第299話 補助魔法使い、移住者を迎える
「という事で、今回のお出迎えもユアンね」
「最近、こんなのばっかりな気がするのですが?」
「気のせいだよ。それに、今回ばかりはユアンさん達がお出迎えしなきゃ意味ないよ」
「うん。私達の役目」
今回も、僕たちは街に訪れる人のお出迎えを任される事になりました。
イリアルさんとオーグはお出迎えというよりも、様子を見に行った結果ですが、その後にニーナさんはお出迎えでしたからね。
すっかり誰かが来たら僕たちが対応するような感じになりつつあります。
まぁ、今回ばかりは仕方ないですけどね。
何せ、お客さんというよりも、僕の、というよりもシアさんの知り合いですからね。
「それにしても、予定よりも早く来る事になりましたね」
「うん。それだけ急いで来た証拠」
それだけ楽しみにしてくれていたって事ですかね?
大きな街と違って楽しめるような場所はありませんけどね。
「きた」
「本当にいっぱい連れてきましたね」
街の入り口でシアさんとおしゃべりしていると、遠くの方からゾロゾロと歩いてくる集団が見えてきました。
「おとーさん、久しぶり」
「久しぶり。元気にしてたか?」
「うん。元気」
「そうか」
むむむ……。
やっぱり、カミネロさんがおとーさんと呼ばれているのを聞くと違和感がありますね。
あ、でもユーリさんの事を僕はお父さんと呼んでいるのでそれと同じですかね?
っと、歩いてきた集団はカミネロさん達でした。
そして、一緒に居るのは勿論……。
「へぇ……ここがシアの街なんだ」
「私の街じゃない。私の仲間が領主をしている街」
「一緒じゃない?」
「全然違う」
シアさんがシアさんと同い年くらいの影狼族の人と親し気に話しています。
そうなんです。
今日は、カミネロさんが保護、とは違いますけど血の契約から守った影狼族の人達を迎える日だったのです。
なので、集団となって表れた人達は全員影狼族の人達でした。
それにしても、これだけの影狼族が集まると壮観ですよね。
見事に黒髪に灰色が混じった髪の人がいっぱいいるのです。
前からいた影狼族の人達と合わせると、総勢五十人ほどになりそうですね。
街が一気に賑やかになる事間違いなしです。
それでも、まだまだ他の国に影狼族の人達は散らばっているみたいなので、これから増えていく可能性が高いですけどね。
「それで、さっきから呆けているその小さい子は?」
シアさん達の会話を横で聞いていると、シアさんと話していた人が僕の方を見ました。
「小さいって、僕の事ですか?」
「他に誰がいるの?」
「それもそうですね。僕はユアンです。冒険者でシアさんと同じパーティに所属しています」
「へぇ、小さいのに頑張っているんだ」
小さいは余計ですけどね。
「頑張っているどころじゃない。ユアンは私のパーティーのリーダー。そして、私の主」
「え、シアの主!? って事は、契約を結んだって事?」
「うん」
「なんで? あんなに誰とも契約しないって言ってたじゃない」
「え、そうなのですか?」
それは初耳ですよ?
だって、シアさんは主を求めて、各地を転々としていて、僕と出会い契約をしてくれた筈です。
「あー……それはね、シアって自由じゃない?」
「割とそうですね」
「だから、放浪する理由を建前として言っていたんだと思うよ」
「そうだったんですね……」
「そんな事ない。ユアンを求めて各地を周ってた」
むむむ……一体どっちが本当なのでしょうか?
まぁ、僕としてはシアさんと出会えたのは幸運だったので、どちらでもいいですけどね。
結果的に今が幸せですからね!
