第296話 補助魔法使い達、アリアの元を訪れる
「では、シアさん行きましょうか……」
「うん。大丈夫?」
「大丈夫ですよ……」
はぁ。
ニーナさんとの模擬戦も終え、今日の午後はアリア様の元へと向かう事になりました。
昨日の夜に、アリア様からお城にくるように言われたのです。
僕とシアさんが結婚式で着る服を見繕ってくれるというのです。
「着きましたね……」
「うん。ユアン、嫌そう」
「そんな事ないですよ」
嫌ではないのですよ。
元々、僕たちがアリア様にお願いしたのですからね。
まぁ、シアさんが僕を連れてアリア様にお願いしに行った結果ですけどね。
でも、止めれなかった僕も悪いので同罪ですよね。
罪ではないですけどね。
「アリア入る」
そして、シアさんがノックをしアリア様がいる玉座の間へと入って行きます。
「一応言っておくが、私以外の王の前で同じことはするなよ?」
「わかった。アリア、おはよう」
「毎回すみません。おはようございます」
「うむ、おはよう。待っておったぞ」
当たり前のように入った事に対し、少し怒られてしまいましたが、シアさんの喋り方に対して何も言わないあたり機嫌が良さそうですね。
まぁ、明らかににこにこしていますし、機嫌が良さそうなのは一目見てわかりましたけどね。
けど、逆にそれが怖いですけどね。
「よし、早速始めるか!」
「始めるって何をですか?」
「何って、ユアン達は何しにきたかわかっておるじゃろう?」
「わかっていますけど、ここでやるのですか?」
「うむ! ちゃんと職人を呼んでおるからな安心せい!」
そして、パンパンと手を叩くと、ずらずらと人が中に入ってきました。
「今日はこの二人のドレスを見繕ってもらいたい。頼んだぞ?」
「お任せください!」
ちょっと、数が多くありませんか?
「アリア様、この人達は全員……」
「うむ! ユアン達の為に呼んだぞ!」
そうですよね。
それしかあり得ませんよね。
狐族の人や、兎族の人など様々な人達が僕たちを取り囲みます。
「では、早速始めてくれ」
「わっかりました~! では、まずは全身の寸法を測らせて頂きますね~!」
あれ?
何か、前にもこんな事があった気がします?
「まずは、より細かに寸法を測るために服を脱いじゃいましょうね~。あ、私はルルと言います。よろしくお願いしますね~」
「あ、ちょっと待ってくださいよ!」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃないですよ!」
「まぁまぁ、女性しかいませんから大丈夫ですよ~」
そういう問題じゃないですよ!
と抗議するも、あっさりと服をスルスル~っとまるで魔法を使ったように脱がされてしまいました。
まぁ、服と言ってもローブですけどね。
「それじゃ、下の洋服も脱いじゃいましょうね~」
「嫌ですよ!」
それだけなら良かったのですが、次はシャツと短パンまで脱がそうとしてきました。
「兎。ユアンが嫌がっている。やめろ」
「そんなに怒らないでくださいよ~。これもお仕事なんです~」
仕事なら仕方ないとは思いますけど……。
でも、流石にみんなの前で下着姿になるのは嫌ですよね。
「それでも。サイズを測るだけなら服の上からでも測れる」
「仕方ないですね~。このまま進めますよ~」
シアさんのお陰で、どうにか下着姿になる事は避けれました。
ですが……。
「はぁはぁ……いいですねぇ」
何か、悪寒が走りました。
「はぁはぁ……腰のラインがたまりませんよぉ~」
あ、この人もやばい人かもしれません。
ルルと名乗った人は、僕のサイズを測るにつれて、鼻息がどんどんと荒くなっていきます。
うーん……前もこんな事があったような気がするのですよね……。
「兎。ユアンを変な目でみるな」
「見てないですよ~?」
「嘘。鼻息が荒い」
「仕方ないじゃないですか~。とっても魅力的なのですよ~」
「それはわかる。だけど、ユアンは私の嫁。変な事したら許さない」
まだお嫁さんではないですけどね。
「終わりました~」
「……ありがとうございます」
「いえいえ、次は影狼のお姉さんですね~」
あぁ……。
何か、これだけで凄く疲れました。
「では、次は僕達の出番ですね。僕はクロです」
「私はハルです。ルルさんの寸法を元にデザインと着色を担当させて頂きます」
「数種類、試しのドレスを用意させて頂きましたので、まずは試着してください」
「その中から気に入ったのをベースに作らせて頂きます」
「この中、からですか……?」
クロさんとハルさんが沢山のドレスを並べてくれました。
本当に沢山なのですよ?
