第300話 補助魔法使い、イリアルさん達に招待される
「影狼族の移住はこんな感じかな」
「スノーありがとう」
「いいよ。こっちも人手が増えて助かるからね」
「何人かは領主の館で働く事になりましたからね」
影狼族の人たちが増えた事により、住む場所の手配や仕事の振り分け、住民情報などの手続きをスノーさん達にして頂きました。
これで晴れて影狼族の人達はナナシキの一員となった訳ですね。
「ですが、予算は大丈夫なのですか?」
「うん。問題ないよ。アリア様に借りる事が出来たからね」
「アリアの案。出すのは当たり前」
「当り前じゃないですよ。私達の街なのですから、甘えてばかりじゃダメだよ」
今後を見据え、少しずつですが街の工事にも着手していく目途が立ちました。
まずは、影狼族の住む場所。
とりあえずは、商業区にある空いている家をお貸ししていますが、影狼族の大半の人が農業区に住む事を希望したため、そちらにお家を新しく建てる事になったのです。
「住みやすい方に住んでもらう方がいいですからね」
「うん。商業区は落ち着かないと思う」
影狼族の村の造りは農業区の方にあるお家の方が近いらしく、石造りのお家よりも木材を使ったお家の方がしっくりくるみたいですね。
なので、それに合わせて新たに農業区を拡張し、そこに影狼族の住むお家を立てる事になったのです。
「後は壁ですよね」
「そうだね。最近は物騒だから優先的に進めないとだね」
「いつまでも簡易な柵のままじゃ危ないですもんね」
ナナシキの街は簡易な柵に囲まれています。
商業区の方は石造りの厚い壁に囲まれていますが、農業区の方は木で作られた柵のままで、あれでは誰でも簡単に侵入できてしまう造りになっています。
なので、影狼族の住む場所を広げつつも、それに合わせて石造りの壁で街を囲う予定を立てている感じですね。
「けど、まだまだ人手は足りないのは否めないよね」
「そうですね。街の工事とビャクレンまでへの道、両方進めないといけないですからね」
「まぁ、ビャクレンへの道は虎族の人達次第だから、見通しがまだ立ってないけどね」
「ニーナさんが上手く伝えてくれるといいけど……」
ニーナさんとスノーさんは連日打ち合わせをし、先日ビャクレンへと戻っていきました。
そこにアリア様も混じって話を進めていましたので、上手く話を纏める事が出来た……と思います。
丸め込まれたとも言えますけどね。
「まぁ、当面はこんな感じかな?」
「ユアンさん達にも手伝って貰う時があると思いますので、その時はよろしくね?」
「僕たちに出来る事なら任せてください」
「やれる事はやる」
家や街を囲う壁を造る知識は僕にはありませんので、直接はお手伝いはできません。
ですが、収納魔法で荷物や資材と運んだりできるので、それを期待していると言われました。
「それじゃ、お仕事頑張ってくださいね」
「私達も直ぐでる」
「うん。ユアン達も頑張ってね」
「今日は遅くなると思いますので、先にご飯食べててね」
「わかりました」
スノーさん達が出かけるのを見届け、朝の会議は終了です。
会議といっても、夜に出来なかった報告をしているくらいで、後は雑談がメインですけどね。
スノーさん達をお見送りし、少しだけゆっくりした後に僕たちもお仕事に向かうのですが、家を出る直前にシアさんから今日の予定を尋ねられました。
「ユアン、今日ちょっと時間ある?」
「はい、午後なら大丈夫ですよ。どうかしたのですか?」
「助かる。おかーさん達が一緒にご飯を食べたいって」
「僕もですか?」
「うん。ユアンも一緒」
「わかりました。お昼ご飯でいいですか?」
「ううん。夕飯」
なんと、シアさんのお義母さん達から食事のお誘いを受けてしまいました。
「わかりました。えっと、ジーアさん」
「はい、今日は夕飯はいらないって事ですね?」
「いきなりすみません」
「大丈夫ですよ。楽しんできてくださいね」
「ありがとうございます。僕たちの分はいりませんが、ジーアさん達はちゃんと食べてくださいね」
「わかりました。スノーさん達の分は用意しますので大丈夫ですよ」
僕たちがダンジョンに潜り、家を離れている間の事を思い出し、ジーアさんに一応ですが注意を促します。
だってですよ?