「どっちにしろ契約を結んだって事は、シアがそれだけその子に価値を見出したって事でしょ? ならいいじゃん」
「その子じゃない。ユアン様と呼ぶ」
「シアだって様をつけてないじゃん」
「私はいい。ユアンの恋人でもあるから」
「え? そんな段階なの? シアが? 誰とも結婚しないって言ってたのに?」
「そうなのですか?」
今更ですけど、新たな事実が続々と出てきますね。
「あの時はそう思ってた。だけど、ユアンに出会って変わった」
「ふぅ~ん? この子がねぇ……」
僕の事を見定めるように、僕の事をマジマジと見てきますね。
「ま、シアが認めたならいいんじゃない? 私には関係ないし」
「うん。ユアンの凄さはそのうちわかる」
「別に凄くはないですけどね」
「だってさ」
どうやら、僕の事を疑っているみたいで、胡散臭そうな目で見られているのがわかります。
最初は普通に接してくれていましたが、今は少しだけ棘がある気がしますね。
ですが、別に気にはなりません。
僕の事を認めてくれている人は認めてくれてますからね。
「っと、他の人達が入口で待っていますし、入口を塞いでしまうと邪魔になってしまいますので、街を案内しますね」
「何で、ユアン【様】が仕切ってるの?」
「僕が領主様に頼まれたからですよ」
「そう」
完全に僕に興味をなくしたようですね。
まぁ、それならそれでいいですけどね。
ですが、シアさんはそれを許さないみたいでした。
「マナ。ユアンへの態度を気をつける」
「はいはい。わかったよ」
「わかってない。ユアンへの態度、間違えるとマナはこの街にはいられなくなる」
「へぇ~。そうなんだ」
「マナだけじゃない。影狼族全体に迷惑がかかる」
「わかったよ。それじゃ、案内をよろしくお願い致します、ユアン【様】!」
「……わかりました」
別に無理して様をつける必要もないですし、そんなに嫌々呼ぶようなら呼ばなくてもいいですけどね。
「では、まずは領主の館へと案内しますね」
といっても、館の中に全員は案内出来ないので、代表であるカミネロさん以外は庭で待っていて頂くことになりますけどね。
「ユアン様、申し訳ない」
領主の館へと案内している最中、突然カミネロさんが謝罪を僕にしてきました。
「カミネロさんが謝る必要はありませんよ。それと、僕に様はいりません」
それに敬語もいらないです。
他人行儀みたいで嫌ですからね。会うのは二度目でほぼ他人みたいなものですけどね。
それでもシアさんのお父さんですし、出来る事なら仲良くしたいです。
「わかった。しかし、マナの件は申し訳ない」
「カミネロさんは連れて来てくださったのです、感謝はしても、怒ったりはしませんよ」
「ありがとう。だが、恩人に対しての態度ではないのは確かだ」
「僕に対してだけなら問題ないですよ。ただ、街の人が聞いたらちょっと怖いですけどね」
僕の事になると過剰に反応する傾向がこの街にはあります。現に、先頭を僕と一緒に歩くカミネロさんの事をちらちらと見ているのがわかります。
それだけ、僕のお母さんがみんなに慕われていた証拠でもあって嬉しいですが、僕の思いとは裏腹に暴走しないかが心配です。
ちなみに、シアさんはマナさんと一緒に昔話に華を咲かしているのか、暴走しないように見張っているのかわかりませんが、最後尾を歩いています。
「今一度、みんなには伝えておく」
「はい。ですが、影狼族の人達は大丈夫なのですか? 急に住む場所合変わったり、生活が変わったりすると思うのですが?」
「そこは問題ない。その日暮らしの生活をしてきた者達ばかりだから。安心して暮らせる場所があるのは助かる」
「それなら良かったです」
「あぁ……だから、マナは別として他の者達はユアン……殿? 達に感謝をしているから安心してくれ」
僕の呼び方にカミネロさんが一瞬困っていました。
首の傾げ方何かがシアさんに似ていて可愛いですね!
っと、流石にそれは失礼でしたね。
「その代わり、街の為に働いて頂くことになりますけどね」
「構わない。それを承知のうえで此処にきた」
衣食住を提供する代わりに街の為に働いてもらう。それでもよければ街に住んでください、と事前に伝えてあったので、働くことに関しては問題ないみたいですね。
「スノーさん達も頼りにしていると言っていましたので、よろしくお願いします」
「こちらこそ……それと、シアの事もよろしく頼む」
「シアさんですか?」
「あぁ……シアと結婚するつもりでいてくれているのだろう?」
「それは……まぁ、はい……」
移住の話から、突然そんな話になるとは思わず、つい言葉に詰まってしまいました。
「至らない娘だが、幸せにしてやってほしい」
「という事は、僕の事を認めてくれるのですか?」
「勿論だ。ユアンどの、の功績は聞いている。逆にシアで本当にいいのかと不安になるくらいに」
「不安にならなくても大丈夫です。僕にはシアさんしかあり得ませんからね」
それだけの想いがシアさんにある事を自覚できている気がします。
それが愛なのかはまだはっきりしませんが、きっと愛なんだと思います。
けど、嬉しいですよね。
これで、僕の両親も、シアさんの両親からも公認の仲となれました!