その数、ざっと数十種類。
数えるのが困難なほどです。
「折角ですので、場所を移しましょう」
「え、どうしてですか?」
「その方がお連れ様が喜ぶと思いますよ?」
「そうなのですか?」
「お客様はドレスを着るのは初めてですよね?」
「鮮やかで可愛らしい姿をお連れ様に見せたくありませんか?」
その方が新鮮さが出て、シアさんが喜んでくれるといいます。
「シアさん?」
「私が場所を移す」
「という事は」
「着飾ったユアン、みたい」
何か、シアさんの目がキラキラして見えます!
凄く期待してるって感じの目です。
「それでは、終わったらお呼びしますので外でお待ちください」
「わかった」
「なら、私も少し外に出る。シア、ちょっと付き合え」
「わかった」
「え……ちょっと、僕一人にするのですか!?」
「うむ。ユアンの事を頼んだぞ?」
「ユアン、頑張る」
そう言い残し、二人は外に出てしまいました。
「では、まずはこちらを試着しましょう」
「わかりました……」
何か、長い一日になりそうですね……。
目の前に並べられたドレスを全て、一通り試すと言われてしまいましたからね。
僕はそれを順番に試着していくのでした。
「シア、いい顔つきになったな」
「そう?」
ユアンのドレスを選ぶ間、私はアリアに誘われ外で待つことなった。
「うむ。影狼族の話は聞いた。大変だったな」
「そうでもない。みんなに助けられた」
「アンリは役に立ったか?」
「あんまり」
「手厳しいのぉ」
「事実。だけど、影狼族を受け入れてくれたのは感謝する」
正直、アンリがついてきた意味はあまりなかった。
だけど、終わった後に、影狼族をフォクシアの一員として受け入れる宣言をしてくれたのは嬉しい。
アリアの指示だとわかっていても、助かる。
「これからお主はどうするのじゃ?」
「どうするって?」
「まぁ、今だから言うが、お主ら一族の事は信用していなかった」
「どうして?」
「獣人じゃが、獣人じゃない何かがあると思っておったからな」
「うん。獣人じゃなくて、魔族だった」
「それを聞いた時は驚いたのぉ」
私もそれを知った時は驚いた。
「けど、魔族だとしても私は変わらない。ユアンと共に生きる」
「そんなにユアンの事が好きか?」
「好き。好きじゃ足りないくらい好き」
「それは、主としてか?」
「それもある。だけど、それだけじゃない」
「そうか」
「変?」
「別にそうは思わんよ」
人によっては変だと思う。
だって、私達は女性同士で種族も違う。
「それで、これからどうするのじゃ?」
「どうするって?」
「この先じゃよ」
「どうもこうもない。ユアンと一緒に生きていく」
「それは別にいい。じゃが、別の事があるじゃろう?」
「別の事?」
「龍人族の事じゃよ」
「知ってたの?」
「普通にわかるじゃろ」
サンドラの事がバレてないとは思わなかった。
だけど、ハッキリと言われるとも思わなかった。
「サンドラの事はまだわからない」
「目的はないのか?」
「ある。だけど、どうすればいいのかはわからない」
目的が明確になっていない。
サンドラが力を取り戻す。
どうやって?
スノーが管理者になる。
可能なのか?
「それに、スノーは領主。街から離れるのは難しい」
「そうじゃな」
そうなると、どこかに存在するという龍神に会いに行くにも、弓月の刻としては活動できない。
その時はきっと遠くまで足を運ぶことになる。
転移魔法で帰って来るとしても、その間に仕事が溜まる。
「どうすればいい?」
「儂に聞くな。シア達が決めろ」
「もし、私達が旅に出るとしたらどうする?」
「どうもせんよ。その程度で崩れる街ではないからな」
そうは言っても、街の管理者がいないと困る事は多いはず。
「どうにかなるじゃろ。それに……別の方法もあるかもしれんぞ?」
「別の方法?」
「あぁ、代理を立てるとかな」
領主の代理?
