第287話 弓月の刻、魔族から話を聞く

 オメガさんを勾留している場所は、シアさんが働く詰所の地下にあり、僕たちはその場所へと向かいました。


 「こんにちは」

 「あら、いらっしゃい」


 この部屋は特殊な部屋のようで、イルミナさんとガロさんが協力してくれたお陰もあり、一枚のガラス越しですが、会話ができるようになっていました。


 「塞ぎこんでいると聞きましたが、元気そうで何よりです」

 「別に塞ぎこんで何かいないわよ? ただ、私よりも劣っている人と話すのが嫌なだけ」


 ただ、話しかけられても無視をしていただけみたいですね。

 

 「という事は、僕と話してくれるという事は僕の方が上って認識でいいって事ですよね?」

 「結果を見ればわかるでしょ。それで、何の用なの? 私が答えられる事は何一つないわよ」

 「魔力至上主義という派閥があるみたいですが、それについても教えてはくれない……って事ですか?」

 「教えるも何も、私は何も知らないから」

 「えっと、オメガさんはその派閥ではないって事ですか?」

 「いえ? 私は確かにその派閥に所属していたわよ」


 所属していた?

 という事は、もうその派閥の人ではないって事でしょうか。


 「貴女に魔力で負けた。私がその派閥に所属できる資格がないって事よ」

 「なるほどです。僕に負けた事でその派閥ではないって事なのですね」

 「そうよ」


 かなり厳しい決まりがあるのかもしれませんね。


 「なら、派閥に所属していたなら、何も知らないって事はないですよね?」

 「知らないわよ? 本当にね」

 「んー……シアさん?」

 「うん…………嘘はついていない」


 シアさんに繋がる血を辿れば、オメガさんに辿り着くので、嘘をついているかどうかがわかるみたいです。

 今もなお、契約の血による効果はあるみたいですからね。

 シアさんとオメガさんの関係がひっくり返って、今ではシアさんの方が上みたいですけどね。

 

 「嘘ではないのですね……でも、どうして派閥に所属していたのに、何も知らないのですか?」

 「私達が個人主義だから。目的は同じでも、別に協力しようなんて考えていない。だから、同じ派閥の者が何をしていようが関係はないの」

 「けど、派閥という事はトップの人が居ますよね? その人の事もわからないのですか?」

 「知らない。だって、私は他の派閥の人に会った事はないから」


 むむむ……話を聞けば聞くほどわからなくなっていきそうな気がしてきましたよ。

 

 「どうやってその派閥に所属した?」

 「派閥に所属するのは簡単。ただ、名乗るだけ。自分は魔力至上主義だって」

 「それだけですか?」

 「それだけよ。ただし、条件が一つだけあるわ」

 「どんな条件ですか?」

 「憎しみ」

 「憎しみ?」

 「えぇ、自分の命よりも重い憎しみを心に持つ事」

 「曖昧ですね」

 「そうかしら? 意外に単純な事だと思うけど」


 その辺は、魔族の人にしかわからない感覚なのでしょうか?


 「けど、それでどうやって条件を満たしたと判断されるのです?」

 

 例えば、僕が誰かを憎んでいたとしても、それを表に出さなければわかりませんよね?


 「使い魔が訪れるのよ」

 「使い魔? 召喚獣みたいなものですか?」

 「違うわ。もっと危険な存在。貴方たちにとってはね」


 使い魔は、魔力至上主義に所属する事を望み、憎しみの心さえあれば、現れると言います。


 「それは魔力至上主義のトップの人から送られてくるのですか?」

 「さぁ? 気づいたら目の前にいたし、それ以来会っていないからわからない」


 これは、裏に大きな存在がいるかもしれませんね。


 「となると、有力な情報は得られそうにありませんね」

 「うん。嘘をつけないから逆に面倒」


 虚偽の報告であっても、そこから思惑を読み取れる事が出来たりしますが、オメガさんは僕たちの質問に嘘偽りなく答えている筈です。

 なので、逆に嘘から導き出せる可能性も探るのは難しいですね。


 「話はそれだけ?」

 「いえ、確認したい事が一つだけあります」

 「何かしら?」

 「僕は、オメガさんが本当に悪い人だとは思えないのです」

 「笑えないわね。根拠は?」

 「ありません」


 何となく僕の勘がそう言っているだけですからね。根拠なんてありません。

 ただ、何となくですが、オメガさんの行動と考えに矛盾を感じ取れる気がしたのです。


 「オメガさんにとって影狼族の人は何だったのですか?」

 「都合のいい駒。ただ、それだけ」

 「だから、シアさんのお爺さんに丁寧に扱うように言ったのですか?」

 「そうよ? 駒は使いたいときに使う。何もおかしい事は言っていないでしょ?」


 そう言われると、そうなのですけど。

 ただ、ただの駒として扱っている感じがしないのも確かです。


 「オメガさんが憎むものって何なのですか?」

 「全て。生きるもの全てが憎い。だから、壊してしまいたくなるのよ」

 「それなのに、生きている人を大事にしているのですよね?」

 「駒だからね。だけど、今はそれを奪われたからもういらない」

 

 自由に操れる影狼族を使えないのなら、いらないとオメガさんは言いました。

 んー……。

 オメガさんの根っこにある部分はかなり酷い事になっていそうですね。


 「どうして、そんな考えになったのですか?」

 「話したくない。別に無理やり聞きだしてもいいけど、その後、私自身がどうなるかはわからない。もしかしたら死んじゃうかもね?」

 「無理に聞こうとは思いませんよ。誰だって聞かれたくない事はありますからね」

 「ふふっ、ありがとう」


 こういう所なのですよね。

 素直にありがとうとお礼を言えるのって簡単なようで難しいです。

 中にはどんなに協力してあげても、それが当たり前だとお礼を言わない人は存在します。

 それなのに、オメガさんは僕たちに捕まり、自由を奪われた状態なのにすんなりとその言葉が出たのです。

 けど、もう一つだけわかりましたね。

 僕たちがオメガさんの過去を詮索しなければ、自ら死を迎えるような事をしないであろうという事に。

 

 「オメガさんはこれから、どうするつもりですか?」

 「どうする? ここから出たら、再び世界を壊すために何かしらするわよ」

 「それ以外に、目的はないのですか?」

 「ないわね」

 「逆に命を育てたいと思った事もないのですか?」

 「ないわね。虫唾が走る」

 「影狼族の子供達を見て、どう思います?」

 「それは、可愛いわよ。私に従順で、駒となってくれればだけど」

「わかりました。オメガさんをやはり外に出す訳にはいきません」

 「そうね」

 「なので、申し訳ないですが、暫く……いつになるかわかりませんが、ここに居て頂きますね」

 「そうね」

 「何か欲しいものややりたい事が出来たら相談をして下さい。出来る限りは揃えますので」

 「わかったわ」


 他に聞きたい事はあるかとスノーさん達に聞くと、スノーさん達もないようで、僕たちはオメガさんに別れを告げ、オメガさんの元を離れました。


 「どう思いますか?」

 「どこか、おかしい」

 「私もそう思うかな。操られているって感じではないけど、何かが足りないって感じがするね」

 「まるで、幸せを送るために必要なパズルのピースを失ったような感じがしました」


 やっぱりオメガさんの様子をみて、変に思ったのは僕だけではなかったみたいですね。

 そんな感じでオメガさんとの面会は終わりました。

 この街で過ごし、いつの日か世界が憎いと思っていた事を忘れて生きてくれる日が来ることを祈りながら。

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