第301話 補助魔法使い、ライバルが現る

 「え、カミネロさんはまた行っちゃうのですか?」

 「あぁ、ちょっと頼まれごとがあってな」

 「おとーさん。無理はしないで」

 「問題ない。ちょっと探りをいれるくらいだからな」


 昨日の夜は、そのままイリアルさんのお家に泊めて頂き、朝食もご馳走になりました。

 朝も沢山の食事があったので、見ただけで胸焼けしそうで僕の横で、シアさん達はパクパクと朝食をお腹にいれていきます。

 昨日あれだけ食べたのにびっくりですよね。

 そして、イリアルさんとカミネロさんにお礼を告げ、仕事に向かおうとしたのですが、カミネロさんから暫く街を離れる事を告げられました。

 どうやら、僕たちを招待した理由はこれみたいですね。

 暫く会えなくなるので、家族のひとときを過ごしたかったようです。


 「では、一応これを渡しておきますね」

 「これは?」

 「簡易の転移魔法陣ですよ。これを使えば僕の家に戻って来れます。帰って来るときに使っても良いですし、何か危険が迫ったら迷わずに使ってください」

 「助かる。では、行ってくる」

 

 使い方をカミネロさんに伝えると、転移魔法陣を魔法鞄マジックポーチにしまい、短い挨拶と共に出かけていきました。


 「大丈夫ですかね?」

 「大丈夫よ。私の旦那だもん」

 「でも、向かう先はリアビラですよね?」


 リアビラという街に僕は良い印象は全くありません。

 そんな所に一人で向かうだなんて、心配ですよね。

 

 「本当に大丈夫ですかね?」


 改めてイリアルさんにお礼を告げ、僕たちはお仕事に向かったのですが、どうしても心配が抜けず、どうしようもないとわかっていても、シアさんに確かめるように呟いでしまいます。


 「大丈夫。魔鼠を一匹つけた。何かあればラディが知らせてくれる」

 「そうなのですか? ですが、何かあっても駆け付ける事はできませんよ」

 「平気。魔鼠専用の魔法鞄マジックアイテムをイル姉に作って貰った。ユアンからもらった転移魔法陣を持たせてある」

 「準備いいですね」


 それなら少しだけ安心できますね。

 僕が作った転移魔法陣という事は、展開さえして貰えば僕から干渉することも出来ますからね。

 ただ、展開して貰えればですけどね。

 

 「それじゃ、私はここ」

 「はい、僕は一度お家に戻ってから仕事に行きますね」

 「うん。頑張る」

 「シアさんも頑張ってくださいね!」


 お外なのでいってらっしゃいのちゅーは自重し、ハグだけしてシアさんが詰所に入って行くのを見届けます。

 そして、僕はお家へと一度戻ります。

 深い理由はありませんが、そうしないといけない訳があるからです。

 それは……。


 「なー! やっと帰ってきたなー!」


 お家に戻ると、玄関先でサンドラちゃんが待ち構えていました。


 「ごめんなさい。淋しかったですか?」

 「淋しいとかじゃないー! ただ、最近はシアばっかりで私をほったらかしすぎだぞー!」


 それを淋しいと言うと思うのですけどね。

 ですが、影狼族の一件やニーナさんの訪問など色々あったのでサンドラちゃんと接する機会が少なかったのは確かですね。

 それでも、ちゃんと一緒に寝ている日はありましたけど。


 「すみません。ほら、抱っこしてあげますよ」

 「なー……。私の方が年上だぞー?」

 

 それでも抱っこしてあげると直ぐに機嫌を直してくれたりします。

 まぁ、僕と大して身長が変わらないので傍からみると変な光景に見えますけどね。

 それに抱っこするにしても長時間は抱っこしてあげられませんし。


 「なーなー」

 「はい、どうしましたか?」

 「そろそろ、私も外に出ちゃダメか?」

 「ダメという訳ではありませんが……」


 問題にならないかが心配です。


 「フードを被るからー」

 「んー……。それなら、大丈夫ですかね?」


 ローブ付きのフードは万能ですからね!

 何せ、忌み子とバレてはいけない状況だった僕をずっと誤魔化してくれたのですからね!

 意外とバレないので、それなら大丈夫なような気がしてきました。


 「けど、どうして急に外に出たくなったのですか?」

 「私より後に来た影狼族の子供が外を歩いてるんだぞー? それってずるいー」

 

 影狼族の子供を匿っている事はサンドラちゃんも知っていましたが、今は自由に外を出歩いています。

 それなのに、自分ばっかり外に出られない事に不満を持ったみたいですね。


 「サンドラちゃんは我慢して偉いですね」

 「うんー。ユアン達との約束だったからなー」

 

 それでずっと我慢してくれていたみたいで、今日まで外に出たいとは言ってきませんでした。

 そうなると、ご褒美は必要ですね。


 「自由に歩き回るのはダメですが、僕と一緒にお仕事に行きますか?」

 「いくー」


 僕と一緒なら安心できますからね。

 何かあってもサンドラちゃんを守る事ができますし、目の届かない場所に行ってしまう事もないでしょうからね。


 「ですが、サンドラちゃんは退屈かもしれませんよ?」

 「それでもいいー。お外がみたい」

 「わかりました。それじゃ、一緒に行きましょうか」

 

