第284話 補助魔法使い達、魔族と出会う

 「ちっ、魔物まで使って来るとはな」

 「文句を言う前に体を動かして! 次が来るわよ」

 「任せる」


 ユージンさんが魔物を切り捨てた傍から次の魔物が現れ、シアさんが双剣でシュパパパパって倒しました。


 「問題なのは、どれも変異種ってところですね」


 現れた魔物はゴブリンやコボルトなど、小型の魔物ですが、どれも普通のゴブリンなどとは違い、色が変色し身体能力が上がっているのがわかります。

 幸いにもオーガなどの大きな魔物は今の所出てきませんが、奥に進めば居ると考えるのが妥当かもしれません。

 何せ、ここの通路は狭いですからね。

 オーガなどが自由に動けるとは思いません。


 「それにしても、どうしてこんな場所があるのでしょうか?」


 通路を進むと言っても、僕たちが進むのは地下に続いた洞窟のように薄暗い場所です。

 砦に入った時には既に敵の姿はなくもぬけの空でした。

 ですが、探知魔法で中の様子を伺っていたので中に居た人たちが一か所に移動していくのがわかりましたので、その場所を探るとこの通路があったのです。


 「恐らくですが、この通路は本来ならば脱出用と強襲用に作らせたのでしょう」

 「えっと、どっちですか?」

 「両方ですよ。敵に囲まれた場合は脱出用として、敵に奪われた場合は強襲用として使うのでしょう」


 脱出用はわかりますが、強襲用と言われてもいま一つピンと来なかったので、首を傾げていると、アンリ様が更に補足をしてくれます。


 「砦の中と外、どちらが安全ですか?」

 「それは中だと思います」

 「はい。なので、砦を支配した指揮官など身分の高いものは砦の中で過ごす事が多いでしょう。見張りなどを外に配置して」


 それで、砦の中が手薄になったところを通路を通り兵士を送り指揮官などを暗殺するって方法ではないかという事ですね。

 

 「でも、使われた形跡はありませんので無駄になったみたいですね」

 「何で、使われていないとわかるのですか?」

 「ユアン殿がこの砦を占拠した時、この通路を見つけ、敵の意図がわかったらどうしますか?」

 「えっと……敵が侵入してきますので、塞ぐなりして対策します」

 「はい。ですが通路は残ったままですよね」


 逃げる時でも少しでも追手の手を遅らせるために道を塞ぐみたいですね。

 

 「よく考えられていますね」

 「そうですね。単純な手ですが有効でしょう」


 あれ、単純て言われてしまいました。

 まぁ、その辺りは冒険者の知識というよりも軍事的な知識になると思いますので、僕が知らなくても仕方ないですよね。


 「っと、分かれ道だな」

 「それも三方向ね、どうする?」

 「そうだな……嬢ちゃん、わかるか?」

 「はい、ちょっと待ってくださいね…………えっと、全部同じ場所に繋がっているみたいです。その先に広間みたいな場所があります」

 「なら、どこでもいいな。真っすぐ進むぞ」


 でも、どうしてそんな造りになっているのか不思議ですね。

 真ん中の通路を進み、僕がそんな事を考えていると、アンリ様が僕の疑問に答えてくれました。


 「これは、相手の戦力を分散させ、効率よく敵を倒すためでしょう」

 「効率よくですか?」

 「はい。通路の先は広間になっているという事は、それだけ人を配置できるという事です」


 通路は二人か三人ほどしか並んで進めないのに対し、広間では通路の出口を多くの人で囲んで迎え撃つ事が出来るみたいです。

 それを三方向で同時にできるのですから、殲滅速度が早くなると言います。


 「それと……」


 アンリ様が他の理由もあげようとした時でした。

 コツンッと防御魔法に何かが当たりました。

 しかも、正面からではなく、上からです。


 「まずい、崩落するぞ!」

 

 どうやら当たったのは石のようで、前方に石が転がった瞬間、ユージンさんが慌てだしました。

 ユージンさんが駆け出し、僕たちも後に続きますが……。


 「くそっ、前方を塞がれたか」

 「後ろもダメみたいですよ」


 前も後ろも崩れてきた石で塞がれてしまいました。

 というよりも、僕の展開している防御魔法の外側は全て埋まってしまいましたね。


 「やはり……こうなりましたか」

 「どういう事です?」

 「通路が分かれている時点でもっと早く気付くべきでした」


 これはトラップの一種のようで、恐らくですが全ての通路に施されている可能性があるみたいです。

 三本のうち一つの通路が潰れても二つは残っているので通るのにも問題はないですし、敵の追手をここで振り切るのにも使え、殲滅もできる用に作られたみたいですね。


 「申し訳ない」

 「俺たちも気付かなかったし、アンリが気にする事ではない」

 

 アンリ様が僕たちに頭を下げていますが、僕もそのような考えは全く思いつかなかったですし、アンリ様が悪い訳ではありませんよね。


 「でも、どうしますか?」

 「んなもん……力でどうにしかすればいいだけだっ!」

 「そんな事ができる訳が……」


 あれ、どうして僕がロイさんに突っ込みをいれているのでしょうか?