「いいの?」
「別に悪くはないじゃろう。その代わり、お主達が本当に信用できる人でないとダメだろうがな」
私達が信用できる人……。
「いない」
私達の繋がりなんて限られている。
「なら、まずは土台を固める事じゃな」
「土台?」
「お主らが居なくとも、街が街であり続け、些細な事では崩れない固い土台じゃよ」
「土台があるといいの?」
「私を見ればわかるじゃろ?」
「うん。自由気まま」
「そう言う事じゃ」
アリアが自由に行動できるのは土台が固まっているからだという。
「まぁ、代理ではないが、アンリに殆ど任せているからでもあるがな」
「ずるい」
「阿呆。その土台を固めるのに苦労したから今があるのじゃよ」
「私達もそうすればいいの?」
「別に正解などない。だが、土台を固めておけば自由になれると言っている。現にルード帝国もそうじゃろう?」
「そうなの?」
私はルード帝国の事はよく知らない。
「そうじゃ。エメリアが国の為に動き、帝王は静観しているじゃろ?」
「そうなんだ」
確かに、国境での戦いもシノに一任していて、今はエメリアが頑張っているみたい。
帝王が何かをしたという話は聞いていない。
「じゃがな? 一つだけ気を付ける事がある」
「何?」
「時代が移り変わる時、何かが起こる」
「何かって何?」
「それはわからん。些細な事かもしれぬし、歴史に残る大きな事かもしれん」
「わからない」
「わからなくて良い。ただ、気をつけておけって事じゃよ」
「わかった。だけど、どうしてそれを私に言うの?」
私に言った所で、意味があるとは思えない。
そう言う事はスノーに言った方がいい。
「私はシアの事を信用してなかった」
「今は?」
「気に入った」
「どうして?」
「馬鹿なほど真っすぐだからじゃよ」
「馬鹿は余計」
「馬鹿じゃよ。普通、私に対してそんな口を利ける者はいない」
「直した方がいい?」
「別に良い」
「ありがとう」
「うむ……まぁ、流石に時と場合は選べよ?」
「一応気をつける。それで? どうして私に言ったの?」
私が気に入ったから。
それだけの理由で私に忠告をするとは思わない。
「お主、ユアンと結ばれるつもりじゃろう?」
「うん。絶対に譲れない」
「それが理由じゃ」
「納得」
ユアンと一緒にいるのなら気をつけろという意味だったらしい。
ユアンと一緒に居ると、退屈はしない。
それだけ、ユアンはトラブルを引き連れていくる。
「という訳じゃ。ま、お主らの結婚式には私も呼んでくれな?」
「わかった。約束する」
どうやら、アリアも私達の事を認めてくれたみたい。
「シアさーん……」
そんな話をしていると、ユアンの声が聞こえた。
「ほれ、お主の大事な主が呼んでるぞ」
「大事な恋人が呼んでる。行ってくる」
「うむ。私も一度戻るか」
アリアと二人で再び部屋に戻ると、ローブを着たユアンが立っていた。
「終わったの?」
「まだです……」
「なら、どうしたのじゃ?」
「疲れましたので、一度交替しましょ?」
ユアンの傍らには積まれたドレスがある。
「わかった」
「わっ! もぉ、シアさん!」
「頑張ったご褒美」
「もぉー……」
こればかりは仕方ない。
ユアンは疲れているのは一目でわかる。
こうしてあげると、ユアンは何だかんだで喜ぶ。
「では、次はリンシアさんの服を見繕ってしまいますね」
「わかった」
「では、僕は外の空気を吸ってきますね!」
「なら、次はユアンとゆっくりと話をしようかの? シア、妥協せずに選ぶのじゃよ?」
「いいの?」
「うむ。お主もいずれ私の……じゃろ?」
「わかった。ありがとう、アリアおばちゃん」
「うむ! それじゃ、また後でな」
アリアとユアンが外に出ていった。
人から認めらえると嬉しい。
「ユアンと釣り合う様に頼む」
私は恵まれている。
辛い時もあった。
悩む時もあった。
けど、ユアンと出会って変わった。
私にとっての土台はユアンなのかもしれない。
だけど、それじゃきっと足りない。
私達の幸せが崩れない為にも、もっと固める。
私達の未来の為に。
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