 という訳で、今日はサンドラちゃんも一緒にチヨリさんのお店に行くことになりました。


 「チヨリさんおはようございます」

 「うんー。おはよー。何か、今日はちっこいのが一緒だなー」

 「はい、僕のお家に住んでいる子ですが、今日は一緒に来たいというので連れてきました……ご迷惑ですか?」

 「いいぞー。ただし、物を壊したりするなよー?」

 

 チヨリさんに断られたらそれまででしたが、条件付きですが許可を頂けました。


 「良かったですね。ほら、挨拶しないとダメですよ」

 「わかったー。サンドラだぞー? よろしくなー」

 「うんー。わっちはチヨリー。よろしくなー」


 チヨリさんとサンドラちゃんは同じ身長くらいなので、子供同士のお友達って感じがして和みますね。

 二人とも僕よりも遥かに年上という事実がありますけどね。


 「それにしても、ユアンは凄いなー」

 「凄いって何がですか?」

 「龍人族を連れてくるとは思わなかったなー」

 「え……ど、どうしてわかったのですか!?」


 驚きました。

 サンドラちゃんを一目見ただけで、チヨリさんはサンドラちゃんの正体を見破りました。


 「私は龍人族と会った事があるからなー。魔力の質でわかるぞー?」

 「そうなのですか?」

 「うむー。その分だとアリアもわかっているなー? あいつも魔力の質を見れる力があるからなー」

 

 そういえば、初めてお会いした時に、僕が闇魔法を使い、お母さんの魔力と同じといわれましたね。

 サンドラちゃんが龍人族とわかっていたのはそういう理由だったのかもしれません。


 「なーなー」

 「はい、どうしましたか?」

 「早速バレたぞー」

 「そうですね。ですが、チヨリさんにならバレても大丈夫だと思いますよ」

 「うむー。別に広める事でもないしなー」


 一緒に仕事をしてきたお陰か、チヨリさんは凄く信用できる方だと思います。

 ポーションの作り方もわからない僕を雇ってくれて、魔力水の仕入れも全て任せてくれたりします。

 下手すれば利益どころか、不利益を生み出す可能性のある僕を親切心で雇い、面倒まで見てくれるのです。

 とてもではないですが、出来ませんよね?


 「それじゃ、仕事の準備をするかー」

 「わかりました」


 いつもの通りに、ポーションの販売の準備と僕の診療所の準備をするために、机や椅子を並べます。

 並べると言っても、机と椅子は収納魔法から取り出すだけなので、昨日までに作ったポーションを作った順に陳列するだけの簡単な作業ですけどね。


 「なーなー」

 「はい、どうしましたか?」


 開店の準備をしていると、退屈だったのでしょうか、作業をしている僕にサンドラちゃんが話しかけてきました。


 「私も手伝うー」

 「え、サンドラちゃんがですか?」

 「うんー。見てるだけじゃ退屈ー」


 その気持ちはわかります。

 わかりますけど、流石にお手伝いをさせる訳にはいきませんよね。

 お家でリコさん達のお手伝いとは違いますからね。


 「これはお仕事の準備ですからダメですよ」

 「なー……そうだなー」


 うぅ……そんな哀しそうな顔をしないでください。

 僕だって本当はサンドラちゃんの自由にさせてあげたいと思っているのですからね。

 ですが、僕はチヨリさんに雇って頂いている立場ですので、僕が勝手に許可を出す訳にもいきません。


 「なんだー。一緒にやりたいのかー?」

 「うんー。やりたいぞー」

 「なら、一緒にやれー」

 「え、いいのですか?」

 「いいぞー。何事も経験だからなー」


 ですが、何とチヨリさんからサンドラちゃんを誘ってくれました。

 ポーションを作るのは簡単ではありません。

 魔力水に煎じた薬草などを浸透させ、効果を持たせる必要があります。

 失敗して落としてしまえば、台無しになってしまい、また制作しなければならないのです。

 それなのに、失敗していいとまで言ってくれました。

 それも経験になるからと。


 「わかったー。私頑張るなー」

 「うむー。疲れたら勝手に休めー」


 こうして、サンドラちゃんも一緒にお店のお手伝いをする事になりました。

 

 「サンドラちゃんこれはわかりますか?」

 「わかるー。こっちがポーションでこっちがマナボトルだぞー」

 「正解です。それじゃ、こっちはどうですか?」

 「それは解毒薬だぞー」


 問題ないですね。

 色や入れ物の形でも見分けることも出来ますが、敢えてそれを教えずに文字だけを見て判断できるか試しましたが、ちゃんと読む事ができました。

 サンドラちゃんは古代文字を読んだり書いたり出来ますが、現代ではその文字は使わない為、新たに文字を覚える必要がありました。

 ですが、今ではリコさん達の協力もあって、キティさんと一緒に文字を学び、ちゃんと理解できるようになったみたいですね。


 「陳列はこんな感じで並べます。日にちの読み方も大丈夫ですよね?」

 「うむー。順番はこうだぞー」

 「偉いです!」

 「なー! 馬鹿にするなー!」


 していません!