 いつもなら直ぐにエルさんが突っ込みをいれるはずなのに?


 「ロイ、窮屈だから早くして」

 「おうよっ!」


 むしろ、エルさんがロイさんを急かします。

 もしかして……。


 「ドワーフの力……見せてやるよっ! 砕けやがれっ!」


 狭い通路の中で、ロイさんが天井ギリギリまで戦斧バトルアックスを振り上げました。

 それを思い切り振り下ろすと。

 

 「わっ!」

 「すごい音」


 ゴキャゴキャバキーンって物凄い音が通路に響き、地面を抉りながら、通路を塞いでいた石が粉々に砕け散り、通路の奥へと吹き飛んでいきました。


 「うっし!」

 「ロイ、よくやった」

 「相変わらずの馬鹿力ね」

 「たまには役に立つ」

 「当り前だ、鉱石ならともかく、石程度で躓くはずがねぇよ」


 ただ力があればいいって問題ではないと直ぐにわかりました。

 あれはロイさんがドワーフだからこそ出来た芸当で、石や鉱石の事を本能的に知り尽くしているからこそできた芸当だとわかります。

 エルフが得意とする精霊魔法のように、ロイさんが戦斧バトルアックスを振るった瞬間に、魔力を感じましたので、ドワーフの人が使える魔法を使ったのかもしれません。


 「また崩落するまえに進むぞ」

 「はい。防御魔法が悲鳴をあげていますからね」


 まだまだ余裕はあります。

 魔力が続く限りは大丈夫ですが、それでも常に防御魔法に魔力を送り続けないと、防御魔法が壊れそうなので、直ぐに通路から脱出をしました。


 「これは……」


 通路から出て、広間に辿り着くと、僕たちの目の前には驚きの光景が広がっていました。


 「ちょっと、不憫すぎませんか?」

 「うん。流石に可哀想」


 通路を抜けた先には、石が散乱し転がり、その周囲には魔物の群れが転がっていて、変異種が死んだときに起きる、角だけ残し、溶けていく現象が次々に起こっています。

 どうやら、僕たちが出てくるの所を狙い、待ち構えていたみたいですが、ロイさんが石を吹き飛ばしたせいて、それが当たり絶命したみたいです。


 「何なんだ、これは一体!」


 そんな中、広間の中央でこの惨状をみて騒いでいる人が居ました。


 「じじい……」


 シアさんが真っすぐに睨みつけるように見つめ、ぼそりと呟くのが聞こえます。

 僕も一目見てわかりました。

 あれが、シアさんのお爺さんであると。

 その証拠になるかわかりませんが、地団駄を踏むお爺さんの隣に虚ろな目をしたイリアルさんが佇んでいるのですからね。

 そして、その奥には……。


 「あら~。だめよ、おいたををしちゃ、ね?」

 

 極端に露出が多い服を着た女性が立ちあがり、コツコツと靴をならし、お爺さんの元に歩いて行きます。


 「あの人が……」


 魔族なのですね。

 

 「うふふっ、そんなに見つめないで貰える?」

 「あ、すみません。魔族の人が珍しくて」

 「そう? なら、もっと見てもいいわよ?」


 魔族の女性がスカートを下着が見えるか見えないかくらいまで捲りました。


 「すみません。別にそれはいいです」

 「あら、残念ね~」


 あんな格好をして恥ずかしくないのでしょうか?