僕たちが居ないからって、ご飯をまともに用意せず、本当に質素な食事しか食べていなかったみたいです。
自分たちの食事の為に食材を自由に使うのを躊躇ったのだと思います。
ジーアさん達は楽をしたいからと言っていましたけどね。
「それじゃ、行ってきますね」
「行ってくる」
「お仕事頑張ってくださいね」
という訳で、今日の夕食はシアさんとシアさんのお義母さん達と過ごす事になりました。
そして、いつもの通りお仕事をし、一日が終わろうとする頃、仕事を終えたシアさんが僕を迎えにきました。
「ユアン、お疲れ様」
「はい、シアさんもお疲れ様です。仕事は終わったのですか?」
「うん。後は任せた」
「また、ラディくんにですか?」
「うん」
陽の落ち方からして、いつもより早いとは思いましたが、やっぱり仕事をラディくんに押し付けてきたのですね。
「あんまりラディくんにばかり押し付けてはダメですよ」
「気をつける。だけど、ラディは張り切ってるから平気」
「本当ですか?」
「本当。警邏隊も増えた。警邏隊が仕事を覚えればラディも楽になる。だから頑張ってる」
「そういう事なら納得です」
それでもラディくんの仕事は減らない気がしますけどね。
何せ、ラディくんは魔鼠さん達の報告も纏めなければいけませんからね。
「では、チヨリさんお疲れ様でした」
「うむー。また明日なー。おつかれー」
チヨリさんに別れを告げ、僕のお仕事も終わりましたので、僕は今朝の予定通りイリアルさん達と食事をするべく、イリアルさん達の元へと向かう事になりました。
「それで、何処でご飯を食べるのですか?」
「おかーさん達の家」
「となると、商業区の端の方ですね」
影狼族が移り住む事が決まり、イリアルさん達もナナシキに住む事になりました。
ですが、影狼族の人たちが農業区に住む事になったからか、イリアルさん達は真逆の商業区の端を選んだのですよね。
「隠居ってやつですかね?」
「それに近いと思う」
どうやら、シアさんが長になった事を機に、影狼族の関りを出来る限り減らす事を選んだようですね。
「それで、今日はどうして僕まで招待されたのですか?」
「わからない。私は連れてくるように頼まれただけ」
「そうなのですね」
「嫌、だった?」
「そんなことありませんよ。僕の義理のお義母さん達になる人ですからね」
まだ、実感は沸きませんけどね。
ですが、イリアルさんもカミネロさんも僕とシアさんの仲を認めてくれましたからね。
「ユアン、すっかりその気になってる」
「むー……ダメですか?」
「ダメじゃない。嬉しい。凄く、嬉しい」
今更ながら、フルールさんに言われた言葉が良くわかります。
僕は殻に籠っている。
誰かに愛される事を怖がっていると言われました。
それを知る事を恐れているのだと。
だけど、それをシアさんが破ってくれました。
愛される事は幸せなのだと。
今の僕がこんなに前を向けるのは殻を破る事が出来たからなのかもしれませんね。
「着いた」
「ここにイリアルさんとカミネロさんは住んでいるのですね」
シアさんに案内され、辿り着いた場所はひっそりとした場所でした。
周りにお家自体は沢山ありますからね。
それでも、今は
「おかーさん、来た」
「お邪魔します」
お家のドアをノックし、シアさんに先導され、イリアルさんのお家にお邪魔させて頂くと、イリアルさんとカミネロさんがソファーに並んでいました。
「いらっしゃい、今日は寛いで行ってね」
「よく来てくれた。歓迎する」
「は、はい。今日は、よろしくお願いします!」
「ふふっ、何をよろしくするのかしら?」
それは、ご飯をご馳走してくれたりするみたいですし……失礼な事はできませんよね?
「ユアン、緊張してる?」
「そ、そんなことありませんよ……」
「ある。おかーさんの言う通り、よろしくはおかしい」
「そ、そうですかね?」
あ、あれ?
さっきまで普通だったのに、急にドキドキしてきちゃいました。
何ででしょう?
「まぁ、とりあえず座ってくれ。イリアル、暫く頼む」
「うん。よろしくね」
あ!
ほら、イリアルさんだってよろしく頼んでますよ!
やっぱり僕が変な訳ではないですね!
「違う。おかーさんはおとーさんに頼んだだけ」
「何をですか?」
「ご飯。ご飯はおとーさんが作る」
「そうなんですね。イリアルさんは作らないのですか?」
カミネロさんが部屋を離れ、僕たちはイリアルさんに促される様にシアさんと並び、ソファーに並びました。
「私は食べる専門なのよ」
「シアさんと一緒ですね」
「そんな事ない。私も料理位は出来る。おかーさんと一緒にしないでほしい」
「私も料理位できるもん」
んー……。
どっちも怪しいですね。
「それなら、今度二人で料理して貰ってもいいですか?」
「……考えとく」
「……考えておくわ」
やっぱりですね。
まぁ、シアさんは魚を捌いたりできるので、料理が出来ない訳ではないですけどね。
ただ、シアさんよりも僕やキアラちゃんの方が得意なので、食べるのなら美味しい方がいいという理由で料理をしないだけですけどね。
実際にシアさんの手料理は食べた事はないですからね。
ただ、魚を焼いただけでは、料理の腕を全て測る事は出来ないと思いますし。
「それで、今日はどうして僕を招待してくれたのですか?」
「それは、ご飯でも食べながら話しましょう?」
「わかりました」
「安心して、悪い話ではないからね?」
「それなら良かったです」
また影狼族の事で問題があったりしたら大変ですからね。
まだ内容はわかりませんが、悪い話ではないというので一安心です。
という事で、カミネロさんが料理をしている間、僕たちは雑談する事になりました。
本当に他愛のない話です。
それでも、僕はこの時にとある事を感じました。
今は、感じただけなのですが、直ぐにそれが実感に変わる事になったのです。
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