 ちゃんと褒めていますよ!


 「サンドラはかわいいなー」

 

 僕たちの様子を眺めていたチヨリさんがそう呟きました。


 「わかりますか? サンドラちゃんは凄く可愛いんですよ!」

 「うむー。特に話し方が独特でかわいいなー」

 「え、チヨリさんも同じような話し方ですよ?」


 自画自賛ってやつですかね?

 

 「全然違うぞー?」

 「似ていますよ? サンドラちゃんもそう思いますよね?」

 「なー? 全然違うぞー?」

 「そうですかね?」


 僕の勘違いですかね?

 僕からすると同じような話し方だと思うのですが……。

 それはさておき、サンドラちゃんのお手伝いもあり、いつもよりも早く準備が整った気がしますね。

 サンドラちゃんが優秀で助かりました!


 「後はどうするんだー?」

 「後は、お客さんを待って欲しい物を売るだけですよ」

 「そうなのかー」

 「はい、その時にお金を扱うのですが……それはまだ早いですよね?」


 お金は大事ですからね。

 間違えて少なく貰っても、多く貰っても問題になります。

 少ないとお店の利益は下がりますし、多く貰ってしまうと信用問題に関わります。

 今は街の人が買いに来るだけなので、笑って許してくれますが、他の街から買いに来る人だったときは大問題になりかねません。


 「今後も手伝うつもりなら、今のうちに経験を積む方がいいと思うぞー」

 「わかりました。サンドラちゃんお金の計算はどうですか?」

 「問題ないぞー」

 「それじゃ、問題ですよ? こっちのポーションが銀貨一枚でマナボトルが銀貨二枚です。ポーション三つとマナボトルが四つ売れたら幾らになりますか? 銀貨の枚数で答えてください」


 ちょっと難しいですかね?

 えっと、ポーションが三つとマナボトルが四つなのでー……。


 「銀貨は十一枚だぞー」

 「え、ちょっと待ってくださいね……正解です」

 「サンドラの方が早かったなー」


 うぅ……まさか問題をだした僕の方が遅いとは思いませんでした!

 

 「サンドラちゃんは凄いですね」

 「計算だからなー。最初から出来るぞー」


 そういえばそこの心配をする必要はありませんでしたね。

 新しく今の体になったとはいえ、ほとんどの記憶は引き継いでいるので、頭脳は大人でしたからね。


 「という事はサンドラちゃんの心配はいりませんね」

 「そうだなー。ユアンよりも頼りになるなー」

 「ユアンよりも頑張るぞー」

 「僕には僕だけの役割がありますから、大丈夫ですよ!」


 ほら、僕は街のみんなとお話するお仕事がありますからね?

 こればかりは僕にしか出来ません!

 なので、僕のお仕事は安泰です!

 そう思っていたのですが……。


 「今日はかわいい子がいるじゃないか!」

 「しかも、龍人族だぞ!」

 「頭撫でていい?」


 僕の横に並んで座っていたサンドラちゃんが大人気になってしまいました!

 いえ、僕にもちゃんと話しかけてきますが、サンドラちゃんがそれを上回る人気なのです。

 むー……。

 ここでも負けてしまいましたよ。

 でも、サンドラちゃんを見て、龍人族と一瞬でバレても街の人は差別せずに接してくれました。

 この場合は嫌がってというよりも、委縮してしまう可能性ですが、それもなくサンドラちゃんを受け入れてくれました。

 そこはやはり嬉しく思いますね。

 自分の大事な仲間が認められたという事ですからね。


 「けど、明日からは負けませんよ!」

 「勝負じゃないぞー? ユアンはユアンで愛されてるぞー」

 「そうだなー。ユアンも大人になれー」


 と張り合うつもりが軽くいなされてしまいました。

 まぁ、二人にしてみれば赤子みたいなものって感じかもしれませんね。

 だけど、サンドラちゃんは僕たちの子供みたいな存在でもあります!

 大人になれと言われても、サンドラちゃんを立派に育てるのが僕たちの使命でもありますよね。

 これは、決して負け惜しみではありませんからね?

 という訳で、これからサンドラちゃんもチヨリさんのお店で働く事になりました。

 もちろん、お相手するのは街の人だけですけどね。

 街の人以外が並んでいる時はさり気なく僕とチヨリさんがフォローする予定です。

 

 「今日のお仕事はこれで終わりですね」

 「疲れるなー」

 「お疲れ様なー。後はゆっくりやすめー」


 今日は魔力水の補充もないので、お昼を過ぎた辺りでほぼ仕事は終わりました。

 後は片づけをするくらいですね。

 

 「今日はもう終わりかな?」

 「そうですよ。何か用ですか?」


 片づけをしていると、珍しいお客さんが最後に訪れました。


 「うん。ちょっとね? この後少し話というかお願いがあるのだけど、いいかな?」

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