 お腹も丸出しですし、胸も布一枚で隠しているような格好です。当然、肩も剥き出しで、ほとんど下着と変わらないような格好をしているのです。

 まるで、家で寛ぐようなスノーさんのような格好なのです。

 あ、それよりも特徴ですね。


 「その角は本物なのですか?」

 「当然よ? 触ってみる?」

 「そこまではいいです」


 額に生えた鋭く尖った角には少し見覚えがありました。

 ゴブリンなどの変異種に刺さった角によく似ていたのです。

 なので、その角も偽物かと思ったのですが、あれは本物のようですね。


 「けど、角が生えてるって凄いですね」

 「貴方達の耳と尻尾と変わらないわよ?」

 「そうなのですか? という事は、何かしら意味があるってことですかね?」

 「あるわよ。私の角はね、ここに魔力を貯めておけるの」

 「すごいですね!」


 単なる飾りか、長い年月をかけた進化の名残かと思いましたが、ちゃんと意味があるみたいですね。


 「何が凄いだ! 気安くオメガ様に話しかけるではないっ!」


 僕が疑問を魔族の人に聞いていると、シアさんのお爺さんが怒り始めました。


 「あら、私が楽しくお話しているのに、邪魔するの?」

 「しかし……あやつらはー……」

 「私が、楽しく話をしてるの。少し黙ってて?」

 「はっ!」


 お爺さんが女性に片膝をつき、深く頭を下げました。

 影狼族の長であるあの人があんなを態度をとるって事はやっぱりあの魔族の人がお爺さんの主みたいですね。


 「そうか、おめーがオメガか……」

 「そうよ。私がオメガ。以後お見知りおきを」

 「いや、今日が最後だ」

 「そうね。貴方たちは今日この場で死ぬことになるの」

 「はっ、俺達がここで?」

 「嫌なら、消えて? こう見えて私は忙しいの」

 「それは、出来ないな。オメガ、おめーがやってきた事、これからやる事は見過ごせないからな」

 「うふふっ、本当にこれから起こる事を知っているのかしら?」


 んー……。

 僕と会話をしていたのに、いつの間にかユージンさんと会話をしはじめてしまいましたね。


 「仕方ない。ユージンは綺麗な女性に弱い」

 「それに、あれだけ露出してれば興味を示すわね」

 「ユージンは色仕掛けに弱いからな」

 「情けない限りですね……」


 ユージンさんがオメガさんと話している事を言いことにルカさん達が言いたい放題ですね。

 

 「けど、いつまで続くのでしょうね」

 「わからない」


 一応ですが、いつ戦闘が起きてもいいように僕たちは警戒態勢をとったままです。

 ユージンさん達が話をしていますが、オメガさんの後ろには影狼族の人達が控えているのがわかりますし、オメガさんの近くにはシアさんのお爺さんとイリアルさんもいます。

 戦闘自体はいつ起きてもおかしくはないのです。

 ですが……。


 「オメガ……おめーが世界を変える事が出来ると思っているのか?」

 「変えるのよ。私ではなく、私達がね」

 

 一向に終わりが見えないのですよね。

 なんだか、話を聞いてるのが飽きてきましたね。

 けど、珍しくシアさんが反応しませんね。


 「シアさん」

 「なに?」

 「大丈夫なのですか?」

 「なにが?」


 シアさんが不思議そうに首を傾げました。


 「いや……さっきからユージンさんが、おめーがオメガとか言っているのですよ?」

 「おめーが、オメガ……? ぷぷっ!」


 あ、ただ単純に気付いていなかっただけみたいでしたね。


 「おめーが……」

 「ぷぷーっ!」


 あ、完全にツボに入ってしまったみたいですね。

 ユージンさんがオメガ、またはおめーがという度にシアさんが吹きだしてます。


 「もう、ダメ……」


 しまいには蹲ってしまいました。


 「ど、どうしたのリンシアちゃん!?」

 「震えてる……もしかして、攻撃魔法?」

 「なんだと……? オメガ、これはおめーがやったのか!」

 「むり……やめて……」


 あー……シアさんが凄く辛そうですね。

 

 「えっと、まだ何もしてないんだけど?」

 「とぼけても無駄だ!」

 「えー……本当に知らないんだけど」


 まぁ、オメガさんは知らないでしょうね。

 だって、シアさんが笑ってるだけですからね。

 けど、傍からみるとシアさんが体を震わせて苦しんでいるようにしか見えませんからね。ユージンさんが疑うのは無理はありません。


 「改心する余地があれば見逃してもいいと思っていたが、やはり争う運命は変えられないようだな」


 ユージンさんが剣を抜きました。

 まぁ、オメガさんの目的を知ってしまっている以上は戦う事は避けられませんよね。

 ユージンさんが考えを改めるように余地を与えても、そのつもりはないみたいですからね。


 「シアさん、戦闘ですよ」

 「うん……わかってる」

 「大丈夫ですか?」

 「うん。戦いになれば平気」

 「本当ですか?」

 「本当」

 「シアさんが先頭にたって、戦闘をするのですよ?」

 「ぷふーっ」


 あ、やっぱりダメみたいですね。


 「ユージンさん、シアさんが回復するまで前衛をロイさんとお願いします」

 「あぁ、リンシアの嬢ちゃんがやられた分、ちゃんとやり返すから安心しろ」


 まぁ、原因はユージンさんが主ですけどね。

 僕はただシアさんが反応しないから気になって聞いただけですからね。


 「仕方ないわね。少し、遊んであげる」


 オメガさんが右手をかざすと、影狼族の人達がそれぞれの武器を構え始めました。

 その中にはイリアルさんも含まれています。

 どうやら、イリアルさんも血の契約には抗えなかったみたいですね。


 「私は高みの見物をさせて貰うわね?」


 オメガさんが影狼族の人達と入れ替わるように後ろに下がりました。

 僕たちの相手は影狼族になったみたいですね。


 「あっ、ついでにね? その子も貰ってあげるわ!」

 「わっ!」


 防御魔法を通り抜け、嫌な魔力が僕たちの間を通り抜けました。

 その瞬間、ピクピクと震えていたシアさんの体がぴたりと止まりました。

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