったオルフェさんも居ます。
帝都で何かが起きたらそっちまで被害を被る可能性は高いです。
それに、お母さん達から魔族を潰して欲しいと言われていますし、僕の役目の一つでもあります。
なので、これはスノーさん達に伝えなければいけませんね。
その上で、頼まれた事以外にも出来る事を探そうと思います。
次々とトラブルばかり起きている気がしますが、きっと気のせいですよね?
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