「後は、イルミナか……」
「あー……イルミナさんはちょっと大変そうですね」
この様子ですと、ルリちゃんの事も耳に挟んでいるみたいですね。
でなければイルミナさんの心配だけをしない筈です。
「でも、みんなと仲良くやっていますよ」
みんなとはイルミナさんの従業員の事ですけどね。
「それが心配なんだ」
「どうしてですか?」
「いつか後ろから刺されないかってな」
「だ、大丈夫だと、思いますよ?」
「だといいんだが……」
心配なのは、手を出すだけ出して愛が偏った結果、恨まれないかが心配のようです。
嫌ですよね。
イルミナさんのお店に行ったら、イルミナさんが血を流して倒れていていたりしたら。
笑いあいながらそんな話をしていると、あっという間に領主の館へと着いてしまいました。
少し、話したりない気もしますが、僕の役目は今日の所は此処までですね。
「では、僕はこの辺で失礼します」
「みんな、ユアンに感謝する」
「「「はい、ユアン様ありがとうございました」」」
「は、はい……ささやかですが、料理を用意してくださっているみたいなので、外ですが寛いでくださいね」
びっくりしました。
まさか声を揃えてお礼を言われると思いませんでしたからね。
一人だけそっぽを向いている気がしましたが、それは見なかったことにしますけどね。
「ユアン、マナの件、ごめん」
「気にしていませんよ」
カミネロさんをスノーさんの元に案内し、僕たちは領主の館を後にしました。
一緒に食事はどうかと影狼族の方に誘われましたが、流石に遠慮をさせて頂きました。
多分、僕に気を遣ってゆっくりできない気がしますからね。
「多分。これからも暫くはユアンに突っかかると思う」
「別に平気ですよ。何かあったら大変なのはマナさんですからね」
「うん。一度痛い目に合えばいい」
流石にそこまで面倒見切れませんからね。
「でも、影狼族の人達って色々な人がいるのですね」
「意外?」
「はい。マナさんみたいな人がいるとは思いませんでしたかね」
「誰にだって個性はある」
「それもそうですね……後、シアさんも意外でした」
マナさんがちょっと言っていましたが、誰とも契約する気はない、結婚する気もないと言っていたなんて思いもしませんでした。
「むー……ユアンと出会ったからなの」
「えへへっ、出会えて良かったですね」
「うん!」
僕がシアさんと出会って変わったように、シアさんも僕との出会いで変わったみたいです。
「これから大変ですね」
「うん。ユアンやスノー達だけじゃなく、これから街の人に認められなければならない」
「仲良くやっていければいいですね」
「うん」
影狼族の人達と街の人達が争わないかが少しだけ心配です。
種族の違い、文化の違いで対立する事は珍しくないと聞きます。
「僕たちが繋ぎ目にならないとですね」
「うん。けど、私とユアンが仲良くできたように、きっと仲良くなれる」
「そうですね。きっと、そうなります」
だからといって、傍観は出来ませんけどね。
「ふわぁ……なんだか眠くなってきちゃいました」
「わかる。ポカポカして気持ちいい」
時々吹く風にまだ冬の残りを感じるものの、それ以上に春の訪れを感じる事ができるようになってきましたね。
「ちょっと、お昼寝する?」
「はい、たまにはいいですよね?」
「うん。くっついていれば寒くない」
春の訪れを感じる風のように、影狼族の人たちが新たな風を運んできてくれるといいですね。
そんな会話をしつつ、僕とシアさんは僕たちのお家のお庭で少し、お昼寝をする事にしました。
後は、スノーさん達が上手くやってくれる筈です。
僕たちはそのフォローをすれば……だけど、今は、シアさんと一緒に……。
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